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第26話 マシンガンをぶっ放せ



無事に年も明けて寒さも収まり少しずつ日も長くなってそろそろ春の訪れが近いと思われてた三月始め、一昨日から急に寒が戻って季節外れの大雪が関東圏内を直撃した。

この大雪のお陰でこの二日間は交通機関は完全に麻痺してしまうし、通学下校時は頭や肩に雪が積もって手足は冷たいし、学校内はストーブも効かずに無茶苦茶寒いし、かなり酷い目にあった。


今日になるとやっと雪も止み、厚い雲に覆われていた太陽が久し振りに顔を出した。人も車もまばらだった大通りもようやくいつもの活気が戻りつつあった。

しかし二日間降り続いた大雪の残骸はまだたくさんあちこちに残っていて、いつもの学校からの帰り道にもたっぷりと白い塊が積もっている。



「ねーねーねー、雪合戦! みんなで雪合戦しよーよ!」



長靴履いても足先が冷たくてビリビリする学校の帰り道、小夜の子供みたいな発想でみんなで雪合戦をやる事になってしまった。

こんな大雪で外を走り回りたがるのは犬と小夜ぐらいだろう。こんな寒い日は早く家に帰ってコタツで丸くなりたいのに全く……。



「そうやなぁ、女子と男子でチームに分かれようや、5対3でハンデにはちょうどええやろ?」


「……えっ? あ、あの、私も参加しなきゃいけないんですか……?」


「当然じゃない! いいわね麻美子、やるからには絶対アタシ達が勝つわよ! 逃げたら承知しないんだから!」


「……怖いですよ、千夏さん……」



翼や千夏達電車帰宅組もなぜかやる気満々。乗り気でない麻美子や航を無理やり引き連れていつもの駅を通り越して寄り道決行。



「よーし、そんじゃお互い陣地に分かれるとしますかね、雪玉ぶつけられたら即退場、当たったら正直に申告する事でファイナルアンサー!?」


「そう言うとる薫が『正直』とか一番信用出来んちゅーねん」



結局、戦場は私の家の前にある広い空き地の中と決まった。元気ハツラツのハイテンション組の後を、私を含めたやる気無し組はトボトボとついていった。



「……ここまで来たならもう家に帰りたいんだけど……」


「……だよなぁ、雪合戦なんて何で今さらって感じだよ……」


「那奈も翔ちゃんも早くー! 動けば暖かくなるから大丈夫だよー!」



ここは元々はマンションの建築が予定されていた場所だったが、色々と大人の諸事情があって工事はストップして荒れ放題の空き地と化していた。侵入防止のバリケードも倒れてしまっており完全な無法地帯だ。

雪合戦をするにはちょうどいい大きさの広場で、中には色々と廃材やドラム缶、鉄筋や地盤用の杭になる体がすっぽり入る穴の空いた鉄管が置いてあって盾や隠れ場所するにはもってこいだ。

バンバン投げ合う雪合戦というよりも、ちょっとしたサバイバルゲームの様相になりそうな感じだ。女子と男子にチームを分けて、それぞれの陣地を決めて全滅か陣地占領を勝利条件として合戦は始まった。



