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第42話 ありふれたLove Story 〜男女問題はいつも面倒だ〜



「Oh,my god! Why!? どういう事なの!? アタシの王子様はどこに行ったのよ!? これから始まるシンデレラストーリーの舞台に、誰がこんなゴリラの着ぐるみを送りつけてきた訳!? 冗談じゃないわ! Shit! Damn! Suck that!」



……あーぁ、酷いキレまくり様だ。澤村一茶が入学してきて高校生活が始まり三日目、千夏は毎日この調子。入学式であれほど噴火したにもかかわらず、その怒りのマグマはいまだに脳天から噴き出している。



「実にやかましくくだらない戯れ言だ、こんなにギャーギャー鳴きまくるメス犬と一緒に行動していたお前達の気が知れん、充分に騒音被害として法廷に告発出来るレベルだな」


「Shit the fuck up! Crazy monkeyが一丁前に言葉喋るんじゃないわよ、このScrab! You suck! Kick your ass! Fuckin Jap!」


「もういい加減にしなさいよ二人とも! 一茶、アンタちょっと黙ってな! 千夏もいちいち反応しない! 英語で言えば何言ってもいいって訳じゃないのよ!?」



第一お前も日本人だろうが!? って話だよ全く。ただでさえこれまで引き合わせるだけで大問題になってきた二人が、これから毎日学校で顔を合わせる事になるのだからたまったもんじゃない。特に周りにいる私達には……。



「ファッキンジャップぐらいわかるよバカヤロー!」


「……何やねんそれ、物真似のつもりかいな? 全然似てへんがな、気持ち悪っ」


「バカヤロー、松村コノヤロー、ビックリしたなぁもう、コマネチコマネチ!」


「今宵あなたと伊香保温泉♪」


「さんまチャン見〜っけ!」


「うわ、見っかっちゃった! って何をさせんねんオマエは」



これから先の高校生活を不安視して頭を抱える私の横で、翼薫アホコンビは千夏を茶化す様にふざけまくっている。それにしても似てない物真似、つーかネタが古過ぎて最近の子達にはわかんないって……。



「どうせ一茶も駅から電車で帰るんだろ? どうせ俺達も駅まで行くんだから今日ぐらい一緒に帰ろうぜ?」


「翔太の誘いなら断る理由は無い、鼓膜に障害が出ないか心配だが、喜んで同伴しよう」


「No! No,no,no,nooooo!!」


「だから黙れって言ってんでしょ千夏! こっちまで頭が痛くなってくるよ!」



高校生になっても結局帰り道は一緒。今まで通りみんなで集まって帰るのだから仲間が一人二人増えたって大して変わらない。来るものは拒まず、私達は今まで誰に対してもそうしてきたのだから。

まぁ、千夏は気にいらないかもしれないけど、残りのメンバーは別に一茶を嫌う理由は全く無いし、私の他に航と一茶のツインタワーがいれば帰り道や駅で変な不良達に因縁つけられたりもしないだろうからむしろ大歓迎だ。



「……じゃあ、私はここでバイバイだね、翼、また明日」


「えっ〜、何やねん綾!? せっかく同じ学校になったのに何で一緒に行かへんねん!?」


「だってそっちに行くと私の家には遠回りになっちゃうんだもん、私はバス通学だから……」



他校からの入学組には進級組の私達に比べて家から遠い通学路を通ってくる人間が結構多い。学校の裏通りにはバス停があって、そこを通るバスは私達が行く駅とは違う別の私鉄の駅に到着する。綾もこの通学路で帰る生徒の一人らしい。



