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第40話 PADDLE



三月、私達は無事に卒業式の日を迎える事が出来た。心配だった天気にも恵まれ、校内にある桜の木にもキレイなピンク色の花びらが咲き乱れている。三年間通い続けたこの校舎も今日でさよなら、来月からはここよりももっと広い高等部校舎へと移る事になる。



「……ハァ……」



そんな大切な卒業式の日、私は少し寝不足でボッーっとしていた。すべては昨日の夜、私が翔太にしてしまったあまりに軽率な行動……。



「そんなに巨乳の谷間に興味があるの!? 結局女だったら誰でもいい訳!? やっぱりアンタの頭の中はスケベな事ばかりじゃない、このバカ!」


「バ、バカ違うよ! ちょっとテレビに見とれてただけだろ!? 話に興味があっただけで別に谷間を見ていた訳じゃ……!」


「見ーてーた! 絶対に見てた! 本当もう信じられない! スケベ! 変態! エロ河童! アンタなんか大っ嫌い!!」



父さんもお姉もいづみさんもいない二人だけの夕食、今までとは違う何か変にドキドキする雰囲気の中、全ては沈黙に耐えられたくなった私がテレビのスイッチを点けた事から始まった。

バラエティ番組に出演しているセクシーな衣装を着たグラビアアイドルの胸元がアップで映った瞬間、翔太の箸がピタリと止まって目線が画面に釘づけになった。

こんな場面は今までだって何回もあったのに、この時だけはなぜか私は許す事が出来なかった。つまり、嫉妬してしまったのだ。



「ちょっと待てよ那奈、誤解だって! 俺の話を聞いてくれよ!?」



頭に血が上ってしまった私は食事も適当に終わらせ、翔太の制止を振り切って自分の部屋に戻った。しばらくベッドに寝転んで布団丸まっていると、私は次第に冷静さを取り戻し自分がしてしまった行動を悔やんだ。



「……私のバカ、何であんな事言っちゃったんだろう……」



テレビや雑誌で他の女性の姿を見るくらい自由なのに、『恋人』という観点に捕らわれた私は勝手にそれを裏切りだと判断してしまった。これじゃただの束縛女、自分が一番嫌いなタイプの人間に気づかない内になってしまっていた。



「……明日、ちゃんと謝らなきゃ、でも、素直に謝まれるかな、翔太が許してくれるかな……?」



……トントン……



布団に丸まって落ちこんでいると扉をノックする音が聞こえた。家にはまだ誰も帰ってきた様子はない。じゃあ、扉の向こう側にいるのは翔太……?



「……那奈、さっき、ごめん……」



ゆっくりと扉を開けると、元気無くうなだれている翔太がいた。いつもだったらお互いに意地を張ってなかなか謝らなかったのに、私を心配して素直に謝ってくれた。本当に悪いのは私の方なのに……。



「……私の方こそごめんね、あんな事で子供みたいに怒って……」


「……うん、でも俺……」



何か、凄く嬉しかった。それは先に謝ってくれた事じゃなくて、私の事を気遣ってくれているのが翔太の表情から心に伝わってきたから。私の事を、ちゃんと大切にしてくれているっている気持ちがとても嬉しくて……。



「……!!」



切ない表情でうつむく翔太の姿を見て、心の奥底から一気に噴き出してきた熱い気持ちと自分のつまらない嫉妬で罵声を浴びせて挙げ句は先に謝らせてしまった謝罪の気持ち。

言葉に出来ない感情を抑えられなくなった私は翔太の首に手を回して、子供の頃にした『遊び』ではない『本物』のキスをした。やっぱり、私のファーストキスの相手は翔太だったんだ。



「……これで、許してくれる……?」


「………………」



私の暴走に近い突然の行動に、翔太は目をパチクリして茫然としていた。私はキスをする瞬間よりも、キスをしてしまったという現実に恥ずかしさがいっぱいになって心臓が張り裂けそうだった。顔も耳も全身が火照って翔太の顔がまともに見る事が出来ない。