「いいかい翔太の旦那、裏切りは無しだぜ! 俺達は一心同体、死ぬ時はみんな一緒だぜ!」


「だから薫、お前が一番信用出来ねーんだよ! 誰かと連んでんじゃねーだろーな?」



女子軍の陣地に揃ってじわじわと近づいていた男子軍の頭の上の鉄骨に、突然雪玉が『バシャ!!』と音を立ててぶつかった。



「うわっ、襲撃だ! メーデーメーデー!」


「みんなおったで千夏! そっちに逃げたから先回りして挟み撃ちにするんや!」


「イエッサ! 荒野の狼とはアタシの事よ! みんなまとめて仕留めてやるわ!」」



翼と千夏、左右からの挟み撃ち奇襲に男子軍はいきなり大ピンチになって飛んでくる雪玉から逃げ回った。



「何で居場所がバレたんだぁ! ちゃんと隠れてたのにぃ!」


「こんなに簡単に見つかってどうすんだよ薫! お前やっぱり情報流してるだろ!?」


「…………小さくなってたのになぁ」


「俺のせいじゃないよ翔太! 航だ、航がデカすぎて丸見えなんだよ!」



どんなに障害物があろうとも大台190cmにあと一歩まで迫った航の頭は良く目立つ。昔にも大きすぎて狙われて沈んだ日本の戦艦もあったと歴史の授業で習った事がある。



「あそこあそこ! あそこの穴の中に隠れようぜ!」



翔太の機転で何とか近くにあった大きさ鉄管の中に逃げ込み難を逃れたが、窮地に追い詰められている事には変わりない。何せ鉄管の中では反撃に使える雪が全く無いし、両方の穴から挟み撃ちされたら一気に全滅だ。



「ちょっと、三人ともどこに隠れたのよ!? 無駄な抵抗は止めて出てきなさい!」



千夏の声が鉄管の中に響き渡る。男子軍は声が聴こえない様にひそひそと作戦会議を開いた。



「どーすんだよ薫、このままじゃ見つかるのも時間の問題だぞ?」


「…………投降する?」


「投降したって雪ぶつけられるのがオチだろ!?」


「まぁまぁ待ちなさいなお二人とも、こんな事もあろうかと思って、この天才司令官こと桐原薫ちゃんはしっかりと下準備をしてあるのさっ!」


「……下準備?」



薫はニヤリと笑って鉄管の出口の方を見た。そこには男子軍にはいないはずのスカート姿の小さい人影が一つ。



「……ゲッ、翼!?」


「そうやで! 予定通りやな薫!」


「そうそう、順調だね!」



その頃、何も知らない千夏は男子軍を追いかけて広場の隅までやってきていた。



「……あ〜れ、おっかしいわねぇ〜? こっちに逃げ込んできたはずなのに、翼もいなくなっちゃうし……」



千夏がドラム缶の裏などを調べていると、『ドシャ、ドシャ!』っと予想外の雪玉攻撃が背後から襲って来た。



「キャッ! 何、何なの!? 何で後ろから!?」



千夏は知らぬ間に雪玉を持った翔太達に囲まれていた。そして、その上の鉄管の上には翼が腕を組んで千夏を見下ろしていた。



「……残念やったなぁ千夏、ここで朽ち果ててもらうで」


「……翼! 何よどういう事なの!?」



翼は狼狽える千夏に対して敬礼してニヤリと笑った。何かの有名なアニメで見た事があるシーン。



「君は良い友人だったが、君の『セレブのクセして何もおごってくれないケチな性格』がイケないのだよ! アッハッハッハッハッ!!」


「翼! 謀ったわね翼!!」



時すでに遅し、逃げ場のない千夏は男子軍からの雪玉攻撃の直撃を食らった。



「千夏ちゃん、その首貰ったぜぇ! ウハッ!」


「……やられたくないならやるしかないんだ! 千夏ちゃん、ごめん!」


「…………とりあえず、合掌」


「きゃあぁぁぁぁ!!」



果敢に戦陣を切った千夏は友の裏切りによりあえなく戦死した。なぜだ!?



