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第46話 もっと



「わーい! 瑠璃ちゃん見て見てー! ベイブリッジだよー、海が見えるよー、お船が見えるよー!!」


「わー! おふねおふねー! プカプカういてるー!」



やっほー! 今年もゴールデンウィークがやってきたよー! あたし、真中小夜は今日ねー、瑠璃ちゃんのお母さんのお墓参りに、みんなと千葉のある田舎町へと車に乗ってお出掛けでーす! 瑠璃ちゃんと航クンはもちろん、遠藤先生や彰宏お兄さん、そしてあたしのお母さんも一緒なんだよー!



「……わざわざ車まで出して戴いて、お手数おかけして誠に申し訳ありません、日を改めて真中さんには私達から何か御礼を……」


「あ〜ら遠藤先生、これくらいお気になさらないで下さ〜い? お墓参りのお話を伺ったうちの小夜が、どうしても瑠璃ちゃんと一緒に行きたいって言い出して利かないものですから〜、いつもいつも皆様にばかりご迷惑をかける訳にはいきませんもの〜」


「しかし、私も車を一台所有しているというのに、こんな立派な広々とした外車と運転される方まで用意して下さるとは、流石は世界で大活躍されている音楽プロデューサーの奥様で……」


「……あの、先生? それに皆さん? 一つ誤解のないように言わせて戴きますけど、とりあえずこの車は僕の個人の車であってですね、それに僕は何も自らの好意で今日皆さんに車を提供した訳でもないですし、いつもいつも真中家の運転手をしている訳でもありませんから! ちゃんと僕には『サンライズ・ファクトリー』の国内の事業運営や経営戦略を海外にいるマスターから任されているエグゼクティブ・ディレクターという仕事上の立場でありましてですね、それから……」


「ごめんなさいね、井上さ〜ん? せっかくのゴールデンウィークのお休みを無理難題言って同伴させちゃって、とっても感謝してますわ〜」


「……いえ、マスターとご夫人から直々のご依頼ですから、僕にはとても断る事など出来ませんし……」


「井上さん、車運転してる姿カッコいいなー! やっぱり井上さんはおとーさんの一番のお友達だねー!」


「……どうも、ありがとうございます……」


「そういえば井上さん、さっき何か一生懸命お話してたところを私と小夜ちゃんでお邪魔しちゃったみたいだけど、何かしら〜? 私達は黙ってますから、どうぞお気になさらずにお話を続けて下さ〜い?」


「……いえ、あの、もう結構です……」



そうなんだよー! 今あたし達が乗っている車は、麻美ちゃんの歌手デビューを手伝ってくれていたあの井上さんの車なんだよー! 外の色は真っ黒でピカピカで、中はスッゴく広くて座席が三列あってねー、とてもいい匂いのするカッコいい外車なんだよー! 何て名前だっけ? えーと、黒い丸の中に交互に白と水色のマークが付いてたから、確かBWHだったっけ?



「…………BMWだよ」



あっ、そうだった。間違えちゃった、エヘヘ。やっぱり航クンは物知りだなー! あたしは外国の車の名前なんて全然わかんなーい。スゴくおっきなやつとか平べったいやつとか、変な形ばっかりなのに何でみんなそんなに外国の車に乗りたがるのかなぁ?

そういえばあたし、小さい頃に名前を覚えたばかりのベンツの車を見て『ベンキ、ベンキ!』って指差したらパンチパーマの怖いおじさん達からギロッて睨まれた事があったなー。一緒にいた那奈に頭をバシバシ叩かれて腕を引っ張られったっけ。何であんなに怒られたんだろう、たった一文字だけ間違えただけなのにー。



「え〜と、神崎さんでしたっけ? ウフフ、新妻の麻美ちゃんと赤ちゃんの体調はいかがかしら? 健康に過ごしていらっしゃいますの〜? ちゃんと栄養も取れていらっしゃいますの〜? もうすっかり、お腹も大きくなったのかしら〜?」


「……あっ、はい、お陰様でとても順調で、母子共に健康そのもので……」


「あら、それはとても良かったわ〜、私、麻美ちゃんにはあまり力になってあげられなかったからスゴく心配してなのよ〜、私も小夜ちゃんを産む時はとても大変だったわ〜、麻美ちゃんはとても素直で可愛い女の子なんだから、またヒドい事をして泣かせたりしたらダメよ〜? 神崎さんの力で、麻美ちゃんを世界で一番幸せなお嫁さんにしてあげて下さいね〜?」


「……は、はい、まぁ、何とか……」


「そうだよそうだよ! また麻美ちゃんを泣かせたりしたら、あたしも那奈も優歌お姉ちゃんも許さないんだからね! みんなでお尻ペンペンの刑だよ!」


「……お尻なら毎日職場であのバケモノ……、いやいやいや、渡瀬優歌『様』に十分叩いて戴いてますから、もうこれ以上俺にプレッシャーをかけてイジメないで下さい……」



一つ残念だったのは、今日麻美ちゃんが私達と一緒にお出かけ出来なかった事だなー。麻美ちゃんのお腹もお相撲さんみたいにポンポンに大きくなってきたから、転んだり体調が悪くなったりしたらいけないからあまり遠出をするのは控えなさいって産婦人科の先生から注意されたんだって。

