第69話 ひびき
「オイコラ、ナカジマ!」
「……で、ですから僕はナカジマじゃなくて……」
「オマエ、ナカジマの分際で何でメンバーから『カツ』って呼ばれとんねん?」
「……い、いや、あの、それは……」
今週も早いもんでもう週末や。大してオモンない人間ばかりで飽き飽きしとったこのクラス、やっとウチと千夏にも暇つぶしにもってこいの楽しいオモチャが手に入ったで。その名もナカシマ。おっと、もといナカジマ。しょ〜もない事にいちいち反応しよるオモロいヤツや。
音楽室での初対面の日からこの三日間は休み時間中ずっとコイツを千夏と一緒にいじくり倒しまくっとるで。ウチが茶化すと真っ赤な顔してドモりよるし、千夏が色仕掛けするとやっぱり真っ赤な顔してドモりよる。ベース弾かせりゃ立派なもんやけどな、丸腰になったらタダのメガネのヘタレ男やからなぁ、コイツは。
「もしかしてぇ、カツってナカシマ君のFirst nameなのかしらぁ? ねぇ、そうなのぉ? アタシに教えてぇ〜?」
「……あ、あ、いや、あの、はい、そ、そうです……」
「やっぱそうなんか、でも、『ナカジマカツ』だけやと何か中途半端な名前やな、カツの後に何か付くんか? 例えばカツヒロとか、カツヒコとか、カツミってのも結構カッコええ名前かもなぁ?」
「ねぇ翼、確か日本の歴史上の人物に『勝家』っておサムライさんいたわよねぇ? もし勝家だったりしたら超カッコ良くない? ナカシマ君は一体カツ『何』なのかしら? アタシ、超期待しちゃう〜!」
「素直に白状せいやナカジマ、オマエの下の名前、何て言うねん?」
「……、ォ……」
「何? 何やて?」
「……ヵ、ヵッォ……」
「……ギャハハハハハハハ!! オイ、聞いたか千夏? カツオて、よりによってカツオて、オマエ、それは無いわ! カツオて、カツオて、ギャハハハハハハハ!!」
「アハハ、ヤダちょっと翼、笑い過ぎだってば、ナカシマ君イジけちゃうわよぉ、アハハハハ!」
「アカン、アカンアカン、ウチ完全にツボってもうた! カツオて、しかも名字がナカジマて、オマエの両親はどんだけ長谷川町子マニアやねん! ギャハハハハハハハ!!」
「……あ、悪魔だ、松本さんも三島さんも、女の皮を被った悪魔だ……」
あ〜アカンアカン、久々に腹筋が痛くなるほど大爆笑してもうた。さすがにちょっと笑い過ぎたかもしれんなぁ? 他のクラスメイトからは変な目でジロジロ見られてしもたし、あれからナカジマのヤツも一言も口利いてくれなくなってしもたしなぁ。
こりゃ今日一日はしばらく思い出し笑いが止まらんかもしれへんなぁ。それどころか数日の間はナカジマ、いやカツオの顔見たら吹き出してしまうかもしれへん。今日も放課後、音楽室に行ってロギに一曲聴かせて貰て気分転換しようかな。多分、薫や那奈達も来よるやろうし。
「カツオ」
「やめろや、笑いがブリ返してくるやろが」
「ヒドいや姉さ〜ん」
「ブブッ! やめろったらやめろや! もう腹筋限界やねん、筋肉痛になってまうやろ!」
「お〜いイソノ〜、野球しようぜ〜」
「ギャハハハ! やめろっちゅうねん薫! ホンマに笑い死ぬわ、ホンマ、ホンマに堪忍してぇ!」
「フグタく〜ん、どうだい今日も一杯ぶるぅうぅうぁああぁぁぁぁ」
「何でここでアナゴさんやねん! ホンマにもうアカン、ダメェ、許してぇ! ギャハハハハハハハ!!」
痛痛痛痛痛、何か横隔膜の下の部分がメッチャ引きつりそうで呼吸もまともに出来へん。こんなキツい筋肉痛はサッカークラブに入って初めての夏合宿でコテンパンにしごかれた時以来やわ。椅子から立ち上がんのもままならへんようになってしもたわ。
こりゃもう日曜夜六時半のあのアニメ番組はしばらく見る事出来へんなぁ。その度に腹筋崩壊してまう。ここに来たんは失敗やったな、さらに深くツボってしもて気分転換どこの話とちゃうわ。ニヤニヤとめちゃくちゃ嬉しそうな顔しよってからに、薫のアホンダラめ。
「……も、もういい加減、僕の名前で遊ぶのはやめて下さい……」
「ほら見てみぃ薫! ナカジマのヤツ、ベソかいて半泣き状態になってしもたやないか! 陰険なイジメ行為は中央教育審議会委員、松本美香の娘として見逃す訳にはいかへんでぇ! 謝れ、今すぐ誠意を込めてきっちりと謝らんかい!」
「ごめんなさいデス〜、カツオ兄ちゃん」
「タラヲやめい! せやからちゃんと真面目に」
「バ〜ブゥ、ハ〜イ!」
「ギャハハハ、頼むからもうやめれ、ギャハハハハハハ!」
「……き、桐原君も優しそうな顔してヒドい悪魔だ……」
アカン、イソノ一家の話はホンマにもう忘れよう。このままやと胃痙攣起こして病院送りにされてしまうで。さてと、とりあえずこの話は余所に置いといて、昨日のロギ達のライブの余韻がまだ抜けてへんのかな、みんな何の約束もしてへんのに自然とここに勢揃いしとったわ。ウチの予想通りの展開やな。
「……いやさ、本当に昨日はマジで興奮したよ! まさか航がバンドのギタリストになるなんて夢にも思ってなかったし、しかもそのバンドの演奏レベルがハンパねぇんだもん、絶対一茶も聴いたらビビるぜ、マジでハンパねぇから!」
「ふむ、ハンパねぇ、か、非常に軟派で耳障りで腹立たしい言葉だな、相手が翔太でなければ一発床に叩きつけていたところだ」
「……あれ? 怒ってる? もしかして一茶、いまいちノリ気じゃない?」
「当然だ、『面白いものを見せてやる』と聞いてわざわざお前についてきたというのに、こんな喧しいだけの部活に連れてこられて機嫌が良い訳が無いだろう?」
「……喧しいだけ、ッスか……」
「機嫌が悪いのはそれだけではない、何せ栗山航は我々柔道部も入部を願っていた有望な逸材だったからな、あれだけ恵まれた体格を持ちながら、それをこんな子供じみた楽器のお遊びの為に費やしてしまうとは、宝の持ち腐れとは正にこの事だ」
「……楽器のお遊びッスか、どうやら一茶にとってロックンロールなんてもんは無縁の存在だったみたいだな……」
「俺は長渕剛と宇崎竜童しか聴かん」
「……あっ、左様でございますか、そりゃどうも失礼致しました……」
あの時ここにいたメンバー全員はもちろん、今日は珍しくゴリ一茶まで姿見せとるわ。しっかしこれほど音楽室が似合わん男も珍しいなぁ。今日はゴリ、部活休みなんかな?
