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第56話 デルモ



「おっそぉ〜〜〜〜いっ!!」



も〜う! ママったらこんなPrettyでSexyでExcellentなLovely girlを放ったらかして、一体今どこで何をしているのよぉ〜!? 今日は待ちに待ったゴールデンウイークの最終日、世界中のTeen'sみんなの憧れのスーパーモデル、このMiss Chinatsu Mishimaの初のソロでのショーステージAnniversaryだっていうのにぃ!

現地で時間決めて集合しよっ、って言い出したのはママの方でしょ〜!? アタシはちゃんとママとの約束通りに寝坊も寄り道もしないで、大好きなママとHagしたくて急いで時間ピッタリJust timeでやってきたんだからぁ!

そんな聞き分けの良い利口で可愛い自慢の娘を、新興都市だか何だか知らないけどこんな片田舎の周りに田んぼしかない広いだけのショッピングモールの入り口で一人寂しく三十分も待たせるだなんて、もう信じられない! Unbelievableよ!!

それに、今回のお話はやっとついにこのアタシが主役としてスポットライトを浴びる大切なSpecial episode timeなのよぉ!? この小説のメインキャラクターの中で一番可愛くて美しくて大人気キャラである、このアタシの回が今まで無かった事自体がおかしかったのよ! 第56話まで進行してきて今更遅いくらいだわ! 作者は悔やみなさい、那奈や小夜や翼ごときに話をダラダラと長引かせるから、いつまで経っても読者に評価や感想すらも書いて貰えないのよっ!

……ふぅ。まぁそれはこのアタシの優しいSweet heartで特別に許してあげるとして、そんな事もあって今日のアタシはとってもご機嫌で超ハイテンションなのっ! なのに……、なのに、ママったらたくさんの人ごみの中でアタシを一人だけにして人目に晒すだなんて、もし悪い人達に目をつけられて誘拐なんてされたりしたらどうするのよぉ〜!?

いやぁ、とっても危険な予感! アタシの身代金なんてとても十億円どころじゃ全然足りないわ! もうアタシ困っちゃ〜う、あまりにDangerousな展開で胸がドキドキワクワクしちゃう〜! まるでハリウッドの一流女優が、パパラッチの取材カメラの目を盗んでお忍びプライベートをEnjoyしてる気分にも似てるわぁ〜!



「いやぁ〜ん! すれ違う人みんながアタシの姿を見てるわ〜!? みんなしてこのアタシのPerfect bodyとSexy fashionに釘付けじゃな〜い! アタシったらスゴく可愛くて美しすぎるから、すぐに悪い狼さんに狙われちゃう〜! 怖い、怖いわ! 人にそんな悪意を抱かせちゃうアタシの魅力が自分でも怖〜い!!」



……ザワザワ、ザワザワ……



「……おい、何だあの子……?」


「……何か一人で喋って、何か一人でモジモジしてるぞ……?」


「ママー! あのお姉ちゃん、なーにー?」


「……シッー、見ちゃいけません……」



いやん、いやんいやんいやぁ〜ん! 左右上下360度からギャラリーの熱い目線を体全体にビンビン感じるわぁ〜! やっぱり、ちょっと都会から離れた片田舎のダッサい一般People達にはこのファッションは少し刺激が強すぎたかしら?

だって、日頃陸上で鍛え上げたこの自慢のピチピチ美脚を真っ赤な超ミニワンピースとロングストレッチブーツでアクセントをつけて惜しげもなく見せてあげてるんだもの、どんなに抵抗したって視線を奪われちゃうのは当然よねぇ?

でもね、アタシがもっとみんなに注目して貰いたいのは、ワンピースの上に羽織っているこのフリルがアクセントの真っ白なショート丈の新作カーディガン! 生地にとってもこだわってるこのカーディガンは通気性と保温性に優れているからAll season重宝するわよぉ? 着こなしを変えれば、お姉系から姫系まであっという間に変身出来ちゃう!

もちろん、これもそれもあれもみ〜んなママのオリジナル、世界の『ミシマ』ブランドでフルコンプしてるんだから! アタシだから超着こなしてるってのもあるけど、基本ママは日本人の女の子に似合うスタイルをデザインしてるから今この小説を読んでいる貴女にもピッタリお似合いだわ!

どう、もう欲しくてたまらないでしょ? 今すぐ急いでGetしとかないと出遅れちゃうわよ? 今なら公式通販サイトで会員登録して購入すればポイント20%UPのプレゼントもつけちゃうわ! みんな、ジャンジャンいっぱいAccess pleaseしてねっ!!

(注・もちろんそんなサイトは存在していませんので御了承下さい)



……ザワザワ、ザワザワ……



「……今度は一人でクルクル回り始めたぞ……?」


「……念の為、警察呼ぶか? それとも救急車か……?」


「ママー、あのお姉ちゃん何か楽しそうだよー?」


「コラッ! 指なんて差しちゃいけません!」



……Oops! やだぁ、アタシったらまだショーが始まる前だっていうのに、一足早く周りたくさんのギャラリーをすっかり魅了しちゃったみたいだわ。そうよね、本番はまだこれからだもの。慌てちゃダメよ、千夏?

それに、何てったって今日は今までのようなママの力で他のプロのモデルさん達と一緒に出させて貰っていたショーとは違って、このアタシが一人前のモデルとして世間に認められてソロのステージのオファーを受けた大切なお仕事なんだもの、こんな所で安売りは厳禁だわ。今からきっちり気を引き締めていかないとね!



