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第82話 天頂バス



全身を流れる心地良い汗と体中に響き渡る激しい鼓動。まだ呼吸は整わず胸の中は燃えたぎる様に熱くて、一気に喉を通り抜けていく冷たい水が火照った体温をクールダウンさせて一時の安らぎをアタシに与えてくれる。やっぱり体を動かすって最高のストレス発散よね。

お陰で頭の中も真っ白になって、イヤな事みんな忘れてもうすっかり気分爽快……、ってなる訳無いじゃない! せっかく放課後用にバッチリ決めたメイクもヘアスタイルもみんな汗でグチャグチャになって全部台無し、ご覧の有り様よっ!



「……で、その逆転の発想とやらがこの様か、本末転倒と言うか惨めと言うか、お前らしい見事な一人芝居だな、三島」



……結局あの後、部活に出てバカみたいにトラック何十周も走りまくっちゃった……。何でアタシ、こんなカビ臭い更衣室の中でこんな汗まみれのジャージを着替える羽目になってるんだろう、Why? 最悪、ホント最悪だわ。こんなストレス解消法しか思いつかないだなんて、アタシも着実にソフィーの思うがままの筋肉アスリート脳に改造されつつあるのかしら……?



「……うるさいわね、着替える時ぐらい黙ってさっさと着替えなさいよ、人が一生懸命練習してるのがそんなにミジメでおかしな事?」


「いやいやとんでもない、大の努力嫌いがここまでやるとは感心に値する、私はすっかり見直したぞ、三島」


「……『感心に値する』だって、偉そうに、『ちゅぼみ』のクセして……」


「……何か言ったか?」


「い~え全然? それよりさぁ、アナタのその堅っ苦しいウザい喋り方、いい加減に何とかしてくれないかしら? 何かLadyと喋ってる気が全くしないのよね、アナタだってそれでもヤマトナデシコでしょ? だったらもうちょっとVarietyに富んだCharmingなTalkingをしないと、周りのイケメンBoysからチヤホヤして貰えないわよぉ?」


「冗談ではない、私にはお前みたいに男に媚びて人気を得ようなど醜い邪念は微塵もない、それにそんな真似をしなくても私は充分周りから慕われているんだぞ、三島」


「……『慕われてるぞ!』だって、偉そうに、『めぃ』のクセして……」


「……何か言ったか? 言ったよな?」


「い~え全然、何にもぉ?」



さっきからアタシの隣で淡々と着替えてるこの人、男みたいな可愛くない口調にアタシより高身長でトレーニングで鍛え上げた無駄の無い逞しいアスリート体型、なのに出る所は出てるかなりのグッドスタイルの持ち主。これでも彼女、正真正銘れっきとした現役ピチピチ女子高生なのよ。まぁ、こうしてアタシと一緒に女子更衣室で着替えてんだから当然といえば当然の話なんだけどね。

決して裸を見られても許せる特別なボーイフレンドじゃないし、ましてや女装して不法侵入した変態でもないわ。だからアタシのファンのみんなは安心してね。嫉妬しないでね。絶望して自殺とかしないでね。だからといって『じゃあ俺も一緒に着替えた~い』とか言って女装して入ってこないでね。通報するわよ、殺すわよ?



「でもねぇ、慕われてるって言ってもそれは『女の子限定』の話でしょ? 今日の部活中もアナタ目的で見学してた女子生徒がたくさん居たし、他のクラスにもまるで宝塚ファンみたいにキャーキャー寄り添ってくる子達がいるみたいだもんね、あの子達といいアタシのBest friendの知り合いといい、最近の日本の女の子って何か色々ハジマっちゃってる感じよねぇ、この国の将来はホントに大丈夫なのかしらぁ?」


「近頃の男達がだらしないからこうなる、これも時代の傾向なのかもしれんが、そんなもの私には全く興味の無い話だがな、三島」


「……『興味の無い話だかな!』だって、ププッ、偉そうに、『ちゅぼみめぃ』のクセして偉そうに……」


「……言ってるよな? 今、間違いなく何か言ってるよな?」


「のぉ~んノンノンノン、ぜんぜぇ~ん? なぁ~んにも一言もこれっぽっちも言ってないわよぉ~?」


「小癪な女め……」


「でもどうかしらねぇ、アナタは興味ないって思っていても周りはそれを許してくれないんじゃないかしら? いずれは寄ってたかって身ぐるみ剥がされてウフフでアハハな百合色に染められちゃうわよ、お弁当に睡眠薬仕込まれて目が覚めたら体育館倉庫のマットの上で雁字搦めで禁断密味ロールケーキぐーるぐるみたいな、イケない立春欲情丸かぶり恵方巻でもいいけど」


「……平然な顔をして恐ろしい事を口にするなこの鬼め、彼女達は誠心誠意で私を慕ってくれているんだ、忌まわしい妄想は頭の中に留めておくんだな、三島」


「だってアナタには彼女達みたいなお姉様大好きっ子を惹きつけちゃう要素がたくさんあり過ぎだもん! 中学時代に残した優秀なそのトラックレコード、どんな時もクールでカッコいい堂々としたそのスタイル、そこらのブサメンなんかより何倍も美形なそのフェイス! なのに、なのによぉ? これだけステキな要素がたくさん揃っておきながらその名前は、なんてったってアナタの名前は……!」


「またそれか! さっきから小言で隠微にボソボソと、いい加減その話題はよさんか、三島……!」


「ちゅぼみっ! めぃ! ちゅぼみめぃタンなんだもんねぇ~!? アハハ、アハハハハハッ!!」



彼女の名前は四月朔日芽。四月朔日がセカンドネームで芽がファーストよ。四月朔日で『つぼみ』、芽で『めい』って読むんだって。普通読めないわよね、何よ『つぼみ』って? 苗字でつぼみって何それ意味わかんない。『蕾』って事? やだ、何かスゴい可愛くてエッチでロリロリな感じ! しかもファーストネームが芽って、『芽生え』って事? やだぁ、何かこっちもスッゴい可愛くって東京都知事や某日本ユニ〇フ大使さんから怒られちゃいそうな感じがプンプンするわぁ~!

こんなぶっきらぼうで男勝りな性格してて? こんな那奈みたいなクールで凛々しい姿してて? こんなむさ苦しいオッサンみたいな喋り方しして? なのに名前が『つぼみめい』? アハハハハ! 何よそれ、超おかしいっ! こんなジョークEasyに狙って出来るもんじゃないわ! アタシ、超ウケまくりなんですけどぉ~!?