それに、麻美ちゃんは元々乗り物酔いが人一倍ヒドいから今日はお家で美代子お母さんとお留守番になっちゃったんだー。麻美ちゃんと一緒じゃないのは寂しいけど、その分まであたしがしっかりとお墓参りに行って来なきゃね! それと、麻美ちゃんや那奈達みんなに何か名物のお土産を買っていってあげよーっと!



「人が目の前で見てるというのに、二人のイチャイチャ振りには義父である私もさすがに嫉妬してしまったよ、全く、新婚さんってもんは困ったもんだな?」


「ワーイ、聞いちゃった聞いちゃった! 麻美ちゃんと彰宏お兄さん、アッツアツだねー! ヒューヒュー!」


「……いや、そんな、それほどでも、エヘヘ……」


「……ウ、ウゥン!」



あたし達が後部座席でおノロケ話をしていると、運転席の井上さんがバックミラーを見ながら急に大きな咳払い。その音と鏡越しの目線に彰宏お兄さんがビクッと驚いた。なーんか、スゴくピリピリした怖い雰囲気……。



「……お幸せそうで何よりですね、これならあの後の僕達の苦労も報われますよ」



あー、そうか! そうだった! 井上さんと彰宏お兄さんは初対面どころか、麻美ちゃんのプロデビューのお世話してた人とそのお話を全部ダメにしちゃった人同士だったっんだっけ。そうだよねー、井上さん、まだ怒ってるよねー? だから、さっきから彰宏お兄さんは申し訳なさそうにこんなに小さく背中丸めていたんだねー。



「……あの、皆様には大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ごさいませんでした、特に、真中啓介様と井上様を始め事務所の方々には本当に、本当にすみませんでした……」


「井上さん、私からも改めてお詫びをさせて戴きます、麻美子の音楽の才能を見出して戴き、華やかな舞台へのお力添えをして下さったにもかかわらず、その皆様に対して仇を返す様な無責任な無礼の数々、娘に代わり、どうかお許しを……」



運転席の井上さんに対して、遠藤先生と彰宏お兄さんが深々と頭を下げた。あたしもなぜか二人に釣られて一緒にペコッて頭下げちゃった。井上さん、あたしからも謝るからもう許してあげて?



「……フゥ、お二人共、どうぞ頭をお上げ下さい、遠藤先生には以前お会いした時にお話を伺っていますからもう結構です、ただ、出来れば神崎さんには今日最初にお会いした時にそのお言葉を聞きたかったのですが……」


「……あっ、すみません、あの、俺、何て言い出したらいいのかわからなくて、あの……」



……なーんか井上さんの態度、しつこくてイライラしててイヤミな感じだなー、お話が長くなりそう。お仕事をダメにされて怒ってる気持ちはわかるけど、ちゃんとしたご挨拶が出来ないのは彰宏お兄さんにとっていつもの事なのにー。(補足:つまりはダメ人間) だから今、彰宏お兄さんはジムで優歌お姉ちゃん達にいじめられながら一生懸命お勉強してるのになー?



「……でも、もう気になさらないで下さい、こうして神崎さんからもお話を伺えた訳ですし、すでにもう過去の事ですから、それにこの手の諸事情は僕達が身を置くこの世界では以前にも多々ある話で、芸能界というものは世間一般の常識が通用しない難しい部分もあるんですよ、ですからその……」


「私はね〜、麻美ちゃんはきっと無事に可愛い赤ちゃんを産んで、とても素敵なお母さんになると思うわ〜? ね〜、井上さん? 井上さんもそうなってくれると嬉しいわよね〜?」


「……ハ、ハイ、ソ、ソウデスネ……」


「あらやだ、私ったらまた井上さんがお話してるところをお邪魔しちゃったかしら? ごめんなさいね〜、どうぞ私の事なんて気になさらずにお話の続きをどうぞ〜?」


「……いや、もう結構です、特に話す事でもないですから……」


「あら、そ〜う? 何か悪い事しちゃったみたいね〜? ねぇねぇ、小夜ちゃん? 最近の若い子達が言ってる『KY』っていうのはお母さんみたいな人の事を言うのかしら? お母さんって、やっぱり周りの空気を読めてないのかしら〜?」


「えー! お母さんって『空気』って字が読めないのー!? 大丈夫だよー、あたしも小学生五年生になるまで読めなかったもん! それにね、あたしも麻美ちゃんはスッゴく優しくてとっても可愛いお母さんになると思うよー! きっと生まれてくる赤ちゃんもスッゴく可愛いんだろうなー!? ねーねー瑠璃ちゃん、瑠璃ちゃんもそう思うよねー!?」