「ねぇ、何でわざわざこんなダッサイ演歌とか軍歌ぐらいしかしらないOld typeなWankStaなんか連れてきたのよぉ? アタシ、超気分悪いんですけどぉ〜!」
「ロックとは本来硬派と言う意味だ、軟派極まりない軽率な女などが聴く音楽ではない」
「アハン? 何よこのFuckin' Baest、またこのアタシにケンカ売ってんのぉ!?」
「……あーあ、ほら言わんこっちゃない、この二人を引き合わせたら絶対こうなっちゃうのわかってるクセに、何でわざわざ強引に連れてきたりするのよ、翔太!? もし、これで最悪の状況になったりしたらちゃんと自分で責任取りなよね、私は一切面倒見ないから!」
「えっー! 何でだよ!? 俺のした事ってそんなに悪い事か!? このバンドのファンを増やしたいって言うから一茶を連れてきたのに、そりゃねぇよ、那奈!?」
「知らなーい、私は何にも関与してませーん」
お〜お、やっとるやっとる。あの二組は毎度の事、夫婦喧嘩が絶えまへんなぁ。まぁ多分、あの様子やとアホ翔太が空気読まずにゴリ一茶を連れてきたんやと思うけど、こりゃ確かにあまりにも愚かな行為やったなぁ。那奈も完全にサジ投げでしもた事やし、この後の千夏との激突はまず避けられへんやろなぁ? ウチも知らんでぇ、障らぬ神に祟り無しや。
「いくら千夏がもっと人を集めてバンドのファンクラブを設立したいって言うてもやで、よりにもよって一番仲悪いゴリを連れてきたら普通アカンと思うやろ、翔太も? ホンマにアイツは生粋のアホやな、しかも相手が嫌がってんのに強引に連れてくるってのもよろし無いわ、やっぱりファンクラブっちゅうもんは、自然と人が寄せ集まって結成されんのが本物のファンクラブやとウチは思うねんな」
「……おーい、人が帰ろうとしてるところを力ずくで拉致ってきた誘拐犯が何言ってんだー?」
「ん? どこからか人の声が聞こえてくるで? 何やコレ、幻聴か? それとも幽霊の仕業かいな?」
「コラー! 目の前目の前! ちゃんと目を見開いて前を見ろー! 私はここにいるぞー!」
「あれ? オマエ誰や? また新しい登場キャラか?」
「誰や? じゃないでしょ! 私よ私! あなたのかけがえのない最高のパートナー、吉田綾ですー!」
「何や綾か、影が薄うて向こうが透けて見えたから、てっきり幽霊かと思たわ」
「失礼過ぎ! 親しき仲にも礼儀有りってことわざもあるでしょう!? さっきからずっとみんなと一緒にここにいるんだからさ、ちゃんと読者の皆さんに紹介ぐらいしてよね! でないと本当に空気キャラになっちゃうじゃない!」
そう言うウチも帰路に着こうとしてた綾を無理矢理後ろから口を塞いで強引に拉致ったんやっけか。まぁ、汗臭そうな柔道ゴリラなんかより、とりあえず女である綾がファンクラブに入った方が、航とロギは反応無いかもしれんけど少なからずナカジマとザビは喜ぶやろうと思てな。
「いちいち紹介なんかいらんやろが、別にオマエに紹介するほどのプロフィールなんてありゃせんし、ただでさえおるんかおらんのかわからんくらいキャラ薄いんやから、こうして出番が増えただけでも少しは有り難い思えや!」
「ひっどーい! この前わざわざ伊豆まで行ってお父さんの宝物探しを手伝ってあげたっていうのにさ、そんな言い種ってあんまりだよ! 本当、翼って友達甲斐のない薄情な人間だよね、最低だよ!」
「何やとゴラァ! ウチかてオマエみたいな街中どこにでもおる量産型女なんか友達と思うてへんわ! 嫌ならウチと絶交したらええがな、あぁ〜、絶交や絶交!」
「何よ、いきなり絶交って! そうだったんだ、そうだったんだね!? 翼は前々から私の事が嫌いだったんだね!?」
「何を言うてんねや! 前々から嫌いやったら長々と五年間も一緒にコンビ組んでる訳ないやろ!?」
………………。
「エヘヘヘヘヘヘ」
「やっぱり私と翼は最高のコンビだよねっ!」
「いちいちオードリーネタを振ってくんなっちゅうねん! それにな、ウチからしたらそない最高とまでは思てへんし」
「……えっー……」
「……オマエな、頼むからそれくらいの事で本気でヘコむのやめてくれへん? ヘコんでる時のオマエの顔、何か呪われそうでメチャメチャ怖いねん! そない虚ろな目でウチを見るな! ホンマに怖い!」
まぁ、確かにウチと綾はええコンビと言えばええコンビやな。綾にしても千夏にしても、ウチはこっちから話を仕掛けてキチンとオモロい返しがくる相手やないと仲良くなりたくないねん。だってつまらんやん、ええ反応が無いと。人間同士やもん、マネキンと喋っとるのと訳ちゃうで。
何て言うかなぁ、打てば響く、ってヤツかいな? 会話っちゅうんはお互いの魂の共鳴やからな。せやから響くどころか聞く耳持たずと話を相殺する那奈や、どこ跳ね返るかちっとも予測出来ん小夜なんかははっきり言ってウチからすると苦手なタイプやねん。
まぁ、そう言うても二人とはかれこれ小学校からの長い付き合いやし、オトン同士が実の兄弟みたいな間柄ってのもあるから今も一緒におったりするんやけどな。俗に言う腐れ縁ってヤツやな。それに、コイツらはウチがおってやらんと何にも出来へんアホコンビやからなぁ。ホンマ手が焼けんねん、この子らは。
「ところでや、ナカジマのフルネームは判明したとして、ザビの本名は何て言うねん? ブラジル人ってハンパなく名前が長いやろ? あのロナウジーニョかて『ロナウド・デ・アシス・モレイラ』言うんやもんな、やっぱりザビもミドルネームとか入ってメチャクチャ名前長いんか?」
「Oreノフルネーム? 『山田ザビエル』デヤンスヨ?」