「……でも、いくらなんでもママ遅すぎよぉ〜!? これじゃママよりソフィーの方が早くここに到着しちゃうわよぉ? アタシ達が先に準備して案内をしてあげなきゃいけない立場なのにぃ……?」


「……Chinatsu? Are you 『Chinatsu Mishima』?」


「……えっ? まさか、その声は……!?」



聞き覚えのある懐かしくて優しい声に後ろを振り向くと、あの時と何も変わらない背が高く足の長い抜群のスタイルに綺麗な金髪のロングヘアーを束ねた青い目の超美人白人女性の姿がそこにあったわ。彼女はアタシがイギリスに住んでいた時のもう一人のママのような存在。そして、アタシが世界で二番目に心からリスペクトする憧れのスーパースターなの!



「ワォ、ソフィー! I wanted to meet very much!!」


「Oh,really!? I wanted to meet you! Chinatsu,I love you!!」



彼女の名前はソフィー・影山・ヨハンソン。元スウェーデン代表の一流陸上選手で、世界陸上の走り高跳び競技で銀メダルを取った事もあるスーパーアスリートだったの! 現役を引退した後はパパのバイクの仕事仲間である影山 晶さんと国際結婚をして、それ以来アタシ達三島ファミリーともFriendshipなお付き合いなのよ!

現役時代の度重なるハードワークが悪影響となってなかなか影山さんとの間にBabyが恵まれないソフィーにとって、アタシと弟の千秋は本当の子供みたいに可愛がってくれて、仕事で忙しいママの代わりに小さい頃は色々と面倒を見て貰ってたの。

アタシとママが日本に移ってきた三年前の時には、パパと影山さんのお仕事の都合がつかなくてソフィーはまだこっちに来れなかったんだけど、今回その目処も立ってパパと一緒に日本にやってきたのよ! アタシにとってソフィーはママと同じくらい大切な人。アタシが陸上で走り高跳びを始めたのは、ソフィーみたいなカッコいいスポーツアスリートになりたかったからなのよ!



「ずっと会いたかったわソフィー! Welcome to Japan!! さぁ、アタシを思いっ切りギュ〜ってHagしてぇ!?」


「Chinatsu,You became beautiful! You may be more beautiful than Chiharu!」



約三年振りくらいのキス&ハグを済ませたアタシ達は久々の再開にテンションボルテージがアップアップ! イギリスから発つ前にハグした時はアタシの頭がソフィーの腰のちょっと上くらいしか届かなかったけど、今回はついに胸の辺りに頭が届くようになったわ! アタシも日々着々と成長してるって証拠ね!



「やだぁ、ママよりキレイだなんてちょっと言い過ぎよ、ソフィー? ママが聞いたら嫉妬しちゃうわ?」


「Oh,It's truth. You're very beautiful! It is not a compliment...」


「お世辞かどうかは別としてぇ〜、チッチッチッ、ソフィー、ここは日本よ? ソフィーはこれから日本人のお嫁さんとして身も心もJapaneseにならなきゃダメなんだから、言葉には気をつけないとねっ!?」


「ワォ、ソウデシタネー! コレカラハ ニホンゴデ ハナシマース!」


「スゴ〜い! ソフィーもずいぶん日本語が上手くなったのねぇ〜! ソフィーもちゃんと成長してるんだぁ〜?」


「チナツモ セイチョウシテ オモクナッタネー? モウ、Hagシテモ モチアゲルコト デキマセーン!」


「ちょっとぉ〜!? 日本のLadyに『重くなった』はタブーよぉ!? Quit it!」


「Oh,Sorry! ニホンゴ、ヤッパリ ムズカシイデスネー!」



でも、ソフィーの頬にキスするには子供の頃みたいに持ち上げて貰わないと無理だったのよね。だってソフィーの身長は軽く185センチオーバー、あの航ちゃんと良い勝負が出来るくらい背が高いんだもん。アタシはこの前やっと167センチになったばかり、手が届くのがやっとね。まだまだカルシウム摂取量が足りないのかなぁ? もっとミルクとお魚採らなきゃダメねぇ〜?あっそうそう、ちなみにソフィーはアタシのもう一人のCookingのコーチでもあるのよ! 料理のバリエーションや味付けとかはママから全部教えて貰ったものだけど、栄養学やサプリメントなどに関してはソフィーから学んだものなの! 練習や試合で消耗した体力を回復するには、やっぱり栄養補給が一番重要だもの。もちろん、アタシとママはこの知識をしっかり美容にも生かしてるけどねっ!



「チナツ、チハルハ ドコニ イル? マダ コナイ?」


「あっ、そうだわ! あまりに遅過ぎて、すっかりママの事忘れちゃってた!」



そうよそうよそうよぉ、ママはアタシとソフィーをこんなに待たせて、一体どこで何をしてるのよぉ〜!? もう約束の時間から一時間も経ってるじゃない! まさか、どこかで交通事故にでも巻き込まれたのかしら!?

そういえば、昨日は昔からの親友である那奈のママの麗奈さんと、久し振りに一緒に夜遊びに行ってたらしいから心配になってきたわ。二日酔いで飲酒運転なんかで捕まってたりしないかしら? もし、ママが逮捕されちゃったりしたらアタシ、今日この後どうすればいいのよぉ〜!?