「うん! あかちゃんがうまれたら、ルリがおねえちゃんになってあげるのー!」


「やったねー! 瑠璃ちゃんもお姉さんになるんだねー! 良かったね井上さん! 麻美ちゃん、絶対に幸せなお嫁さんになれるよー!」


「……このご夫人にこのお嬢様、一体僕にどうしろと仰れるのですか、マスター……?」



ベイブリッジを過ぎて長ーいトンネルに入ると、さっきまでいっぱい前を走っていた他の車が急に少なくなっちゃってスイスイ。物知りの航クンに聞いたら、今走っているこの道は『東京アクアライン』って名前の高速道路で、千葉に行くにの一番早く到着する道順なんだってー。

でも、何か変なのー? そんなに早く走れる道なんだったら、何で他の車もここを通らないんだろう? どうしてみんな、他の道の方に逃げていっちゃったのかなー? 物知り博士の航クン、あたしにわかりやすく教えてー?



「…………通行料金が高い」



へー、そうなんだー、スッゴくわかりやすーい! 高速道路によって払わなきゃいけないお金の数が違うんだねー。真中小夜、また一つ賢くなりました! あたしがおとーさんやお母さんと車で高速道路に乗る時は、いつも真っ黒のカードを料金所のおじさんに手渡すと勝手にゲートが開くから料金とかよくわかんなかったんだよねー。

今さっきもお母さんがそのカードを料金所のおじさんに渡したら、いつもの様にゲートがパァーって開いたもん。あのカードって一体何なんだろう? ゲートを開ける鍵なのかな? お金払ってないのに何で通れるのかな? って言うかあたし、おとーさんとお母さんがお金を払ってるところ一度も見た事ないよー、何でだろう?



「……和夫さん、さっきの見えました? 真中さんが料金所で手渡したカード、ボックスの中の人も一瞬ビビってましたよ……?」


「……実際に見たのは初めてだ、正に真っ黒だったな? あれが世に言うブラックカードってヤツか? 妻と出会う以前、大型病院でバリバリ働いていた私でもゴールドが精一杯だったんだぞ? やはり世界で活躍する人気音楽家の家庭ともなると、我々一般市民の日常とはまるで別世界のものなんだな……」



遠藤先生と彰宏お兄さんもあのカードを見て何か小声でボソボソ喋ってる。もしかしたら、あたしと同じ事を考えているのかなー? カードを見せるだけで高速道路を通れちゃうって、やっぱり不思議だよねー?



「あ〜ら、お二人ともそんなにご遠慮なされて小声で喋らなくても結構ですのよ〜? 私、あのETCって機械が良くわからないものでいつも料金はカードで済ませてますの〜、このカードがそんなに珍しいのでしたらどうぞお手に取ってご覧下さ〜い? 一枚くらい無くなっても大丈夫ですの、家に帰ればゴールドでもブラックでもプラチナでも何枚でも選り取り見取り〜」


「………………」


「……あの、ご夫人、お言葉ですがご夫人のお話にお二人とも若干引いていらっしゃいますから、ここらで控えた方が宜しいかと……」



へー、あのカードってお金の代わりになるんだー! またまた一つ賢くなっちゃいました! あたしもいつか大人になったらお母さんみたいにあのカードが持てるようになれるのかなー? でも、見せるだけで何でも出来ちゃうカードなんてあたしが持ったら、いっぱいお菓子やジュースばっかり買っちゃいそうだなー?

あっ、そうだ! そういえばねー、ちょっと前にいづみ叔母さんがあたしに話してくれたんだけど、あたしのお祖父さんはおっきな有名レコード会社の社長さんだったんだってー。でもねー、今はその会社もおとーさんの会社の中に吸収されて、お祖父さんもあたしが生まれる前に亡くなっちゃったんだー。

それでねー、お母さんは赤ちゃんの頃からそのお家のお嬢様として育てられてきたから、生まれつきお金の感覚が普通の人よりスッゴくズレてるんだってー。この前まで五円玉に穴が空いてるって事も知らなかったんだよー! 叔母さんから『小夜もそうならないように気をつけなさい』って怒られちゃった。

……あれ? 何であたしあの時いづみ叔母さんに怒られたのかなー? なーんにも悪い事してなかったのに、何か変なのー?



「そろそろお子様達も車内で飽きてきた頃でしょう、皆さん、少し休憩を取っていかれますか? まだ目的地までは半分近く時間がかかりそうですし」


「休憩? ねーねー井上さん、このトンネルの途中にどこか休める所があるのー? この先ずっーとトンネルしか見えないよー?」


「……は、はい、あの、『海ほたる』というパーキングエリアがありまして、途中で外に出るんですが……」


「海ほたる!? ハーイ! あたし聞いた事ありまーす! 瑠璃ちゃん、海ほたるだって海ほたる! あたし海ほたる行きたーい!」


「ハーイ! ルリもいきたーい! うみほたるー、うみほたるー! たよとおにぃちゃんといっしょにいくー!」



三列目の一番後ろの座席にいるあたし達は天井いっぱいに手を挙げて休憩さんせーい! 大声に耳を塞いでいる前の座席にいる遠藤先生と彰宏お兄さんの手も強引に挙げさせちゃおうっと!