「短っ! しかも普通っ! それより何や、『山田』ちゅう事はザビは日本国籍を持つ日系ブラジル人なんか?」
「Sim! Oreハ日系二世同士ノ間ニ生マレタ三世デヤンス〜! ルパン・ザ・サ〜ド♪」
「でもアレやろ、普通日系人は日本人用の名前と一緒に、ブラジル人用の名前も名付けられるんとちゃうか? そっちの名前は何て言うねん?」
「ザビエル・モラレス・デ……、長過キテ忘レタデヤンス」
「何で忘れんねん! オマエそれ、自分の名前やろがボケェ!」
ホンマいい加減なんやな、お祭りラテン系の血が入った人間っちゅうんわ。多分、悩み事なんか何にも無いんやろな。ええなぁ、ウチもブラジル人の血が入ってたらもっと陽気に生きれてサッカーも上手くなれたんやろなぁ。アイツらブラジル人の足首と膝の曲がり方、普通の人間のものとちゃうもんな。ホンマ化けモンやで、アレ。
「あ〜、せや! せやせやせや! 名前や名前! 名前で思い出したわ! オマエら個人の名前なんかどうでもええねや、それよりオマエらのバンドの名前や! いつまで名無しのまんまでおるつもりやねん!? いい加減ちゃんと決めんとアカンやろ? どないすんねん、オマエら?」
そうやねん! 昨日ちょこっと話聞いてブッたまげたんやけど、コイツらのバンド、まだ正式な名前がちゃんと決まってないらしいんやて。アホな話やでホンマに、そんなんバンド組んだ時に一番最初にメンバーで決めておく事なんとちゃうの? よう今まで名前無くて困らんかったと思うわ、どっかの会場でライブやる時とかどないするつもりやったんやろか?
「……い、いや、会場とか借りていざ人前でライブやる時になったら、ロギが仕切ってそれなりなバンド名を付けてくれるのかな、って思ってたもんで……」
「別ニ今マデ名前無クテモ、大シテ困ラナカッタデヤンスヨ〜? 路上ヤ公園デゲリラライブヤッタラサッサト退散スルノガOre達のスタイル、ギャラリーカラ名前ナンテ聞カレタ事無イデヤンス〜、ソレニOre達、コウイウ大事ナ話ハ全部Rogiニ任セテイルデヤンスカラ〜」
「あのなぁオマエら、さっきから揃いも揃って二言目にはロギロギ言うとるけどな、その肝心のバンドリーダーはん、さっきからずっと航とギターの練習に没頭してて、そんな話どこ吹く風って感じやで?」
今日もあの二人、ウチらが来る前から一足早くここに来てわざわざ湿気臭そうな教室の隅に陣取ってジャカジャカジャカジャカとギター三昧や。二日間あんだけ散々ギター弾きまくっといて今日もギターて、ホンマ飽きへんもんやなぁアイツらも。他にやる事何も無いんかい?
「……そう、これが基本の四分の四拍子に四分音符で4ビート、これが八分音符だと8ビート……」
「…………4ビート、8ビート……」
「ねーねーねー、コオロギ君の好きな食べ物ってなにー? あたしねー、お母さんが作ってくれるバケツプリンがだーい好きなんだー!」
「……ボクもプリン、好きです……、で、これをさらに速くすると16ビート……」
「えっー、コオロギ君もプリン大好きなんだー! プリン美味しいよねー、あのプルプルしてるのが面白いよねー、ねーねー、航クンもプリン好きー?」
「…………プリンさんが好きです、でもヨーグルトさんはもっと好きです……、えーと、これが16ビート……」
しかも、ずっとひっきりなしに小夜が周りでチョロチョロして馴れ馴れしく話しかけたりしとるのに、よう二人ともイライラせんと集中出来るもんやな。あんな無口な人間同士で一体どんな会話交わしとるんやろか? 変に仲良くて何か気持ち悪いわホンマ、あの二人……。
「……も、もしかしてロギはもう僕達に愛想を尽かしてしまったのかな? そんなにワタルと一緒にギターの練習をしている方が楽しいのかな……?」
「ダトスルト、モウKatsuハオ役目御用デヤンスネ〜?」
「そ、そりゃないよザビまで! 僕だってこのバンドにたくさん貢献してきたのに、そんなのあんまりだ、あんまりだよ……」
「お役目御用になりたないんやったらな、ここらで一発奮起してこのバンドの名付け親になってや、きっちり自分の存在をロギにアピールせなアカンでオマエら! もう今日の内にさっさと名前決めてまおうやないかい! こういうもんは早いもん勝ちやで、善は急げや!」
……って、何でウチがコイツらのバンドの面倒見てやらなアカンねん? これってマネージャーになった小夜の仕事とちゃうの? まぁええわ、アイツに任せるとろくな事にならんやろうしなぁ。かといって、作詞作曲バンド活動方針を全部ロギ任せにしとる無責任なコイツらだけやとそれも不安やなぁ。ファンクラブ初代会長の千夏は〜ん、ちょいと手伝ってや〜!?
「う〜ん、とりあえずはみんなからアイデアを出して貰ってぇ、そこからグッドセンスなバンドネームをチョイスするってのはどうかしらぁ? それならみんな文句無いでしょ?」
「ほな、早速千夏から何かアイデア出せや、言い出しっぺはオマエなんやからな」
「Non,non,non,non! アタシは最後! もし、みんなの出したアイデアが全部バッドセンスなダッサいネーミングだったりしたら、その中からチョイスするどころか完全にお手上げ状態になっちゃうじゃなぁ〜い? 一番のお楽しみ、メインイベントってのは最後の最後までとっておくものなのよ、当然でしょ?」
「何がメインイベントや、言うとけアホ! これでしょうもない名前出したら一生からかってやるやさかいに、覚悟しいや?」
ほなら、ウチの独断と偏見で勝手に順番決めて何かええバンド名挙げていって貰おか。せやな、まずはいつも偉そうに場を仕切っとる那奈、オマエからや!