「笑うな! 何が可笑しい!? 私の名前の何がそんなに可笑しいんだ、三島っ!?」



ハァ~お腹痛い。えっ~と、とりあえず笑うのは後にして、まずは簡潔にめぃタンのプロフィールを紹介するわね。彼女はアタシとクラスは違うけど同い年同学年の高校一年生で同じ部活所属の陸上選手なの。アタシと彼女のファーストコンタクトはこの陸上部に入った初日の時。

あの日は練習を始める前から笑い疲れてヘトヘトになって色々大変だったわね。先輩や他の新入部員の前でキリッと直立して大声出して自己紹介する彼女の姿とその名前が、まともにアタシのツボにCritical hitしちゃって……。


……あっ、そうだった。その前にアタシ達が所属するこの陸上部についてガイドしなきゃいけないわね。ここの学校の陸上部、実はこれまでにも何人もの才能溢れる期待のアスリートの卵達を名門大学や実業団へ輩出している素晴らしい実績を持ってたりするのよ。スゴいでしょ?

将来有望と見込まれた選手には中等部の時から優秀なコーチ陣の徹底的な育成指導を受けさせ、他の学校に良い選手がいれば高等部への編入を薦めて次々とスカウトしていく。それがこの陸上部が創立されて僅か数年足らずで一気に全国有数の強豪校への仲間入りに大躍進した強さの秘訣らしいわ。

これは何も陸上部に限ってのパターンじゃないけどね。うちの学校は他の部活もみんなそう、野球部も体操部もどこも強豪ばかりよ。でも体育会系だけじゃないわ学力だってスゴいのよ。偏差値も高いし大学進学コースまであるもん、学習塾なんてわざわざ通う必要全く無し。文武両道ってヤツよね。

何十年学力強化頑張っても結果が出なくて諦めちゃう弱小校もたくさんあるのに、やっぱりスゴいわよねアタシ達の学校って。これも出資者として影で暗躍してるアタシのママの成せる業なのかしら? きっとうちの学校がスゴいんじゃなくてママがスゴいのね。事業家として成功を納めただけじゃなくその利益を惜しみなく公共施設にまで投資するだなんて、さすがアタシのママよね、Respectしちゃうわ!

でね、そのママが陸上部の更なる強化を目指して特別顧問として招致したのがご存知、七種競技ワールドチャンピオンの経歴を持つあのソフィーよ。えっ、誰だか忘れた? あの人よあの人、毎日放課後アタシを校舎内隅々まで追い回してくるあの人。翼曰わく『ヘンテコ迷惑ストーカー外人』。

随分と失礼なニックネームよね。あれでも彼女はアタシの大切なもう一人のママで、アタシが目標とする理想のスーパーアスリートなのよ? それをヘンテコだとかストーカーだとか見た目だけで判断するなんてとんでもない偏見よね。確かにちょっとおかしい片言な日本語を喋ってアブナいくらいやたらテンションが高いけど、アナタの理想のヒーローなんかに比べたらよっぽどマシ。

何がベッカム様よ、バッカみたい。あんなのちょっとカッコ良くて足が器用なだけのヘラヘラ男じゃない。ヴィクトリアの方がよっぽどファッションリーダーとして世界中で活躍してるわよ、ブーイングも多いけど。オリンピックどころかワールドカップすら優勝した事無いダメダメ恐妻家と、アタシのソフィーを一緒にしないでくれるかしらぁ?


……うん、でもあながち間違ってもいないのよね、翼の言い分も。確かにアタシも少し迷惑、迷惑ではあるのよ。トイレに隠れても掃除用具ロッカーに潜んでも学校の外でタクシー拾って逃げてもターミネータみたいに走って追いかけてくる、あのソフィーの恐ろしい程の執念深さは……。


……話題がコースアウトしちゃったわね、軌道修正。さて、その話は置いといて。でねでね、そのソフィーは特別顧問として就任して早々、ワールドクラスのアスリート育成を目的としたエリートコースを新たに作ったのよ。ただでさえ全国よりすぐりの優秀な部員の中から、更にソフィーが自らチョイスして招集した超スペシャルチームってところかしらね。

短距離、長距離競走から高跳び幅跳び投擲競技まで種類問わず何でもOKの元メダリストコーチによるマンツーマンレッスン。その練習内容の濃さは基礎体力強化からコンディション管理まで各分野のスペシャリストも顔負け。こんなファンタスティックなスーパーコーチング、とても彼女じゃなきゃ出来ないわ。さすがはHeptathlonのゴールドメダリストよね、無敵のオールラウンダーの面目躍如って感じね。

そんな一高校の部活レベルとは思えないゴージャスなトレーニング環境だもの、この話が全部員に伝えられた時は誰もがみんなソフィーのレッスンを受けたいと志願する人達が殺到したわ。でもね、頑張って練習でアピールしてた人はたくさんいたのに、所属してる部員数だけでも数え切れないくらいたくさんいるのに、その中で彼女にスカウトして貰えたのは僅か十人! しかも一年生部員に至ってはたったの二人だけよ、二人だけ!

Of course! 当然アタシはそのたった二人しか選ばれなかった一年生部員の一人よっ! えっ、わざわざそんなわかりきった事を説明する必要なんか無いって? まぁねぇ~、確かに今更アタシのスゴさを説明する必要なんて無いわよね。だってみんな知ってるもんね。キラキラ輝いてるもんね。全身からオーラが出てるもんね。やっぱりアタシって、生まれながら神に成功と名声を約束された特別な存在なのねっ!

だってぇ、何せその世界有数の特別顧問様が向こうから毎日毎日部活に出ろ部活に出ろ、育てさせてくれ育てさせてくれって必死にお願いしてくるぐらいなんだもの。いやぁ~んもぉう、どぉうしょ~う! アタシったらスゴいソフィーに期待されてる、世界中の人々からその登場をスッゴい待ち望まれてるぅ~!


……うん、でもね、やっぱり実はちょっと迷惑。だってホントは七種競技なんてやりたくないんだもん……。『チナツは筋力不足デスネー!』とか言われていっつもいっつも腕立て伏せ百回とか重い円盤や槍とか何十回も投げさせられて……。

お陰で細くて自慢だったアタシの二の腕、段々と女子プロレスラーみたいに逞しくなってきちゃった。これじゃ恥ずかしくてノースリーブ着れない。アタシ確か走り高跳びで世界の頂点目指してたはずなのに、これって一体、どういう事なの……?



「話の途中悪いが、一言良いか、三島?」


「何よぉ? 邪魔しないでよ、今から丁度アナタの説明をしようとしてる時に……!」


「話が長い、三行でまとめろ、三島」


「まとまんないわよぉ! アタシにはまだまだ話したい事がMany,manyいっぱいあるのよ! それをたった三行ごときで……!」


「まとまる、


その選ばれた、

もう一人の一年生が、

私、


以上だ、三島」



……チッ、ホントつまんない子よね。そういう事よ、そのソフィーに選ばれたもう一人の一年生部員ってのが彼女、ちゅぼみめぃタン。つ・ぼ・み・め・い。ププッ、平仮名で書くと更に変な名前よねぇ~? Englishでも『Mei Tsuaomi』って何かマヌケでダッサいもん。やっぱり名前って大事よね、アタシなんて平仮名で書いてもEnglishでも超Coolよ?