……ピロロロロ、ピロロロロ……♪



「……あっ、携帯! ママからだわ!」



んもぉ〜う! あまりにIt's too lateよママ! アタシはおろか、ソフィーまでこんなに待たせて心配ばっかりかけて、相変わらず時間にはルーズなんだから! 今日という今日は、たとえ相手がママでもアタシがガツンと言ってお説教しちゃうんだから!



「もしもし、ママ!? 今どこにいるのよぉ!? アタシをこんな所に一人にして、ママはアタシの事が心配じゃないのぉ!?」


「Hello!? 千夏? もうショッピングモールには着いてるわよね? ソフィーはもう到着してるかしら? 合流出来た? お疲れちゃ〜ん! 今やっと駐車場の中に入れたわ、もうスッゴい渋滞してるのぉ! 日本ってやっぱり車社会なのねぇ〜、こんな狭い国に何でこんなに車がいっぱいあるのかしらねぇ〜?」


「もう、とっくに到着してるしとっくにソフィーとも合流してるわ! 遅れるなら遅れるで何で電話一本くらい連絡をしてくれないのよぉ!? 最近のママは少し自分勝手で何か冷たいわよ、ママはこんなに可愛いアタシの事を放っておいて心配じゃないのぉ!?」


「昨日ねぇ、麗奈と朝まで飲んじゃって、お酒がなかなか抜けなくて出発が遅れちゃったのよ、ゴメンねっ? それより千夏、麗奈ったら相変わらずムチャクチャでスッゴいのよ? お店のボトルを全部空にしちゃったかと思ったら、ホストの男の子達全員を床に正座させて三時間もお説教しちゃったの! 『サービスが悪い』とか『長髪は切れ』とか『茶髪はウザい』とか『チャラチャラするな』とか『丸坊主になって滝に打たれろ』とか『マグロ漁船に乗って精神鍛え直せ』とか、言いたい事言いまくってもうやりたい放題! そんな事を言われたって彼らはそれが仕事なんだし、それを否定されたらホストの面目なんて完全に丸つぶれって感じよねぇ? 男の子達、困り果てちゃってみ〜んな揃いも揃って涙目になって、中には土下座して『帰らせて下さい!』とか『助けて、お母さ〜ん!』とか言い出す子もいて、ママはそれを横で見てて腹筋が捩れるくらい大爆笑しちゃった! もうここ数年でも最っ高の楽しい一夜だったわ〜!」


「……ねぇ、ママ? アタシの話を良く聞いて? あのね、そんな話はどうでもいいのっ! アタシはママとの約束を守る為に、もう一時間もここでずっとママの事を待っているのよぉ!? ママは那奈のママと楽しくお酒が飲む事が出来れば、その後の自分の娘との約束はどうでもいいとでも言いたいのぉ!? もうママは、こんなに良い子で可愛いアタシの事を愛してくれてはいないのね!? ママはアタシの事が心配じゃ……!?」


「あっ! あったあった! 駐車場の空きスペースが見つかったわ! ねぇねぇ千夏、ママはこの後色々と忙しいからぁ、そこからこっちにソフィーを連れて迎えに来てくれるかしらぁ〜? えっ〜とねっ、ここは三階のBエリアの82番のパーキングエリアよ、わかるかしら? 持っていって貰いたい荷物もそこそこあるから急いで来てねぇ〜? じゃあ、また後でねっ!」


「ちょ、ちょっとママ? ママー!?」



……ツー、ツー、ツー……



……何よ、この完全に一方通行な怒涛の通信状態は。これって携帯電話よねぇ? トランシーバーじゃないわよねぇ? アタシの声はちゃんとママの元に届いているはずよねぇ? ……なのに、なのにぃ〜!!



「Oh,shit! Oh,my god!! どうしてママはいつもいつも人の話をちっとも聞こうとしないのよぉ!? もう訳わかんない! Unbelievable!!」


「……チハルハ、イマモ カワラズ Going my way ナンデスネー……」



んもぉ〜う、ママと電話でお喋りするといっつもこうなんだから! 自分の喋りたい事だけ全部喋って勝手に電話を切るんだもん、これじゃまるで留守番電話と喋ってるみたいじゃない! あるいは時報やガイダンスの音声案内とお喋りしてるようなものだわ、アタシ一人バッカみたい!

しかも、ショーモデルとして招待されたこのアタシに荷物持ちをさせようとするだなんて、アタシはママのお店の従業員なんかじゃないのよ!? 全然、母としての愛情が感じられないもの。虚しい、悲しい、寂しいわ! 最近の子供達が非行に走る原因の一つは、親の愛情不足からくるものだっていうのにぃ! 仕事で忙しくなる前のママはこんな冷たくなかったわ。アタシはもう、ママにとっていらない子になってしまったの……?



「……チナツ、ゲンキダシテ クダサーイ? ワタシ、チナツノ ミカタネ! Smile デス、Smile!!」


「……Thanks... ソフィーは優しいのね、アタシ、涙が出ちゃいそう……」



優しくて、Hagしてくれるととっても温かいソフィーは落ち込むアタシを気遣いながらママがいる駐車場の場所まで一緒についてきてくれたわ。んもう、ソフィーにまで迎えに来させるなんてママったら……。これ以上冷たくしたらアタシ、ママの事キライになっちゃうんだからねっ! ソフィーの家の子供になっちゃうんだからねっ! ママが泣いて謝ってても帰ってなんてあげないんだからねっ! アタシ本気よ、ママなんてもう知らないっ!!