「……お嬢ちゃまだからや」



決戦前から翼と薫はグルだった。翼が一人ずつ女子を連れていって罠にかけて始末していく戦術だったのだ。



「……やりすぎだろ、これ? お前ら友達無くすぞ?」


「何を言うか旦那、ここは戦場だぜ! 次はこっちの番だ! 攻め込むぜ旦那、航!」


「…………了解」


「……この話聞いたら絶対に那奈が怒るぞ……?」



ノリノリの薫とシラッとしている航に呆れた顔をして翔太はしぶしぶ後を追った。



「じゃあ翼、あとは予定通り頼んだぜ!」


「任しとき! 薫、約束通り後で缶コーヒーおごれや!?」



男子軍とは別方向に向かって翼は陣地に戻ろうとした。次の獲物を捕まえる為に。



「どう考えたってこんな寒い日は友情よりも温かい缶コーヒーの方がポッカポカやもんなぁ? すまんなぁ千夏、安らかに眠れや……」



翼がボソボソと独り言を喋りながら歩いていると、先の鉄骨の影に誰か人が隠れていた。油断していた翼は飛び上がって驚いた。



「……翼さん……」


「ひっ! ま、麻美子やないか? 幽霊かと思たわ……」



まるで亡霊の様に麻美子が影から翼を見つめていた。しかも眼鏡が薄く曇っていて雰囲気がちょっと怖い。



「……『缶コーヒー』って何の話ですか……?」


「……な、なななな何でもないで! つーか、オマエ何でここにおんねん?」


「……千夏さんの悲鳴が聞こえてきて心配でここまで来たんですけど……」


「……ち、千夏!? そ、そうかいな! あっそや、そういえばさっき薫達が向こうに逃げてったで! 一緒に行ってやっつけたろうや、なっ!?」



翼は何とかその場をしのごうと強引に話を変えて立ち去ろうとしたが、麻美子の眼鏡はますます曇って空気はどんどん冷たくなっていく。背中を見せた翼の後ろにピッタリとついた麻美子はボソボソと耳元で囁いた。



「……私、見ちゃったんです、裏切ったんですよね、千夏さんの事……?」


「……は、ハァ? ちょっと、麻美子怖いわ……」


「……薫君と連携して、大切な友達をたった一本の缶コーヒーに買収されて罠にはめるなんて、何てヒドい人……」


「ギョエ〜! バレてるぅ! 許してや〜!?」


「全国の小さい子供達の教育に良くない行動はいけませーん!!」



麻美子は背中に隠していた制裁の雪玉を翼の顔面に向かって思い切り投げつけた。



「うぎゃぁぁぁぁ!!」



裏切り者、翼撃沈。数的優位だった女子軍の二人が消えた事で三対三のイーブンになってしまった。しかし、これで卑怯な内通者はいなくなった。



「…………翼が消えたってさ」


「心配ないね、それも予定通りさ!」


「……薫、お前本当に友達いなくなるぞ?」



男子三人が影に潜んで狙いを定めている女子軍陣地、何本も縦に立てられていた土管の中に私と小夜は隠れていた。



「……麻美ちゃん心配だなー、どこまで行っちゃったんだろ?」


「……何でこんなクソ寒い中でジッとしてなきゃいけないのよ!? さっさとみんなやっつけて、さっさと終わらして、さっさと帰るよ、小夜!」


「えっー! 外に出たら危ないよー! 那奈一人で行かないでよー! 麻美ちゃんが帰ってくるまでここに一緒にいよーよ!」


「……全く、もう……」



雪合戦やりたいって言い出しっぺの小夜の護衛の為に私は攻め込む事が出来ずにいた。あんなヘタレ男子が三人揃っていようと私一人で蹴散らしてやるのに……。



「翔ちゃん達、どこから攻めてくるのかな? ドキドキするけどちょっと怖いよー!」


「……シッー! 小夜、ちょっと黙って……!」



……ギュッ、ギュッ、ギュッ……



耳を澄ますと雪の上を人が歩いて来る足音が聞こえてくる。誰だろう、帰ってきた麻美子か、それとも攻めてきた翔太達だろうか。私は小夜の頭と口を押さえてその足音の数を聞き分けようと神経を集中した。