「あらあら〜、後ろのみんなは休憩なんていらないくらい元気一杯ね〜? このまま真っ直ぐ目的地まで行っちゃおうかしら〜?」


「ううん、そんな事ないもん! もうヘトヘトだもん、ヘットヘト!」


「へっとへとー、へっとへとー!」


「はいはい、わかりました、遠藤先生と神崎さんも一息ついていかれますか〜?」


「……いやはや、奥様に面と向かってそう聞かれてしまうと、何と答えたら良いのやら……」



あれー? 遠藤先生ったら、お母さんがこっちを向いて首を傾げたのを見て頭を掻いて恥ずかしがってるよー? 先生にはちゃんと素敵な奥さんがいるのに、いけないんだー!

でも、さっきのお母さんの仕草、とっても可愛ーい! 千夏のお母さんに負けないくらい年齢不詳って言われるだけあるよねー! ホントはもうすぐ四十八歳になるんだけどねー。



「……和夫さん、明らかに反応が変ですよ? こんな事がもし美代子さんや麻美子にバレたらさぞかし……、ププッ」


「黙れ! お前は黙ってろバカモン!」


「ウフフ、井上さんも運転お疲れでしょうからゆっくり羽根を伸ばして休んで下さいね〜? まだまだ先は長いんですから〜」


「……そうですね、運転もそうですが、色々とペースを乱されて一番疲れてるのは僕かもしれません……」



トンネルの途中でパーキングエリアの方に進んで、お外に出ると眩しいカンカン照りのお日様と久し振りのご対めーん! 雲一つない真っ青なお空が見えたと思ったら、同じくらい真っ青な海が360度一望だよー! スゴーい! まるで海の上に立っているみたーい!



「瑠璃ちゃーん、ほら見てー! お船がレインボーブリッジの下を通ってるよー!」


「おふねー、おふねみえたー! スゴーい!」


「…………瑠璃、少し落ち着け、暴れると落ちるぞ」



航クンに肩車された瑠璃ちゃんは初めて見る大パノラマの風景に大喜び! やっぱり瑠璃ちゃんにとって航お兄ちゃんの肩の上は専用の展望台特等席だね!



「あら〜? 自動販売機ってカード使えないのね〜? 売店も混んでいるし、困っちゃう〜、これじゃあみんなの飲み物が買えないわ〜?」


「……娘さんもそうだが、奥様もかなり天然のご様子だな、だが、それもまた可愛らしく感じるものだ……」


「……和夫さんにそう言われ続けると、何か俺もだんだん真中さんが可愛く見えてきたような気が……」



やっぱりゴールデンウィークだから、あたし達以外にも人がいっぱいいて売店でたこ焼き一つ買うのもたいへーん! でも、瑠璃ちゃんや航クンと一緒に食べたたこ焼き、スゴく美味しかったよー! 麻美ちゃんへのお土産、これでいいかなー?



「おーい三人とも、そろそろ出発するってさ、早く車に戻ってー」


「えっー、もう出発するのー!? やだやだやだー! まだもっとここで遊びたーい! ねー、瑠璃ちゃんと航クンもそう思うでしょ!?」


「あそぶー、あそぶー! たよといっぱいあそぶー!」


「…………駄目だよ瑠璃、本当の目的はお母さんのお墓参りなんだから、彰宏さんの言う通り車に戻ろう」



あっ、そうだった! 海ほたるがとっても楽しかったからすっかりお墓参りの事を忘れちゃってた。そうだよね、今日は瑠璃ちゃんのお母さんのお墓参りに行くんだもんね。ここでずっーと瑠璃ちゃんと遊んでたら、きっと待ってくれている瑠璃ちゃんのお母さん、寂しくなっちゃうよね。

ちょっと残念だけど、あたしもちゃんとしたお姉さんになって瑠璃ちゃんのお手本にならなきゃ! 遊びは遊び、お墓参りはお墓参り! 頭をきっちり切り替えてみんなと一緒に瑠璃ちゃんのお母さんに会いにレッツゴー!



「小夜ちゃ〜ん、ちゃんとおトイレは済ませたの〜? また車の中でオシッコなんて、もう赤ちゃんじゃないんだからしちゃダメよ〜?」


「あー、そうだった! トイレ行きたーい! みんなちょっと待っててねー!」


「ルリもオシッコしたーい! たよといっしょにいくー!」



そういえばあたしって、小さい頃車に乗る前はいつもお母さんにオシメされてたなー。でも、もうあたしも高校生になったんだから、おもらしなんかしたら瑠璃ちゃんのお姉さん失格になっちゃう! 遠出の時はちゃんと前もってトイレを済ませておかないとね!