「何や、友達がいの無いヤツやで、こんな事ではウチと綾の友情も風前の灯火やなぁ?」


「……えっ、ちょっと翼?」


「せっかく主要メンバーの一人としてこれから出番も増えてくるかもしれなかったのに、自らそのチャンスを逃してしまうなんて勿体無い話ですなぁ?」


「……薫君?」


「いや〜ん、残念だわ〜! 綾とは同じクラスになってステキなBest friendになれると思ってたのに〜! じゃあね綾、Have a nice day!」


「ちょっとヤダ、嘘でしょ?」


「…………八千代の別れ」


「綾ちゃんバイバーイ! 元気でねー!?」


「嘘でしょー!?」



……新顔を新学期早々寄って集っていじめんなっつーの。おかげで涙目になって帰れなくなってんじゃない。せっかく新しい活躍の舞台を貰えたっていうのに……。



「わ、わ、私、これでもう出番なしとかないよね!? 私もいつかは活躍出来る話の回が来るよね!? ねぇ、ねぇ、ねぇ!?」


「……活躍出来るかどうかは知らないけど、帰り道が違うくらいで絶交なんて無いから安心して、大丈夫だから」


「那奈、ホントに? 主人公の言う事だから信じていいよね? 約束だよ、ホントに約束だよ!?」


「……いいから早く帰れ!」



私達と別れた後も、裏門からバス停に向かう綾は何度もこちらを振り向いて心配そうに見つめていた。まぁ何と言うか、主人公の私から言わせるといまいちキャラが薄いのよねあの娘。また出番があれば良いけど。



「ねーねーねー、一茶君は何でこの学校に入学してきたの? 学校が広くてキレイだから? 翔ちゃんやあたし達と一緒にお勉強したかったから? それとも食堂でプリンが買えるからかなー? あとはえっーと……」



久し振りに八人での帰り道、以前麻美子にやった様に小夜が興味津々で一茶にまとわりついて質問責めをしている。デカい体を見上げて周りをクルクル回る姿は航と一緒の時とは感じの違う、休日の公園で遊んでいる父娘の様だ。



「翔太、これは三択クイズなのか? 俺はこの中から一つ正解を選ばなければいけないのか?」


「……いや、そういう訳じゃなくて、とりあえず『何でこの学校を選んだのか』って聞きたいだけだと思うけど……」


「そうか、わかった」



幼なじみの翔太を通さないと話しかけられない様な独特の冷めた雰囲気。どちらかと言えば無口だろうが、航とは違って口達者で反応がいちいち嫌みっぽい。

しかも一流アスリートらしくプライドが高そうでかなりの負けず嫌いの様だ。動作や仕草が若干キザっぽいし、良く考えてみると少し千夏と似ているかもしれない。まぁ、やかましさのレベルは段違いだが。



「ねーねーねー、学校、あたし達、プリン、どれー?」



……いつの間にか本当にクイズになってるし……。



「ブー、どれも不正解でーす」


「えー、じゃあ答えはなーに!? 教えて教えてー!?」


「……結構ノリノリじゃねーかよ一茶……」



なるほど、冗談が嫌いなタイプでは無さそうだ。プライドが高いと言っても千夏とは違ってずいぶん余裕がある。取り乱す事も無いし、さすがは将来の金メダル候補だ。



「私達と関係が無いのなら、どうしてこの学校を選んだのよ? やっぱり柔道に関係があるの?」


「鋭いな、その通りだ、俺がこの学校に入学したのは父親や母親と各関係者との話し合いで決めた事なんだ」



話によると、最初は中学高校はマスコミの取材から身を避ける為にあえて小さい無名の学校に入学して自宅にある稽古場を中心に練習して、高校卒業後に練習施設が豊富な有名大学に入るつもりだったそうだ。

しかし、通っていた中学校の関係者達から何度か柔道大会の参加を頼まれて、嫌々ながら試合に出場しなければならない事態になってしまったらしい。私達も見に行ったあのスポーツ県大会も元々は出る必要のない大会だったのだ。



「最初の頃は実戦練習の一部と思って軽く受けてしまったのだが、次第にその回数が多くなってスケジュールが狂ってきてしまったんだ」



これに味をしめた学校側はマスコミへの露出を抑えるという家族側からの要望を無視して各柔道大会に次から次へと一茶に出場を懇願して学校の売名行為を始めた。

これにより家族側と学校側との間に不協和音が起こり本来出場する予定だった大会への準備期間が短くなってしまうなどのトラブルが生じてしまった。そして無理がたたって去年のあの怪我が起こってしまった。



