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第57話 フェイク



「キャ〜! 千春ちゃ〜ん、チナッティ〜、お久しブリブリ〜!」


「社長さーん、千夏ちゃーん、お久し振りですぅー!」


「エッ〜! ウッソ〜!? リョウちゃんにランちゃん、それにモモさんまで! みんなどうしてここにいるのぉ!? 元気だった〜!?」



聞き慣れたドス低いオカマ口調の声と耳が切り裂けそうな甲高いアニメ声に後ろを振り向くと、これでもかっ! ってくらい胸元を強調したど派手なドレスに身を包んだ大柄の女性とアキバ系猫耳コスプレをした小柄な女の子、そしてその後ろから静かに歩いてくるOLスーツ姿の社長秘書風な美女がこちらに近づいてくるのが見えたわ。

彼女達は知る人ぞ知る、世界の『チハル・ミシマ』ブランドを影から支えるママご自慢の『百花繚乱』カルテットのメンバー達なのよ! それぞれがママから直接アーティストとしての技量や心構えを叩き込まれた世界でたった一つのスペシャルチーム、ママが本気になる時にしか滅多に召集しない最強の四人衆なの!



「しゃ、社長!? そんなに全身真っ白になられて、一体どうなされたんですか!? 消火器か何かでも暴発したんですか!?」



アタシの火山灰で真っ白になったママの体を慌ててはたいて気遣うこの女性はメンバーのリーダー的存在の通称『モモさん』、名前が百香だからモモさんって呼ばれてるの。彼女の主な役割はママの代理人として広報や交渉契約、イベントの総合演出などを任されていてチーフディレクターみたいな存在なの。

天真爛漫で少しおっちょこちょいなママとは違ってスゴく冷静沈着な人で、それぞれ個性が強すぎる各メンバーをまとめるのに必要不可欠な人材。それ故、ママが一番信頼を寄せる実質上ママに次ぐナンバーツーの実力者なの! なのにモモさんはまだ二十代後半でまだまだピチピチの女盛り、このアタシですらも憧れちゃうスーパーキャリアウーマンなんだから!



「……ふぅ、ちょっとした爆発事故みたいな事が起こっちゃってね、でも、もう収まったみたいだから大丈夫よっ!」


「……爆発、事故? みたいな? うーん、何が起きたのかはよくわかりませんが、くれぐれもご自身のお身体には十分にご注意して下さい、社長の代役を務まる人間は他にいないのですから……」


「わかってるわ、安心して! それより、みんな総出でお出迎えありがと〜! ちょっと到着が遅れちゃってゴメンねぇ〜!」



ヤダ、スゴ〜い! ママったら、あれだけアタシの怒りの火山灰を浴びても灰がスッと下に落ちて全然ヘッチャラ、お肌もツヤツヤのままでヘアスタイルも全くも乱れていないわ!

さすがはママね、この前アタシが学校の入学式で大噴火した時は、那奈も小夜も翼もみんなお笑いコントの爆発の後みたいにグシャグシャヘアになってボロボロになったのに〜!

もう四十代に突入したっていうのに、ママのこのピチピチのお肌ツヤツヤとSexyなPerfect bodyはやっぱり超ハンパないわ。きっとママの体は最先端のステンレス加工かチタンコーティングみたいなものが施されて錆びない様に出来ているに違いないわね! いいなぁ、アタシもいつかはママみたいなIron womanになりた〜い!



「あ〜もういやいや、相変わらずモモは肩凝っちゃいそうなお仕事口調で堅っ苦しいのよね〜! 千春ちゃんはそういうおべんちゃらは苦手なんだから、もうちょっと肩の力抜いたらど〜う? そうやって全然遊び心がないもんだから、いつも合コンでも男に相手にされずに一人だけ売れ残っちゃうのよ〜? でしょでしょ、ランラン?」


「そうですぅー、リョウさんの言う通りですぅー! モモさんはツンツンで腹黒くて話がつまんないから、女の悪いところばかりが目立って全っ然魅力が感じられないですぅー! モモさん、笑顔ですぅー! ニャンニャン!」


「……余計なお世話ですね、人工物と腐敗物にいちいち指摘される筋合いありませんから」


「ヤッダ〜、人工物ですって、言うよね〜! ちょっと聞いた、ランラン?」


「腐ってるだなんて失礼ですぅー! もう『くたばっちまえ、このアマ!』って感じですぅー!」



そうそう、モモさんはママの前だととても素直で有能な部下なんだけど、いざママがいなくなるとちょっと性格の悪い腹黒さが出てくるのよね。口の悪さも相当よ、ママのお店に入ってきたアルバイトの女の子達は全員一度はモモさんに痛烈なイジメを受けた事があるらしいわ。怖〜い!

んでぇ、そんなモモさんに強烈なツッコミを入れてるのがメイクアップ担当の『リョウちゃん』とネイリストの『ランちゃん』の二人。リョウちゃんはママの昔からの知り合いで共に世界でたくさんの舞台を経験してきた凄腕メイクアップアーティストなの。これまでにも様々な女優やアイドルの専属メイクを担当してきた超売れっ子さんなのよ!

そして、ランちゃんは何とまだ現役美大生の学生さん! 類い希な芸術センスを買われてママが直接チームにスカウトした逸材なのよ! ママがわざわざ自分から出向いてお願いしにいくなんて滅多に無い話なんだから。ネイリストとしての才能はもちろん、美大生だけあって絵もとっても上手いの! 趣味で漫画やイラストなんかも書いてたりするの、スゴいでしょ!?



「じゃあ早速で申し訳ないんだけどぉ、アタシとソフィーは今から最後の打合せに行ってくるから後を頼むわね、よろしくぅ〜!」


「かしこまりました社長、後はお任せ下さい」


「チナツ、ガンバッテネー! See ya!!」


「うん! ママ、ソフィー、Good luck!」



な〜んだ、ママったらアタシ一人に荷物を運ばせようとしてたのかと思ったら、先にみんなに連絡して援軍を頼んでくれていたんだ。やっぱりママはちゃんとアタシの事を愛してくれていたのね。そんな事も知らないでバカだなんて言って、ごめんなさい、ママ!

アタシ、頑張ってモデルのお手伝い全うして挽回するから安心して見ててね! ママの新ブランドの御披露目に相応しい最高のイベントにしてみせるから、期待してもらって構わないわ! アタシに任せて!