……ううん、でもきっと、今頃ママもアタシに冷たくした事を反省して落ち込んでいるはずだわ。だってアタシはママの一番の宝物、愛しい愛しい世界でたった一人の自慢の娘だもの! 悲しむアタシの姿を見たら、急いで駆け寄ってギュッってHagしてくれるに決まってる! ママ、待っててね! アタシはもうすぐそこまで来てるわ!



「……あの駐車場のナンバー、あの見慣れたオフロード4WDの真っ赤な車、あの美しい髪をしたステキな女性の後ろ姿、見つけた、見つけたわママ! アタシはここよ! 寂しかった、ママに会いたかった、ママ! ママ〜!!」


「んもぉ〜う! おっそ〜〜〜〜い!! こんな車の排気ガスまみれの場所に五分も待たせるだなんて、千夏はもうママの事を愛してくれてないのぉ? ママ、スッゴく虚しい、悲しい、寂しい! 昔はそんな聞き分けの悪い子じゃなかったのにぃ! あんまりよ、あんまりだわ、千夏!?」


「……Fuckin' mom...!」


「……あら? 何か今、小さい声で物凄い汚らしい言葉が聞こえてきたような気がするんだけどぉ〜? 千夏、何か言った?」


「ううん、な〜んにも! 今日も大好きなママに会えて、アタシ超Happyだわぁ〜!」


「そうよねぇ、千夏がママにそんなヒドい事を言う訳がないわよねぇ〜? だって、千夏は可愛い可愛いママの大切な宝物だもの、愛してるわ、My baby!」


「……そうよ、ママ! その言葉、アタシはその言葉がずっと聞きたかったの! アタシもママの事を世界中の誰よりも一番愛してるわ! ねぇママ? ママの愛しい愛しい世界でたった一人の愛娘を、息が苦しくなるまで思いっ切りHagしてたくさんの愛情をアタシに注いで頂戴!? 愛してる、大好きよ、ママー!!」


「でねぇ、今この車の後部座席に積んでいるのがその荷物なんだけどぉ〜?」


「……ギャフン! 痛ったぁ〜い!!」



母子の熱い絆を再確認しようと、アタシは両手を広げてママの胸に向かって一直線にダイビング! ……のはずが、ママはそんなアタシに目もくれずに車の後部に回ってドアを開け、中に積んである荷物をガサゴソと外へと取り出し始めた。おかげでアタシは勢い余って車のガラス部分に思いっ切り頭をぶつけちゃったじゃない!? 痛い、身も心もスゴく痛い! おでこにたんこぶまで出来ちゃったじゃない、こんなのあんまりよ、ママ!?



「じゃあ千夏、早速だけど車に積んである荷物を全部会場まで運んでくれるかしらぁ? 今回のステージを提供して下さったショッピングモールの関係者様達へのお礼の品とかたくさんあって、ママ一人だけじゃとても持っていけないのよぉ〜! もうショーの開演まで時間があまり無いから、急いでお願いねぇ〜!」


「……いった〜い、おでこ赤くなってる〜! つーか、時間が無いのはママが遅れたせいじゃない……!」


「あら、隣にいるのはもしかしてソフィー? ソフィーよねぇ!? ウッソ〜、全然変わってなぁ〜い! What'up!? おげんこ〜? お疲れちゃ〜ん!」


「Wow! Hey,chiharu! オゲンコー!? オヒサシブリネー、オツカレチャーン! Everytime,You are very very beautiful デスネー!」


「……んもぉう! ママったらやっぱり、全然人の話を聞いてくれていないんだから!」



……ソフィーとは熱いHagをして久し振りの再会を喜んでいるのに、ママったらアタシだけ放ったらかしで完全に無視されてるみたい……。しかも、今日はこのアタシが主役のはずなのに、こんな虚しい粗末な扱いをされるだなんて……。もう嫌、アタシってママにとって一体何なのかしら? もう、アタシにはママの事がわからなくなってしまったわ。

今日のショーはママがソフィーの協力を得て、新しい『ミシマ』スポーツファッションブランドを日本で初御披露目する大切なイベントで、ソフィーにとっても引退後初の本格的な第二の人生の出発の日。アタシにとってもこのショーは、世界のスーパーモデルへの飛躍の第一歩となる待ちに待ったソロのステージなのよ? 今日はアタシ達三人にとって、最高の一日になると思って楽しみにしてたのに……。

なのに、予想外のママの態度に、アタシのテンションはすっかり下がってしまった。何か今、この中で一人ぼっちになってしまったみたいでとても寂しい。ママの瞳に、もうアタシの姿は写ってないのね? アタシ、そんなに悪い子だった? ママにはもうアタシは必要無いのね? だったらアタシ、ホントに家出しちゃおうかなぁ? もうアタシなんて、アタシなんて……。



「……あら? ちょっと千夏、ずいぶんと元気が無いじゃない、どうしたのぉ? そんな湿気った顔をしてたら、とてもギャラリーの前でモデルなんか務まらないわよぉ? スマイル、スマイル!」


「……別に、何でもないわ……」


「……う〜ん? それとも、どこか具合でも悪いのかしら? 風邪でもひいた? お腹痛いの? ダメよぉ、あれほど健康管理には注意しなさい、ってママ言ったじゃない! 冷たい物ばかり食べ過ぎたんでしょ? これだから千夏はまだまだ子供……」