「そういえば、もう足の方は大丈夫なのかい一茶親分?」


「『親分』?」


「薫は何か良うわからんけど人の名前の後にいちいち変なあだ名をつけんのがクセみたいやねん」


「私は『お嬢』」


「俺なんか『旦那』だぜ?」


「…………俺、『先生』」


「んでウチが『姫』や、くだらんから気にせんでええで」


「翼は『ダーリン』に昇格だぜベイビー!」


「お断りやアホ!」


「えー、あたしはあだ名無いよー? 薫ちゃん、あたしはー?」


「小夜ちゃんは『天使』さ!」


「アタシはどうなってるのよ薫ちゃん! ステキな名前つけないと承知しないわよ!」


「そうだな、千夏ちゃんは……」


「オマエなんぞ『くそビッチ』で充分やで」


「ほぅ、なるほど、確かに異論は無いな」


「Fuck! Fuck,fuck,fuuuuuuuuck!!」


「もううるさい! アンタ達、話が脱線し過ぎ!」



……全く、良くもまぁこれだけお喋りが集まるもんだ。仕切り役をやらなきゃいけない私の身にもなったよ……。



「……で、もう足は平気なの? 普通に歩いているように見えるけど……」


「歩く事は問題ない、しかしまだ全ての靭帯が繋がった訳ではない、試合はもちろん練習再開もまだ時間がかかるな」


「……って事はしばらくの間は俺達と一緒に帰れるって事だな? またお前と話が出来て嬉しいよ」


「あぁ、そうだな翔太、俺と同じく世界を目指す人間と会話が出来る事はとても貴重な時間だ」



翔太に話しかけられて一茶はやっと少し笑顔を見せた。この二人は私の知らない幼稚園からの付き合いだったっけ。本当に仲がいいんだなぁ。

……でも、認め合うのはいいけどあんまり仲良すぎるのも何か気持ち悪い。あまり女性に興味がある様には見えないし、ガチムチ系だし、ついつい変な想像が膨らんでしまう。翔太が道を外さないか心配だ。



「でも、これでまた八人になったねー! 今度麻美ちゃんにも一茶君の事教えてあげようっと!」


「麻美? あぁ、この前病院に見舞いに来てくれた眼鏡の女子か、そういえば姿がないな、他校に転入したのか?」



一茶の問いに私達は一斉に下を向いてしまった。決してやましい事じゃないのに、どうも言葉に詰まってしまう。何て説明すれば良いのか、どんな言葉を選べば誤解無く正しく、麻美子を傷つける事なく伝えられるのか……。



「……色々、あったんだよ、色々……、麻美ちゃんは自分で幸せになる道を見つけて歩き出したんだよ……」


「……翔太の言う通りやで、ちょっとした男女問題があっただけや、ウチら置いてアイツ一人で大人の世界に行ってもうた、それだけや……」


「そうか、他人の男女問題に口を出すものでは無いな、これ以上聞くのは自粛しよう」



これで出刃亀みたくしつこく迫ってきたら薫以下の最低男だったのだが、澤村一茶、ちゃんと空気も読める男の様だ。ひとまず安心……、何て思っていた次の瞬間、その最低ボーダーラインギリギリの変態男が火を噴いた。



「おおっと、男女問題と言えば一茶親分が知らない内に大変な事になってるお二人がいらっしゃるんですよ、ここには!」


「大変な事?」


「……バカッ! 薫、頭叩き割るよアンタ!」


「薫てめぇ! マジで黙ってろよお前!」



皆まで言わなくても何を喋ろうとしているかぐらいわかってる。私と翔太は揃って薫を捕まえてその軽すぎる口を塞いだ。全く、何で麻美子の話から私達の話に切り替わる訳!?



「翔太、なぜにそんな焦っている? 何か喋られては困る事でも仕出かしたのか?」


「い、いや、大した事じゃないんだ一茶! 気にしないでくれ!」


「そや、大した事やないで、この二人がホンマに付き合う様になって家で毎日イチャイチャちちくり合ってるだけの話や」


「バカッ! 翼アンタ殺すよ!?」



しまった、薫を捕まえる事に必死になってもう一人の密告者を抑え忘れていた。むしろ先に黙らせなければならなかった人間だったはず。

と、いうよりもこれはすでに打ち合わせ済みのコンビプレー、私達はいつもの様にこの二人の術中にハマってしまっていた訳だ。



「『ちちくり合う』とは、些か健全ではないな」



それを聞いた一茶はふぅ、と一つ溜め息をついて残念そうに肩を落とした。そして静かに腰に手を置き、上から見下ろす様に翔太の顔を見た。



「堕ちたな風間翔太、哀れなものだ」


「……ハァ? 何だよいきなり……」


「己の道を踏み外し、欲望に身を任せ色気に流されるとは男の風上にも置けぬ女々しき者、俺は失望したぞ、腑抜けめ」


「……あのなぁ、お前はいちいち話が大袈裟なんだよ!」」



……古風と言えば聞こえは良いが、何か非常にオッサン臭い言い回しだ。昭和四十年代のスポ根ドラマの臭いがプンプンする。柔道家ってみんなこんな感じなのだろうか?