「……なぁ彰宏、あの奥様は天然の様で然るべきところはしっかりとされている、まるで女性の鏡の様な方だと思わんか……?」


「……そうですね和夫さん、やっぱり女性って育ちが良いと自然にそれが行動や仕草として現れるもんなんでしょうかね? 何か俺もすっかり奥様の虜に……」


「……あの、お言葉ですがお二人とも、あづみ夫人の事を何もご存知ないからそう言えるんですよ?」


「……は?」


「ご夫人はあの様な可憐な容姿からは全く想像のつかない程の常人の域を超えている『物忘れ』の特技を持っておられまして、直前まで会話を交わしていた人の名前を振り返ったその刹那に忘れてしまうのは当然の事、一家団欒でご静養にお出掛けなされた湖畔の別荘にご自分の命よりも大切なはずのお嬢様を置き忘れていく事もしばしば……」


「………………」


「最近の出来事といえば、何やら急にインターネットの世界に興味を持たれて社内のパソコンでご堪能されている際、危険なURLを見事躊躇無く踏んでしまい、すっかり満喫されたのかサイトに繋がったままいつもの様にお忘れになって三日間ほど放置、僕達が異常に気付いた頃には社内のパソコンはおろか海外拠点のサーバーも手のつけられない状況になっていて、あわや我が社の極秘情報や所属アーティストとそのファンクラブ会員の個人情報が流出しかけて全額一千万円ほどの修復費用が……」


「……彰宏、私もちょっとトイレを済ませてくる、少し頭を冷やす時間が必要の様だ……」


「……和夫さん、俺もお供させて貰います……」



無事にみんなトイレを済ませて一安心。さぁ、改めて瑠璃ちゃんのお母さんに挨拶をしにいざ出発だよー!



「あら〜? お二人とも先程より少し元気がない様に見えますけど、どうなされました〜? どこか具合ても悪くなされましたの〜?」


「……い、いや、大した事ではありませんのでどうぞお気になさらずに、なぁ彰宏?」


「……えぇ、ちょっと、急に麻美子の事が恋しくなってしまいまして、アハハ、アハ……」


「あらあらウフフ〜、お熱いですのね、あの〜……、失礼ですがどなた様でしたっけ?」


「……初めまして、遠藤と申します……」


「……神崎でも彰宏でも、どちらでも好きな方で呼んで下さい……」



長ーいアクアラインのトンネルを抜けてもまだまだ続く長ーいお墓参りへの道。瑠璃ちゃんと一緒でもさすがに飽きてきちゃったなー。周りも山ばっかりで何かつまんなーい。



「もう、ねむいよー」



あらら、どうやら瑠璃ちゃんも同じ景色ばかりに飽きちゃったみたいで、すっかりお眠モードになっちゃった。さっきから車の揺れに合わせて頭が左右上下にコックリコックリしててお人形さんみたーい!



「瑠璃ちゃん、あたしのお膝に乗って寝ちゃっていいよー! あたし、ちゃんと瑠璃ちゃんの事をしっかり抱き締めてあげてるからね!」


「……はーい、ムニャムニャ……」



あたしに体を預けた瑠璃ちゃんはあっという間にスースー寝息を立てて眠っちゃった。抱き締めた瑠璃ちゃんの体はとってもポカポカして温かくて、お外のポカポカ陽気もあってあたしも何かポカポカいい気持ち……。



「あらあら、小夜ちゃんもすっかり瑠璃ちゃんのお姉さんね〜、何かお母さん、そんな小夜ちゃんがとっても頼もしく思えるわ〜」


「お嬢様も素敵な女性に成長されていらっしゃるんですね、この立派な晴れ姿、是非ともマスターにご覧になって戴きたかったものです……」


「……くかー……」


「……小夜ちゃん、完全に寝ちゃってますけど……」


「航、二人が倒れない様にしっかり支えてあげなさい」


「…………はい、わかりました」



(一同、数分の沈黙)



「……いやー、しかし子供達の寝顔というのは心が癒やされるものなんですね、独身の僕からしたら、こんなに可愛らしいお嬢様がいるマスターとご夫人が羨ましい限りで……」


「……すぴー……」


「……ご夫人もご一緒にお休みですか、そうですか、ハァ……」



……サワザワザワ、サワザワ……



「……ほぇ?」



……あれー? あたし、いつ寝ちゃってたんだろう? 外から聞こえてきた木が風に揺れる音に目が覚めて車の中から周りを見ると、遠くに山がいっぱい見える狭い砂利道に車が止まってた。お母さんと井上さんの姿がないよ、どこに行ったの?