「じゃあ、皆さんで分担して会場まで荷物を運ぶとしましょうか、リョウさん、ランさん、後は宜しくお願いしますね」


「ちょっとちょっとちょっと〜! 何よ、モモも何か手伝いなさいよ〜!?」


「ランラン達は引越屋さんじゃないですぅー! モモさんも社長さんのチェアぐらい持っていきやがれですぅー!」


「私はこれからハナがセッティングした会場ブースの最終確認をしなければならないんです、そんなガラクタなんて運んでる暇なんてありませんから」


「ヤッダ〜、ガラクタですって! これ全部千春ちゃんの私物なのよ? 本人がいなくなったからって言うよね〜!」


「最っ低のクソ女ですぅー! もう『いっぺん死にやがれ』って感じですぅー!」



んもぉ〜う、ママがいなくなった途端に、急にみんな本性剥き出しにしてギスギスし出すんだからぁ〜! 女同士の争いって華やかなようでとても醜く冷徹なものなのよね。顔は笑顔で仲良く喋っているように見えて、下ではお互いの足をガシガシ蹴りあっている感じ。この業界ではうちのチーム以外でも良くある日常茶飯事的な光景なのよ。

しょうがないわね、ここはアタシがリーダーになってみんなをまとめるしかないわね。何てったってアタシはママの最高傑作、世界のミシマの名を背負う後継者の定めの星の元に生まれてきたんだもの。いつか来るであろう将来のアタシの時代の為にも、今からでも頑張らなきゃ!



「いいわ、コレとコレはアタシが持っていく! 残りはリョウちゃんとランちゃんでお願い!」


「……い、いや、あの、千夏ちゃん? あなたにはこの後、イベントのモデルとしての重大な役割があるのだから無理しなくていいのですよ? もし、あなたに何か怪我とかあったら私は社長に合わせる顔が……」


「ヨイショっと! ううんモモさん、いいのいいの! アタシ、さっきママにヒドい事言っちゃったからこれはせめてもの償いなの! いつも部活で鍛えてるもの、これくらい何ともないわ! Don't worry!」


「……い、いや、でもしかし……」


「ねぇねぇ、どうすんのよモモ? 社長令嬢が自らが荷物持ちを買って出てるのよ? なのに、アンタ一人だけ手ぶらで楽するってちょっとヤバくな〜い?」


「……わ、わかりました! わかりましたよ! 持てば良いんですよね持てば! 千夏ちゃん、私にもお手伝いさせて下さい!」


「やっぱりモモさんはとんでもない腹黒女ですぅー! 同じ女として非常に醜くて恥ずかしいですぅー!」



車の中にあるほとんどの荷物は女性でも持てる軽い物ばかりなんだけど、なせが一つキャンプ用みたいな超重たそうな折り畳み式テーブルが一台ドスンと積んであるのよね。何なのよコレ? どうやって車に積んだの?

ママったら、会場でバーベキューでもするつもりなのかしら? こんな大きなテーブル、ホントに必要なの? も〜う、面倒だわ! 荷下ろししているアタシ達を見て、他のお客さん達には『何事か?』みたいな目で見られて目立っちゃってるし……。



「……重、たい、ですぅー!」


「やだやだ〜、ランラン一人でそんな大きなテーブル持てる訳無いでしょ? ここはお姉さんに、マ・カ・セ・テ!」


「……ふぅー! リョウお姉様、お願いしますですぅー!」


「うぉりゃあぁぁぁぁ!!」


「ちょっとちょっとぉ、リョウちゃん!? 声が完全に男に戻ってるわよぉ!?」


「しかも、あんなガニ股になって……、みっともない、何て見苦しい姿なんでしょうか……」



あっ、そううう。言い忘れていたんだけどぉ、リョウちゃんの本名は『繚一郎』っていうの。えっ? 女性なのに名前が繚一郎ってどういう事なのかって? えっ〜とねぇ、スゴく説明しにくいんだけどぉ、コレ言っちゃって良いのかなぁ〜?

つまりぃ〜、リョウちゃんは昔、『男の子』だったって事なの。今はすっかり全身のカスタマイズが完了して正真正銘女の子の体になっているんだけど、たま〜に油断すると言動が三十五歳のオッサンに戻っちゃったりするのよねぇ〜。



「……お、重ぉ……」


「一人じゃ無理よ、リョウちゃん! 絶対持っていけないってばぁ〜! アタシ達も手伝うから、無茶しないで!」


「リョウさん、もうみっともないから止めて下さい! そばにいる私達まで恥ずかしいです!」


「このままじゃリョウさんのカスタマイズボディが崩れて、胸のシリコンが有り得ない場所に移動しちゃいますですぅー! ただでさえバケモノなのに更に妖怪化しちゃいますですぅー!」



ヤダ、困ったわ! こんな重たいのみんなで一緒に持たないと、とても会場まで運んでなんていけないわ! ホンット、ママはどうやってこのテーブルを車に積む事が出来たのよぉ!? アタシとあとの二人は他の荷物で両手がふさがっちゃってるし、一度この荷物を会場に置いてきてからもう一回ここにみんなで取りに来ないとダメかしら……?



「なら、俺が持っていきましょう」


「……あらっ?」



テーブルを頭の上に担いでプルプルしているリョウちゃんの背後から大きな人影が近づいてきたと思いきや、その重たい荷物をスッと片手で掴み上げて軽々と肩に担いでみせた。その怪力を目の前で見せつけられたリョウちゃんを始めモモさんやランちゃんもポカーンと口を開けて唖然顔。もちろん、その人影の正体はアタシが世界中で一番大嫌いなあの不細工ゴリラ、澤村一茶!



「何よアンタ! 車酔いしてウーウー唸って苦しんでたんじゃなかったのぉ!?」


「外の空気を吸ってすっかり治った、もう問題ない」


「だったら女ばかりに力仕事させてないで、最初からサッサと手伝いなさいよ! ママに頼まれてこのテーブルを車に積んだのもアンタの仕業なんじゃないの!? 人の家の車に乗ってくるだけでも十分ウザいのに、余計な仕事ばかり増やさないでよ!」


「やれやれ、普段は男女平等だの女の権利だのギャーギャーとやかましいくせに、いざ困った時だけは都合良く甘えて男の手に頼る、女とは本当に自分勝手で面倒な生き物だな、特にお前のような口うるさい女は」


「Shit! あ〜んもぉ〜う、いちいち気に障るわコイツ〜!! アンタごときに『お前』なんて呼ばれたくないのよ、この下品不細工ブタゴリラ!」


「俺もお前ごときに『アンタ』呼ばわりなどされたくもない、一体何様のつもりだ、お前は」


「キィ〜! 腹立つ〜!!」



『アンタ』こそ何様のつもりなのよ、このCocksuckerは! あのまま黙って車の中でずっとうずくまっていれば良かったのに、いざ口を開けばネチネチネチネチ嫌みったらしい事ばかり喋ってアタシの言う事全てに反抗して!

冗談じゃないわ、何でこんなFuckin' beastとHigh school以外のPrivate timeまで一緒に過ごさなきゃいけないのぉ!? こんなダサくてで不細工な男をモデルに使おうだなんて、ママとソフィーは一体何を考えてるのよぉ!?



