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アル・スハイル


 子供の泣き声に目を開く。当然のように明かりは無く、自分がどこにいるのか、どういう状況なのか分からない。

 焦って起き上がると、手と足が縛られているのに気付いた。軽い頭痛もする。


 ええと、そう、私誰かに襲われて・・・。

 自分の他にも同じ境遇の人がいる気配に少しだけ安堵した。

 捕らえられているのはせいぜい十数名程度だろうか。振動から察するに宇宙船の内部らしい。かなり古い型かパイロットの運転技術不足か、もしくはその両方。


「あんた、随分落ち着いてるな」


 左隣から少年の声が聞こえた。驚いて声の方を向く。こちらからは表情はおろか、顔も判別できない。

 それなのにどうして落ち着いてるなんて分かったのか。黙って身を縮める。


「ああ、俺は夜目が効くんだ。そういう種族。それで、あんたは?なんだってこんな状況で落ち着いていられる?」


 なるほどね。こんな状況で一緒に捕らわれている相手を訝しんでも仕方がないと、少し警戒をとく。

 落ち着き度合いで言えば彼の方が上な気がしますけれど。目が見えているからって事なのかしら?


「慣れてますもの」


「・・・は?」


 随分と不躾な喋り方だ。でもそれがあまり気にならにのは、妙に抑揚の無い喋り方のせいかもしれない。


「もう4度目かしら、攫われるのは。まあ、今までは私だけを狙ったものでしたけれど」


「・・・そういえば、随分といい身なりをしてるな。もしかして、どこぞの貴族か?」


 少し年上なのだろうか。今の回答でそこまで分かるのなら、頭は回るのだろう。相手の姿を見ようと暗闇の中で、声の方向にじっと目を凝らしてみる。

 うう、やっぱり全然見えませんわ。


「な、なんだよ。答えろよ」


 少したじろいで身を引いた気配。

 失礼。見えないからといって近付きすぎましたわね。


「私はアルフェッカ・クラウン。クラウン造船三代目の娘よ」

 

「へえ。クラウン造船ね。正真正銘のお嬢ってワケだ」


 言葉に冷たさを感じる。

 よくある事だけれど、彼に言われると少し胸が痛んだ。そんな気持ちを隠す様につんした態度を取る。


「こちらが自己紹介したのだから、あなたも自己紹介するべきじゃないかしら?」


「あんたとは真逆の最底辺の人間。アル・スハイルだ」


 なんですの!その言い方!!抗議しようと口を開きかけた時、部屋のドアが開いた。

 隙間から差し込む光に、少年の顔が浮かぶ。更に部屋の明かりがパッと灯った。

 予想よりも幼い。さらさらとした髪に賢そうな瞳。きれいな顔立ちなのに擦り傷や汚れだらけだ。


「おいっ!うるさいぞ!!静かにしろっ!!」


 レーザー銃を構えた男がズカズカと入ってくる。捕われていたのはほとんどが女性や子供だった。男が近付くと、「ひっ」と声を上げて後ずさる。

 男の登場に泣き声を一層大きくした幼女がいた。母親らしき女性が必死でなだめている。


「聞こえなかったのか!静かにしろ!!黙らせるんだ!!」


 レーザー銃を母親に突きつける。

「大丈夫だからね。ママがついてるから」


 冷や汗を流しながら、母親は娘に言い聞かせる。が、その間にも男は酷く足を揺すり、苛立ちを募らせている。


「あなたたちの目的は、お金かしら?」


 泣き声に負けないよう、声を張った。


「ああっ!?」


 怒鳴り声をあげて男がこちらを振り返った。他の人質も。アル・スハイルも。一斉に視線がこちらに集まる。


「運が良かったわね。私一人いれば、あなた達が目論んでいる金額のざっと3倍は手に入るわよ?」


「な、何言ってやがる!?」


 ああ、なんて頭の鈍い大人なんだろう。

「私の格好を見て分からないのかしら。このドレス、宇宙的デザイナーのオートクチュールですのに」


 自分のドレス・・・といっても普段着ですけれど。を見下ろす。


「何が言いたい!?おまえ、一体何者だ!??」


 男はレーザー銃を私の方に向け、わめく。ゴーグルをして口元は布で覆っているためその素顔は分からないが、恐らく怒りと驚きが入り混ざった複雑な表情をしている事だろう。


「私はアルフェッカ・クラウン。クラウン造船って聞いた事ないかしら?」


「く、クラウン造船!??」


 まさか、宇宙でも十本の指に入る大企業の名を知らないとは・・・どれだけ無知な方なのかしら。


「とにかく、こいつ一人で俺たち庶民30人以上の価値があるって事だよ!」


 アル・スハイルが助け舟を出してくれた。分かりやすい言い換えに、男にもなんとなく言いたい事は伝わったらしい。


「お、お前が本物だって証明できるのか!?」


「あら、今頃私の屋敷では大慌てで身代金の要求を待っているはずですわよ?コンタクトしてみたらいかがかしら?」


 男はしばらく無言で考え、吐き捨てるように言った。


「嘘だったらどうなるか・・・分かってるんだろうな!糞ガキ!!」


 大きな音を立ててドアが閉まる。焦ったせいか、男は明かりを点けたままなのに気付かなかったようだ。


「・・・・・・どう思う?」


足音が遠ざかるのを確認してから、アル・スハイルが問いかけた。


「素人丸出しね。目的はどこかの惑星にでも売るつもりだったんでしょうけど。たまたま見かけた力の弱そうな人間を攫ってきたってところかしら・・・自分がどんな人間をターゲットにしていたかも分かってないようね。」