「…………起きた?」



声の聞こえた方を見ると、隣りで航クンが眠っていたあたしの事を支えてくれていた。瑠璃ちゃんはまだあたしのお膝の上でスースー眠ってる。どうやらあたしが眠っている間に目的地に到着した、のかな? まだちょっと寝ぼけててよくわかんない……。



「……ねーねー航クン、ここってどこー?」


「………………」


「……航クン?」



……今、一瞬背筋がゾクッとした。あたしの隣りに座っている航クンは、いつもの様にボソボソっと喋ってホワンと気の抜けた表情をしている航クンじゃない。まるで、初めてあった時の様な瑠璃ちゃんを守る事で精一杯だった怖い航クンに戻ってしまったみたいだった。一体どうしたの? 何があったの?



「お目覚めのご様子ですね、お嬢様」


「あらあら、小夜ちゃんったらまだお目めがショボショボしてるわよ、ウフフ〜」



外にいるお母さんと井上さんが車の窓から顔を覗かせてあたしに話し掛けてきた。なーんだ、みんないるんじゃん、良かったー! 何かあたし、怖い夢でも見ているのかなって思っ……、ってあれ? あたしの前に座ってた遠藤先生と彰宏お兄さんがいないよー? それに、ここってどこなの?



「ねーねー井上さん、もう瑠璃ちゃんのお母さんのお墓の場所に着いたのー? それと、遠藤先生と彰宏お兄さんはどこに行ったのー?」


「今、ご挨拶に伺っているところです、ご霊前参りをさせて戴くのに、ご遺族の方々に一声もかけないのは失礼ですから……」


「……ご挨拶?」


「お母さんと井上さんはご遺族の人達と瑠璃ちゃんのお母様とは面識がないから、昔からお知り合いの先生がみんなを代表してご挨拶に行ったのよ〜」


「……ご遺族……」


「一緒に麻美ちゃんの旦那様、あの……、あらやだ、井上さん? あの方何てお名前だったかしら?」


「……神崎さんです……」


「あ〜、そうそう、神崎さんね〜? あの方がお近付きのお品を持って先生と一緒に……、あら? 先生のお名前は確か、えっと……」


「……ご夫人、無理に思い出されなくても結構かと……」



……ご遺族って、確か亡くなった人の家族や親戚の人の事を指す言葉だよね? じゃあ、今二人が会いに行っている人は瑠璃ちゃんのお母さんの家族の人で、つまり瑠璃ちゃんにとっては本当に血の繋がった親戚の人で、違うお母さんから産まれた航クンにとっても義理の親戚……。

でも待って、確か二人のお父さんが刑務所に入れられて離れ離れになっちゃった時、その親戚の人達は誰一人航クンと瑠璃ちゃんの事を助けてくれなかったんだよね? みんなして『犯罪者の子供は来るな!』って追っ払ったんだよね……?

じゃあ今、先生達がご挨拶に行ってる人もそうなんだ。苦しんでいた二人の事を見放した親戚の人達の一人なんだ。だから航クン、さっきからずっとピリピリして黙り込んでいるの? お父さんと同じ様に、その人達の事を許せなくて怒っているの……?



「……ねーねー航クン、あのね……?」


「………………」


「……いいからもう帰ってくれ!!」


「……!!」



突然、車の外から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。あたしもお母さんも、そして井上さんもビックリしてその声が聞こえてきた方に振り返った。



「……ふ、ふぇーん……」


「……あっ! 瑠璃ちゃん、起きちゃったの?」



静かに寝ていた瑠璃ちゃんまで驚いて目を覚ましちゃった。いきなりこんな大声を出されたらビックリするよね、怖いよね? 誰かケンカでもしてるのかな? 怖いよ、何か嫌な予感がするよ……。



「…………瑠璃、大丈夫、怖くないよ、こっちにおいで……」



グズってる瑠璃ちゃんをスッとあたしの膝から持ち上げると、航クンは瑠璃ちゃんを何かから守る様にギューって抱き締めた。今の声、誰の声だろう? あたし、こんな人の声今まで聞いた事ないよー?

遠藤先生や彰宏お兄さんとは違う、年老いたお爺さんみたいなしゃがれ声。窓から身を乗り出して外を良く見ると、車が止まっているすぐ後ろに麻美ちゃんのお家みたいな昔造りの大きなお家が建っていた。広いお庭の入り口の木戸には『江波戸』って表札が付いていた。何て読むんだろう? あたしには難しくて良くわかんない……。



「……でしたら、せめてお花の供養だけでもさせて下さい! せめて瑠璃に、一目だけでも墓前の母親との対面を許してあげて下さい!」


「そんな子供の名前、ワシは知らん! うちには孫なんてものは一人もおらん! 花を添えたいなら勝手にしていくがいい! そして用が済んだらとっととこの町から出て行ってくれ! 二度とワシの前に、忌まわしき血が流れているあの子供達を連れてくるな!!」



今度は遠藤先生の声も聞こえてきた。何か先生、そのお爺さんの人に怒られてるみたいだった。何であのお爺さん、あんなに怖い顔をして怒ってたんだろう? それに、『あの子供達』って……?