「……あらやだ〜、スッゴい男前、逞しいわぁ……」


「……えっ? ちょっとリョウちゃん? どうしたの?」


「……なるほど、彼が社長とソフィーさんが惚れ込んだ澤村一茶君ですね、高校生ながらこの体格と大人びた風格、私も凄いビンビン来ちゃいます……」


「……嘘ぉ、モモさんまでそんな事言い出して……」


「ウホッ、キタキタキター! これぞ今や絶滅したと言われていた伝説の『昭和七十年代汗臭さバンカラ男』キャラですぅー! ランラン、伝説の男に出会えてマジ感激ですぅー! アニキー、今からアニキの事を『番長』って呼んでイイッスか? オッース!」


「……あ〜あ、ランちゃんまで、どぉしてぇ〜!?」




……何よ、何よ何よ何よ!? Why? 何で? どうして? 三人とも、こんな無愛想で減らず口で厳つくて醜くて頭の悪そうな男の一体どこがそんなに良いのぉ!? バッカみたい、みんなもっとカッコいい芸能人とかジャ〇ーズ系アイドルとかリッチなお金持ちの人とかと一緒にビジネスしてるっていうのに、この男のどこにそれ以上の魅力があるっていうのよぉ!? みんなしてちょっとおかしいわ、もうUnbelievableよ!!



「……私、ある程度年収のある二十代後半のフリーなんですけど、澤村君は年上の女性とかって興味あったりします? 実は私、こう見えても以外に家庭的だったりして、料理とか家事も結構得意だったりして……」


「いやいやいや〜、無理無理無理〜! モモ、あんたには無理よ〜? 一茶ちゃん、やめといた方が良いわよこの女は〜! 性格は無茶苦茶悪いし物凄い腹黒いし、第一、初対面でいきなり自分の年収をアピールするなんて、もうセンスゼロでしょ〜? やっぱり女っていうのは一緒にいて息苦しくないのが一番よね〜? お姉さん、一茶ちゃんの事すんごい楽しませちゃうわよ〜、どうかしら〜?」


「汚らしいオカマのオッサンが清純な青少年相手に出しゃばらないで貰えますか!? 私にとって澤村君とのお付き合いは、今後の女としての人生の運命を左右しかねない大切なものになるかもしれないんですから、外野は余計な口挟まずに黙って引っ込んで下さい! 少しは身の程を弁えたらどうですか!? あなたに女を語る資格なんて一つもありませんから!!」


「言うよね、言うよね〜! 自分こそ高校生相手に結婚話をチラチラちらつかせて、本当にあんたって『重たい女』よね〜? これだからいつも男に嫌がられて捨てられるのよ? あぁ、何て可哀想な女なのかしら〜!? こんな女じゃ、相手になる男の人はとても幸せになんてなれないわよね〜!?」



会場に向かう合間でも、無愛想なゴリラを挟んでモモさんとリョウちゃんが牽制し合って火花バッチバチ。後からついていくアタシはすっかり呆れ顔よ。ホント、訳わかんない。端から見ててもスゴく虚しくて醜い争いよね、お互い必死過ぎなんだもん。

かたや仕事三昧で婚期逃がしまくっている男運の無い寂しい女性、かたやまともな男性とは交際出来ないであろうと思われる元オッサンの惨めな女性、こうなっちゃうともう男だったら何でもいいのかしら? アタシ、歳を取っても絶対あんな風にはなりたくない。絶対に嫌だわ……。



「否、否ぁー! 番長には売れ残りのひもじい独身女の体も、改造妖怪の醜い偽物の体もゴミ同然ですぅー! 番長にはババアどものつまらん恋愛妄想の世界より、もっと相応しい世界がちゃんとありますですぅー!」


「……う、売れ残りですって!? ランさん!? その発言、どういう事なのかしっかりと説明して貰おうじゃありませんか!」


「言うよね〜! ランラン、話によっては後でモモと一緒に女子トイレに連れ込んで泣くまでイジメちゃうわよ? 一茶ちゃんに相応しい世界ってどこなのかしら?」


「ズバリ、番長には濃厚なボーイズラブの世界で腑抜けなヘタレ男の〇ツの穴にぶっとい気合注入棒をオッスオッスオラオラしてアッー! ってなってる男の極小チ〇ポを更に力ずくでしごきまくって最後は迸る白い血潮をンギモヂィ! って相手の顔面や全身にぶっかけまくる鬼畜調教するのが一番似合ってると思うですぅー! ランラン、今度のコミケは是非とも番長をモデルにした同人誌を描いて腐りきった同族種の女どもをハァハァ言わせまくりたいですぅー!」


「………………」



……もう一つ、言い忘れていた事があるわ。あのぉ、ランちゃんはね、スタッフの中でもアタシと一番歳も近くてちょっと幼い部分もあって、お姉さんっていうよりも妹みたいな存在なんだけど、見た目の奇抜なコスプレファッション通り強烈な腐女子キャラの女の子なの。

最近日本のYoung generationsで急激に増えてきた完全なアキバ系のオタクさんで、さっき趣味で描いているって話した漫画やイラストのほとんどは、有名なアニメや漫画の男性キャラ同士がスゴい事になっちゃってる十八歳未満お断りの内容ばかりなのよ。

実はアタシね、一度ランちゃんの漫画を偶然読んじゃった事があるんだけど、とりあえず絵は物凄く上手くて綺麗ではあるの。でもね、その分色々と描写がリアル過ぎて強烈なのよ。何がどうリアルなのかはみんなのイメージに任せるわ。アタシの口からはとても言えない……。

いつもアタシにしてくれるネイルアートがみんなとても素敵なデザインばかりだっただけに、その裏の顔を知ってしまった時のショックは計り知れなかったわ。いつか、あんなのやこんなのをネイルに描かれちゃったりしないかってちょっと心配なのよ……。



「ほ〜らランラン、見てご覧なさい? あなたの空気読めないぶっちゃけ腐女子トークでチナッティもモモも一茶ちゃんもみ〜んなドン引き、真っ青な顔して凍りついちゃったわよ? もう最悪、どうしてくれるのこの場の空気? とてもじゃないけど、お姉さん一人じゃ修復出来ないわ〜!」


「うっー! みんなして軽蔑の眼差しで見るなですぅー! 現在の日本で一番アツいのは腐女子文化ですぅー! バカにする輩は『臓腑ブチまけてくたばりやがれ』ですぅー!」


「言うよね〜!」



この最強メンバーを前にしてママは『例え水商売の世界でも頂点に立てる自信がある』ってアタシに言ってた事があるわ。何かわかる気がする。それくらい、このチームには個性豊かで様々な才能が溢れた人材がたくさん揃っているのよ。

でも、その頂点に立ってみんなを率いているのはもちろんママよ。ママだからこそ、これだけの人材を一つに集めて一致団結する出来るの。スゴいリーダーシップよね、やっぱりママは偉大な人物だわ!