「物欲、我欲、色欲、全ての邪念を振り払い自らの心と体を磨き精進してきた者こそが本当の名声を得る事が出来ると俺は小さい頃から父親から教わってきた、それこそが真の勝負師の道、男の道と言うものだ、私欲に負け女の肌に溺れた今のお前にはその道を歩む資格は無い、終わったな、翔太」


「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ!? 俺達はまだ色欲とかそんなレベルまで行ってないって! 翼達が言ってる事を真に受けるなよ! それにさ、高校生になって男女交際なんて今の時代普通の事だろ!? お前の柔道の先輩にだって女性と交際したり結婚してる人だっているだろう!?」


「それは一理ある、人生の荒波に立ち向かう男を女が支え、そして新しい命を天から貰い受け大切に育て後の時代へとその血を繋いでいく、それは素晴らしい事だ、しかし、お前はどうだ? 若さ故の過ちを言い訳にして、色事に身を投じているのではないのか?」


「オイオイオイ! 俺が女遊びをしてるって言いたいのか!? 違うよバカ! 俺はそんなつもりで那奈と付き合ってる訳じゃ……!」



……あれ、何か妙な展開になってきた。何だろう、決死の翔太の言葉に胸がドキドキしてきた。うわぁ、何かヤダ、凄い変な恥ずかしい予感が……。



「それは本心か? 遊び心で無いと言うのなら、お前はこの先もその女とともにこの長い人生を歩んでいく決意があると言うのだな? 決して邪念や物欲では無く、心の目で必要な存在だと悟った訳なのだな?」


「……だからお前さ、話が極端過ぎんだよ……」


「風間翔太、俺が認めた男ならばこの目を見て問いに答えてみろ!!」


「……はいはいはいはい、そうですそうです! 俺にとって那奈は必要不可欠なんです!!」


「ちょ、ちょっとヤダ、やめてよ翔太……!」



……必要って、うわぁヤダ恥ずかしい! 何で事を大きな声で人前で言ってんのよバカバカバカッ!!



「ほぉ、それではお前は将来この女を所帯して貰い受けると言うのだな、結婚すると宣言出来るのだな?」


「……け、けっ、結婚……?」


「見苦しいぞ、風間翔太! 男なら潔く腹を据えろ!」


「わかりましたわかりました! 結婚しますって! 一生涯大切にします!」


「バカー!! もうバカバカバカバカバカーーーー!!」



……もうダメ、立っててられない。今の私、きっと真っ赤になってヒドい顔してるんだろうなぁ。とてもみんなに見せられないよぉ……。



「結婚宣言キタで〜! みんなちゃんと聞いたやろ!? これはエラいこっちゃやでぇ〜!!」


「俺達が二人の恋の生き証人、あなた方の愛の宣告は確かに天に伝えました〜! これからも愛し合う二人に神の御加護を!!」


「イヤン、これだけアツアツだともうアタシ妬けちゃう! 那奈、早くアタシに幸せのブーケを投げてちょうだい!?」


「那奈、翔ちゃん、おめでとー! あたしは絶対二人が結婚するって思ってたよー!!」


「…………婚礼祝言、大安吉日、寒川神社」



……あーもう、みんなに聞かれた。涙が出てきちゃったよぅ。翔太のバカ、ここまで言っちゃったらもう取り返しつかないじゃん、本当にバカ、ちゃんと責任取ってよ……?



「この年齢ですでに伴侶を見つけ、二人三脚で険しい人生の道のりを歩んでいく決意をしているとはさすがは男の中の男、風間翔太だな、俺の目は間違っていなかった、見直したぞ」


「……お前なぁ、遊びなんて言ったら俺が親父さんに殺されるのわかってるクセして……」


「渡瀬那奈、この男を頼んだぞ、是非ともお前の内助の功でこの男を世界の頂点へと導いてやってくれ」


「……内助の功って、アンタ絶対的亭主関白主義?」


「ところで俺がこの学校に入学してきた理由の話が途中なのだが、その続きを話していいか?」



……もう勝手にしろ! どこまで話してたかなんて全然覚えてないよ全く! あまりに恥ずかしくて足に力が入らず千鳥足の私を見て、みんなはゲラゲラ笑っているのに相変わらず無表情でサラッと受け流しやがって! 絶対私達が冷やかされるのを計算してあんな事を言い出したにに違いない、この男、想像以上に腹黒くて質が悪い!