「……おにぃちゃん、こわいよー……」


「…………大丈夫、お兄ちゃんが守ってやるから……」



……やっぱり、そうなんだ。あのお爺さん、航クンと瑠璃ちゃんの事を嫌っているんだ。あの子供達って、ここにいる二人の事なんだ。出ていけって、連れてくるなって、そんなの、そんなの……。



「……ヒドい、ヒドいよ……」



玄関の木戸から外に出てきた遠藤先生と彰宏お兄さんは参ったって顔をしていた。二人の服は上着から下のズボンまで水が染みていた。彰宏お兄さんは包装がグチャグチャになったお品を抱えて少し怒っている様に見えた。



「……皆さんすみません、わざわざこんな個人的な事まで付き合わさせてしまったというのに、どうやら不快な思いまでさせてしまったみたいで……」


「……いえ、事情は伺ってますし、遠藤さんのご心労も共感致します、どうか僕の事はお気になさらないで下さい」


「……どうやら、門前払いをされてしまったみたいですわね〜? お二人とも水浸して、もし宜しければ私のハンカチをお使い下さ〜い……」


「一体何なんですかあの爺さん! 差し渡した品はこちらに投げつけ返すわ、ちっとも和夫さんの話を聞かずに怒鳴りまくって水までぶっかけてきて! あんなのまともな神経してる人間のする事じゃないですよ!」


「おい、彰宏! 言葉を慎め馬鹿者が! お前にあの人の何がわかるんだ!? 少しはお前も人様の立場になって物事を考えろ!!」


「……それでも納得出来ないなぁ……」



二人はお母さんから手渡されたハンカチで水を吹くと、疲れた様にあたしの一つ前の座席に座って溜め息をついていた。航クンは瑠璃ちゃんを抱いたまま何にも喋らない。瑠璃ちゃんも顔を埋めたままあたしの方を向いてくれない。車の中はすっかり暗い雰囲気になっちゃった。



「……じゃあ遠藤さん、車を出しますのでお墓の場所まで道案内して戴けますか?」



みんなを乗せた車はそのお家から逃げる様に離れて、いつしか窓の視界の中から消えてしまった。もう二度と近寄る事が出来ないかもしれないあのお家とそこに住んでいたお爺さん。もしかしたらあのお爺さんは、航クンと瑠璃ちゃんの……。



「井上さ〜ん、ちょっとここで停めて戴けますか〜? まだお墓にお供えするお花がありませんから、あそこにあるお花屋さんで買ってきたいと思いますの〜?」



人通りの少ない道をしばらく走っていくと、小さいお店の並ぶ商店街が見えてきた。ここの商店街、麻美ちゃんのお家に行く時に通る桜の公園の下にある商店街に良く似てる。何か住んでいる人達はみんな笑顔で優しそう。ここにもどこかで桜の花が咲いたりするのかなー?



「いえ奥様、その様な野暮用でしたら私や彰宏が……」


「あら、いいんですのよ〜? お二人とも先程の件でお疲れでしょうし、井上さんには運転ばかりさせて私だけ楽をさせて戴く訳にはいきませんもの〜」


「……ご夫人、この様な田舎の商店街では流石にカードは……」


「あらあら、ノープロブレムですわ〜? 途中で寄ったあのパーキングエリアで、生まれて初めてATMで現金を卸してみましたの〜、もちろん小銭もちゃんと用意してありますわ〜、一度こんな素敵な商店街のお店で買い物するのが私の夢でしたのよ〜?」


「……そうですか、それでは宜しくお願い致します、ただご夫人、くれぐれも道に迷われないようお気をつけて下さい、ここに車を停めてお待ちしておりますので……」


「ルンルンル〜ン」


「……余計な物までご購入されないか心配だな……」



お母さんの仕草に大人の三人は少し和んだみたいだけど、相変わらず航クンは怖い表情のまま。



『あたし、やっぱり気になる!』



瑠璃ちゃんのお母さんのお墓まではもうちょっと先みたいだし、お母さんがお花を買っている間にあたしは遠藤先生に気になっていたさっきのお爺さんの事を聞いてみた。



「ねーねー先生、さっきのお家のお爺さんはどんな人なのー? 瑠璃ちゃんのお母さんとどんな関係なのー?」


「……航、話していいか?」


「………………」


「先生、あたし気になるの! 瑠璃ちゃんに関係ある事だったらちゃんと聞いておきたいの! お願い、教えて!?」


「……仕方ないな、あの家は真弓さんの実家だよ、瑠璃のお母さんが生まれたお家、そしてあの人は真弓さんの実の父親だよ……」



……そうなんだ。じゃあやっぱり、あのお爺さんは航クンと瑠璃ちゃんのお祖父さんなんだ。航クンとは血が繋がってないけど、瑠璃ちゃんには本当のお祖父さん、本当の家族なんだ……。