「……?」



アタシがそんな事を考えていると、何か不快な気配と視線を真横からピリピリ感じとったの。その正体が何なのかと横に振り向くと、あの柔道バカゴリラが隣からアタシの姿をジッーと見下ろしていたの! うわぁ、ヤダ、気持ち悪〜い!

何か言いたげそうな表現をしてこっちをずっと見つめていて、もうホントに嫌、寒気がするわ! タダでさえ吐き気がするくらい不細工な顔のクセして、さらにあの開いてるのかどうかわからない細い目で見下ろされてるって超不愉快。ホントにもう、スッゴいストレス!



「……何? 何か用!? 言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!」


「ならば、遠慮なく言わせて貰おう、お前の周辺にはこんな奇妙な人間しか他にいないのか?」


「悪ぃ!? 何か問題でもぉ!?」


「いや別に、類は友を呼ぶと言うしな、おまえ自身も奇妙で不可解な人間だから妙に納得しただけだ」


「ハァ!? 何よ、ケンカ売ってんのぉ!? アンタはいちいちアタシに嫌味を言わなきゃ生きていけない訳!? ウザい、ウザいのよアンタは! 話がしたいなら他でしなさいよ、アタシはアンタと口すらも利きたくないの!!」


「それは同感だな、俺もお前みたいな女とは口も利きたくもない、お前の声を聞くとこちらの耳が腐りそうだ」


「……!!」



んもぉうイライラしていい加減ストレスも限界寸前、ここでもう一度怒りの大噴火でもしてやろうかって思った時、周りを見るといつの間にかアタシ達は今回のイベントが行われるショッピングモールの中央広場に到着してた。

この広場は様々なイベントが開催可能らしくて、買い物帰りに立ち寄ったギャラリーも無料で見物出来る多目的ホールみたいな感じの作りになってるみたい。

会場にはすでにアタシがスポットライトを浴びるアタシの為だけの最高のステージ、って言っても大して大きくない屋根付きのブースなんだけどね。それでも今日の主役であるアタシの到着を今か今かと待ちわびている様にそこに組み立てられていたわ。

教育関係者相手のお堅い殺風景なイメージの作りかと思ったら、何かBlackをモチーフにしたデザインでとてもCoolな感じに仕上がっていてGood feeling! さすがはどんな場面でもお洒落心を失わないママのデザインらしいわ。こんなのもたまにはアリかしら?



「今日のイベントはいつものコレクションスタイルとは違って、教育関係者に向けての新たな『ミシマ』の挑戦であるスポーツウェアブランドの発表会ですからね、公務を担当されている招待客相手という事で少し落ち着いた地味目のデザインを施してありますが、やはりそこは我らが世界の『ミシマ』、他のブランドとは一味違うファッショナブルな一面もアピールしてみました」


「なるほどねぇ〜! 学校用のスポーツウェアといっても、やっぱりカッコ良くてCoolじゃないと先生や生徒達のHeartはGet出来ないもんねぇ〜、超納得〜!」


「世界の舞台で闘う一流スポーツ選手に合わせたハイグレードタイプも用意してありますが、あくまでもこのブランドのメインマーケットは一般庶民層をターゲットにしています、その為にはまず、国家機関である教育委員会から正式な公認ブランドのお墨付きを受けて信頼を得て、実際に着用する生徒やその保護者達からの製品への意見の声を集め改良を重ね、徐々に一般のシェアへとセールスを拡大していく、その様な戦略スタイルが効果的だろうという社長のアイデアで今回のこのイベントを開催する事になった訳です」



へぇ〜、なるほどねぇ〜! ママったら、何てCleverなのかしら! 何でもかんでもショーやマスコミを利用して賑やかにコマーシャルをするだけじゃなくて、こうやって意外な所からマネージメントをかけてブランドネームを広げていくやり方もアリなのね! これならたくさんのユーザーの声を即座に応える事が出来るもの。ママ、スゴいわ!

そうそう、この去年の『2008東京ミシマコレクション』はコンサート会場にも使われる大きな球場を貸し切って壮大に行われたけど、全国の女の子達が会場に入れるプレミアチケットを手に入れる為に色々苦労したって話を聞いた事があるわ。ネットオークションで騙された子もいたらしいし、アタシもママもそれを聞いた時は胸を痛めたもん。大きなイベントになりすぎると、参加者全員の意見までカバーしてあげられなかったが悩みどころだったのよね。

でも、今回の方法ならなかなか届きづらい購入者の生の声を聞く事が出来るし、仮に商品にクレームがあったとしてもスピーディーに対応する事が可能よ! そして、教育の場という厳しい審査の目が光る世界で絶対的な信頼を得れれば、こんなにコマーシャル効果が高い方法は他に無いわ! ヤダ、アタシスゴい感動しちゃった。ママはアイデアも超一流なのね!



「そんなママのイメージをこうして実現しちゃえるモモさんも超Excellent! さすがはママが一番信頼する最高の『右腕』よね!」


「……いえ、私は三島社長のご意志に全力でお答えしているだけですので、それに、この様なビジネススタイルは社長が『全ての人々にファッションを楽しめる自由と喜び』を追求した我々『ミシマ』の本来の姿、私にとってはこれくらい出来て当たり前の仕事なのですから……」


「んもぉ〜う、モモさんたら謙遜しちゃってぇ〜! じゃあ、このイベントはタダのカタログ作りなんかの小さなものなんかじゃなくて、大規模なビジネス戦略を繰り広げる為の大切なファーストステージなのね!? だから、ママの最高のスタッフチームであるみんながここに揃った訳なんだ!? うわぁ、そのモデルをやるアタシの役目って意外と重要!? 何か、んもぉうワクワクしてきちゃった〜!!」


「……でも、普段とは少し勝手が違う困難なステージ作成に、ハナさんはかなり試行錯誤を重ねられたみたいですね……」



あっ、そうだわ! ママの最強チームである『百花繚乱』カルテットはモモさんにリョウちゃんにランちゃん、そしてもう一人、ステージの組立や装飾デザイン作成を担当している『ハナさん』がいるの! 何のイベントか気になった覗き見するギャラリーが集まり出している会場の真ん中で、腕組みしながら首を捻っているカッコいいジーンズ姿のあの女性、それがハナさんよ!