「……もう一回……」


「……えっ?」


「……お、俺、今さ、準備とかしてなかったから全然実感が無いんだよ! だ、だから那奈、あともう一回だけ……」


「……な、何言ってんの!? そんなの、出来る訳ないでしょ!? もうダメ! 今日はもうこれ以上はダメ!!」


「お願いだよ那奈! もう一回、もう一回だけ!!」


「バカ! バカバカバカバカバーカ! もう絶対バカ! バーーーーカ!!」



生まれて初めて体験する激しい鼓動と、全身が焼けつく様な熱さに耐えられなくなった私は急いで部屋の扉を閉めた。そのままベッドに入り込んで布団に丸まっていると隣の翔太の部屋から何語かわからない喜び叫ぶ声とベッドで飛び跳ねる音が聴こえてきた。



「いやっほーい! すげー、何かもう℃¥$%#&〒@☆ぐらいすげー! すっげー嬉しい! やったー!!」


「……もう、バカ、本当にバカなんだから……」



興奮のあまり翌朝は完全に寝不足。何とかいつもの登校時間に起きれたものの頭の中は半分眠ったままだった。



「……おはよー」


「……うん、おはよー」



洗面所には先に翔太がいた。こちらもどうやら寝不足気味の様でまだ寝ぼけているみたいだった。私達はいつもの様に何の違和感もなく二人でパジャマ姿のまま鏡に並んで歯ブラシを取った。



「……あっ……」



歯ブラシに歯磨き粉をつけたその時、私は急に昨晩の出来事を思い出して一気に目が覚めた。それは翔太も同じだった様で、私達は一瞬顔を見合わせたが恥ずかしくてこれ以上顔が見れなかった。寝起きで低かった血圧が急上昇して軽く目眩がしそう。



「……あのさ那奈、昨日の……」


「……知らない」


「いや、まだ何も喋ってないけど……」


「知らない! 知らないったら知らない! もうバカバカバカ!」



思い出すだけで鼻血が吹き出しそうな恥ずかしい場面を洗い流す様に、私は歯茎から血が出るまで思いっ切り強く丁寧に歯を磨いた。一方、翔太はその間も歯を磨こうかどうか迷っているみたいだった。何考えているのよ、本当にバカなんだから、全く……。



「那奈、翔ちゃん、おっはよー!」


「……小夜、大声やめて、頭に響く……」


「どうしたのー? 頭痛いのー? じゃあ今日はあたし静かにしまーす! お母さんからも『二人の邪魔しちゃダメよ』って言われてるから、今日は那奈と翔ちゃんで仲良く手を繋いでねー!」


「おい、小夜!」


「バカッ! アンタは今日一日中ずっと黙ってなさい!」


「……ふぇーん、また那奈に頭叩かれたー、あたし何か悪い事言ったのかなー?」



……でも、昨日はキスだけで済んだけど、これからもずっと翔太とは同じ屋根の下で一緒に暮らしていく訳だし、また父さん達が家にいなくて二人きりになる時もあるだろう。その時、私は翔太に対してどんな態度を取ればいいのかなぁ……。

私も翔太ももう高校生になる訳だし、恋人同士がキスを交わしたその後に進む行為の先に何が待っているかぐらいわかっている。少なくとも男子である翔太はそれに凄く興味があるだろうし、私だって興味がないと言ったら嘘になる。

でもやっぱり、その時が来るのが少し怖い。翔太に私の全てを晒すなんて恥ずかし過ぎてとても考えられない。でも、でもやっぱり私は翔太の事が好きだし、翔太が私を求めてくれるのならそれはそれで凄く嬉しい。本気で翔太に迫られたら、きっと私は拒みきれない様な気がする。そうなったら、そうなっちゃったら……。



「……何考えてんだろ、私……」



いけない、いけないいけない! 完全に思考回路が暴走してる! 落ち着け、落ち着け那奈! ただでさえ翔太がどスケベな大暴走タイプなのに、私までそんなんなっちゃってどうすんのよ! それに、もし私がこんな事を考えているなんて小夜や翼や千夏に知れたら……!