「えっ、バンド名? ちょっと待ってよ、いきなりそんな事言われてもなぁ……」
「何でもええねん、何かパッと思いついた名前、言うてみぃや?」
「……って言われても何にも思いつかないなぁ、うーん、えーと……」
「はい時間切れ、オマエはセンス無しのアホの子決定!」
「ちょっと、何よアホの子って!? アンタ、ブン殴られたいの!?」
「ほなら、次は翔太! 何でも良いから言うてみぃ!」
「えっ、俺? そうだな、やっぱりロックバンドなんだから、何かしらカッコいい名前が……」
「はい遅い! オマエもアホの子決定!」
「いや早ぇよ! 早過ぎだろ!? ちょっとは考えさせろっつーの! いくら何でも進行スピードが無茶苦茶過ぎるぞ、翼!」
アホか、こんなもんはじっくり考えたところで良い名前が出てくるもんとちゃうねん! 萩本欽一も言うとるやろ、『考えたらオシマイ!』ってな! こういうもんは思いつきやねん、インスピレーションやねん!
バンド名ってのはパッと聞いただけですぐ人に覚えて貰わなアカンもんなんやから、意味とか理由とかなんて後付けすればそれでええねん! 大事なんは語呂と響きや、グダグダと考えとったらアカンのや!
「あっ! ねぇねぇ翼、私、今ピーンときた良い名前があるんだけど、聞いてくれる?」
「また幻聴か幽霊の声が聞こえるけど、まぁええか! はい次! 次はえ〜と、誰にしよ?」
「ちょっと何でよ!? 何で私を無視すんの!? ねぇ、翼ってばー!」
あ〜あ〜聞こえへん聞こえへん! まかり間違って綾が名付け親なんかになってしもたら、このバンドの登場の回に毎度毎度コイツまで一緒に登場させなアカンくなるやろが?
無理無理無理、もう登場キャラ多すぎてオマエの席なんか残ってへんねん! 少しは筆者の都合ってもんも考えろや! はいはい次々、ほなら次は小夜、オマエとりあえず責任者なんやから何か言えや!
「ハーイ! えーとね、コオロギ君がリーダーだから、『コオロギ君と愉快な音楽隊』ってどうかなー?」
「チッ……、はいはいご苦労さん、却下や却下」
どこぞの出版社の童話絵本やねんや、その子供騙しな長ったるいアホな名前は? しかも偶然か音楽隊と虫の鳴き声をかけて意外にええセンスしてたりするから余計ウザいわ。悔しい、ウチちょっと悔しい! 小夜の分際で出来過ぎやねん、このどアホが!
「ほならそこのゴリ一茶、あまりこの話に興味ないやろうとは思うけど、何か一つ言うてみぃ!」
「男四人熱血筋肉音楽隊」
「オマエもどこぞのホモ漫画のタイトルやねん、それ?」
「翼も翼よぉ、何でこんなパープリン相手にアイデアなんか聞いたりするのよぉ!? これで本当に名付け親になっちゃったらコイツまで毎回登場扱いになっちゃうでしょ!? そんなの嫌よ、アタシ絶対お断りだからねっ!」
「あのなぁ、千夏も初代ファンクラブ会長名乗るんやったら来るもん拒むなや? オマエの好き嫌いでファン会員選んでどないすんねん?」
「ねーねーねー、じゃあ『コオロギ君と愉快な三匹の音楽隊』だったらどうかなー? 『愉快な』だけだと何人組かわからないと思うしー」
「じゃかぁしいねんアホンダラ! もう小夜には話聞いてへんがな! 大して名前も変わってへんし、ええ加減『音楽隊』からイメージ離れろや! ロックバンドで音楽隊ってどう考えてもイメージおかしいやろがボケェ!!」
全くどいつもこいつも揃いも揃ってアホばかりやないかい! もっとまともなアイデア出せる人間は他におらんのかい? こんなところで早々に座礁乗り上げてどないすんねん、何か先行き不安やなぁ、このバンド……。
「はああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「何や何や何や!? 何やねん大声出していきなり!?」
「降りてきたぁ! 我に神が降りてきたああああぁぁぁぁ!!」
「あ〜もう! いちいちうっさいねんオマエは! 何や薫、何かええアイデアでも浮かんだんか!?」
「える しってるか こおろぎは ぷりんしか たべない」
「せやから何やねん!? 全然意味わからんがな、真面目にやれやこのどアホ!」
「いやこれ事実、本当にロギ氏は昼食にプリンしか食べないんだってさ、ナカシマくん情報で」
「えっ〜、ホンマに?」
「……ほ、本当です、ロギは食事をする時間も面倒さがって、毎日学校の自販機で売ってる百円のプリンしか食べないんだよ……」
ほぉ、そりゃオモロい新情報やな。しかし、プリン一個だけで腹が満たされるんかいな? 確かに見た目からしてヒドい偏食家って感じするもんな、音楽変態人間の面目躍如って感じのエピソードやわ。
「そこで、変態と聞いては先駆者として負ける訳にはいかないこの薫ちゃん、そのプリンから連想して現在大人気のフォーピースロックバンドに因んだ最高にイケてるディープインパクトなバンド名を思いついちゃいましたぜ〜! ズバリ、その名もぉ〜!!」
「『PuReeeeN』、やろ?