「……何でもないったら、何でもないってば!! もう、構わないでよっ!!」


「いやぁ〜ん! 千夏ったら怖〜い! どうしてそんなに怒ってるのぉ? 最近千夏、勇ちゃんに似てきて怒りのスイッチの場所がママには良くわからなくなってきたわ? もしかして、これって年頃の女の子特有の反抗期ってヤツなのかしら? んもう、忙しいのにそんなワガママまで言われたら、ママはどうして良いのかスゴく困っちゃ〜う!」



……もうヤダ、涙が出てきちゃった……。


一人前のモデルとしてソロのステージに立つアタシの晴れ姿を、ママはもっともっと喜んでくれるかと思ってたのに。結局、このショーもママにとってはタダのお仕事の一つ、アタシはその駒の一つに過ぎないのね? そうよね、だっていくらアタシのソロのステージだって言ったって、実際にショーのプロデュースをしてるのはママなんだもん。何が一人前よね、自分で笑っちゃうわ。

どうせアタシはママがいないと何もできないダメな女の子、そんなお荷物な娘の事なんて、ママにとったらどうでもいい、邪魔な存在なのね? 今のママにとってはお仕事が一番で、アタシやパパや弟の千秋の事なんて忙しくて構ってなんていられないのよね? ファミリーがみんなバラバラになっちゃったって、ママは寂しくないのね!? だったらもういい! アタシだって、ママなんてもういらない! ママなんて大嫌い! ママなんて、もうママなんて……!



「……グスッ、ウゥッ、グスッグスッ……」


「……千夏? 泣いてるの……?」


「チハル、ワルイデース! チナツ、トテモ カワイソウデース!」


「えっ? ソフィーまで、どうしてぇ?」


「チナツハ ヒトリデ チハルヲ マッテテ トテモ サミシカッタデース、チハルニ Hagシテホシクテ チナツハ ズット ガンバッテタヨー?」


「……千夏が、寂しがってる……?」


「Businessハ トテモ ダイジネ、But, Familyハ モットモット Very very ダイジヨ! ワタシハ Baby, Nothingダカラ スゴク ワカルネ! チナツハ Mamaガ ダイスキ デス! ダカラ、チハルモ モット ダイスキ シナイト チナツ サミシイヨー!」


「……ソフィー……」


「チナツハ Very good girlデース! ワタシ、チハルニ Jealousyシマース、チナツヲ ナカス、ワタシ ユルサナーイデース!」



張り裂けそうなアタシの心の叫びを、ソフィーが片言の日本語で必死にママに向かって代弁してくれた。ソフィーはやっぱりアタシのもう一人のママだわ、アタシが思っていた事を簡単に見抜いちゃった。三年振りの再会でも、ソフィーの愛は今でも変わらずとても温かかった……。



「……そうね、確かに、ソフィーの言う通りかもしれないわ? 日本に帰ってきてから仕事が忙しくなって、ちょっと家族の事を蔑ろにしてたかもしれない、千夏の事も、勇ちゃんの事も……」


「コノマエ、アキラガ オシエテクレタ ニホンゴデース! 『フウフエンマン』、『カナイアンゼン』、Very very wonderful wordネー! チハルは ステキナ Wife and mamaヨー! コレカラモ、Tendernessナ Super ladyデ イテネー!」


「……そうね、そうよねっ! せっかく昨日、麗奈に『最高の女性の一人』だって褒めて貰ったのに、こんな事じゃまた怒られてお尻を叩かれちゃうわ! 仕事も家事も全部こなしてこその主婦のカリスマ・三島千春だっていうのに、こんな事じゃ主婦どころか母として、女として失格だわ! ありがとうソフィー、おかげ様ですっかり目も酔いも完璧に覚めたわ!」


「Yeah, all right! Don't worry, Baby!!」


「千夏、ごめんなさい! ママが間違っていた、ママが悪かったわ! 寂しかったでしょ? ホントはママも寂しかったの! アナタはママにとって、仕事より大切な世界でたった一つの宝物、アタシの自慢の最高傑作よ! さぁ、早くママの腕の中に飛び込んできて頂戴!」



ママはソフィーのほっぺにお礼のキスをすると、優しい笑顔でこっちに振り向いて両手を広げてアタシを呼び寄せてくれたの! アタシ、スゴく嬉しくって涙がこらえきれなかった! もちろん、アタシは急いでママの胸に向かって一直線に飛び込んで行ったわ!



「……ママ、ママ! 大好きよママー!!」



涙でグシャグシャになったアタシを、ママは優しく抱き締めて頭をナデナデしてくれた。ママの胸はいつもみたいにスゴく温かくて、とても優しかった。やっぱり、アタシのママは世界一のママだわ! 仕事でも家事でも何でも出来ちゃう、アタシの自慢の最高のママなんだから!