「那奈どうしたのー? さっきから自分の頭をカバンでバンバン叩いて、やっぱり頭痛いのー?」


「……えっ? いやあの、うん、何でもない……」



小夜の声で我に帰った。私がバカな妄想をしてる間に、すでに卒業式のスケジュールは全て終わっていた。今はポカポカ陽気の桜舞う中、私達は卒業表彰が入っている筒を持って帰り道を歩いている途中。私の前では翼と千夏が楽しそうにお喋りをして、小夜と航は筒でチャンバラごっこをしていた。



「これでついに、あれダメこれダメ、ダメダメづくし校則の中等部とはオサラバや! 高等部に進級すれば自販機でジュース飲み放題、学食でカレーも菓子パンもプリンも食べれるし、これぞ正にくいだおれパラダイスやでー!」


「やっとアタシもあのBeautifulでAmazingなCampusにデビューする事が出来るのね!? 何だか恋の予感がするわ、この世界のSuper Girl、チナツ・ミシマににふさわしい青春ストーリーの幕開けよ! もう全校生徒の視線を独り占めしちゃうんだから!」



……ふぅ、どうやらこのうるさい女達にはこちらの様子を探られてはいないみたいだ。この前のバレンタインの後はずいぶんこの二人に『手ぐらい繋いで歩けや!』とか『アツアツのキッスはまだぁ〜?』とか色々と弄ばれたしなぁ……。



「……いけない、ちゃんと現実を見なきゃね……」



深呼吸をして一息ついた私は後ろにいる翔太の姿を伺った。すると、あの出歯亀男・薫に肩を組まれて何やら小声でヒソヒソと色々質問されている。何か嫌な予感がする……。



「なぁなぁ翔太の旦那、いざ幼なじみから恋人同士になった気分ってどんな感じ? やっぱり毎日ウハウハの天国気分なんですかい? ウヘヘ」


「さっきからうるせーな、そんな急に実感なんてねーよ! 別に学校だろうと家の中だろうと……」


「おーおー、そうでしたなぁ! お二人はすでに同棲生活なんでしたなぁ!? 家に誰もいなくて二人ぼっちになった時とかどうすんの? やっぱり邪魔者がいない訳だから、お互い熱くなって火照っちゃってあ〜んな事やこ〜んな事しちゃったりすんの?」


「……バ、バカ野郎! お前、何を馬鹿な事を言い出してんだよ!? 第一、あんな事やこんな事って……!」


「んもう、わかってるクセに〜? もう抱き合ったりしたの? キスしたの? 一緒にお風呂とか入ったの? 裸姿見た? おっぱい揉んだ? 下着脱がした? あるいはもう、すでにチョメチョメしちゃってたりするんですかぁ〜!?」


「くたばれ変態野郎!!」


「ぐぱぁぁぁぁぁぁ!!」



私は翔太が答える前に薫の伸びきった鼻っぱな目掛けて加減無く飛び膝蹴りを叩き込んでやった。大きな声で喋りやがって、こっちにまで話が筒抜けなんだよ、このエロ男め!