「………………」
「あのなぁ薫、オマエの考えとる事ぐらい大体予想つくねん、どうせオマエはこの程度のつまらんネタしか思いつかへん男やさかいに……」
「いいや、違うね!! PuReeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeN!!!!」
「真ん中伸ばしただけやないか、このボケェ!!」
「……って言うかぁ、二人ともプリンのスペル間違ってるわよぉ? 『プリン』じゃなくて『Pudding』が正解、テストに出るかもしれないから読者のみんなは間違えないようにね、千夏ちゃんとの約束よっ!」
……アカン、もうダメダメや、キリがないわ。こんなアホどもにバンド名を募集したウチが間違っとったわ。ホンマどうしょもないでコイツら。失望したわ。ウチはもうすっかりガッカリモード突入やで。
「だからさ、とりあえず私の意見も聞きなってば! 少なくとも『音楽隊』や『PuReeeeN』や『男四人ホモなんたら』よりかはまともな名前が浮かんだんだからさ! ねぇ翼、気になるでしょ? 気になるよね? ねぇねぇねぇ?」
「ところでぇ、もちろん翼の頭の中にはすでに何かハイセンスなバンド名が用意されているのよねぇ? どんな名前なのぉ? 発表してみてよ、ねぇ?」
「うえっ! ウチかいな? ウチの考えた名前はなぁ、え〜となぁ、アレやアレ、え〜と……」
「だから無視すんなって言ってんだろうがよー! 何よこれ、イジメ? イジメよね? 明らかイジメ行為よね? この小説はイジメを幇助するって言う訳? ありえない、このご時世にそんな不見識な話、絶対ありえない! 訴えてやる、中央教育審議委員会に松本美香さん宛てに匿名で手紙書いて、翼と千夏ちゃんを名指しで訴えてやるー!」
「やっかましいなぁ綾! わざわざウチのオカンの名前まで引っ張り出すなや! イジメやとか訴えるやとかギャーギャーと騒ぎよってからに、今回こんだけ出番があって一体何が不満やねんな!? 言うとくけどな、今回のオマエのこの立場、キャラ的には結構オイシい立場なんやで?」
「えっ、そうなの? 今回の私、オイシいの?」
「おぅ、オイシいオイシい! お陰で透明キャラからシースルーキャラに進化しとるで」
「ワーイ、やったー! って、それって大して変わってないじゃない! やっぱりこれはイジメだよ、翼は私の事が嫌いになったんだー!」
「アホか! オマエが嫌いやったらこんな長々と尺使うて愛着持ってイジくり倒すかっちゅうねん!」
………………。
「エヘヘヘヘヘヘ」
「私と翼のコンビネーションは人っこ一人も入り込めないほど緻密で完璧よね!」
「いや〜、もうええ加減飽きてきたわ、そろそろコンビ解散してピン一本でやっていこうかなぁ?」
「……えっー……」
「せやからその貞子顔やめろや、怖いっちゅうねん!」
あ〜、もうしんどい。ホンマにコイツ、嫉妬深いっつーかかまってちゃんっつーか、これいつかホンマにコンビ解散って話になったら夜道で後ろから刺されそうで怖いわ。何で女が女の嫉妬心の恐ろしさを身を持って体感せなアカンねん? もうコレ腐れ縁どころとちゃうわ。因縁やで、因縁。
「……って言うかぁ、もうB級漫才はお開きって事で良いかしらぁ? ねぇ、どうなのよ翼、翼のネーミングセンスは果たしてアタシの足元に及ぶだけの実力があるのかしらぁ?」
「アホか! 見くびるなや千夏、ウチの手にかかればロックバンドの命名の一つや二つ、赤子の手を捻るくらい楽勝もんなんやでぇ!?」
「じゃあ、早速その自信満々のアイデアをお聞かせ願おうかしら、大ブレイク間違いなしのSuper rookie rock bandの行く末を占う大切なバンドネーム、責任重大よぉ!?」
「あのな、アレやアレ、あの、『イソノ一家』って、どや?」
………………。
「……うわぁ、マジで? 翼、それRealey?」
……いや、あのな、その、スマン。ホンマにスンマヘン。ウチも自分で言うてみてコレはアカンとひしひし痛感したわ。不肖です。こんな自分をホンマに残念やと思います。自分を棚に上げて糞味噌言いまくってホンマ申し訳ありまへんでした。
物に名前付けるって結構難しいんやなぁ、ウチにはちと無理なお仕事みたいやわ。あぁ、穴があったら入りたい。オトンに合わせる顔が無い。ウチのこないみっともない姿、そないみんなで見んといてや、嫌やぁ、恥ずかしい……。
「……ほら見ろぉ! オマエらバンドメンバーが前々からしっかりと名前決めとかんからウチがこない恥ずかしい目にあったやないかぁ〜! カツオ! 山田! オマエら二人揃ってウチに謝れぇ! 深々と土下座して額を床に擦りつけて謝らんか〜い!!」
「Eh pa! ソリャアンマリニ無茶苦茶ナ言イ分デヤンス〜! マルデミサイル撃ッテオイテ国連ニ謝レッテ言ッテル、ドコカノ国ト一緒デヤンスヨ、将軍様〜!?」
「し、しかも人の名前ネタを勝手に使ってスベっておいて八つ当たりするだなんて、何て身勝手な人なんだ、松本さんって……」
「ええい、黙らっしゃ〜い! ウチがスベったんは全部オマエらのせいや! 責任取れぃ! 誠意を見せぃ! ウチの小さなか弱いエンジェルハートをギッタギタに傷つけた賠償を現金で札束の耳揃えて今すぐ払わんか〜い!!」
「いつから翼は『ミナミの帝王』になったのぉ? ねぇねぇ、そんな事よりナカシマ君もザビちゃんも自分達のバンドの話なのにぃ、全部アタシ達に任せっきりってちょっと無責任過ぎるんじゃなぁ〜い? 二人もちゃんと名前考えなさいよぉ〜! って言うか本当に前々から何も考えてなかったのぉ? 自分達の大切なバンド名でしょ、少しぐらいは何かアイデアがあってもいいんじゃないのぉ?」
おぅ、そやそやそや、千夏の言う通りや! 自分達の名前くらい他人に名付けて貰うより自分で決められるならそれにこした事ないわ。第一、コイツらが一体どんなバンド名が一番しっくりくるんか教えて貰わんとウチらも考え様が無いしなぁ? コラァカツオ! 山田! 何か言うてみぃや!?
「Me confie! 実ハ昔カラズット考エテイタ名前ガアルデヤンス!」
「よしっ! ほなら山田、一発かましたれや!」
「Oreノ案ハ、バンドメンバー全員ノ頭文字ヲ取ッテ、ソレヲカッコ良ク並ベ替エルデヤンスヨ! マズ、Rogiノ『R』! Katsuノ『K』! Xavierノ『X』! サラニ新加入メンバー、Wataruノ『W』!!」
「ほぉ、何かええ感じやないかい! 四人の頭文字を取って、その名前は!?」
「『RKXW』! 特ニ深イ意味ハ無イデヤンス〜!」
「並べ替えてもへんやないかい、このアフロボケェ! 何やねんそのヘンテコアクロバティック自転車みたいな訳わからへん名前は!? んなもん審議する必要も無く却下や却下! 意味は無いわ大して面白くも無いわであまりにしょうもなさすぎるわ、この頭まりもっこり星人が!」
「じ、実は僕、このバンドが結成されてから、ずっと胸の内に秘めていた自信作があるんだ! なかなかバンド名を決めようっていう機会が無くて、これまで発表出来ずじまいだったんだけど……」
「ほぉ、なら正に今日はその自信作を発表するに良い機会やで、思い立ったが吉日や! ナカジマ、オマエがホンマもんの男になれる絶好のチャンスやぞ、遠慮無く思い切って言うてみぃ!」
「う、うん! す、『Stars』ってのはどうかな!? 『スペシャル・スリー・アーティスティック・リアル・サウンド』の略なんだけど、これ思いついた時、自分でも『うわー、すげーカッコいい!』って感激しちゃって……!」
「……正気ですか?」
「……え、えっ? どどど、どうして?」
「……『スリー』てオマエ、航が加入したんやからもう三人やのうて四人やん?」
「あっ……、じゃ、じゃあ、スリーのところをフォーに変えて……、ん? あれ、待てよ? これだと『Stars』じゃなくて『Sfars』になっちゃうな、あれ、どどど、どうしよう? えっ、えっと……」
……アホや。揃いも揃ってアホのオンパレードや。カーニバルや、だんじり祭りや、闘牛のアホ追い祭りや。これはまるで、アホの宝石箱や〜ん! なんて言うてる場合か、このどアホッ!