『みしまちなつ』、ほらカッコいい。えっ、ダサい? じゃあこれならどう? 『Chinatsu Mishima』、ほらカッコいい! 超Cool……、ってうるさいうるさいShut up!! カッコいいのよ! アタシがカッコいいって言ってるんだからカッコいいものはカッコいいのよっ! アタシ自身も名付けたママもカッコいいんだから全部カッコいいのっ! これだから日本名って好きになれないのよ、アタシの主張に異論は一切認めないわ、外野は三歩下がって豚小屋入ってBe quiet!!


……ふぅ、またコースアウトしちゃったわね。さてと、その話も置いといて。でもやっぱり変よね四月朔日芽って名前。彼女の両親は名前に似合う可愛い女の子になって欲しいと願って名付けたのかしら? だったら今頃ガッカリしてるでしょうね、こんなオシャレ気の全く無いショートカットのおかっぱ頭娘さんに成長しちゃってね。

同じショートでも小夜とはエラい違いよ。小夜は小さくて仕草も言葉使いも全部カワイイからどんなヘアスタイルでもカワイイけど、この子は顔と胸隠してスカート履いてないと後ろから見たら完全に男だもん。バレーボール選手並みに背が高いから尚更なのよね、せめて那奈ぐらい髪が長ければシルエットだけでも男女の分別ぐらいつくんだけど。

やっぱり名前と見た目のマッチングって大事よね、全然合ってないわ。そもそも日本人のネーミングセンスってちょっとおかしい。最近の新生児の名前ランキングとか見ても当て字で読めない変な名前ばっかり。親の個人的な趣味でアイドルやアニメキャラの名前付けられて、それで生きていかなきゃならない子供の身にもなってあげて欲しいもんよね。ペットや競走馬じゃないんだから。

あっそうそう、この国でもGreat Britainみたいに競馬が盛んみたいで、この前『この馬スゴいカワイイ!』って思って名前調べたら『アシタハシマウマ』だったってぐらい、彼女のこの名前はディープインパクトだったわ。何よ『明日はシマウマ』って、日本の競走馬だって純血のサラブレッドなんでしょ? 何でシマウマ? アタシが馬だったら絶対馬主恨むわよ、ヤダそんな名前……。



「……なぜ私の話から突然馬の話になる? 長過ぎる脱線話ばかりだ、いい加減まとめてくれ、三島」


「あぁ~んもぉう、いちいちうるさいわねぇ! わかったわかったわかったわよっ! 三行でまとめれば良いんでしょ三行で!」


「そうだ、

三行で頼む、

三島」


「めぃタンも、

明日はきっと、

シマウマよ」


「オイちょっと待て! 三行は良いとしてそれでは全く私の紹介文になっていないぞ! 私はどんなに走ってもシマウマにはならんぞ、三島!」


「アハハ、アハハハハ! 何コレ、自分で言ってて全然意味わかんない! やだヤダ笑い過ぎてお腹いたいイタい痛い、ただでさえ部活で筋肉痛なのにこれ以上笑ったら腹筋壊れるぅ~! こんなくだらない話にマジで突っ込むめぃタンも可愛いっ! 何なら今日からそのジャージ白黒模様にしたら少しは足速くなるんじゃない? なんちゃって、アハハハハハハハ!!」


「オイ、いい加減に私の名前の後に『タン』をつけるな! 『ちゃん』でも嫌なのに『タン』とは何事だ! 私は最近の気味悪い男どもが好んで使うそのふざけた呼称が一番嫌いなんだ、三島!」


「でも名前のイメージだけだとそんな感じじゃないアナタって、『蕾』に『芽生え』なんて赤いランドセルに黄色い通学帽被せて幼稚園児のスモッグ着て変なオジサンにイタズラされてるって光景が」


「冗談ではない! さっきから襲われるだのイタズラされるだのお前の頭の中は一体どうなっているんだ!? 第一何だ『ちゅぼみ』って!? 『ちゅ』ではない『つ』だ! 子供言葉で馬鹿にしよってからに、良い機会だ、この際だから説明してやろう、いいか良く聞け三島、私のこの苗字には古来からの由緒正しき意味と理由があってだな……!」


「めぃタン、

話が長いわ、

三行で」


「私の、

苗字は、

『ちゅぼみ』じゃないっ!」


「ちゅ・ぼ・みっ! 言った! ついに自分で言った! ヤダめぃタン超カワイイ! アハハ、アハハハハッ!! ダメ、もうダメ、死ぬ、死ぬ、笑い死ぬぅ~!!」


「だからぁ! 私の名前の一体どこが可笑しいんだ、三島っ!!」



あぁ~おかしい。笑いすぎて内臓まで捻れてクラッシュしちゃいそうだわ。あぁそうだった、笑ってないで彼女の紹介の続きをしなきゃいけないわね。今度は脱線せずにちゃんと話を続けるから、嫌な顔しないで最後まで話を聞いてね。カワイイカワイイ千夏ちゃんからのお願いよっ!


このちゅぼみめぃタン、いやこの四月朔日芽さんはね、アタシや那奈達の様な中等部からの自動進級組と違って他の学校からの編入組なんだけど、中学の頃から女子の槍投げ選手として全国区でも結構注目されてる存在なんだって。苗字は四月朔日なのにね。

しかも、投擲競技だけじゃなくて足も速くてスタミナもあって、短距離走や長距離走、ジャンプ競技でもそこそこ良い記録を出してたりする万能タイプだったりするの。つまりは七種競技をやるにはうってつけの才能の持ち主って事。名前は芽なのにね。

そんな恵まれた身体能力がこの陸上部のスカウト陣の目に留まって即座に推薦入学、更にはソフィーの目にも留まってアタシと共に晴れてエリートコースの仲間入り。ソフィーは彼女の将来性溢れる才能がとってもお気に入りらしくて、いつかはアタシと並んで国内、果ては世界に羽ばたくビックなトップアスリートに成長してくれる事を心から願っているらしいわ。


そんなスゴい選手がすぐお隣の地区に居たっていうのに、それを同じ陸上選手のはずのアタシが初めて顔を合わせるまで存在を知らかったのはなぜかって? だってアタシはアタシ、他人の記録や成績なんてちっとも興味なんか無いもん。どうやら彼女も去年アタシが走り高跳びで優勝した県大会で活躍してたらしいんだけど、出場した競技が違ったから会話どころか顔を合わせる機会すら全く無かったわね。