「……那奈、誰か来てるよー?」


「……シッー! 静かに……!」



その足音は間違いなくこちらに真っ直ぐ向かってきている。しかもその数は一人ではなく、複数の足音が聴こえてくる。間違いない、アイツらが攻め込んできた。



「……小夜、そこから顔を出すんじゃないよ、私がまとめて一斉にやっつけるから!」



土管の中にあった雪を数個丸めて雪玉を用意し、迎撃しようと勢い良く頭を出して振りかぶったのだが、そこにいたのは意外な人物だった。



「……那奈、おめー何やってんだ……?」


「……何よ、雪合戦? こんな寒い日に元気よね……」


「……あれ?」



モグラ叩きの様に頭を出した私をお姉といづみさんが二人並んで呆れて見ていた。手にはビニール袋をぶら下げていて、どうやら買い物の帰りの様だ。空き地の中の異様な雰囲気が気になって見に来たらしい。



「……ほぉー、雪合戦かよ、何か面白そうだな、ウッヒャッヒャッ」


「私も若い頃、貴之や虎太郎達と雪合戦やってたっけかな〜、毎回手加減無しで至近距離からぶつけ合ったっけ……」



お姉はニヤリと笑って指をポキポキ鳴らし始め、いづみさんはビニール袋を下に置いて腕を回し始めた。新旧大問題娘のこの雰囲気、何か凄く嫌な予感がする。



「いづみちゃん、あたし達もひと暴れしよぅぜ! あんたの錆びついた不良娘っぷり、この優歌様に見せてみな!?」


「ふん、ガキがナメた事言ってんじゃねーよコラ! 私はこのまま女子軍に入るわよ! 優歌と一緒に翔太もまとめてぶっ潰してやるから肝据えな!?」


「よーし! じゃあ、あたしは男子軍に入るぜ! 那奈、手加減しねぇから覚悟しろよ!?」



何かエラい事になってきた。もう遊びというか戦争に近い殺気が漂い始めてきた。



「それじゃあ、はいスタート! 那奈、小夜、攻撃開始! 優歌をぶっ潰せ!」



いづみさんを先頭にして私達はお姉に向かって一斉に雪玉を投げつけた。いきなりの再開に男子軍に合流出来ていないお姉は飛び上がって逃げ出した。



「ちょっとオイオイオイ、いきなりかよ! 少し時間くれたっていいじゃんか、汚ぇぞいづみちゃん!」



お姉は一斉攻撃を間一髪かい潜って翔太達が隠れていた鉄管の裏に逃げ込んだ。



「うわっ! 何でここに優歌さんが!?」


「…………敵?」


「敵なんですかぁ!? ひぃ〜、怖いよ〜!」


「……違う違う! あたしはおめー達の仲間だよ! あの野郎ども、いきなり攻撃してしやがって……」



このゴタゴタの間に様子を見に行っていた麻美子も戻って来て、女子軍も男子軍も一人ずつ増えて四対四になった。土管から四人が潜んでいる鉄管までは約十メートル、攻め手がない両軍は相手の動きを読みあって膠着状態になった。