何が『Stars』やねん、めちゃめちゃダサい名前やないかい! オマエらは星の王子様かそれともにしきのあきらか? いっそ星屑になって大気圏で焼け墜ちるかブラックホールに飲み込まれてしまえや、この生粋のどアホどもが!
「ホンットみんな、ネーミングセンスの欠片も無いダサダサのダメダメなおバカさんばっかりねぇ〜? もうガッカリって感じぃ〜!」
「おぅおぅおぅ〜! さっきから黙って聞いてりゃあ〜だのこ〜だの好き勝手言ってくれるやないかい千夏! もうここにおる全員の意見は出揃ったで、後はオマエ一人や! 凄腕デザイナーのママから受け継いだその類い希なインターナショナル的感覚ってもんを、是非とも平凡なウチらに教え被りたもうやないかい! これだけ大風呂敷広げてズッコケてみい? オマエに平和と言う明日は訪れへんで!?」
「Take it easy! もうすでに最高にCoolなバンドネームを用意してあるわ、ちょっとナカシマ君の考えたネーミングと近いところがあるけど、アタシのはそんなのよりずっとずっと意味も響きもカッコいいんだから!」
「御託はもうええねん! 千夏、勿体ぶらずにさっさと言うてみぃや!!」
「発表しまぁ〜す! ズバリ、『Super Nova』ってのはどうかしらぁ〜!?」
「……スーパー、ノヴァ?」
……何やそれ? スーパーはわかるけどノヴァって日本語でどういう意味や? ノヴァ、ノバ、NOVA……。アカン、あの駅前留学のヘンテコうさぎしか頭に思い浮かべへん。いっぱい聴けて、いっぱい喋れる♪ ……アカンアカンアカン、考えれば考えるほどあの歌が頭の中でエンドレスリピートになってまうわ。
「ねーねーねー、そういえば最近、NOVAうさぎのCM見ないよねー、どうしちゃったのかなー?」
「……まさかコイツと頭の中が一緒になるやなんてなぁ……、あのなぁ小夜、その話題にはあまり深く触れん方がええと思うで?」
「えっー、何でー?」
「何でも無しも色々と世の中には大人の事情ってもんがあんねん、下手に煽らんとそっとしとくのが自分の身の為やで? ほなら英会話教師の千夏はん、話を本線に戻してさっきの詳しい解説頼むわ」
「Hey! Every body, Enjoy speaking! Listen to me! Superは特出しているとか絶大なもの、Novaは生まれたばかりの星や惑星って意味よ、つまり、日本語に直訳すると『超新星』ってところかしらね?」
「『超新星』ときたかいな、そういや良う将来有望そうな新人が台頭してきたりする事を『新星現る』とか言うたりするなぁ?」
「そうそう、『流れ星のように突然現れた』とも言われたりするでしょ? でもね、このバンドにはこのアタシが初代ファンクラブ会長務めるからには『新星』とか『流れ星』程度のレベルで世間から評価されるくらいじゃ満足出来ないわ、彼らにはいつか日本、いいえアジア、世界を代表するHyper mega hit super bandになって貰わないとねっ! 音楽界という太陽系の形態図を一変させるBig Bangを起こして貰いたいって願いも込めて『Super Nova』! ねっ、超Coolって感じでしょ? みんなどうかしらぁ?」
銀河の仕組みまでも変えてしまうほどの巨大新惑星かい、これまた随分とブッ飛んた大規模な話やなぁ。でも、何か『Super Nova』って名前の響きもカッコええし、何といってもパッと聞いただけで簡単に覚えやすいところも非常に好印象やな。この名前、ウチは好きかも。後は当のメンバーどもの反応次第や、何か異論があるヤツおるなら名乗り出ろやぁ!
「Bravo! 『Super Nova』、トッテモイカシタ名前デヤンスネ! Oreハスッカリ気ニ入ッチャッタデヤンスヨ〜! Katsuハドウデヤンスカ〜?」
「……う、うーん、いまいち、こう、な、何だかなぁ? 星とか惑星を連想させるんであれば、やっぱり僕が長年構想に構想を重ねてきた『Stars』の方がわかりやすくて、ウ、ウケると思うんだけどなぁ? 『Super Nova』って言っても多くの日本人にはすぐに意味が伝わらないと思うし、そ、それに僕が考えるにこのバンドを影で支えている存在っていうのは僕とロギであって、面倒な事が嫌いなロギや同じタイプみたいなワタルも絶対、僕が考えた『Stars』の方が絶対気に入ると思うし……」
「お〜い航! ロギ! 二人、ちゃんと話聞いとったやろ!? オマエらの正式バンド名、『Super Nova』でどや!?」
「…………異議無し」
「……う、うぐぅ……! ち、ちちち、違う、違うよ! ワ、ワタルは昨日入ったばかりだから、まだバンド名の重要さを良くわかっていないと思うよ? ほ、ほら、何だかんだ言ったってまだ素人みたいなものだからさ、ワタルの場合は、うん……」
おぅおぅ何や何や、真っ赤な顔して額に脂汗かいて眼鏡まで曇らせよって、随分と必死やなナカジマ。余程自分で考えたバンド名が不採用にされんのが嫌みたいやな。ヘタレで気弱のクセに自己顕示欲だけは一人前に強い陰気男、正にウチが一番嫌いなタイプの人間やで。気持ち悪っ!