アタシってあまり他の選手と交流を深めるのって好きじゃないのよ。だってみんな結局、アタシと同じ目標を目指すライバル達じゃない? お手々繋いで仲良くなんてしてたらいずれは闘争心に緩みが生じるわ。この前も言った通り陸上競技は孤独なスポーツ、信じられるのは己の力のみよ。頂点を極める為なら例え相手が親しい友でも容赦なく押し退ける、それが厳しいサバイバルレースを生き残る競争社会の掟であり、現役時代のアタシのパパのレーススタイルを見て悟った、アタシの人生の教訓なのよ。


ただ、今思い返すとこうして同じ学校の同じ部活で、しかも同じ競技を一緒に練習する仲になるのがあの時わかっていたのなら、せめて一目会って名前ぐらいは聞いても良かったかなってちょっと思ったりするけどね。そうしとけば部活初日の腹筋崩壊を未然に防げたかも。聞いたら一発で覚えられたんだけどなぁ、なんってったってちゅぼみめぃタンなんだからねぇ。



「あーあ、どうせならアタシもそんなインパクトがある名前をママから付けて貰いたかったなぁ、何でパパは『三島』なんてつまんないセカンドネーム名乗ってるんだろう、何か急にめぃタンが羨ましくなってきちゃったわ」


「あぁもうしつこい、しつこいぞ三島! お前という奴は一体全体何なんだ!? 話はいつも無駄に長いわ、初対面から無礼な態度を取るわ、毎度毎度私の名前で大爆笑するわ……、お前の辞書には他人に対する敬愛の念って言葉が存在しないのか? どうなんだ、答えてみろ三島!?」



でもね、少し残念な子でもあるのよね、彼女。フィジカルはとても優秀で何でも出来ちゃう万能タイプでも、メンタルがガチガチのワンパターンでまるっきり融通が利かないのよ。普段はクールでクレバーなのにちょっとでもからかうとすぐにカッとなってムキになっちゃう。

つまり、ジョークが一切通じないカッチカチのStone headって事。さっきまで『三行』とか言ってたのに頭に血が登った途端ご覧の有り様よ、ホント残念だわ。まぁ、それが面白いからアタシも懲りずにいつもちょっかい出しまくってるんだけどねぇ。



「んもぉ~う、そういうパパみたいな説教じみた話ってアタシ、大っキラぁ~い! だってしょうがないじゃない、アタシのこの性格はママから譲り受けた生まれつきのものだもん! お喋り好きなのも生まれつき、態度がデッカいのも生まれつきぃ~!」


「醜くも開き直りよってからに、ならその諸悪の根源である母親をここに呼べ! これ以上の忌まわしき遺伝子の悪連鎖を止める為に、今ここでこの手でまとめて修正してくれるわ、三島!」


「それに態度がデカいデカいって言ったってさぁ、部活中の模擬形式試合の練習でいっつもアナタ、アタシに負けてんじゃ~ん? 勝てば官軍、敗者が勝者に遜って頭を下げるのはこれまでの歴史の中でも当然の話でしょ? なのにそんな身の程知らずな偉そうな意見、アタシ信じらんなぁ~い!」


「……おい待て、いつ負けた? 私がお前にいつ負けた!? 私がお前に遅れを取ったのは跳び競技と走競技のみで、しかもいつも紙一重の僅差だぞ!? 投擲競技なら常に私の圧勝、最終的な総得点では毎回私の勝ちじゃないか! 七種競技とは全競技の結果で得た総得点で勝敗を競うものなんだぞ、三島!」


「へぇ~、そうなの? アタシ七種始めたばかりだからそんなルール初めて知ったわぁ~! 槍投げとか円盤投げとかやらなくても良いのにね、だってやってて全然つまんないんだもぉ~ん!」


「それがルールだっ! そんな事も知らんで競技をするなっ! それにそれらを含めているから七種競技なんだっ! 槍投げと円盤投げを無くしたら七種じゃなくて五種になってしまうだろうが、三島っ!」


「あぁ~そうかぁ、言われてみればそうよねぇ~? へぇ~スゴいスゴい、アナタって運動神経だけじゃなくてルールにまで詳しいのね、さっすがめぃタン!」


「だからめぃタンはやめろっ! それより大至急ルールぐらいは覚えとけっ! 失望した、こんな不真面目な性悪女が私の認めたライバルの本性とは、私は完全に失望したぞ、三島ぁっ!!」



へぇ~、そうだったんだ。アタシてっきり七競技の内、四つ以上勝てばオッケーだとばかり思い込んでいたわ。だってほら、メジャーリーグのワールドシリーズや日本のプロ野球の何とかシリーズでもそうじゃない? 先に四勝したら優勝みたいな。でも、確かにそれじゃ二人以上の選手がいたら勝敗決められないわよね。何かルールが複雑過ぎて面倒だわ、他の競技みたいに最も良い記録出した選手が勝ちってルールが見てる方も一番わかりやすいのにね。



「私に対して偉そうに勝ち誇りたいのなら、せめてもう少し投擲の記録を伸ばして得点を稼ぐ努力をすべきだな、でなければ私とお前の差は一向に埋まらないぞ、三島!」



確かにこのめぃタン、元は槍投げ専門だっただけあって投擲競技だけはスゴい記録が出るのよね。アタシは投擲に興味が無いし槍も円盤も重くてしんどいから手加減してあげてるんだけど、そのせいか彼女とはいつも最後はもつれた僅差の勝負になっちゃうの。そんな事もあって彼女はいつしかアタシをライバル視する様になっちゃったみたい。惨めよね、わざわざこっちからハンデあげてる事も知らずにさ。



「でもまぁ結局、模擬の試合でアタシとアナタ二人だけの勝負だから、やっぱり七つ中五つ勝ってるアタシの勝ちぃ~!」


「お前、私の説明を聞いてたのか!? だから七種は勝利数ではなく着順総得点が全てだと何度言わせれば……!」


「めぃタン、

長いわ、

三行、三行」


「私は、

一切、

負けてないっ!」


「めぃタン、

やれば、

出来るじゃない?」


「それと、

いい加減、

めぃタンはやめろっ!」


「アハハ! また言った、また自分でめぃタンって言った! 何だかんだ言ってアナタこの呼び名スゴく気に入ってなぁい? おかしい、あぁ~おかしい! アハハハハ!」


「みぃしぃまぁーっ!」



もぉう素敵、ホントめぃタンって楽しいわ! どんなジョークにも返ってくるリアクションがいちいち必死で最高なのよね。実は彼女、アタシの最近一番のお気に入りだったりするの。だって翼が相手だと頭が柔軟で腹黒いから思わぬ反撃をされる事があるし、小夜だと想定外のUnbelievableな答えが返ってきて逆にこっちが唖然とさせられちゃうしね。

それと、那奈も彼女と似てて超真面目な性格だからおちょくると面白くて結構好きなんだけど、少し大人びてて冷めたところもあるからあまりしつこくするとシラけられて無視されちゃうしね。その点、もぇタンはいつも熱いわ。無駄に熱い。しかも超負けず嫌い。名前一つでこんなに反応してくれるなんてイジり甲斐があり過ぎるわ、もぉう大好き!