「翔太、いちいちバカみたいな話に付き合わないでよ! からかわれてるってわかってるんでしょ!?」


「そりゃわかってるよ! だけど、学校でもずっと薫がしつこく聞いてくるもんだから、何かもうイライラしてきて……」


「……余計な事、喋ってないよね……?」


「……よ、余計な事って……?」


「……昨日の、夜の事……」


「……そ、そりゃもちろん……」



あー、やっぱり恥ずかしい。自分からしてしまった事とはいえ、こんな話誰にも聞かれたくない。うっかり翔太が口を滑らせないかちょっと心配……。



「……『昨日の夜』って何の話やねん、ご両人!?」


「うわっ!?」



……しまった! いつの間にか翼が小さい体を利用して私達の間に入り込んで会話に聞き耳を立てていた。学校一の突撃レポーター、まるで隠密の様な身のこなし、CIAやKGBのスパイも顔負けの地獄耳だ。



「ヤッダ〜! 『昨日の夜』って何かエッチな響き〜! 何したのぉ? ねぇ、何したの二人ともぉ〜!?」



隠密から瓦版への華麗なる連携。今度は千夏が私達の周りに張り付いてしつこく質問してくる。人のスキャンダルがそんなに好きか、このビッチセレブめ!



「千夏、もしかしたらさっき薫が言ってた様にすでにコイツらチョメチョメしてもうたんちゃうか!? 男と女の関係になってしもたんとちゃうか〜!?」


「イヤ〜ン! チョメチョメとか男女の関係って卑猥な日本語〜! つまりはMakeing Loveって事ね!? おマセでイケない中学生だわ、ねぇねぇ那奈、『女』になるってどんな感じなのぉ〜!?」


「バ、バカじゃないのアンタ達!? 昨日はただちょっとキスしただけで、そんな事までする訳ないでしょ!?」


「……お、おい、那奈!!」


「……あっ!!」



……やってしまった、見事な自爆劇。まんまと翼と千夏が仕掛けたブービートラップを思い切り踏んづけてしまった。あーもう、私のバカ! バカバカバカッ!!



「キャ〜! キスしたんだ〜! 聞〜いちゃった、聞いちゃった! 皆さ〜ん、この二人まだ中学生なのに昨日の夜キスしました〜! 祝福してあげて下さ〜い!!」


「コイツ、コイツ生粋のアホや! 自分の口から思いっ切りカミングアウトしたで! これはもうチョメチョメも時間の問題やなぁ!? PTAが聞いたら激怒してまうで!? とんでもなくエロいカップルが誕生したもんやなぁ、顔真っ赤っ赤やで那奈、ブハハッ!!」



……もう、何も言葉が出ない。私の頭は完全にオーバーヒートしてまとも立っている事すら出来ない。火照った体の熱さと高まる鼓動で、私はまるで高熱を出したみたいに全身の力が抜けてその場にヘナヘナと座り込んでしまった。



「……おい、那奈、大丈夫か……?」



翔太の優しい気遣いも今の私には逆効果。余計にドキドキしてしまう。今まで男勝りの気の強さが売りだったいつもの性格はどこかに吹き飛び、私はどこにでもいる普通のか弱い女の子になってしまっていた。そんな産まれたばかりの小鹿の様に震える私を、容赦なく狩り捕る牝ライオンの様にパパラッチコンビはネチネチと痛めつける。



「あらら、これは腰が抜けてしもたんとちゃうか? おいコラ王子様、ちゃんとお姫様を守ってやらんかい!」


「ここはお姫様抱っこをして目覚めのキッスしかないわ! まるでディズニーの世界みたい、何てRomanticなのかしら!」


「早よキッスせいやオマエら!? あっ、そ〜れキッス、キッス、キッス、キッス!!」



……手拍子まで始めやがった。もういいや、好きにしてよ。もうこうなっちゃうと何も抵抗出来ない。一つも言い返す事が出来ない。どうせ私は愚かな女ですよ……。



「……那奈、立てないなら俺に掴まって、大丈夫だから……」


「……えっ? やだ翔太、顔が近いよ……」



……あれ? 何か翔太の目が本気っぽい。お姫様抱っこなんてやめてよ。本当に? 本当にここでみんなの前でするの? ダメ、ダメだよう、今の私、抵抗出来ないってば……。



「『チッス』と聞いてブッ飛んで参りました〜!!」


「うわぁ!!」



突然、さっき仕留めたはずの薫が後ろから私と翔太の間を割ってすっ飛んできた。バカが乱入してくれたお陰で私にかけられていた変な魔法は解かれ、一瞬にして場の空気がディズニーからお笑いライブ場に変わった。