「……どうするんですかいづみさん? 男子軍の陣地はがら空きだから私一人で奇襲をかけるとか……?」


「……ダメね、そんな事したら数的不利でここが先にやられるわ、これは戦いは動いた方の負けよ……」



男子軍でも同じ様な作戦会議が行われていた。



「……どうするんスか優歌さん? このままじゃラチが開かないっスよ……?」


「……そうだなぁ、もうちょっと近づけねぇと難しいなぁ、せめて近くに盾になる物があればいいんだけとなぁ……?」


「……案ずるな、この戦場はすでに我の手の中にある」


「……うわっ! 何やってんだよ虎太郎ちゃん!?」



どこからやって来たのやら、いつの間にか男子軍の後ろに父さんが潜んでいた。女子軍陣地からでもその暇そうな姿は確認する事が出来た。



「……何で父さんまでここにいるの……?」


「……あの男はちゃんと仕事してんのかねぇ? 困ったもんよね……」



私といづみさんで呆れて見ていると、父さんを先頭に男子軍はコソコソと場所を移動して私達の視界から消えた。



「なぁなぁ、虎太郎ちゃん、何か秘策でもあんのかい?」


「優歌、あれを見ろ! これぞ戦場を生き抜く為に俺様が作った要塞だ!」



お姉達が父さんの指差す方を見ると、いつの間に作ったのやら、私達女子軍が陣取る土管の前に大きなかまくらの様な雪の固まりが出来あがっていた。



「あそこからなら相手の攻撃から身を守れるし、すぐに身を乗り出して反撃も出来る! 全員、速やかに要塞の中に移動せよ!」


「……あの、これって親父さんがわざわざ作ったんスか……?」



本当にバカバカしい話なのだが実際これと戦わなければいけない私達からしたらたまったもんじゃ無い。まるで戦場にある『トーチカ』の様に覗き穴まで開いていて、中に潜んでいてもこちらの動きが丸見えだ。



「攻撃開始! 出力最大、砲撃手用意! 打て打て打てぇぇぇ!!」」



要塞の上に立つ父さんの管制に合わせて男子軍が一斉にこちらに向かって雪を投げて攻撃してきた。とても土管から顔を出して反撃出来る余裕は無いし、土管の中を狙って山なり軌道の雪玉まで上から降ってくる。



「ちょっとちょっとちょっと! 父さん、お姉、翔太! 本当にバカじゃないのあの連中!!」


「怖いよ麻美ちゃーん! 雪がいっぱい飛んで来るよー!!」


「もうイヤー! 誰か助けて下さーい!!」


「虎太郎、いい加減にしなよ! こっちは人数的にも不利なのに!!」



近くに落ちていた木の板で蓋をして、何とか砲撃から身を守ってきたが、ほとんどイジメに近い圧倒的な戦力の差にに段々嫌気がさしてきた。



「打ち方やめーい!!」



父さんの声で攻撃が止んだ。一安心した私達はゆっくりと土管から顔を出した。



「お前達に勝ち目は無い! おとなしく投降せよ! そうすれば命の保証ぐらいはしてやるぞ!」



どこから持ってきたのか、メガホンを持った父さんは要塞の上に仁王立ちして私達に降参するように呼びかけてきた。



「……命の保証って何の話よ、父さん! 何でアナタがここにいるのかもわかんないし、いい大人がたかだか雪合戦でやりすぎじゃないの!?」


「良いか娘よ、体はオッサンでも心は永遠のガラスの少年、それが渡瀬虎太郎様じゃあ! よーく覚えとけやコラァ!!」



……最悪だ。何で私はこんな父親の元に生まれてきてしまったのだろうか。軽く自殺したい気持ちになった。



「……那奈、アンタ本当に可哀想だね、強く生きていきなよ……」


「……同情なんてしないで下さいいづみさん、余計にヘコみます……」



まるでどこかの国の暴君の様に、さらに父さんは鼻息荒く言葉を続けた。



「今すぐ投降すれば、この寒空の下で海パン一丁で『おっぱっぴー』の刑で済ませてやるぞ! 速やかに投降せよ!」



何よそれ、私達女子に対する完全なセクハラじゃない? 愕然として言葉の出ない私の胸の内をいづみさんが代弁してくれた。



「冗談じゃないわよ! アンタになんか死んでも投降するか! このバカ虎太郎!!」


「……それでも潔く戦って死ぬ道を選ぶか、まぁそれもいいだろう……」



そう言うと父さんは下に降りて雪の要塞の中に隠れた。



「攻撃開始じゃあ!!」



ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ!!



私達のいる土管めがけて再び次々と雪が投げつけられてきた。降参はしたくないが、もうさすがに我慢の限界だ。



「もういい加減にしてよ、父さん!」


「こうなったら那奈、玉砕覚悟で反撃するよ!」


「えっ? でもいづみさん、この攻撃の中でどうやって!?」


「とにかくあの男の思い通りにやられるのは絶対に御免よ! 相討ちになってでも必ず仕留めてやる!!」



頭を抱えて怖がっている小夜と麻美子を置いて、私といづみさんは覚悟を決めてタイミングを見計らい反撃に出ようと土管から頭を出した。すると、私達と男子軍の間に一人の女性が水道ホースを持って立ち塞がっていた。



バシャーーーーーーーー!!