「……全く、最近は練習よりお前と話している方がよっぽど疲れる、もしも今の話をソフィーコーチが聞いたらお前、間違いなく説教ものだぞ? なぜあれほどの元名選手がお前みたいな人間にあそこまで尽くすのか、私にはさっぱり理解が出来んぞ、三島」


「……ねぇ、ホントにそのウザい喋り方そろそろ何とかならない? もぉうスッゴいイライラするのよね聞いてて、ホント鬱陶しいの」


「無茶を言うな、お前の性格同様私のこの喋り方も生まれつきのものだ、それとも何か? この喋り方に過去に嫌な記憶、嫌な人物でも思い当たるとでも言うのか、三島?」


「まあね……、まぁどうでもいいわ、あんなの思い出したくもないし、それより部活も終わって着替えも済んだんだから早く帰ろっ! 部屋の電気消すわよ、今のブームは地球に優しいネイチャーガールなんだからっ!」


「待て待て待て! 私はまだお前の話に付き合わされて全然着替えが済んでない! と言うかお前いつどうやって着替えを全て済ませた? 電気を消すな、もうしばらく待て、三島!」


「……ねぇ、めぃタン、その格好なんだけどさ……」


「……何だ? 何か問題でもあるのか?」



言葉使いもそうだけど、そんな事よりアタシが気になったのはめぃタンの着替えてるその服装姿。彼女、いつも制服のスカートの下に膝まで丈の切り詰めたボロボロのジャージズボンを履いてるの。教室や通学帰宅時もこの姿。やだぁダサい、もうスッゴいダサい。センスの欠片も無いわ。せっかくのママがデザインしたカワイイ制服が全部台無しだわ、問題あり過ぎよ。



「ねぇ、アタシいつも思うんだけど、そのスカートの下に汚いジャージ履くのってもうやめたら? 何か水分飛んで萎れちゃった椎茸みたい、そんなみっともない格好してて恥ずかしくないのぉ?」


「恥ずかしいだと? 何を言うかとんでもない、履いてない方がよっぽど恥ずかしいじゃないか、色々と」


「What? 何でぇ?」


「だから、こんな腰巻きタオルみたいな丈の短いスカートじゃ下に何か履かないと恥ずかしいじゃないか、色々と」


「Why? なぜ?」


「だ、だから、見えちゃうじゃないか、色々と……」


「……アッハァ~ン!? バカ? アンタってバカァ!? 何を言い出してんのよもったいない、そんなくだらない理由でそんなダッサいジャージ、下に履いてたのぉ!?」


「ハァ? えっ? オイちょっと待て、『もったいない』って何だ、どういう意味だ、三島!?」



もったいないわ、もったいないわよぉ! 何の為にママがわざわざこんな短いスカートをデザインしたと思ってんのぉ!? 男のむさ苦しい毛だらけの脚ならともかく、Ladyの煌びやかで艶やかな脚線は芸術よ、神々が創り上げた奇跡のアートなのよ!? それをこんなボロ布で隠すだなんてもったいない、MOTTAIMAIわぁ!



「めぃタン、アナタは何の為に陸上なんてやってるのよ、何の為に毎日厳しい練習に耐えて頑張ってるのよ!? 男どもに無駄なく引き締まった肉体を、美しく鍛え上げた脚線美を見せびらかす為にやっているんでしょう!? なのにそれを恥ずかしいとか……、あぁもぉうUnbelievableだわ、アナタは天をも恐れない大きな過ちを犯してるっ!」


「わからんわからん全く意味がわからん、だからお前と一緒にしてくれるなと何度言えばわかる、私はそんな不純な理由で陸上をやっている訳ではないぞ、三島!」


「ダメダメダメダメ、全然ダメよっ! わかってない、アナタは自分がこの世界に女として生まれてきた意味が全然わかってない! アナタといい那奈といい、そんな恵まれた理想的なボディラインをしていてそれを恥じるだなんて、何それイヤミ? アタシ達に対する当てつけか何か? 世の中にはアナタみたいなスタイルになりたくてもなれない可哀想な女の子達がたくさんいるっていうのにっ!」


「私は決して望んでこんな体になった訳ではない! と言うか那奈って誰だ? 第一な、お前の母親がこんな非道徳的な穢らわしい制服を作ったりするからわざわざ下にこんなものを履かなければならなくなったのだぞ、三島!」


「やっぱりわかってない、アナタも那奈もアタシのママの『女の子哲学』を全然わかってない! 非道徳的? 穢らわしい? 冗談じゃないわ、こんな腰巻きタオルとか言うなんて土下座してママに謝って! 女は度胸、女は露出! 常にセックスアピールを主張してこそナンボなのよっ!」


「……セ、セ、セッ、お前、何て卑猥な言葉を……! だから那奈って誰だ!? それにナンボって何だ、どこの出身だ!? お前の一族には生粋の露出狂遺伝子でも流れているのか、三島!?」



陸上に関しては誰にも負けない熱いファイティングスピリッツを持っているのに、オシャレや恋愛事になると極端に疎くて消極的。高校生にもなってこんな状態じゃめぃタンの将来が思いやられるわね。このままじゃ彼女、数年後にはタダの筋肉ガチガチ男性ホルモン大分泌のアマゾネス女になっちゃう!

そんなの見過ごせない、見捨てられない! アタシはママ同様この世界に『美』を振り撒く為に生まれてきた選ばれし存在なのよ! そんなアタシの目前でそんな大暴挙、許さない、絶対に許さない! 修正してやる、洗脳してやる! こんな美学を冒涜するダメ女、力ずくでも大改造ビフォーアフターしてやるわっ!!



「変わりなさい、悔い改めなさい、今すぐアナタに絡み付くその忌まわしいしがらみを全部脱ぎ捨てなさい! 『美』の迷路に彷徨う全ての女性を救うのがこの退廃した世界に降臨したアタシに与えられた絶対使命! めぃタン、アナタはこの『愛と美の伝道師』Chinatsu Mishimaが直々に、誰もが羨む美しい女性へと生まれ変わらせてみせるわ!」


「おい! オイオイオイ何をする!? せっかく着替えてる人の服を無理矢理勝手に脱がすな! 何を考えているんだ、オイよせやめろ、やめるんだ、三島っ!?」


「Shut up! 問答無用よ! めぃタン、アナタには特別にママがアタシ専用にデザインしたお揃いのSpecialな夏期制服をコーディネートして差し上げますわ! ホントは那奈に着させるつもりだったんだけど予定変更よ、それと髪型にもやっぱりもう一つアクセントが欲しいわね、イケメンだからすっぴんも悪くないけど女の子なんだしメイクも施さなくちゃね! 見てなさい、アタシのこの魔法の手であっという間にアナタをステキなマイフェアレディに大変身させちゃうから!」


「だから那奈ってどこの誰だっ!? それより待て、なぜお前のカバンからもう一着替えの制服が出てくる!? 制服どころじゃない、お前のカバンには一体どれだけ服やら靴やら化粧品が入っているんだ!? そのカバンは四次元ポケットか何かか!? よせやめろ、私は生まれてこの方一度も化粧なんてものをした事が無いんだ、そんな恥ずかしい格好はしたくない、頼むやめてくれ、三島ぁー!!」


「めぃタ~ン!