「いいなぁ、いいなぁ、チッスいいなぁ〜、羨ましいぜベイビー! よーし、俺も負けねぇ! 翼、俺達も翔太達と一緒にダブルチッスしようぜぇ!」


「ハァ!? 突然出てきて何やねんオマエは!? 何でウチとオマエがキスせなアカンねん、このどアホ!!」


「チッス、ステップ、チョメチョメだせベイビー! お嬢や翔太よりも先に、俺達だけであの虹の彼方へ飛び出そうぜダーリン!?」


「ふざけんなアホォ! オマエみたいな得体の知れへん変態にオトンから貰たこの大切なナイスバディをくれてやる訳ないやろ!! コイツ変態やで、誰か警察に通報してや〜!?」


「この想いは雲を突き抜けて時を越えて銀河の遥か先へと駆け上っていくのさ! 一万年と二千年前から愛してるぅ〜!!」


「古っ〜!!」



見るからに危険な男がロリっ子を追いかけて走っていってしまった。一歩間違うと幼女を拉致しようとする変態男に見えなくもない。本当に通報されないかちょっと心配だ。



「何よもう! もう少しでステキなキスシーンが見れると思ったのに、翼と薫ちゃんのバーカ!!」



……やれやれ、千夏一人相手ならもう大丈夫だ。薫に助けられた、のかな? とりあえず私はいつもの自分を何とか取り戻し、スカートについた砂を払って立ち上がった。



「……翔太、アンタさっき何かしようとしたでしょ?」


「……えっ? いやそれはあの……」


「バーカ」



あーあ、危うくとんでもない赤っ恥をかかされるところだった。しかし、翼や千夏に煽られてその気になっちゃう翔太のスケベさはハンパなく危険。これは私がちゃんと翔太をコントロールしないとダメみたい。全く、世話が焼けるんだから……。


私に一喝されてしょんぼりと意気消沈してうなだれる翔太を置き去りにして歩いていると、横で一部始終見ていた小夜が目を丸くして私を見つめていた。これまた何か嫌な予感が……。



「……何よ小夜、何か用?」


「ねーねーねー、さっきから翼や薫ちゃんが言ってる『チョメチョメ』ってなーに?」


「バ、バカッ! アンタそんな言葉……」



……あちゃー、一番聞いていちゃいけないお子様の耳に入ってしまった大人の言葉。困ったな、何て答えればいいんだろう。まるで子供から『赤ちゃんはどこから産まれてくるの?』と質問された母親の心境だ。



「……アンタはまだそんな事知らなくていいの、忘れなさい」


「えー!? そんなのやだー! あたしも知りたーい! ねーねーねー、『チョメチョメ』って、『チョメチョメ』ってなーに!?」


「あーもう! 大きな声で喋るな! だからその、何て言うか、恋人同士や結婚して夫婦になった男の人と女の人が仲良くする事をそう言うの!」


「……結婚か、ふーん……」



かなり適当だったけど、何とか誤魔化せたみたいだ。こういった無知で無邪気な質問が一番困ってしまう。さすがに小夜にはまだまだこの手の話は早い様な気がする。下手に教えたりすると何を仕出かすかわからないから、これで良かった、と思う……。



「あっ、わかった! ねーねーねー、那奈!」



まだ続くの!? もういい加減してよ、翔太に翼に千夏に薫に、みんなの相手をしてクタクタだっていうのに……。



「お母さんに聞いたんだけど、もしあたしが将来男の人と結婚して、その人に兄弟がいたらあたしにとっても義理の兄弟になるんだよね?」


「……まぁ、そうだけど、それがどうしたの?」


「じゃああたし、航クンと結婚するー! 航クンのお嫁さんになって航クンと『チョメチョメ』するー!」


「……バ、バカッ、アンタねー!?」



何て事だろう、完全に意味をはき違えているしこの言葉に対して全く羞恥心が無い。何を言い出すかと思えば航と結婚したいって、それってアンタただ瑠璃の為だけじゃないの!?