「……グスッ、ママの腕の中、スゴく暖かいわ……」


「何よぉ、たかだかこれくらいでそんなに泣く事ないじゃない? 千夏はまだまだ泣き虫のお子ちゃまさんなのねぇ?」


「……グスッ、エヘヘッ、ゴメンね、ママ!」


「……じゃあね、そんなママの大好きな自慢の娘だからこそ、特別にお願いしたい事があるんだけど、いいかしら?」


「えっ、なになに? アタシ、ママが喜んでくれるなら何だって頑張っちゃう! だってアタシはママの最高傑作だもの! いっそもう、ショーの段取りを全部任せてもらったって全然No problemなんだから! さぁママ、お願いを言って!? どんな願い事でもアタシが全部叶えてあげるわ!」


「それじゃあねぇ、さっき言った通りアレとコレとソレとコレとアレらの荷物を全部ショー会場まで運んでくれるかしら? ママはこれからソフィーと一緒にショッピングモールのステージ担当者と打ち合わせしなきゃいけないのよぉ〜?」


「……あっ、そう? 結局、これ全部アタシが運べっ事なのね? あっ、そう? そうなんだ? ふ〜ん、結局、アタシってママの可愛い可愛いお使いペットって事だったのね……」


「だって今、千夏『No problem』って言ったわよね? この仕事は今ね、千夏じゃないと出来ない、任せる事が出来ない大切なものなのよ? このショーの成功は全てあなたの力にかかっているわ、期待してるわよ、千夏!」


「……騙されない、もう騙されない、アタシ、もうママの言葉に泣いたりなんてしないわ、また一つ、アタシは女の醜い部分を垣間見て、大人の女性への階段を上っていくのね……」



……何よ、何よ何よ何よ! 結局アタシの役目ってママの荷物持ちだけじゃない! このショーのアタシの役割ってタダの雑用係!? 何でステージの華やかな主役であるショーモデルがこんな雑用までしなきゃいけないのよ!? 荷物持ちくらい別でアルバイトを雇えばいいのに、バッカみたい!

しかも、何なのよこの荷物の量、どこがちょっとなの!? アタシ、ここと現地を何往復すれば全部運び終わるのよぉ!? やっぱりママはアタシの事なんか愛してなんてくれていないんだわ! あんまりよ、これじゃアタシちっとも報われない! まるで意地悪な召使いに虐められる、惨めな悲劇のヒロインじゃない!



「……荷物って、組み立てデスクとかディレクターズチェアとか、全然ショーに関係ないママの私物ばっかりじゃない! しかも助手席には悪趣味な大きなクマかゴリラみたいな気持ちの悪いぬいぐるみまで乗せてきて、こんなにたくさん一人で持っていける訳ないでしょ〜!!」



……あっ、そうだわ。そうよそうよそうよ! ゴリラよゴリラ! アタシとママのラブラブな関係が少しずつおかしくなってきたのは、忘れもしないあの悪夢のあの日のあの時! あの不細工ゴリラこと柔道バカ澤村一茶が、アタシの目の前にヒョコヒョコと現れたあの高校の入学式の日からだったわ!

可憐で美的で才色兼備な学園のスーパーアイドルであるこのアタシを、見た目だけでメチャクチャにけなして踏み潰してくれたあのFuckin' beast! ううん、入学式どころじゃないわ。あの電車で初めて会ったあの時から、あのゴリラのせいでアタシの華やかなセレブリティライフの歯車がギリギリと狂い始めたのよ!

しかも、よりによってまさかママがアイツのスポンサーになるだなんて! いくらお仕事の上でやむを得なかった契約だったといっても、アタシの大切なママがあんなクソゴリラの為に色々とサポート役に回らなきゃいけないだなんて、アタシにとってこんな侮辱は他に無いわ! 絶対に許せない話よ!!

間違いなく、あの日はアタシの人生においと一番最悪の一日だったわ。あの男さえいなければ、今頃アタシとママは仲良く幸せなセレブリティライフを堪能していたはずなのにぃ!! アタシがこんな辛い思いをしてるのは全部アイツのせいだわ!! アイツのせい、アイツの、アイツの……!



「……マ、ママ……?」


「ん? 千夏、どうかした?」


「……これ、ぬいぐるみじゃないよね? 何、コレ……?」



見た感じゴリラのぬいぐるみかと思っていたバカデカい助手席の物体は、良く見るとダッシュボードに頭をつけてうずくまってウーウー唸ってる。嫌ぁ! これって生き物じゃない! 何よコレ!? エイリアン!? キングコング!? ジェイソン!? それともターミネーター!? こんな危なそうな未確認生物まで連れてくるだなんて、ママったら一体何を考えてるのよぉ!?



「あぁ、そうそう! ごめんね、すっかり忘れちゃってたわ〜! ソフィー、ご希望の日本男子を用意したわ! 満足してくれるかしら!?」


「Wow! It's a SAMURAI BOY! Amazing! Excellent! Very very fantastic, Yeah!!」


「……『サムライ・ボーイ』……?」



助手席のドアのガラス越しにその生物の姿を見たソフィーは飛び上がって大喜びしてる。恐る恐るアタシも窓を除くと……。



「……Oh,no... Oh,my god... Oh,my god! Oh,my god! Oh,my god!! Noooooooooooo!!!!」



……嘘よ。嘘よね? 悪いジョークよね? 夢だわ。これは夢だわ! ママが、アタシの大好きなママがこんな事をする訳ない。アタシが世界で一番大切だって言ってくれたママが、アタシが宇宙で一番嫌がる事をする訳がないわ!

信じない、アタシは信じない! これは悪夢よ、アタシは悪夢を見ているんだわ! 早く目を覚まして、起きるのよ、千夏!!