三行、

さんぎょ~う!」


「たす、

けて、

くれー!!」



ウフフ、覚悟なさいめぃタン。世界の『Chiharu Mishima』であるママ直伝のアタシのファッションプロデュースは完璧よ。メイクだってお手の物、『百花繚乱』カルテットのリョウちゃんやランちゃん達から学んだテクニックだってPerfectですぅ~! 垢抜けないボーイッシュ女子高生があっという間にカワイイ萌えっ子ギャルに大変身! さぁどうかしらシンデレラ姫、生まれ変わった自分の姿を鏡で見た初対面のご感想は?



「……何だコレは、三島……?」


「んーと、ヘアスタイルはショートカットの利点を生かせてちょっと昔の堀北真希風にしてぇ、メイクは元々肌がキレイだから少しチークをひいたくらいかなぁ? 少しあっさりし過ぎたかしら、何ならもうちょっとガッツリいっとく?」


「人様の顔にベタベタと絵の具みたいなものを塗り付けよってからに……、それよりこの制服は一体何だ!? 明らかに正規の物よりスカートの丈が短いし、それにこの膝まであるやたら長い黒靴下は何なんだ!? こんなもの履いていたら動きづらいだろうが、何の真似だ、三島!?」


「えっ~、知らないのぉ? 黒ニーソよ黒ニーソ、今、日本の男の子達の『好きな女子高生制服スタイルランキング』で必須事項として挙げられるファッションアイテムなのよ? 何でも黒ニーソからミニスカートまでの間にチラチラ見える太ももの部分が絶対領域で大好物だとか何とか」


「ふざけるな! 何が絶対領域だ! お前は履いてないのになぜ私にだけこんな物を!」


「だってめぃタンってアタシより足太いし目立たせなくするにはこれしかないかな~って、何か必死にジャージで隠してた理由がわかってちょっと悲しくなっちゃった」


「うるさい黙れ余計なお世話だ! しかし何といかがわしい助平な制服だ、これは完全に校則違反ではないのか? こんな短いスカート、少しでも激しく動いたり強い風が吹いたら簡単に捲れてしまう……!」


「それが良いのよぉ、チラリズムってヤツ? それこそが男の子達をトリコにするキーポイントなの! ほら、アタシのスカートだってお揃いの長さよ、パンツは見せ物、スカートなんて飾りだわ! 正規デザイナーであるママが作ったんだから、これだってれっきとした採用デザインだもん、大丈夫よ、何の問題も無いわ!」


「大丈夫じゃない、問題だらけだ! このワイシャツだっておかしいだろ、なぜこんなに透け透けでパッツンパッツンなんだ? ボタンが一番上まで止まらんぞ、これではネクタイもきちんと巻けんし胸元だって見られてしまう……!」


「アタシのサイズだからねぇ~、って言うか、そのサイズでパッツンパッツンならやっぱりめぃタンっておっきいのねぇ? 那奈もアタシよりおっきいからこんな事になるって予想してたけど、まさかアナタにまでこんなにJealousy感じるとは思ってなかったわ、あぁんもう悔しい、妬けちゃう! 悔しいから第二ボタンも外してアナタのアブナい取り巻きの女の子達をもっと狂乱させてあげちゃう!」


「やめろ、やめんか! 人様の胸元を凝視するな、遠慮もせずに堂々と普通に触るな! お前は他人にこんな格好をさせてニヤけるのが趣味なのか!? 間違いなくお前が一番危ない、その女子生徒達より遥かに質が悪いぞ、三島!?」



アハハやだぁカワイイ、めぃタンったら顔どころか耳まで真っ赤っか~! 超おかしい、超ウケるぅ~! 普段は気が強くて堂々としてる子が、こういう格好をさせた途端に急にしおらしくなっちゃうのって何かスゴくキュンキュンしちゃう。ギャップ萌えってヤツ? なぁ~んだ、めぃタンでもちゃんと萌えキャラになれるんじゃ~ん! イジッてて全然飽きがこないわ、正にアタシ好みの最高のキャラねっ!



「……もう良いだろう三島、気が済んだか? 早く着替えさせてくれ、こんな姿では外にも出られん、この顔にこびり付いた化粧もさっさと落とさねば……」


「ダメよぉ、ダメダメ! アタシがせっかくコーディネートした美学をそんなすぐに直しちゃダメっ! アタシだけじゃもったいないわね、もっと多くの人にこの素晴らしい作品を見て……」



……あっそうだ! 良い事考えちゃった。もっと見たい、彼女がモジモジ恥ずかしがる姿、アタシもっと見たいの! アタシの小悪魔本能が更に覚醒しちゃった。更に加速、大暴走よ! こうなったらもう誰もアタシを止められないわ、Somebody,don't stop me!!



「ねぇ、めぃタン? せっかくだからこの姿のまま一緒に帰らない? どうせアナタこの後ヒマでしょ? 途中で色々たくさんカワイイお店に寄って、アナタにもっと似合う素敵なファッションをプロデュースしてあげるわ!」


「……じょ、冗談ではない! こんなみっともない格好で外を連れ回されるなど末代までの恥、公開処刑ものだ! お前は私を自害に追い込むつもりか、三島!?」


「良いじゃん良いじゃん! 恥ずかしいのは最初だけ、慣れれば周りの人間の視線がだんだん心地良くなってくるわよ! さぁ行きましょうアタシのライバルさん、二人で世界中の男の子達の視線をこの手に独占するのよっ!」


「やめろ、両親に合わせる顔が無くなる! 頼むから着替えさせてくれ、せめて何か下に履かせてくれ! 強引に手を引っ張るな、外に出すな、私の姿をこれ以上世間の晒し者にしてくれるなぁー!!」



いやぁ~ん、たまんなぁ~い! もぇタンってホントはとっても恥ずかしがり屋さんで女の子っぽくて、スッゴいカワイイ~! これは那奈以上の貴重な逸材ね、今度はママのお店に連れて行ってもっとエロカワイイ服を試着させてみようかしら?

翼と綾じゃないけど、アタシ達ってきっと最高のコンビ、最高のパートナーになれる気がするわ! やっぱりライバルはお互いを刺激し合う関係でいないとね、競技でもオシャレでもプライベートでもっ!



