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コンタクト失敗

 ペンタの映す操作説明にざっと目を通す。

 クラウン造船のものでは無いが、基本的な操作方法や機能は変わらないようだ。ほっと胸を撫で下ろす。

 内装からも予想していた通り型は古い。恐らく20〜30年前に製造されたもの。

 宇宙船の寿命ギリギリのところね。まあ、使用頻度によってかなり幅はありますけれど。


 通信システムが確立されたのは遥か昔の事だけれど、今でもこの広い宇宙のどこにいても誰とでもコンタクトできる訳では無い。もちろん未開惑星への信号の送受信は禁止されているし、通信会社によるシステム性能の差は大きく地域毎の通信格差が社会問題の一つとなっている。

 

 通信に必要な操作を一つ一つ確認していく。


 一番はじめに頭をよぎったのはシステムの寿命だったが、操作の反応は問題無い。

 ひとまず全く使えないと言う事態は避けられそうだ。


 次に考えられるのは今この船のいる位置が地場の影響などで通信しづらい状況にあるという事。

 電波解析図があれば検証もできるがそれにはマップを表示する必要がある。マップの表示はメインの操作席でしか行えない。勝手にそんな事をすれば「余計な事」としてボスに制裁されるかもしれない。


 彼らの中で電波解析図を開けるのは・・・。

 

 横目で蹴り飛ばされたオペレーターを捉える。派手に飛んだ割には打撃は少なかったのか、いつの間にか起き上がり部屋の角でこちらを凝視していた。


 そちらに向かって声をかける。


「地場や妨害によってエラーが出ている可能性が高いわ。この辺りの電波解析図を確認して頂けないかしら?」


 オペレーターはビクッと反応してから、恐る恐るボスの顔を伺う。


「必要なら、やれ」


「は、はい!!」


 慌てて私の座る通信席を通り越し、大きなスクリーン中央のメイン操作席に着席する。

 簡単な操作とペンタへの指示でマップが表示された。と言っても、本人の目の前で小さく映し出されているので私からは見えない。

 あわよくば現在位置を確認できるのではないかと思ったが、さすがにそこまでのミスはしないようだ。


「通信の妨げになるような異変はありません!」


 しばらく図を眺めてからオペレーターはそう口にした。


「だ、そうだが?」


「・・・・・・」


 ボスが私に問いかける。その鋭い眼差しが背中に突き刺さるように感じた。

 私に見せてみなさい、と喉まででかかってなんとか押しとどめた。電波解析図の存在は知っていても、ほとんど見た事のない私ではオペレーター以上の答えは出せないだろう。


 システムは正常に動いていて環境にも問題がない。ところが何度通信システムを作動させてもエラー画面しか表示されない。

 こんな時の対処法なんて資料にはなかった。

 焦れば焦るほど頭が回らなくなっていく。

 データ上の知識と実践がこんなにも違うものだなんて。

 操作席のオペレーターも再び原因を探るべく操作盤を動かしていた。やはり手つきはおぼつかない。その動作を見て、ふと思い当たった。


「・・・宇宙船の操作は不慣れなようですわね?」


 私も人の事は言えないですけれど。


「は?」


 一体何を言い出すんだと言うようにオペレーターが反応する。


「この船、どなたが整備やシステム設定を行ったんですの?」


「おい、余計な事を言ってんじゃねえ!」


 ボスが立ち上がろうとする気配を感じ振り返る。


「余計な事ではありませんわ!」


 システムは正常に動いていて環境にも問題がない。と言う事は・・・・・・。


「この船は最初から、通信システムが使えないように設定されていたんですのよ!」


 一瞬の静寂。だが、帰ってきたのは冷たい声だった。


「おいおい、適当な事言うんじゃねえよ。お嬢ちゃん。コンタクトが取れるってのはもう実践済みだ!」


 瞳をギラつかせながらフンっと鼻で笑うボス。

 その目に怖気付きそうになる。

 

 ここで意見を覆してしまったら一体どんな制裁があるのか。

 冷や汗が頬を伝う。


 システムは正常。環境も問題無し。一度はコンタクトが取れている。

 頭がぐるぐると回る感覚。


 なら、なぜ?

 

 最後に通信システムを起動した後にプログラムを変えた?


 いや、そんな技術を持つ人物がいるとは思えない。

 それにそんな事をする必要がどこにあるのか。

 内部分裂?裏切り者?


 だとしたら外部への通信手段は尚更確保したいはず。


 ・・・外部?


 思考の奥に光が射す。


 一度はコンタクトが取れている。


 本当に?


「そのコンタクトは、外からの通信を受信したものじゃありませんの?」


「ああ!?だったらなんだって言うんだ!!?」


「受信と送信はシステムが別ものですもの。受信だけの場合相手の所在地解析なんかも必要ありませんし。

 受信専用システムだってあるくらいですわ」


 ボスの目がまた光った。訝しんでいるような、品定めをしているような目だ。

 その視線がオペレーターに移る。オペレーターはコクリと頷いた。

 周りの手下たちにざわめきが広がる。


 ほっと息を吐いたところで、再びボスと視線が合った。

 その瞳にはっきりと怒りが浮かんでいる。今までよりも確かに色濃く。


 だが彼の怒りの矛先は私に向いているのではなかった。

 しばらくの沈黙の後、ヒゲの生えた口元から溢れたのは笑い声だった。


「く、・・・ククク。ははははっ!まんまと騙してくれたもんだな、あいつら!!」


 口角は上がっているが目は全く笑っていない。「あいつら」がそこにいるかのように鋭く空を睨む。


 「あいつら」が取引相手の反FA軍なのか、他にこの船を用意した組織があるのか、それとももっと別の誰かなのか。

 判断はつかないが怒りの矛先が移ったのは好都合だ。

 そしてこの誘拐犯たちに宇宙船の知識がほとんど無いことも。


 通信システムの課題は繋がりやすさをメインとする通信格差だけではない。そのセキュリティ、つまり盗聴や逆探知の問題も大きい。

 特に軍艦ではセキュリティ対策は重要視され、常に最新システムが導入されているが、ハッカーとのいたちごっこでしかない。

 この古い宇宙船のセキュリティなど無きに等しいだろう。

 だからこそ「あいつら」は通信システムを最初から切っていたのだ。

 勝手にコンタクトを取って余計な情報を流出させないように。


 そうとは知らずにボスたちは利用された。騙された。と思っている。

 

 ここでコンタクトを送信できれば。

 きっとお父様や宇宙連合軍がこの船を見つけて私たちを解放してくれる。


 でも、一体どうやって・・・。


「ふざけやがって!俺たちは金が手に入ればどこからだっていいんだ!どうにかして通信を成功させろ!!」


「あいつら」を罵倒していたボスがオペレーターに息巻く。

 いや、もしかしたら私に言ったのかもしれない。

 年端もいかない捕虜にシステムを触らせるほど、怒りで冷静な判断ができないとすればの話だが。

 

 できるだけ気配を消しつつ、通信システムの操作盤をいじる。

 どうにかシステムを動かせないか。


「おい、お前は戻れ」


 銃口のひやりとした感覚。

 さすがにいつまでもここに居させれてはくれないか。大人しく立ち上がる。

 

 来た時と同じように男たちに挟まれて廊下を歩く。あれからずい分時間が経ったように感じる。

 違うのは足の縄が解かれていること。撃たれた右足を庇うように歩く。


 アルスももう戻っているはずだ。

 一刻も早くアルスに会いたい。

 できればきちんと明るい場所で、顔を見て。


 心強い言葉に励まされたい。


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