「弱小な学校に見切りをつけた親父は俺の高校進学にもっと協力的な学校を探した、そこにこの学校の関係者が家に訪れてきたんだ」



一茶の話を聞きながらやっと駅前の交差点まで辿り着いた。自分達には縁の無い将来を期待されているヒーローの裏事情にみんなが耳を傾けてる間も、千夏はふてくされた顔をして後からつまんなそうについて来ていた。本当にこの二人、仲が悪いなぁ……。



「突然の派手な格好をした訪問者に親父はかなり警戒していたが、しっかりと裏付けのある契約に最後は観念してしぶしぶ納得していたのを良く覚えている」



学校の出資者を名乗るド派手な衣装を身に着けた謎の女性。一茶の活躍に目をつけて手厚い援助と選手中心のスケジュールを優先する条件で入学の勧誘をしてきた。つまりはスカウトだ。



「出場する全大会でこの学校と社会人になった時にスポンサーとしてその女性が本業として経営している会社のブランド名を背負う代わりに、こちらの事情を全て鵜呑みにしてくれただけではなく学校内の練習場や器具の使用、専属のトレーニングアドバイザーまで付けて貰える約束までしてくれた、こちらからすれば断る理由の無い最高の好条件だ」


「……それ、すげー特別待遇じゃねーかよ、俺達の学校ってマジですげーよな、どんな金持ちがこの学校の出資を……」



翔太の言葉が途中で止まった。それと同時に、私達全員の頭の中に一抹の不安がよぎった。この学校の出資者? 女性? 経営する会社? ちょっと待ってよ、それってまさか……?



「……オイ千夏、どないしたん?」



何かに気づいた千夏が私達から距離を取って真っ青な顔をして携帯で電話をかけている。再び嵐の予感、噴火予報発令?



「……一茶親分、もしかしてその女性って派手なヘソ出しルックの服装じゃないですかい?」


「……んでもってアレや、スタイル抜群の奇跡の四十代で……」


「…………キレイな茶色のストレートヘアで」


「おっきなカッコいい4WDの車ー!」


「……一茶、その女性の名前って……」


「……三島、千春さん?」


「ほぉ、良くわかったな、お前達も知り合いなのか?」


「Noooooooooooooo!!」



唖然とする私達の後ろから千夏の断末魔が聞こえてきた。どうやら現在ママとお話中のご様子。



「Why,why,why!? どうして、どうしてママ!? 何でママが愛するアタシに対してこんなヒドい仕打ちをするの!? 『何の事?』って、ヒドいわママ!?」



……あちゃー、そりゃこんな娘の小さい事情なんて世界中飛び回って忙しいママが知る訳ないよねぇ。千春さんはちゃんとビジネスとして正しく一茶に投資しただけなのだから。



「えっ? 『忙しいから後で』って、あんまりだわママ!? アタシの事が可愛くないの!? ママはアタシを愛してないの!? アタシ、良い子になるからお願い、話を聞いてママ!? ママーーーー!!」



……ツー、ツー、ツー、ツー……



電話が切れたと同時に千夏がキレた。こちらに振り向いた千夏の顔は今までの怒りの変貌を超えた『第二段階』へとバージョンアップしていた。



「オラァてめぇ一体アタシのママに何しやがったんだよこのブタゴリラァ!! ナメた事抜かしてんとシバりあげてコンクリート詰めで東京湾埋めんぞゴラァ!!」


「ちょ、ちょっと千夏……」


「わーん、怖いよ那奈! 千夏じゃない千夏がいるよー!!」


「人格変わり過ぎやろオマエ……」



もう腹を空かせた牝ライオンのレベルではない。何かSFホラーに出てくる得体の知れないモンスターと化していて私達にはとても近づける勇気はない。エイリ〇ンやプレ〇ターも絶滅させられそうな勢いだ。



「そういえばお前は俺が入学してきたのが気に食わないみたいだが、残念ながら俺にはその出資者との間で交わした契約書がある、無駄な抵抗だな」


「てめぇん家どこだゴラァ!! その契約書ともども家族全員丸焦げにして焼け野原にしてやるわボケカスがぁ!!」


「哀れな女だ、恥を知れ」


「Fuuuuuuuuuuuuck!!!!」


「もういい加減にしなさいよ二人とも!!」



……さすがの澤村一茶もそのスポンサーの娘がこの毒々モンスターだったとは知らなかった訳か。あー、しんどい。これからこれが毎日続いていく事になるんだね、新学期早々登校拒否になりそう……。



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