「……おい、あれって三島と四月朔日だよな……?」


「……何だ四月朔日のあの格好、ちょっとヤバくね……?」



ほらほら見て見てめぃタン、まだ校庭のグラウンドで練習してる他の部活の男子生徒達、みんなアタシ達の姿を見てヒソヒソ噂をしてるわよ? みんなアタシ達に夢中、みんなアタシ達の愛の奴隷よ! 視線が熱いわ、ビンビン感じちゃう、もぉうたまんなぁい、最高だわぁ~!



「……もう駄目だ、限界だ、ここから消えてしまいたい……」


「やだぁ、めぃタンったらそんな恥ずかしがってモジモジするともっとカワイくってもっとエロ~い! 良いわよ良いわよぉ、そういう仕草が更に男心の本能をくすぐるのよ、アタシそんな仕草、フェイクでもこんなに上手く出来なぁ~い! もぇタンって生まれながらの破壊力バツグン萌え萌えGirlだったのね、ほら、もっと顔を赤らめて小さくカワイくモジモジしてぇ!」


「煽るな、触るな、近寄るな! 生まれながらのどスケベ変態腐れビッチに可愛いなどと言われたくは無い!」


「はいはいスカートの裾押さえない、胸元も手で隠さない! ブラが透けても気にしない、パンツ見えても死にはしないわ! これはご褒美なの、女の子にモテない可哀想な男子達へのアタシ達からの慈愛のご褒美なのよ! こんなのまだまだ序の口よ、街中出たらこんなもんじゃ済まないんだからっ!」


「この悪魔、ケダモノ、鬼畜ドS女! 飛んできた砲丸に当たって死んでしまえ、そして地獄に堕ちろ!」



ハァ~イ皆さぁ~ん! もっともっと熱い目線でこの子を見てあげてぇ~! 生まれ変わった四月朔日芽タンの美しい姿を、エロカワイイキュートなグラマラスボディを、ギリギリチラチラの危険が危ない絶対領域を! 一人ぼっちで最悪の放課後だと思ってたのが一転、最高の一日になってストレス発散出来たアタシはすっかり有頂天。那奈の異変や出番の少なさへの不満なんてどこかにキレイに消え失せちゃったわ!

作者さん、こんな素敵なオモチャを、い~え素敵なBest friendをアタシに与えてくれてどうもThank youねっ! これなら明日から翼がいなくたって全然平気よ、ソフィーのしごきにだって全然耐えられるわ! やっぱり生きてるって最高ね、やっぱり世界はアタシを中心に回ってるのよ! アタシのBibleにはEvery day,every time,『Very happy』しか存在してないのよっ!



「さぁめぃタン、この調子でアタシ達はこれから一緒に世界の頂点を目指すのよ! まずは国内インターハイ制覇、そしてアジア大会、オリンピックの金メダルを掴み取るの! でもNo.1になるのはアタシ、アナタは常に二番手止まりの引き立て役だけどねぇ~! さぁ早く帰ろっ、早く一緒に帰りましょ~!」


「……ちょっと待ってくれ、そっちに行ったら体育館が……! 頼む待ってくれ、待ってくれ三島ぁっ!!」


「えっ? 何よめぃタン、真っ赤だった顔が一転して急に真っ青よ、どうしたのぉ?」


「……あわ、あわわわわ……、寄りによってこんな時に、あれは、あそこに居るのはぁ!!」



……でもぉ、そんな破壊力バツグンのめぃタンの萌え萌えパワーはアタシの最高の一日をぶち壊す一番望んでない余計な邪魔者まで呼び寄せちゃったのよ。スカートの裾を必死に押さえながら内股でヘナヘナ歩く彼女を無理矢理引っ張って体育館の真横を通り過ぎようとした時、中から出てきたくっさい柔道着を着た汗まみれの獰猛で野蛮な森のクマさんに出会してしまったの。



「……ん? 何者と思いやお前、良く見れば四月朔日芽ではないか」


「……さ、澤村、澤村一茶ぁ!!」



そう、アタシがこの世界で最も忌み嫌う最低の人間、アタシの為にあるはずのこの世界の唯一の邪魔者、ガン細胞! 頭の中まで筋肉ガチガチの柔道バカ、あの澤村一茶が突然ノコノコとアタシ達の目の前に現れたのよ! あぁもうヤダ一気に不快、あともう少しで校門の外だっていうのに、何でここでコイツと顔を合わせなきゃならないのよぉ!?



「おい四月朔日、お前校内でそんな破廉恥な物を纏って一体何事だ? 気でも触れたか? 物の怪にでも取り憑かれたか? それとも自分の意志を曲げて道を踏み外したのか?」


「……い、いや、違うんだ、違うんだ澤村! これには色々と紆余曲折あってだな、だからその……」


「惨めなものだ、お前だけはそんな淫らな女ではないと思っていたがすっかりと落ちぶれたな、俺は失望したぞ、四月朔日萌」


「だぁかぁらぁ! 違うんだ! 私は自ら好き好んでこんな格好をしてるんじゃない! 頼む信じてくれ、違うんだ、澤村ぁ!!」



後日他の部員から話を聞いたんだけどぉ、どうやらめぃタンとこの柔道ゴリラは小学校中学校とずっと同じだった昔からの同級生らしいのよ。何でもお互い小さい頃から将来有望なスポーツ少年少女として地域でも有名で、中学時代はそれぞれ男子女子を代表するインタージュニアハイ常連選手だったんだって。どうりで喋り方がよく似てると思ったわ。きっと堅物な教師か指導者に影響されて喋り方を写されちゃったのね。



「全く、近頃の若者の身なりの醜さは非常に嘆かわしいものだな、いとも簡単に周囲に流され男はズボンをずらして腰から下着を晒し、女は恥も弁えずこれ見よがしに胸元や下腹部を強調したがる、古き良き時代の日本人の奥ゆかしさとは一体何処に消えてしまったのやら、ブツブツ……」


「ちょっと、ちょっとちょっと待ちなさいよそこのバカゴリラ! アタシを無視して勝手に話を進めんじゃないわよ、そのくっさい息でアタシのめぃタンに馴れ馴れしく話しかけるんじゃないわよ! アンタみたいなブサ男がアタシ達学園のスーパーアイドルと仲良くお喋りするなんて一万光年早いのよ、Go home!」


「ま た お 前 か」


「またとは何よまたとは! 悪い!? またアタシで何か問題でもぉ!? ホンットアンタって人に対する礼儀や言葉使いが全然なってないわねっ! 少しはGreat britain gentlemanを見習ってLadyに対するマナーでも学習したらどうなの!? これだから東方島国のYellow monkeyどもは……!」