「……あのお家の表札の名字は何? あたしには読めなかったけど……」


「……『エバト』か、江波戸真弓、瑠璃の母親がアイツと、遼司と結婚する前の旧姓だよ、遼司がこの町に出張で訪れた時、花屋で働いていた真弓さんと偶然……」


「…………止めて貰えませんか?」


「……航クン?」



やっと、口を開いてくれた航クン。でも、さっきよりも肌をピリピリ刺してくる怖い雰囲気は増していて、その声はとても悲しそうで、苦しそうだった。瑠璃ちゃんを抱き締めている手は、さっきよりも少し力が入っている様に見えた。



「…………その話、瑠璃にこれ以上聞かせなくないんです、お願いですから、もう止めて下さい……」


「……わかった、航、余計な事を喋ってすまなかった……」



きっと、航クンはお父さんの名前が出て来てきたのと、昔のお話になったから止めたんだ。瑠璃ちゃんに聞かせちゃいけないって、この先までお話を続けたら絶対に二人が一番触れて欲しくないところに触れてしまうから……。



「……こわいよ、おにぃちゃんこわいよ……」



瑠璃ちゃんが怯えてる。まださっきのお祖父さんの怒鳴り声が怖いのかな? やっぱり、そんな時に瑠璃ちゃんが覚えていない昔のお話をしたら余計に怖がらせるだけだよね? 何でこんなお話になっちゃったんだろう……。



「……!」



……あたしの、せいだ……。



「お待ちどうさまで〜す? 綺麗なお花がいっぱいあったものですから、選ぶのについつい時間が……、あら? 小夜ちゃ〜ん、顔色が悪いわよ、どうしたの〜?」



……あたしが、遠藤先生に無理してお話を聞いたからこんな事になっちゃったんだ。あたしが、航クンや瑠璃ちゃんの事を傷つけてしまうところだったんだ。あたしが……。



「……どうした小夜ちゃん? 気分でも悪くなったのかい? 私はこれでも医者だから、何か変なところがあるなら何でも言いなさい?」


「……ごめん……」


「……?」


「……ごめんなさい……」



あたし、航クンと瑠璃ちゃんの力になりたかった。瑠璃ちゃんのお姉さんとして、何とかお祖父さんや他の親戚の人達と二人が仲良く出来る様に何か方法がないか聞こうと思ってただけだった。

でも、それが一番ダメだった。航クンが嫌がっていたのにあたしはそれに気づきもしないで強引にお話を続けちゃった。そして、航クンに嫌な思いをさせちゃった。瑠璃ちゃんにも怖い思いをさせちゃったんだ……。



「小夜? 一体どうしたの? 何かお母さんにもお話出来ない事なの?」


「……ううん、大丈夫、大丈夫だから、ごめんなさい、本当にごめんなさい……」


「……小夜……」



……あたしって、本当に弱くてダメな子。誰より一番守ってあげたい人達を、自分の勝手な行動で苦しめちゃうなんて、これじゃ親戚の人達が二人にしたヒドい事と一緒だよ。あたし、ヒドいよね……。



「……お嬢様の体調も優れないご様子ですので、とりあえず先を急ぎましょう、この町にあまり長居するのも良くなさそうですし、夕方には帰路につかないと道路も渋滞するでしょうから……」


「……すみません井上さん、目的地まではもうすぐですので宜しくお願いします……」



車はまた、お墓に向かって走りだした。でも、お墓に着いたらあたしはどんな顔して瑠璃ちゃんのお母さんに会えばいいのかな? 瑠璃ちゃんの立派なお姉さんになるって報告しようと思ってたのに、こんな事じゃお姉さんと認めてもらえないよね? あたし、お母さんに怒られちゃうよね……?



「……たよー? どうしたのー?」


「………………」



さっきより少し落ち着いた瑠璃ちゃんがあたしの事を心配して顔を覗き込んでくるけど、あたしは瑠璃ちゃんのお顔を見る事なんて出来ない。だって、どんなに堪えても涙が出て来るんだもん。こんなヒドい泣き顔、瑠璃ちゃんに見せられないもん……。



「わー! ねーねー、おにぃちゃん! おそと、おっきくてこわいくもがでてきたー!」



さっきまでお日様がキラキラ輝いていい天気だったのに、外は次第に灰色の雲が覆い被さってきた。雨が降ってくるかもしれない。まるで、あたしの心の中の色みたい……。


あたし、もっと人の痛みがわかる人になりたい。みんなから頼りにされる人になりたい。航クンや瑠璃ちゃん、それに那奈や翼や千夏に麻美ちゃん、あたしの大切な人達みんなを笑顔にしてあげられる強くて優しい女の子になりたいよ。もっと、もっと……。



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