「だって航クンと結婚したらあたしは瑠璃ちゃんのお姉さんになれるんだよね? ねーねー航クン、あたし瑠璃ちゃんのお姉さんになりたーい! だからあたしと結婚して『チョメチョメ』しよー!? いいでしょ、ねーねーねー!?」



……やっぱりか、やっぱりそうか。小夜の考えてる事だから容易に予想出来てたけど、義理のお姉さんになりたいだけで簡単に結婚したいだなんて、この子には全く常識力や恋愛感情とかってものは備わってないのかな? 航、ここはしっかり小夜の教育の為に一つガツンと言ってやって!



「…………どうぞご自由に」


「ちょ、ちょっと航!?」


「わーい、やったー! これであたし、瑠璃ちゃんのお姉さんになる事が出来るよー! やったやったー!!」



……ダメだこの二人。小夜どころか肝心の航までもが自分達の発言の重大さに全然気付いていない。これじゃ幼稚園児のおママゴトと一緒だよ、参ったなぁ……。



「翔太、アンタ従兄妹でしょ? 何とかしてよ、もう私には手に負えないよ……」


「……た、多分航はちゃんと理解して言っていると思うよ? アイツは意外としっかりした常識人だし、喜ぶ小夜を傷つけない為にあんな返事をしたんだと思うけど……?」



まぁ確かに、今まで航が小夜を傷つけた事なんて一度も無かったし、小夜にとって航はボディガード兼お嬢様の執事兼家庭教師のお兄さんみたいな存在だから、環境に優しく無害で大丈夫、かな……?



「那奈、あたしちゃんと瑠璃ちゃんとの約束守ったよー! これであたしも一人前のお姉さんだね、エヘヘッ!」


「……アンタの場合、その前にちゃんとお嫁さんになれるかどうか心配だよ……」


「チョメチョメ、チョメチョメ、わーいわーい! これであたしと航クンも『チョメチョメ』だねー!」


「だから黙りなさいって言ってんでしょ小夜! お願いだからこれ以上喋らないでよ!!」



麻美子の妊娠騒ぎから何かとんでもない展開になってきた。まさかこの面子で恋愛や結婚云々の話になるなんて夢にも思わなかった。と、言っても片方は幼稚なおママゴト、もう片方は一方的なストーカーだが。



「や〜ね〜、みんな急に色気付いちゃって、見る目が無いわねぇ〜? アタシはちゃんとこの目で男を見極めて、みんなよりもっとステキな恋愛をしてカッコいいセレブをGetしちゃうんだから!」



一人蚊帳の外にされた千夏が尖った尻尾をフリフリして、これから先の高校生活に向けて恋の毒矢を磨いていた。でも、実はネタバレしちゃうとこの小悪魔の恋の野望は高校の入学式当日にやってくる野獣によって見事木っ端微塵にされちゃうんだけどね。その話は次回までのお楽しみ。



「……高校生、か……」



将来の期待と不安が入り乱れる不思議な気持ち。私達はこれからどんな人達に出会い、どんな出来事が待っているのかな。とりあえず、勉強も恋愛も一生懸命頑張っていこうっと!



「……あっ、俺まだ親父さんに那奈との事を正式に報告してなかった、やべぇ、殴られるかも……」


「……そういえば、私も母さんやいづみさんにまだ何も話してなかったっけ、何かいづみさんからいじめられそうな予感……」



……結婚なんてまだまだ遥か遠く先の話。家に帰ったらこの連中よりも恐ろしい愛すべき家族が手ぐすね引いて待っている。はたして私と翔太の、渡瀬家の将来は如何に。ハァ、何か先が思いやられるなぁ……。



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