「で、でも、あの、ロギは違うよ、ロギは! 音楽やバンドには何が大切かという事を完全に熟知していて、今までずっと僕と一緒に二人三脚で歩んできたロギなら、きき、きっと僕の考えた『Stars』の方を……」
「お〜いロギ! 後はオマエの鶴の一声だけやで、どないすんねん!?」
「……ワタルが良いならボクも、それで良いと……」
「……ふ、ふぇえぇぇぇ、ロ、ロギまでそんな、あああ、あうぁうあぅぁぅ……」
「ほなら、賛成三名に反対一名、多数決により採用って事で決まりやな、文句無いな、ナカジマ!?」
どうもいまいちまだ納得しきれてへん顔してふてくされとるナカジマはさておき、このバンドの正式名称も無事に決まったようやな。これでやっとプロデビューへの道のりの第一歩を踏み出せた感じやで。
「んもぉ〜う! アタシ絶対このバンドネームはみんなUnanimityで大賛成してくれるってスッゴい自信あったのにぃ〜! ナカシマ君ってKYでウジウジしててへそ曲がりでひねくれ者でレディに優しく出来ない超Scrubなダメ男だったのね、最っ低! 何かもうアタシ、メチャクチャ気分悪いんですけどぉ〜!?」
「……え、ええっ? そ、そんなぁ……、い、いや、あのその、い、言い訳じゃないけど、あの、ほ、本当は僕も『Super Nova』の方がカッコ良いなって思ってたんだよね! や、やっぱりこんな素敵なバンド名考える三島さんって凄いなー! なんて感心しちゃってさ! で、でも、あの、何て言うか、その、だから、つまり、こ、こういう多数決の場って対抗馬がいないと盛り上がらないと思ってさ、僕の案がある事で三島さんの案がさらに際立てば良いなー? なんて思って、で、ですから、あの、その……」
「……オイ、ナカジマ! 今のオマエのその姿、千夏の言う通りホンマに最低のクソ人間やぞ……?」
コイツ、ホンマに性根から性格腐りきっとるわ。ウダウダと女々しく言い訳がましいし、白旗挙げた途端に今度は嘘丸出しの媚び売ってゴマをスリスリ。今日のこの一件でナカジマの男気指数は一気に株安ストップ高まで急降下、男の風上にも置けんヤツってのは正にコイツの事やな。いっそゴリ一茶に五、六発太平洋沖合まで投げられたらええんとちゃうか?
しかし、それに対して千夏は今回また株を上げたなぁ。あれだけ大見得切って偉そうな口を叩いてただけあるわ。『Super Nova』か、語呂も響きもええ感じや。いやぁ、ウチもすっかり見直したで千夏! タダのオシャクソ野郎かと思てたらちゃんとやる時はやるやないかい! さすがはウチの一番手の子分やでぇ!
「でもアレよ、先に言っとくけどぉ、あくまでも『Super Nova』の著作権や使用権諸々は全てアタシにあるって事だけは忘れないでよね? アナタ達がメジャーデビューしてスーパースターになった暁には、うちの『ミシマ』ブランドとのコラボレーションを果たして貰うつもりだから覚悟しときなさぁ〜い!?」
「……きっちりママへのお土産も忘れずゲットかい、阿漕な商売しよるなぁ、この腹黒女は……」
「ウフフ、この話を聞いたらきっとママも大喜びするわ! そして、ママの興味心をこのバンド一本に絞らせて、澤村一茶とのスポンサー契約を破談させてやるんだから! そうなれば、必ずあのバカゴリラは路頭に迷ってアタシ達の足元に跪く……!」
「ん? 何だお前、さっきから俺の顔を見て何をニヤニヤしている? 相変わらず気持ち悪いヤツだな、何か変な薬でもやっているんじゃあるまいな?」
「……せいぜい吠えるだけ吠えてればいいわ、今に見てなさい、このシナリオでアタシのPerfect winはNo doubtよ! これでアンタもThe endね、ウフフ、グゥフゥフゥフゥフゥ〜……!」
……女って怖い生き物やなぁ、一つでも恨み辛み買うとどんな手を使うても相手を地獄に叩き落とそうとするからなぁ。何やねん千夏のあのニヤけ顔? 小悪魔どころとちゃうで、アレもう妖怪や、妖怪。妖怪『因縁怨恨ビッチ』や。おっそろしいのぉ〜! お〜い誰か、この教室全体に清めの塩撒いとけ、塩〜!
「……私の考えたバンド名、結局聞いてもくれなかったのね、恨めしい、恨めしいいいいぃぃぃぃ!!」
「うわああああぁぁぁぁ!! ここにももう一体、気色の悪い怨念の塊みたいな女がおんね〜ん! なんちゃって、って言うてる場合か、どアホ! 悪霊は退散や、これでも食らえ! 十両力士・北桜関がいつも土俵に撒くぐらいの大量の塩化ナトリウムを食らえ食らえ食らえ〜!!」
「私はナメクジかってーの! それより翼! 無事にバンド名が決まったのは良いけどさ、そんな事よりも私と翼にとってもっと大切なビッグニュースが一つある事を忘れちゃいませんか?」
「……ウチと綾の大切なニュース? なんやったっけ? Mー1出場決定? 上方万歳大賞受賞? それともなきゃ時期大阪府知事選出かいな?」
「お笑いと大阪から離れろっつーの、この関東生まれのインチキ関西人! 違うでしょ? 選出は選出でも知事選じゃなくて、もっと世界規模の大きいものよ! 帰ろうとしてた私を強引にここに連れてくる時、何て言って説得したか覚えてないの!?」
「……手相見せて下さい、やったっけ?」
「それ、どこの怪しい宗教団体の勧誘? 違う、違います! 『ウチらの長年の成果がこうして実った事を、大々的に発表してみんなに自慢してやるんやぁ!』って言ってたのはどこの誰!? 昔からの念願が叶って嬉しかったのは私よりも翼の方だったんじゃないの!?」
「……あっ、ああああぁぁぁぁ!!!! 思い出した、思い出したああああぁぁぁぁ!!」
「思い出すの遅っ!! ヤダ翼、若年認知症の疑いアリ!?」
「オマエそない大事な事、何でもっと早くに言わんかったんや!? 危うく完全にスルーするどころやったやないかい! ホンマにオマエは何の役にも立てへんダメな子やな、母ちゃんはそんな子に育てた覚えあらへんでぇ!!」
「翼が私の話をちっとも聞かないで、千夏ちゃんとの会話に夢中になってたのかいけないんでしょ!? 何よ、勝手に連れてきたクセに放ったらかしにして挙げ句はダメな子呼ばわりだなんて、やっぱり翼の言葉や態度から全然私への愛情が伝わって来ないよ! えーえー、どうせ私はダメな子で嫌われ者ですよ、この地球上で私を大切に想ってくれる人なんて一人もいないんだー!!」
「アホかぁ!! ホンマに嫌いやったら、ウチがオマエの事をこない実の子みたいに可愛がる訳がないやろ! 手のかかるダメな子やから、お母ちゃんは心からオマエが愛おしいんやでぇ〜!!」
………………。
「イエス、フォーリング・ラブ」
「やっぱり私と翼は最高のパー……」
「もうええっちゅうねん、このどアホッ!!」
そ〜や、そやそやそやそやそ〜や!! ウチとした事がこない人生の中で十本の指に入るようなドデカいニュースを忘れてしまうやなんて、こりゃウチにとって一生モンの汚点になってしまうで、コリャコリャ! とてもお天道様に顔向けなんか出来まへんがな、アカンアカン、今日からもっとええ子になって好き嫌いせず残さず何でも食べますさかいに、どうか神様、堪忍してや〜!?