「……ママ、やめて、お願い、アタシをこれ以上イジめるのはやめて、お願いママ、ママ……!?」


「長時間のドライブご苦労様! 無事に現地に着いたわよ! 調子はどうかしら、澤村君?」


「Nooooooooooooo!!!!」



Why,why,why!? 何で!? どうして!? どうしてよぉ〜!? どうしてここにこの不細工ゴリラがママと一緒にやって来ているのよぉ!? 何でうちの車の助手席にコイツがちゃっかり乗ってたりするのよぉ!? もう訳わかんない、頭壊れそう! I Don't know! I Don't know! んもぉう全然アイドンノォウ!!



「……ママ、ママ、ママ? なぜ? どうして、どうしてママはこんな残酷な事をアタシにするの……?」


「あら? 千夏にもちゃんと話したはずよ? 今日のショーは、以前陸上選手だったソフィーや他の契約スポーツ選手達に色々と素材や運動機能などを監修してもらって、以前の『ミシマ』ブランドで培われた最新のデザインや装飾を施して作り上げたママの自信作、プロのアスリート選手から一般のスポーツユーザーまで幅広くカバーする新ブランド『HMスポルティーボ』の御披露目ステージだって!」


「それは聞いてる、聞いてるわ! でも、それとこのゴリラが何でここにいるのかは全然説明になってないし、アタシは何も聞いてないわ!」


「どうしてぇ? だって澤村君はこのブランドとスポンサー契約をした現役の柔道選手なのよぉ? それにね、今日はいつものファッションショースタイルとは違って、クローズステージのブース内の中だけで全国の教育関係者を招待して、私立や公立の学校用の公認スポーツウェアの契約マネージメントと販売用のカタログ作りをする予定でいるのよ? だから、スーパー高校生柔道家として全国的な知名度がある澤村君には、是非とも特別ゲストとしてイベントに参加して欲しいって関係者やソフィーからもリクエストがあったのよ!」


「……カタログ、作り? 教育関係者だけの御披露目? ちょっと待って、じゃあアタシのソロステージの話は何!? あの話は一体どこにいっちゃったのよぉ!?」


「だからぁ、千夏には女性用スポーツウェアのモデルとして、教育関係者の前で小さなステージに立ってその着こなし姿を御披露目して貰うのよ! その時、舞台の上には千夏、アナタだけだわ! アナタ一人だけが役所のお偉いさん達の視線を一点に受けるのよ! どう? 今からワクワクしない? ねっ、ちゃんとママの言った通りのモデルのお仕事になっているでしょ?」


「チナツナラ キット High school studentsノ ミンナノモデルニ ナレルネー! ミンナ、チナツニ クビッタケヨー!?」



……騙された。騙されたわアタシ。騙された騙された騙されたぁ!! アタシ、完全にママに騙されたぁ〜!! 何よ、何がソロのステージよ! こんなのファッションショーって言うより、ホントにマネキン一体あれば済んじゃうタダの体操着のカタログ作りじゃない!

ステージだのショーだのモデルだの色々言われるから、すっかりいつものあの賑やかなファッションショーだって勘違いしちゃったじゃないのよぉ!! 何が一人前のモデルとしての晴れ舞台よ、これじゃエキストラのモデル募集を応募してきた一般の女子高生と同じ扱い、アタシ自身がアルバイトみたいなもんじゃないのよぉ〜!?



「ヒドい、ヒドいわママ! アタシ、本気でこのステージを踏み台にして、遂に華やかなトップモデルの世界へと飛び立てるって夢見てたのにぃ! まるでビックなイベントのショーの主役に抜擢したみたいに振る舞って、喜んで有頂天になるアタシをまんまと騙していたのねぇ!? 何で、どうしてぇ!? どうしてママはけんなに可愛くて素直なこのアタシにそんなヒドい嘘を真顔でついたりするのよぉ〜!?」


「だってぇ〜、それくらい言って連れてこないと千夏、学校用のジャージとか体操着とか人前で着たりしてくれないでしょ〜? あとぉ、部活動用のテニスウェアとか弓道着とか競技用水着とかぁ〜」


「……嫌、嫌、嫌ぁ〜!! ジャージはともかく、テニスウェアや水着だなんて、そんなのまるで秋葉原のコスプレ写真会じゃない!! ママは十代の汚れの無い無垢な自分の娘のあられも無い姿を、たくさんの教育関係者のおっさん達の目前に一人で晒すだなんて、そんな卑劣で卑猥な真似をして何とも思わないのぉ!?」


「でねぇ、女性モデルは千夏でOKとして、問題は男性モデルを誰にしようかスッゴい迷っちゃったのよぉ〜? 千秋はまだイギリスから帰ってこないしぃ、いくら何でも勇ちゃんにやらせるには学生として歳取り過ぎちゃってるしぃ〜?」


「お願いママ、アタシの話を聞いて! アタシにとってはこれからの人生にかかわる大事な話なの! ママはアタシが恥ずかしい思いをしても平気なの!? ホントにママは、もうアタシの事を愛してくれて……!」


「そこでね、ソフィーからはやっぱり勇ましい『日本男児』っぽい男の子がモデルとして適任じゃないかってアドバイスされてね、じゃあって事で澤村君をモデルとして抜擢したのよ! 背が高くてガッチリしてるし、なんてったって現役柔道選手だもん! ジャージや体操着が似合わない訳がないわ、きっとコマーシャル効果も絶大よ! 千夏と澤村君がモデルだったら、きっと相性バツグンでステキな学校用カタログが完全すると思うわ!」