「ハナさぁ〜ん! 久し振りぃ〜、What'up!?」


「ん? おぉ、オッース千夏! やっと来たのかよー!? 相変わらずお前ら親子は時間にルーズだなー? 責任者っていう肝心な立場にいる人間なんだからさ、もうちょっと早く現場に来れないのかよー!?」


「ヒッド〜イ! アタシはちゃんと予定通りの時間にここへ来てたわよぉ!? 遅くなったのはママ! 約束の時間より一時間も遅刻してきたのよぉ〜!?」


「またあの人か? 千春の姉御は本当にいい加減なんだなー? アタシなんか今日、現地に朝六時入りして飯も食わずに働きっぱなしだぜ? もう眠たくってたまんねーよ!」



ハナさんは言葉口調こそ男っぽい感じだけど、リョウちゃんと違って正真正銘生まれつきの女の子よ。名前も『花子』だしね。東京の下町育ちの江戸っ子で、お祖父さんの影響でこんな喋り方になったんだって。

ハナさんはその行動力も男の子顔負けで、普段は毎朝早い時間に海でサーフィンをエンジョイした後に、自転車に乗ってオフィス街を駆け回るメッセンジャーの仕事をしてるの!

だから、こっちの仕事は副業って感じなんだけど、これくらいのステージならたった一人でママの希望通りに作り上げちゃうその腕前はプロも真っ青の超スーパー級。

この前の球場でのコレクションイベントでも、並み居る本業の装飾業者のオジサン達を取り仕切ってスッゴいキラキラの煌びやかなビッグステージを作り上げちゃったんだから! ゲストとして招待されたプロのファッション誌モデルのみんなからも大絶賛だったのよ、スゴいでしょ!?



「ところでよモモ、その肝心の姉御はどこに行っちまったんだー? 姉御の最終チェック受けてOK貰わねーといまいち自信が無くてさ、こんな出来映えで納得して貰えるか不安でよ……」


「社長は現在、ソファーさんと一緒にイベント担当者と最後の打合せを行っています、ここに来るのは多分、いつもの様にイベント開始三十分前位かと……」


「マジかよー!? 三十分前じゃ何か気に入らない部分があったとしても、時間が無くてとても変更なんか利かねーぜ? だから、いつももっと早く会場に到着してチェックしてくれって頼んでるのにな……」


「でも、社長はあなたの仕事に絶対の信頼を寄せていますし、私の目からしても今回の完成度は十分に納得出来る物です、きっと問題は無いでしょう」


「……なら良いけどなー、いつもと違って今回はお客がお客だろ? 公務員のお偉いさんに気に入って貰えるかどうも不安でよー、こんなんで良かったのかな……」


「そろそろご自分の仕事にしっかりと自信を持たれたらいかがですか? 凛となされたお姿の割にはハナさんが意外と小心者なのはすでに存じ上げておりますが、あまりいつまでも臆病風に吹かれてビクビクされているとこちらの仕事にまで差し支えが出るくるかもしれませんので」


「……チッ、チクチクと一言多いヤツ、本当に嫌な女だよな、コイツって……」


「言うよね言うよね〜! ねぇねぇハナちゃん、いっそ思いっ切りこの女の鼻の両穴に釘打ちつけてやったらど〜う? きっとスッキリするわよ〜?」


「そうですそうですぅー! 思い切ってこの憎たらしい顔面をサーフボードでぶっ叩いてやればいいですぅー! 否、その程度ではこの外道女には生温い! 太平洋の黒潮に揉まれた粋の良いピチピチの本マグロでぶっ叩いてインド洋まで場外ホームランにしてやればいいですぅー!」


「そりゃいいなー! インドまでぶっ飛ばされれば、もしかしたら物好きな蛇使いか何かがこんなクソ女でも嫁に貰ってくれるかもしれねーしな!? ヨガでもやってその体に染み付いた汚い毒を吐き出してこいってんだ! ハハハッ!」


「あー、もう! あれこれつべこべ無駄話をしてないで、各自サッサと自分の持ち場に散りなさい! ハナさんはステージ強度の最終チェックと照明の電源配線チェック、リョウさんとランさんは千夏ちゃんと澤村君を連れてバックルームでメイクアップの準備! 喋ってる暇があるなら仕事しなさい! はい、駆け足駆け足!!」



んもぉう、この四人は顔を合わせるといっつもこう! 一人ずつだけでも鬱陶しいくらいDeepでDopeでDangerousなキャラばっかりなのに、みんなが揃うとその破壊力は四倍どころか四十倍の四百倍のさらに四乗まで跳ね上がって暴走し放題好き放題なんだからぁ!

でもね、これは彼女達に特有の最高のコミュニケーション方法なのよ。お互いメチャクチャ悪口を言い合っている様に見えるけど、逆を言えばそれは四人が何でも言い合えるとてもFriendlyな関係だって証拠でもあるの。

職場は常に明るく楽しく、そして元気良く。彼女達はママの理想を見事に表現してみせた最高のパーティー、お店の店員達が見本として憧れる最強チーム! もちろん、アタシも心からみんなをRespectしてるわ! だって、この四人と一緒にいると楽しくって超Happyなんだもの!



「さーて、ヒステリック女もいなくなった事だし、あたしも自信持って舞台の仕上げ作業にかかるかなー?」


「ハナさぁ〜ん! アタシもこのステージはCoolで超イケてるって感じぃ〜! アタシが言うんだからきっとママも満足するわ、It's all right!!」


「おぅ、千夏のお墨付きなら完璧だなー! 任せとけー、お堅い連中達相手でもちゃんと千夏が光り輝けるような最高の舞台に仕上げてやるからなー!」


「じゃあ〜、舞台の準備はモモちゃんとハナちゃんに任せて、私達はメイクルームで千夏姫とダンディーなワイルド一茶ちゃんに最先端の胸キュンなメイクアップを施して差し上げますわ〜!」


「例えステージがサハラ砂漠のド真ん中でも、吹雪舞う南極大陸のド真ん中でも、このランランとリョウお姉様の魔術に不可能の文字はありませんですぅー! もう台風でも大寒波でも地球温暖化でもおととい来やがれって感じですぅー!」


「さぁ姫様、今日は姫様にどんな素敵な魔法をかけてあげましょうかしら〜?」


「Wow! Very exciting! んもぉう、今からドキドキしちゃう! ねぇねぇ、期待しちゃっていいのぉ? アタシ、これ以上キレイになっちゃってもいいのぉ〜? いや〜ん、超楽しみ! どうしよう、スッゴいワクワクしちゃう〜!」



前回のコレクションでもこの二人にステキなメイクアップして貰って、日本の名だたるトップモデルの人達と一緒に特別にステージに立たせて貰えた、あの時のあの興奮が再びアタシの脳裏に蘇ってきたわ!

実はその時、アタシも会場に詰めかけていたファッション業界の関係者達から、『あの可愛い子は一体誰?』、『どこの所属の新人モデル?』『三島千春の実の娘だって!? 何て美しい娘さんなんだ!』って色々と注目されていたんだから!