……ん、何やねん? 何やて、そのウチと綾に関するドデカいニュースってのは一体何なんやってか? 気になる? 知りたい? 知りたいか!? そ〜かそ〜か、知りたいか〜!? そりゃもう大騒ぎやで、『Super Nova』なんて話も霞んでしまうほどハンパないビッグニュースやで!? 知りたい? どうしても知りたいかオマエら!? ほならここにおる読者だけにこっそり教えたるわ。実はな、このビッグニュースってのは……!
……次回のお楽しみやねん……!
オイオイオイ、そないムキになって青筋立てて怒るなっちゅうねん! 『騙した』とか『嘘つき』とか言うなや! そりゃしゃ〜ないやろ、ここまでの話で一体どんだけ文字数使うた思てんねん!? また性懲りもなく一話二万、三万文字オーバーになってもうたら、しんどいのはそれを全部読まなアカン事になるオマエら読者の方なんやで? まぁ、最近は筆者の方も編集に苦労して音をあげとるらしいけどなぁ?
悪い事は言わへん。こういう話はな、適度にインターバル空けて読んだ方が疲れずに思いっ切り楽しめてええ事尽くしやねん。楽しみは後にとっておく、さっき千夏もそう言っとったやろ? せやから、この話はまた次回。サヨナラするのは辛いけど、時間だよ、仕方がない♪ って事で、今回はここでお別れや。またなっ!
……って言うてもなぁ、このまましばらくの間、せっかくこんなアホな作品をわざわざ読んでくれてはる読者はん達を悪戯に待ち続けさせんのも、心優しいウチとしてもちょっと心残りやったりするんやなぁ……。
そ・こ・で・や! ウチな、今までにない斬新なアイデアがピーンと浮かんだんや! 多分な、これまでの作品にはまず無かったであろう画期的な試みやぞ? そのアイデアってのはなぁ、知りたいかぁ? ウズウズするかぁ? 周りには内緒やでぇ? ウヒヒッ……!
聞いて驚け、このままこの文章をズッーと下までスクロールさせるとわかると思うけどな、実は今回の話にはこの作品にしては珍しく、筆者の『後書き』があんねん。何とその中でな、次回で語られるビッグニュースの内容と、同時に明かされるウチの秘密の話が予告編として公開されていたりすんねん!
オイオイ筆者、こない過剰サービスな無茶な事してホンマに大丈夫なんかぁ!? でもこれはアレなんよ、途中で読書に飽きて端末のブラウザ閉じたり飛ばし読みせんで最後の一行まで読んでくれたみんなへのウチからのせめてものお礼みたいなもんなんや。
せやから、何も遠慮せずに堂々と見たってや? ここにいるみんなだけへの特別待遇、この松本翼ちゃんからの目一杯の愛情を込めた最高のプレゼントなんやでぇ!!
ウチ渾身の新企画である『オマケ後書き』、そこには次回の最大の見せ場のダイジェストと、ウチの幼少期時代に秘められた『Be Ambitious!!』作品内、最大最高の秘密の謎が……!
書かれとる訳無いやろがボケェェェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
ウッソっやっね〜ん!! アッホッかぁ! そないネタバレみたいな事を書いたらそれで満足されてもうて次回更新したって誰も読んでくれなくなるやないか〜い! タダでさえ最近、隔週更新にしてからアクセス数全然伸びへんねん!
評価や感想も今年入ってから一通たりとも届いてへんわ! 閑古鳥が鳴いとるで、ポストに蜘蛛の巣が張ってまうっちゅうねん! 無人島漂流状態や、太平洋独りぼっち状態や! お〜い誰か〜! おるんやったらウチに返事してや〜!?
でも、たまにはこんなアホな後書きがあってもオモロかったりするやろ? えっ、オモンない? オモンないどころかイラッときた? 小説ナメんなってか? こんなふざけた事する作家は今すぐ辞めてまえってか?
やめへんで〜、翼ちゃんはやめへんで〜! だって楽しんやもん! 人生は楽しんだもん勝ちやで? この程度の悪ふざけで激怒してまう頭のカタい人間はウチ苦手どす〜! 許してチョンマゲ、ゴメンねゴメンね〜!?
さてと、ここらで冗談もさておき、次回も色々とオモロい話満載でやっていくつもりやさかいに、何せ司会進行役は今回に引き続きウチが担当やからな、何でもアリアリでガンガン突っ走っていくで! もちろん、例のビッグニュースの真相とウチの幼少期からの秘密の話も踏まえてなっ!
それまでの間、みんなこれに懲りずに首を長〜くして待っててくれたりするとウチは嬉しいわぁ! 季節の変わり目、風邪とかならんように手洗いうがい忘れずになっ!? 最後まで付き合うてくれてホンマにアリガトっ! ほなら、また次回、ここで会おうなっ! 約束やで!? バッハハ〜イ!!
「……ところで、綾があんだけ発表したがってたバンド名って、一体どんなんやねん?」
「うーんとね、リーダーがロギ君だから、『ロギザエル』ってどうかなぁ?」
「オマエが一番最悪やボケェ〜!!」
お後が宜しいようでっ! ほな、さいなら〜!