「うおっ! 何だ何だ、何が起こった!?」


「うわっ、冷てぇ! 親父さん、水っスよ水!」


「虎太郎ちゃん、放水だよ! こっちに向かって水ぶっかけられてるよ!!」



想定外の攻撃に男子軍は全然要塞に隠れて攻撃を止めた。それに併せて放水も止まって戦場は一瞬沈黙状態になった。



「優歌、翔太、今の攻撃はどこからだ! 一体誰の仕業だ!!」



父さんは再び要塞の上に立って辺りを見渡した。女性が持つホースの元を辿ると、私の家の外にある水道口に繋がっていた。まさかこの人……。



「……何やってんの、アンタ達……?」


「……この声は! 貴様か、貴様なのかぁ!?」



そこには、庭の水まき用の放水トリガーの着いたホースを父さんに向けている母さんが立っていた。



「えっー! ちょ、ちょっと母さん!?」


「マジで!? 何で麗奈さんまでここにいるんスか!?」


「つーか、いつ帰って来たんだよ、麗奈ママ!!」



突然の帰宅に驚いている私達を後目に、いづみさんは土管に座って頭を押さえて大きく溜め息をついた。



「……帰って来るんだったらちゃんと連絡してよ、麗奈……」



家の玄関の前には翼一人分スッポリ入りそうな大きなアタッシュケースが二つも置いてあった。正にたった今さっき家に帰って来たみたいだ。



「……少し時間が出来て久し振りに家でも帰ろうと思ったら、天候悪化で飛行機が飛ばなくて空港に何時間もカンズメにされるし、やっと日本に着いたらこの大雪でタクシーは家の前まで入って来れないし、重いカバンを引きずりながらやっと家に帰って来たら何よこのザマは!? いい歳して雪合戦なんてやってんじゃないわよアンタ達!!」



……ヤバい、これは相当ご立腹のご様子。私やお姉よりも怒らせてはならない人を怒らせてしまった。



「覚悟なさい! アンタ達全員、一人残らず墜としてやる!!」



そう言うと母さんはホースに付いているトリガーを構えて噴射口を回して水の勢いを最大限にまで絞った。



ドバァァッッッッ!!



勢い良く飛び出した水は雪の要塞を削り取る様にジワジワと表面を溶かしていった。



「ヤバいよヤバいよ、虎太郎ちゃん! 雪がどんどん溶けていってるぜ!?」


「このままじゃ俺達全員ズブ濡れになりますよ、親父さん!?」


「今さらノコノコと現れよって、渡瀬家の亡霊め!」



怯んでいる男子軍の様子を見て、放水を止めた母さんはさっきの父さんの様に最終警告を出した。



「……少し猶予を与えてやる、抵抗せず苦しまずに死ぬか、それとも戦って苦しんで死ぬか、好きな方を選べ!」


「……暗黒の化身、渡瀬麗奈! よくも我が輩の目論見を邪魔してくれたな! お前に帰る家など無いわ!!」


「黙れ下等! 昼間からろくに仕事もせず、四十を越えて未だに雪合戦など、恥を知れ、俗物が!!」



……何この夫婦の会話、こんな言葉を交わす一家が他にあるだろうか? 実の娘の私でさえこの二人の関係が一体何なのかサッパリ理解出来ない。しかもどこかで聞いた様なセリフ回し。



「どうする? これで終わりにするか、続けるか、虎太郎!?」


「何を言う! そんな権限がお前にあるのか!?」


「口の効き方に気をつけて貰おう!!」



もちろん交渉決裂。母さんは再び放水を開始した。父さんはすぐに雪の中に隠れたが、その手作り要塞はみるみるうちに呆気なく溶けて、屋根の半分近くがボロボロ崩れ落ちてきた。