その成果が実っててっきり今回、プロのモデルとしてソロステージのオファーを受けたと勘違いしてすっかりママに騙されちゃったけど、ちょっと落ち込んでいたテンションも超アゲアゲでスゴくいい感じだわ!

この調子ならアタシ、今日はママの期待通りの最高のステージを教育現場のお偉いさん達に見せてあげる事が出来ると思うわ! もうバイタリティFull充電よ! こうなったらもう、誰もアタシを止める事なんて出来ない……!



「ちょっと待ってくれ」



……って、言ってるそばからこの男……。不快だわ、ホンット不愉快……!



「……何よぉ? トイレにでも行きたいの? そんなの後、後! 早くメイクルームに行かないと時間に間に合わなくなるじゃない! ほら、さっさと行くわよ、ボケッと突っ立ってないで、ほらぁ!」


「ちょっと待て! 事情が全く呑み込めない事ばかりで不満だらけだ、一つ確認させてくれ」



んもぉ〜う! 一体全体何だっていうのよこのグズグズののろまなゴリラは! アタシがすっかりやる気満々のハイテンションになっているっていうのに、何でこうもいちいちアタシの足を引っ張る様な真似をしてくれる訳!?

アタシとリョウちゃんとランちゃんで一生懸命手を掴んでメイクルームまでエスコートしてあげようとしているのに、ちっともその場から動こうとしないんだもん! ホントイライラするわ、何が不満だって言うのよぉ!!



「Oh,shit! Dammit!! 不満があるのはアンタよりもアタシの方なのよ!? アンタなんかと同じイベントに出て、しかも同じカタログにモデルとして写真が載るなんて、アタシからしたら最悪の屈辱以外の何物でもないの! そんな不細工な面の分際で、ママのプロデュースした最新スポーツウェアを着て、このアタシと一緒に『ミシマ』の一大ビジネスの役に立てるだけでも有り難いと思いなさい! ほらぁ、さっさとついて来なさいよ!? Come on!!」


「だから、そのイベントやらビジネスならと言った話がさっぱり俺にはわからない」


「Shut'up! 今更何言ってんのよ!? 自分でモデルやるってママに志願したんでしょ!? だったらつべこべ言ってないでさっさと……!」


「モデル? 何の話だ?」


「……ハァ?」


「俺は三島さんから『服の寸法を計らせて欲しい』としか話を聞いていないぞ? なのに、なぜお前達と一緒に化粧室なんかに行かなければならないんだ? 第一、化粧室とはその名の通り女が化粧をする場所であって、男が立ち入る場所などではない」


「……えっ? ちょっとWait? アタシまで何か良く事情がわからなくなってきたわ……」


「それに、さっきからお前達がベラベラと飽きずに喋り続けている『ショー』だの『カタログ』だの『メイク』だのといった会話の内容の主旨もさっぱり理解出来ない、一体何の話なんだ? これから俺は一体何をやらされるんだ? 俺は何も聞いていないぞ、説明してくれ、これは一体どういう事なんだ?」



……アハン? What? 何言ってんのコイツ? つまり、自分が何でここに来たのか全然わかってないって事? じゃあ、自分がモデルとしてイベントに参加するとか、その姿を写真に撮られてカタログに載るとか、何一つわかっていないって事なのぉ!?



「……アンタさぁ、ママにお願いされて、それをOKしてここへ一緒に来たのよね?」


「そうだ、怪我の治療費やリハビリ費用までも支援してくれている三島さんの願いを断る訳にはいかない、俺は『人の恩を仇で返すな』と子供の頃から厳しく両親にしつけられてきたからな」


「……ママからは服のサイズを調べさせて欲しいとしか言われてないの?」


「そうだ、今年の秋に日本で行われる、国際学生柔道大会の開会式用の衣装を作るので寸法合わせをしたいと聞いている、この大会での優勝が今年の俺の目指すべき目標だからな」


「……それだけ? ホントにそれだけしか聞いてないの?」


「そうだ、それだけならお安い御用、むしろ感謝しなければならないと二つ返事で同伴を了承させて貰った、その様な細かい部分の世話まで見てくれて誠に有り難い話、心より感謝仕る、とあの岩窟な親父も頭を下げて俺達を見送ってくれたもんだ」


「……Wow... Oh,my god, It's unbelievable...」


「何だ、その手は? その外人が呆れた時にする、手のひらの上に向けて肩をすくめるその仕草は何だ? オイ、なぜ首を横に振る? なぜ含み笑いをする? 何なんだ、俺の言っている事の何がおかしい?」


「……哀れねぇ、何て哀れなおサルさんなんでしょう……」


「オイ、まさか、違う、のか? この話はまさか、全部嘘だったのか?」



……あーあ、これだから男ってバカなのよねぇ。今頃気づくだなんてIt's too lateもいいとこ。頭が悪くてクソ真面目な男ほど、言葉一つで簡単に釣れちゃうもんなのね。ママったら、ホントに隅に置けない悪い女だわ、怖ぁ〜い!



「……なるほどねぇ、アンタもすっかりママの言葉に騙されてたって事なのねぇ、ふ〜ん……」


「ならば、なぜ俺はここに連れてこられたんだ? 一体、お前達は何を企んでいるんだ?」


「……ホント、バッカ! アンタってマジで頭の中まで筋肉なのね、あぁ〜、ホントに哀れな男だわ、可哀想〜!」


「オイ、真面目に答えろ! 俺をここに連れてきた本当の理由とは何だ? お前達の目的は何なんだ? お前達は一体、俺をどうするつもりなんだ!?」


「そんなに知りたい? しょうがないわねぇ〜、じゃあアタシが丁寧に優しく説明してあげるから心から感謝しなさいよぉ? あのねぇ、アンタはこれから、ここで行われるママの新ブランドのデビューイベントで、アタシ達オフィシャルスタッフと一緒にファッションモデルとして参加するのよ」


「何? 何だと? しんぶらんど? おふぃしゃる? ふぁっしょんもでる? 俺が? 俺がか?」


「そっ、今からその不細工面にモデル用のキメッキメキラッキラのメイクをしてぇ、そのボッサボサで鳥の巣みたいなダッサいヘアスタイルもバリバリバッチリにキメちゃってぇ、そのJapanese mafiaみたいなセンスゼロのダボダボジャージからママがプロデュースしたFreshでHigh performanceな超CoolスポーツウェアにChangeしてぇ、たくさんのギャラリーとカメラがひしめくSpecial floorでその姿をShow upするのよ! いくらアンタでもテレビとかでも見た事あるでしょ? コレクション、ファッションショー、ファッションモデル、モデルよモデル、モ・デ・ル! アンタはこれからモデルのお仕事をするのよ! このアタシの説明なら、いくらアンタが人間よりIDの低いゴリラだとしても十分理解出来るわよね? All right? Did you understand? OK? アハン?」