「なるほどそういう事か、全て理解した、こんな淫魔に取り憑かれるとはお前も随分と災難だったな、四月朔日」


「淫魔ですってぇ!? おいコラ表出ろこのFuckin'beast!! 今日という今日はきっちりテメェと白黒決着つけてやる!!」


「すでにここは表だ、このクソビッチヒステリック淫魔野郎」


「キィッーーーー!! Fuck,fuck,fuuuuuck!! ぶっ殺す! テメェマジでぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!」



その時だったわ。アタシが新燃岳の様にいつもの大噴火寸前になっていると、隣にいるめぃタンがグッタリと肩を落としてその場に力無くヘナヘナと座り込んじゃったの。



「……終わった……」


「……えっ? ヤダちょっとめぃタン、どうしたの!?」



その顔は信号機みたいにさっきの真っ青からまた真っ赤に染まって、頭からはアタシよりも熱い湯気がモクモク立ってたわ。まるで熱中症にかかった様な想定外のリアクションにアタシ、目の前のゴリラに対する怒りも忘れてすっかり驚いちゃって……。



「……ねぇ、大丈夫めぃタン? 具合悪いの? この汚らしい男の臭いに気分でも悪くなったの?」


「……見られた、こんなみっともない姿を、澤村に……」


「えっ?」


「終わったぁ! 私の人生終わったああぁぁ!! うわああああぁぁぁぁん!!!!」


「ちょ、ちょっと!? ちょっと待ってよめぃターン!?」



突然、立ち上がったと思ったら絶叫したまま走り去ってどこかに消えていっちゃった……。あんなにスカート捲れるの嫌がってたのに大股広げて全力疾走で。チラリズムどころの騒ぎじゃない、スカート捲れて完全に丸出しよ。あんなのアタシでも恥ずかしくてとても出来ないわ。やるじゃない彼女、さすがはこのアタシのライバルを自称するだけあるわね。四月朔日芽、恐ろしい子……!



「……急に吹っ切れちゃってどうしたのかしら? あんな変貌を遂げるまで何があの子をあそこまで追い詰めちゃったのかなぁ?」


「明らかにお前が原因だ、この魑魅魍魎の淫乱疫病神め」


「何だとコラテメェやっぱり今日こそきっちり白黒決着つけてやる表出ろこのクソ野郎ぉぉぉぉ!!」


「だからここはとっくに表だと何度」


「Fuuuuuuuuuuuuck!!!!」



一転一転また一転、結果的に今日はアタシにとって最悪の一日になっちゃったわ。結局、あのクソゴリラとは日が暮れるまでずっと口喧嘩する羽目になっちゃうし、なぜか次の日からめぃタンはアタシを見るなり顔引きつってソッコーで逃げ出しちゃうし、何でか良くわかんないけどソフィーからはスゴい剣幕でクドクド説教されちゃうしぃ!

一体アタシの何が悪いのよぉ!? やっぱりこれはイジメよ、妬みよ、謂われ無き迫害行為だわ! アタシがこんなにキレイのはそんなに罪な事だとでも言うの!? でも負けない、アタシ絶対に負けない! この世界はアタシを中心に回ってるの、この物語の主役はアタシ以外有り得ないのよ! だからいい事、無能作者! これからももっとアタシの出番をMany,manyたくさん一杯カワイく増やしなさいよねっ!!





突然ですがご報告とお詫びがあります。


約三年間ほど執筆を続け、私のライフワークの一環としてきました本作の連載ですが、今回をもちまして無期限の連載休止をさせて戴く事になりました。


理由は三つあります。


一つ目は長期の創作活動における作品方向性の迷走。


執筆開始序盤こそは事前に何話か書き上げ準備を整えられていましたが、自身の私生活の多忙によりここ数年は早急に書き下ろした文章をそのまま投稿する粗末なものになってしまいました。

その為、強引に連載を継続する目的だけで当初予定していなかったシナリオや設定を次々と付け焼き刃の様に追加せざるを得なくなり、いつまで経っても作品完結の見えない悪循環に陥ってしまいました。

最近は『自分が書きたかったのはこんな話だったのか』と自問自答する毎日を送っていました。この状況で自身が納得出来る作品を書き上げられるとは到底思えません。改めて長編小説の難しさを痛感しております。

なので、しばらくお時間を戴いてもう一度内容を練り直し推敲を重ね、改善を実施したいと考えております。現在のストーリー展開で連載を継続出来るなら一番良いのですが、もしかすると一度全てを白紙に戻し、改めて書き直すかもしれません。


二つ目の理由は自身の体調不良によるものです。


私ミラージュは今から一年ほど前に俗にいう生活習慣病の一つを発症してしまい、これまでは何とか投薬での治療で事無きを得てきましたが、先頃ついに担当医から『このままでは』という通告を受け新たな治療法を施される事になりました。

場合によっては入院、最悪だといつ身体各部に異常を来してもおかしくない状態だそうです。それでも私自身はあと十年ほどは生きていられるんじゃないかと楽観してたりしますが、今現在病状が悪化すると私生活においても非常に困ってしまう事情が多い為、少しの間落ち着くまで治療に専念させて戴きたいのです。

自身の不摂生な生活によりこの様なご迷惑をかけてしまう事を大変情けなく思っております。逆に入院してしまった方が時間が作れてより執筆活動に専念出来るんじゃないかと頭によぎった時もありますが、さすがにそんな経済余裕はどこにも無いので……。皆様、清涼飲料水の飲み過ぎには十分ご注意下さい。私ミラージュからの教訓です。


そして三つ目の理由。これはこの作品を読んで下さっている数少ない皆様には大変申し訳無い、土下座しても謝らなければならない事なんですが……。


実は現在、私ミラージュの頭の中には本作『Be Ambitious!!』以外にもう一つの作品が着々と構成されている状況でありまして、上記に述べた自身の体調から先にこちらを書き残しておきたいという身勝手な願望があります。先の通り本作の展開は現在迷走中で、果たして自身の体調が無事のまま完結まで辿り着けるかどうか微妙な状態なので……。


全くもって無責任且つ理不尽な都合ばかりで誠に申し訳ありません。ただでさえ最近は不定期更新になってしまっていたにもかかわらず、それでもこの様な粗悪な作品に目を通して下さっていた読者の方がいらっしゃったのはアクセス解析を見て確認しております。謝罪と同時に感謝の言葉しかありません。有難うございます。そして、本当に申し訳ありません。


しかし、私ミラージュはこの作品を完結させる事を決して諦めてはいません。懸命に治療に励み体調を整え、もう一つの創作を早々に片付け終わらせたら必ず本作の執筆を再開してみせます。それまで少しの間だけお時間を下さい。どうか宜しくお願い致します。


改めて、自身の都合によりこの様な状況になってしまった事を心からお詫びさせて戴きます。本当に、本当に申し訳ありません。


2011年2月5日 ミラージュ



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