「ええい、これ以上破壊されてたまるか!!」


「って言ってもどうすんのよ虎太郎ちゃん!? これじゃさすがにあたし達も身動きとれないぜ!?」


「まだだ、まだ終わらんよ! 俺が外に出てヤツを誘導する、お前達はその隙に一気に相手陣内に攻め込み、敵の全滅及び水道ホースの栓を止めて無力化せよ!」


「えっ? でもそんな事したら、下手すれば親父さんがズブ濡れになりますよ!?」


「構うな翔太! お前達が未来を切り開くのだ! 新しい時代を創るのは老人ではない!!」


「……あの、さっきから喋り方が何かおかしくないっスか?」


「……今の私は渡瀬虎太郎だ、それ以上でもそれ以下でもない……」


「……コロニー落としとかしないで下さいよ?」



翔太の話を半分も聞かずに、父さんは陥落寸前の要塞から果敢に飛び出してきた。



「うおぉぉぉぉ!!」



もちろんその姿は母さんからも丸見え。突っ込んでくる元サーキットの彗星に対してきっちりと狙いを定めた。



「終わりだ! 墜ちろ、虎太郎!!」


「うおっ!!」



放水をジャンプして避けた父さんは着地した時に母さんが撒いた水と雪で滑って、その転んだ勢いのまま私達がいる土管の近くまでツルツルと滑ってきた。



「……良し、結果オーライだ! 相手陣内に侵入したぞ! 今から全軍総攻撃を開始しろ……!」


「那奈のおじさーん!」


「……ん?」



倒れている父さんの前にある土管から小夜が笑顔で顔を出した。



「ごめんなさーい!」



小夜は土管の中で作っていたボーリング玉ぐらいに大きい雪の塊を父さんに向かって投げつけた。



「ぐわあぁぁぁぁ!!」


「父さーん!!」


「親父さーん!!」


「虎太郎ちゃーん!!」


「……認めたく無いものだな、自分の若さ故の過ちというものを……」



サーキットの彗星、圧死。痛いだろうなぁ、あんな大きい雪の塊……。



「……哀れなものだな、最凶の暴君も地に墜ちたものだ……」



父さんの死に様を見届けた母さんは顔色一つ変えず鬼の様に崩れ落ちた雪の山に向かって放水を続けた。男子軍の周りの雪は水浸しになりほとんど溶けてしまっていた。



「優歌、翔太、その他の俗物! お前達はどうする? 死ぬならヤツの様に潔く散って死ね!」


「お断りしますー!!」


「麗奈ママもう勘弁してよ! もう投降するからさ!」



完全に勝負がついたその時、母さんが持っていたトリガーが水圧に負けて壊れてしまい、制御不能になったホースは蛇の様に暴れまくりあちらこちらに水が飛び散った。女子軍の私やいづみさんにも放水が襲いかかってきた。



「キャー!!」


「うわっ、ちょっと母さん、冷たいよ!!」


「麗奈、ホース捕まえてよ! こっちにまで水が飛んで来てるってば!!」



しかし水圧最大限まで開けられてるホースはそう簡単に捕まらない。捕まえにくる人間を次々とびしょ濡れにしまくっていった。



「うわぁ、メチャクチャ冷てーよー! ウハッ!!」


「……誰か、誰か止めて下さーい! イヤー!!」


「端にいるウチらにまで水がかかってきたでぇ!!」


「航ちゃん、水道止めてよ! Hurry up!!」


「…………了解」



さんざん辺りを水浸しにしたホースはやっと収まり静かになったが、そんなの後の祭り。私達は一人残らず下着まで浸水した。



「……頭からズブ濡れだよ、トホホ……」


「わーい! 翔ちゃんもびしょ濡れー! 楽しかったなー! 那奈も雪が積もったらまた雪合戦やろうね!」


「……冗談じゃないよ、全く!!」



次の日、小夜と航以外の人間は見事に風邪をひいた。○○は風邪をひかないと良く言うけど、決して都市伝説ではないみたいだ。

病院で医者から『なぜに寒い中でびしょ濡れになったのか』と問診されても私は恥ずかしくて答える事が出来なかった。ハァ、頭痛いよ……。



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