「………………」


「……何よぉ? タダでさえバカみたいな顔が更に間抜けな顔してボケッ〜としちゃって、何なのよアンタ? ちゃんとアタシの話聞いてるの?」


「聞いてない」


「ハァ!? 何よ、ここに来てまだこのアタシにケンカ売ってる訳!? Shit! バカにするのもいい加減に……!」


「何も聞いてない」


「……あぁ〜ん、もぉ〜う! イライラするぅ〜!! だ〜か〜らぁ〜、ちゃんと説明してあげてんだから真面目に聞きなさいよぉ!! アンタはこれから、ここのイベントで、ファッションモデルを……!」


「有り得ない、そんな事は絶対に有り得ない、極めて非常に遺憾だ」


「キィ〜! Shut'up!! 人が何度も親切に説明してやってんだから、途中でグダグダネチネチ言葉を挟むなっつーの……!」


「帰る」


「……ハァ? Pardon!? ちょ、ちょっと、ちょっとちょっとちょっとぉ!? いきなり何言い出してんのぉ!? ねぇ、ちょっと、急に来た道戻ってどこ行くつもりなのよぉ!? ちょっと待ちなさいってば、ちょっとぉ!?」



んもぉう、何なのよ!? 全然訳わかんない、Unbelievable!! ホンットにマジでバッカじゃないの、コイツ!! さっきまでムカつくぐらい堂々と偉そうに嫌味ばかり言っていたくせして、いざ自分が連れてこられたホントの理由を知った途端いきなり真っ青な顔になって『帰る』ってどういう事なのよぉ!?

引き止めようとするアタシとリョウちゃんランちゃん三人を力ずくで引きずって無理矢理帰ろうとしてるし、これじゃまるで歯医者を嫌がって駄々をこねてる子供じゃない! アタシ達はデカいクソガキのBabysitterをやってる訳じゃないのよ! いいぃ、加減にぃ、しなさいよぉ、このぉ、クソォ、ゴリラァ!!



「……何よぉ、このバカ力は!? 三人がかりでも全然止められない……!」



Fuck!! 冗談じゃないわよぉ!! もうじきママとソフィーも打合せを終えてこっちに戻ってきて、そろそろイベントステージもスタートする時間だっていうのに、こんなところで勝手に帰せらせてたまるかっつーの! アタシだってスポーツアスリートなのよ、相手が男だろうが力比べで負けてたまるもんですか……!



「うわー! スゴいパワーですぅー! 三人がかりでも簡単にズルズル引きずられるですぅー!! まるでビグザムかサイコガンダムクラスの圧倒的パワーですぅー!!」


「ダメよ一茶ちゃん! 帰っちゃダメ〜! てめぇ、帰るなって言ってんだろうがこの野郎!! ……って、男に戻っても全然かなわな〜い! 何てエネルギッシュな殿方なのかしら、その逞しい腕に抱かれて女に生まれてきた悦びを体いっぱいにビンビン感じたいわ〜!」


「バカな事言ってないで真面目に引っ張ってよ、リョウちゃん! ちょっとぉ、バカゴリラ! ふざけんのもいい加減にしなさいよぉ!! もうスタッフもギャラリーも全員会場に揃ってステージの準備も出来てるんだからぁ!! 駄々こねてないでさっさと来なさいよ!! この期に及んで逃げるっていうの!? このChicken boy!! 弱虫!! 根性無し!! デカいだけのバカゴリ腰抜け男!!」


「腰抜け、だと?」


「……キャ〜!!」



……ドタドタドタッ!!



……いったぁ〜い!! んもぉう、最低! さっきまで力任せで強引にアタシ達三人を引きずり回していたクセに、急に立ち止まって手を離すもんだから勢い余ってみんなして思いっ切り床に尻餅ついちゃったじゃないのよぉ!!

どこまで人に迷惑かけたら気が済むのよ、この男は!? 許せない、んもぉう頭にきたわ、我慢の限界!! こうなったらもう一回、ここで大噴火して辺りを怒りの業火で焼き尽くしてやる!! 周りにはたくさんの罪の無い人間がいてこっちを見てるけど、そんなの今のアタシには見えない、関係無いわ! こうなったらみ〜んなみんなまとめて巻き込んでやるぅ〜!!



「Oh,shit!! Fuck,fuck,fuck!! You're fuckin' chicken boy!! 何でアンタごときの為にアタシ達がこんな目にあわなきゃいけないのよぉ!? 何を今更ビビってんのよ、この腰抜け! 負け犬! 臆病者!! タマ無し! フニャ〇ン! イ〇ポ野郎!!」


「いい加減にするのはお前の方だ、俺は決して腰抜けなどではない、今すぐその発言を撤回しろ」


「ハァ!? 撤回!? お断りしますぅ!! だって事実じゃない!? モデルをやるって聞いた途端にビビりまくってここからコソコソ逃げ出そうとしてるのは誰!? 背中晒して尻尾丸めて敵前逃亡しようとしてるのはどこのだ〜れ!? 何よ、将来のオリンピック金メダル候補だとか何だとか周りにチヤホヤされていい気になって、いつも自信満々にふんぞり返って大層なBig mouth吐いて偉そうにしてるクセに、この程度の小さなイベントステージぐらいでブルブル震えて恐れをなしてお家に帰ろうとしてるのはどこのどなた様かしらぁ〜!?」


「違う、断じて違う、俺はビビってなどいない」


「バカ言わないでよ!? 顔どころか唇まで真っ青になって、完全にビビりまくってるじゃない!? しかも、額には変な汗までダラダラかいてるし、良く見たら手も足もちょっと震えてない!? うわぁ〜、情けな〜い! アンタってホント、気持ち悪い男!!」


「震えてなどいない! 違う! 違うと言ったら断じて違う!!」


「何をムキになってんのよぉ!? 大人気ないわねぇ、アンタがたかだかモデルをするぐらいでそんなに嫌がったりするから、アタシはビビってるって言って……!」



……あれぇ? あれあれあれぇ? これってもしかして、もしかしてもしかする? まさかこのコイツって、正真正銘の腰抜けChickenのビビりちゃんなのかしら? 柔道の試合で見せてるあの威勢は、Heartが弱くてピヨピヨヒヨコちゃんなのを必死に隠す為の精一杯のフェイク? うん、あるある。スポーツアスリートに良くいるもん、ユニフォーム脱いだらタダの人ってパターン。この男、正にそうなんじゃないのぉ?

ううん、タダの人なんてどころの話じゃ無さそうね。もしかしたら、ホントはかなりHeavyのあがり症なんじゃないかしら? だって、額の脂汗の量がハンパじゃないし、視点はキョロキョロして定まらないし、動作は手や足をモジモジして落ち着きが無いし、明らかに挙動不審だわ! これだけの物的証拠が揃ってるんだもん、No doubt! 間違いないわ!