「ニホンノ サムライ、ワタシ ダイスキネー! JUDO、サイコウネー! クロオビ、ワザアリ、イッポーン!」


「嫌ぁ〜!! いやイヤ嫌ぁぁぁぁ!!!!」



……もうダメ。アタシ、終わったわ。もう終了。死んだも同然よ。


タダでさえ公務員連中の前で恥ずかしい姿を晒さなければならないっていうのに、それを世界中で一番大嫌いなこのバカゴリラと一緒にしなければいけないだなんて。しかもこの姿がカタログになって全国の学校に配れちゃうんだわ。どうしよう、こんな事がもし翼達に知れたら、アタシこの先、生きてなんていけない……。


Oh,Jesus! アタシはそんなに親不孝で悪い娘でしたか? なぜ、こんなヒドい仕打ちをアタシに与えるのですか? 美人薄命ってホントの話だったのね。絶世の美少女として生まれ、美しい女性へと成長したアタシの姿そのものが、神の怒りを買ってしまう重罪だったんだわ……。

あぁ、アタシの愛しき王子様、あなたが世界中を探し求めている姫はここにいます。意地悪な母親とまま母と凶悪な野獣に暗闇の檻へと閉じ込められて、その愛の命の炎は風前の灯火。どうかこの地獄の様な現状から、アタシを救い出してステキなお城へと連れ去って下さいませぇ〜!?



「うー、うー」



……んもぉ〜う! さっきから車内に響くこの家畜みたいな唸り声が耳障りでメチャクチャウザい! 現実逃避すらまともに出来ないじゃない! 元はと言えば全ての悲劇の始まりはこのFuck野郎のせいよ! このFuckin'jap monkeyさえアタシの前に現れなければ、今頃アタシの青春時代はロマンス映画顔負けのドラマティック・ストーリーになっていたのにぃ!!



「ちょっとアンタ! 何を馴れ馴れしくママの車なんかに乗ってんのよぉ!! この車の助手席はアタシだけのスペシャルシートなの!! アンタみたいな巨体が座ったらシートが痛むでしょ!? さっさと降りなさいよ、Fuck off!! Get out way!!」


「臭い」


「……What!? 何ですって!?」


「酒臭い」



……あっ、そういえば何か車の中、スッゴい不快な臭い! 何よこのアルコールと汗臭さと酸っぱいのが混ざってゴチャゴチャになった頭の痛くなるこの臭い、こんなのファブリーズでも絶対消えないわよ!? 一体何を積んだらこんな臭いが車内に残るのよぉ!? もう、訳わかんない臭い!!



「あっ、ごめんなさいね澤村君? それはきっとね、アタシが澤村君を迎えに行く前に車に乗せてた麗奈のお土産の残り香だと思うわ〜? 麗奈ったらスゴいハイペースでガンガンチャンポンしてお酒空けちゃったから最後悪酔いしちゃってね、送ってる最中に何回か後部座席でゲロゲロゲロ〜ってリバースしちゃったのよぉ〜!」


「……Oh,my god... No! Oh,Mom. No! No,no,no,no,no...!」


「時間が無くてとても洗車してる余裕が無かったのよ、ごめんなさいね? もしかして澤村君、酔っちゃったかしら? 千夏も帰りはちょっと車の中が臭いかもしれないけど勘弁してね、お願〜い!?」


「Nooooooooooo!!!!」



……壊れていく、壊れていく。アタシの居場所が、アタシの世界が、アタシそのものがママとの思い出と一緒に壊れていくぅ!! アタシの大切な家族が、華麗なる一族である世界の三島ファミリーが、野蛮な人間達に腐食されていくぅぅぅぅ!!



「バカバカバカ! ママのバカ! ママなんて大っ嫌い!! みんな大っ嫌い!! バカァーーーー!!」


「いやんいやんいやぁ〜ん、そんなに大声出したら怖ぁ〜い! 千夏ったら、いつからママに向かってそんなヒドい言葉をぶつける様になったのよぉ〜!? ママはそんな悪い子に育てた覚えなんてないのにぃ〜!? きっとカルシウムが不足してるのね? ママ今度ね、美容サプリメント商品のプロデュースもやってみようと思ってるの〜! その時はまた、千夏にモニター参加者としてサポートお願いするからどうかよろぴくねぇ〜!?」


「Fuuuuuuuuuuuck!!!!」



G,Wの昼間の立体駐車場に断末魔の様な叫び声が響き渡り、辺りは真っ白く火山灰で埋め尽くされた。アタシが正気を取り戻した頃には、方向性を失ったドライバー達が上下階あちこちで追突事故を起こして車が一本の紐みたいに一列に連なっていた。ママもソフィーもアタシの火山灰ですっかり真っ白になっていたわ。みんな、アタシの迸る熱いジェラシーの炎に燃え尽くされてしまったのね……。



「……またやっちゃった、アタシったら、やっぱり罪作りなイケない娘……」


「チナツ コワイネー、オコルト パパ ソックリネー」


「とにかく酒臭い」



もう、こうなったらテニスウェアだろうがスクール水着だろうが何だって着てやろうじゃない! アタシがどんなファッションでもイケちゃうスーパーモデルって事を、ママとソフィーの目の前で証明してみせるわよ! そして、この車酔いしてる家畜ゴリラとは役者が違うって事を全員に思い知らせてやるわ! 覚悟なさい、澤村一茶!!



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