「同感だな。見回りは二人以上が鉄則なのに、ヤツは今一人で行動してた。そもそも船の自動翻訳装置も切らず俺たちに自由に喋る環境を与え、その言葉に耳を貸そうとしてる」


「・・・随分詳しいのね」


 とても同じ年くらいの少年の言葉とは思えない。


「そういう訓練、受けてきたから。それで?あんな事言ったからには何か考えがあるんだろうな」


 そういう訓練?もしかしたら少年兵なのかもしれない。幼い少年や少女を兵士として訓練する星も少なくない。話を切り替えたという事は、きっと私には身の上の話などしたくはないのだろう。

 気にはなるけれど、これ以上彼について聞くのはやめておいた方が良さそうね。


「ええ。お金が目的であれば、人質は私一人で十分だと説得するわ。大勢の人質をいつまでも抱えているのは得策では無いと言ってね」


「・・・」


 アル・スハイルはじっと私を見ている。そうする事で私の考えを読み取ろうとするように。


「どうしましたの?他に何か良い案があるのかしら?」


「・・・いや。ただ・・・」


 そう言ったきり、俯いて黙り込んでしまった。

 人質たちのすすり泣く声が響く。子供の泣き声はいつのまにか小さくなっていた。


「あの、さっきはありがとうございました」


 幼い娘を慰めていた母親が頭を下げる。疲れきってはいるが、落ち着きを取り戻した様子だ。


「いいえ、とんでもありませんわ。ケガしたりしてませんか?」


「はい、お陰様で。あの、本当にクラウン造船の・・・?」


「ええ、皆さんを解放するように説得してみますから。もう少し辛抱して下さい」


 母親はありがとうございます。と何度も頭を下げ、涙ぐみながら再び娘に視線を戻した。

 上手く笑顔で話せていただろうか。不安を悟られはしなかっただろうか。私の言葉で少しでも安心させてあげられていれば良いのですけれど。


 みんなが落ち着きかけてきたというところで、扉の向こうから怒鳴り声が響いた。人質達はいっせいに身を縮ませる。


「おい!明かりがつきっぱなしじゃねえか!!何やってんだバカヤロウ!!」


 ピッという機械音と共に扉が開くと、怒鳴り声も一気に大きくなった。


「ひっ!す、すみません、ボス」


 ボス?という事は人攫いの主犯!

 体格の良い大男を見上げた。ゴーグルはしているが、口元は隠されていない。手入れされていないヒゲと大きな口がいかにも悪人といった雰囲気を出している。


「こいつです!」

 

 先刻の男が私に人差し指を突きつける。まあ、人を指さすなんてなんて無礼なのかしら。


「ほう、お前がアルフェッカ・クラウンか」


 大男は私の前にしゃがみこんだ。


「ペンタ!」


 大男の声に反応し、一体のペアが近付いてきた。ペンタ・・・確か今の最新機種がヘプタだから、2代前の機種。きちんとメンテナンスされていないのか、動きが少しぎこちない。

 ペンタは私の前に来ると、宙に写真を投影した。数ヶ月前一家でクラウン社の新社屋発足パーティーに参加した時の写真だ。まったく、肖像権もプライバシーもあったものではありませんわね。


「なるほど、本物のようだな。メディアでもお前が行方不明と騒がれている。まったく、とんでもねえ小娘を捕まえたもんだ」


「あら、そちらの方から聞きませんでした?私一人でも人質としての価値は・・・」


「おい、誰が口をきいていいと言ったんだ?」


 ガチャリ、と冷たい銃口が額に当てられる。さっと身体が冷たくなった。


「こいつにいろいろと吹き込んでくれたらしいなあ。どんな魂胆だか知らねえが、出し抜こうたってそうはいかねえぜ?」


「待ってくれ!それは俺が!!」


 アル・スハイルが声を上げる。と、私の前から銃口が消えた。

 大男の持つ銃が風を切る。次の瞬間には、ドゴっという音と共にアル・スハイルの身体が浮き上がり投げ飛ばされていた。人質たちの悲鳴。私の身体は固まり声を上げる事もできなかった。

 ズザザザッ。アル・スハイルは落下した後も勢いで1メートル程引きずられ静止した。


「誰が、口を、きいていいと言った!?」


 アル・スハイルを見下ろすように立ち上がり言った。だが、気絶したのか彼はピクリとも動かない。


「チッ。まあ、いい。お前らもこうなりたくなかったら、大人しく俺たちに従う事だな」


 大男は興味を失ったように出口に向かい足を進めながら、部下に向かって怒鳴った。


「おい。扉の前できっちり見張ってろ!何を言われても耳を貸すんじゃねえぞ!!」


「はいっ!!」


 扉が閉まると、再び部屋は真っ暗になった。


コスミクション1−俺は宇宙人に誘拐されました−

http://ncode.syosetu.com/n7054bx/

も宜しくお願いします!

独立して読めるようにしているつもりですが、

前作では世界観や時代背景を詳しく描写しているのでより楽しんで頂けると思います。

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