「……ねぇねぇ、アンタってさぁ、普段は見栄張って偉そうな事言ってカッコつけてるけど、ホントは口も図体もデカいだけで中身はビビりの腰抜けヒヨコちゃんなんじゃないのぉ? ホントは今、大勢の人の前でモデルをやらなきゃいけないのが怖くて怖くて、超ミニミニなCutie heartがバクバクしちゃって破裂寸前になっちゃってるんじゃないのぉ? ホントはもぉう、全身がプルプル震え出しちゃって、今すぐにでも自分のパパやママに助けて貰いたいたくて我慢出来ないんじゃないのぉ〜!?」


「………………」


「ヤッダァ〜! チェックメイト!? もしかして図星!? アタシったら、誰にも知られなくなかったアンタのReal faceをズバリお見通しちゃったかしらぁ? 一番触れられたら困っちゃうNaiveな一面をズキュ〜ンって撃ち抜かれちゃって、ちょっとヘコんじゃったりしてるぅ? いやん、ごめんなさぁ〜い! 許してぇ、Sorry!」


「ば、馬鹿馬鹿しい、ず、ずず、図星だなど、そんな訳が無い」


「えっ〜、ホントにぃ〜? その割には、今の言葉からはぜ〜んぜん自信が感じられなぁ〜い! そんなんじゃアタシ、否定されてもぜ〜んぜん納得なんて出来なぁ〜い! ねぇねぇ、さっきまでの男らしくてカッコ良かったあのオーラはどこに行っちゃったのぉ〜? 日本期待の天才柔道家、全国の柔道少年少女の憧れのスーパースター、泣く子も黙る無敵の全日本学生柔道王者のあの面影は一体どこに行っちゃったのぉ〜?」


「………………」



……ウフフ、ウフフフ、ウフフフフ〜! 来たわ、遂に来たわぁ〜! 今までズゥ〜っとこのゴリラにメチャクチャに貶されて、いつも悔しい思いをさせられてきたアタシにとって、待ちに待った反撃の狼煙を上げる千載一遇の大チャンスがやって来たのよぉ〜! 絶対に逃がさない、これまで溜まりに溜まったこの積年の恨み、今日この場で全て三倍増しで返してやるわ!! アハハハハ〜!!



「皆さぁ〜ん、聞いて下さぁ〜い! この人ってぇ、こんな大きな体してるクセにぃ、メンタルは超腰抜けのchicken heart……!」


「違う! 違う違う違う! 勝手な言いがかりをつけて、それをいちいち周囲に言い触らすな! 断じて違う! 俺は決して腰抜け男などではない!!」


「キャハハ〜! またムキになってる、超カッコ悪〜い! アハハハハ、ダッサ〜い!!」


「とにかく、俺は少しもビビってなどいない! 男たるもの、常に平常心で山の如くその場に腰を据え万事何事にも動じず」


「じゃあ、ちゃんと最後までやり通せるわよねぇ? モ・デ・ル・の・お・し・ご・と♪」


「………………」


「皆さぁ〜ん! この人って超ビビり……!」


「わかったわかった、確と承諾した! ここまで言われてすごすごと撤退など男として一生の恥、取り返しのつかない後悔を残す事になる! こうして一度乗りかかった船だ、最後までその航海を見守る事としようではないか」


「何それぇ? もしかして『航海』と『後悔』をかけたつもり? ダジャレ? まさか、韻を踏んてHiphop? アンタってB-boy? ヤダァ、気持ち悪〜い! 超つまんないし、超ダッサ〜い! 絶対に有り得ないわ、No way!!」


「………………」



……勝った。アタシ、勝ったわ! んもぉ〜う、最っ高!! こんなに清々しい気分はホンット久し振りだわ! ちょっと人より柔道が強いくらいで生意気にもこのアタシに立ち向かってくるからこんな羽目になったのよ! んもぉう、ザマーみろって感じだわ!

でもぉ、良く考えてみたらこれは当たり前の事なのよね。こんな低レベルの下衆男相手にこのアタシが負ける訳が無いもの! こんな男、顔じゃないわ! 結局、どんなにおバカなゴリラがジタバタ足掻いたとしてもこの勝敗は最初から決まっていたも当然だったのよ!

さぁ、おバカで不細工で腰抜けChickenのBeastちゃん? 己が犯してしまった愚かな過ちの数々を悔やみなさい? 己の哀れな無知と無力さを呪いなさい? その見るも耐え難い汚らしい顔を床に擦りつけて平伏し許しを請いなさい? そして、己とはとても比べ物にならない、高貴で優雅で賢名で世界一美しいこのアタシに跪いて永遠に崇め続けなさい!!



「ねぇねぇ、ホントはここだけの話、今すぐにでも逃げ出したいんじゃないのぉ? ホントはモデルをやるなんて、とっても怖くて恥ずかしくってゴミ虫みたいに凍えて死んじゃいそうなんでしょ? ねぇねぇねぇ!?」


「男に二言など無い、この使命、必ずや最後まで全うしてみせる」


「んもぉ〜う、意地張っちゃって? 前言撤回するなら今がチャンスよ? 今なら誰も見ていないし聞いてもいないわ、慈愛満ち溢れる女神の様なこの千夏様が、か弱き子羊である貴方に温情を施して見逃してあげてもいいのよぉ? アタシは決して鬼でも悪魔でもないもの! 仏の顔も三度まで、なんでしょ?」


「………………」


「それとも、臆病で弱虫なMっ子ヒヨコちゃんは、いっそ思いっ切り罵倒してあげた方が嬉しいかしら? Hey,baby? お子ちゃまはさっさとGo homeしてママのおっぱいでも吸ってなさい! Fuck off!!」


「それではお言葉に甘えて帰ります」


「み〜な〜さぁ〜ん!? この人ってやっぱりとんでもない腰抜けビビり男なんですぅ〜!!」


「悪魔め」



ウフフ、ウフフフ、ウッフフフフ〜! まだよ、まだまだトドメなんて刺してあげない。こんなんじゃぜ〜んぜん物足りないもん、アタシがこれまで傷つけられてきた痛みはこんなものじゃないわ。この程度で終わらせてやる訳がないじゃない! これからよ、本当の地獄はこ・れ・か・ら! ウフッ♪

じっくりタップリ時間をかけて、この惨めな世間知らずのダメ男にアタシ達女の怖さってものを嫌ってほど思い知らせてやるわ! もう二度と、人前に立てなくなるくらいありったけの屈辱をフルコースでご堪能さし上げるわよぉ〜! ウフフフフ、アハハハハ、アッハハハハハ〜!!



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