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第21話 PIANO MAN



あーぁ、夏休みもあっという間に終わっちゃったなー。翼のお父さんにキャンプ場に連れて行って貰ってー、女の子だけでプールにも行ったなー。

あと、麻美ちゃんにあたしの家にお泊まりして貰っていっぱい遊んでー、今度は麻美ちゃんの家に行って瑠璃ちゃんともいっぱい遊んでー、あーぁ、もっと夏休みがいっぱいあればいいのになー。


皆さんこんにちはー、真中小夜でーす! えーと、今回は何か良くわかんないけどあたしが進行役しまーす!

何かねー、那奈がいっぱい夏休みの宿題やって疲れちゃったんだってー。やっぱり宿題は後に残さすにキッチリやっちゃうのが一番だよね!



「……誰の宿題をやるハメになったと思ってんの、アンタ……」


「……はーい、すいませーん……」



今年もまた宿題忘れちゃった。夏休みは毎日楽しいからついつい忘れちゃうんだよね、反省、反省!



「アンタ絶対反省してないでしょ、してないよね?」



この話は置いといてー、えーとねー、今日はスゴいんだよ! 学校に来たら麻美ちゃんが朝から元気いっぱい、あたし達にどうしても宣言したい事があるんだって!



「……あ、あの、私、音楽を本格的にやろうって決めたんです!」



突然のお話にあたしも那奈もみんなもビックリしちゃったけど、今までの麻美ちゃんとは違って気合い充分! 眼鏡の奥の瞳からメラメラと炎が上がってたよ!



「……お家や病院で頑張って言葉を勉強している瑠璃ちゃんや、その瑠璃ちゃんの為に頑張っている小夜ちゃんの姿を見て、私も自分で出来る事を一生懸命やってみたくなったんです! このまま何もしないで諦めちゃいけないって……」


「……って事は、ご両親に話した訳ね、自分の叶えたい夢を」


「はい! 正直に話したら、お母さんもお父さんも喜んで賛成してくれました! ありがとうございます、那奈さん!」


「せやから言うたやろ? 一人で考え込まんとちゃんと話せば協力してくれるってな?」


「……はい、翼さんの言う通りでした、お父さんからも『何でもっと早く話してくれなかったんだ』って言われました……」


「でもこれで麻美子もプロデビューね! 是非ともステージ衣装は『CHIHARU・MISHIMA』でお願いね〜!?」


「そ、そんな千夏さん、話が早すぎますって!」



那奈も翼も千夏もみんな嬉しそう! よーし、こうなったら麻美ちゃんが一日も早く立派な音楽家になれる様にいっぱい応援しなきゃ!



「じゃあ麻美ちゃん、今日学校終わったら久し振りに井上さんのスタジオ行こーよ!」


「……えっ、帰りに?」


「今日は那奈も翼も千夏も一緒に行こーよ! 井上さんのスタジオって中も外もスゴいキレイなんだよー!」


「……ハァ? 私も? アンタのお陰でヘトヘトなんだけと……」


「そない連れない事言うなや那奈、音楽スタジオ潜入なんて経験そうそう出来んで?」


「いや〜ん、契約ミュージシャンと鉢合わせになったらどうしよ〜ぅ、そのままお互いに一目惚れしちゃってfallin'loveとかぁ〜」



翼も千夏も行く気満々! よーし、みんなで井上さんに麻美ちゃんをトップアーティストにして貰える様にアピールしよう!



「さぁ麻美ちゃん、プロデビューの一歩をみんなで踏み出そうよ!」


「……ちょっと小夜ちゃん! あまり無茶な事しないで〜!」


「少しは私の話も聞きなさい! ちょっと、小夜!」



でもねー、井上さんのスタジオって遠いんだよねー。麻美ちゃんの家より電車に乗らなきゃいけないんだよねー。この前は座席でうっかり眠っちゃって、麻美ちゃんに慌てて起こされちゃった!



「……小夜、小夜! 起きなさい! もう着いたよ!」


「……ほぇ?」



また眠っちゃった。今度は那奈に怒られちゃった。でも電車の中って眠くなるよね? 振動でフラフラ揺られてると段々気持ち良くなってきちゃうんだよねー。

でも、もう大丈夫、ちゃんと目が覚めたもん! 那奈のゲンコツで。いっつも那奈はあたしの頭ばかり叩くんだもん、本当に痛いんだよー!?



「……ねぇ、ホントにこんな丘の上にスタジオなんてあるの〜? 見たところ一軒家しかないじゃない?」


「何か薫んとこの喫茶店みたいな雰囲気やな? そろそろ打ちっ放し場のネットが出てくるんとちゃうか?」


「……小夜、本当にこっちで合ってるの? もしも道を間違ってたら私、もう歩く元気ないよ……?」


「大丈夫だよ、もう何回も行ってるもん! 絶対に間違ってないよ、ねー、麻美ちゃん!?」


「……初日は道に迷いまくって着くまでに二時間かかったけどね……」



ちょっと長い登り坂を歩いていくと、ホラ、あった! 真っ白な建物で大きなガラス窓!



「……あっ、あそこです、二階の正面が全面ガラス張りの建物です」


「へぇ、何か周りの他の建物とは一線引く様なお洒落なスタジオだね」


「金かかってそうな感じやな〜、きっと中も防音対策とかバッチリなんやろなぁ?」


「キャー! スゴいステキなスタジオ〜! こんなスタイルの別荘とかあってもいい感じ〜!」



井上さんのスタジオってあたしの家と形が良く似てるんだよね。前に井上さんが遊びに来た時に、家の形がスゴく気に入ったらしくて、同じ建築家さんに頼んで作って貰ったんだって。だから入り口のインターホンも同じ形なんだよー!



ピンポーン♪



「……はい、サンライズ・ファクトリーです」



インターホンを押すといつも同じ女の人の声が聞こえてくる。でもあたし、この声の人の顔を見た事がないんだよなー、きっと向こうからはカメラであたし達の顔が見えてるんだろうけど。



「……あ、あの、遠藤と申しますが、井上さんは……?」


「……はいはい、麻美子さんね、ちょっと待ってね……」



待ってる間、何かインターホンから男の人の声で『ダメ、ダメ』とか『忙しいから』とか小さい声で聞こえてくる。この声って井上さんかなぁ?



「……何か忙しいそうだね、私達迷惑なんじゃないの?」


「……アポすら取ってへんしな、小夜がいつも電話なんかしてないって言うたから取らんかったけど……」


「えっ〜、門前払い? ここまで頑張ってやってきたのに〜?」


「……私だけだと良くあります、予定が変わったからまた今度にして欲しいとか……」



しばらく待ってるとまたさっきの女の人の声が聞こえてきた。まだ入り口のオートロック開けてくれないのかなぁ?



「……ごめんなさいね麻美子さん、今日はちょっと井上が忙しくて手が放せないって……」


「えっー!? ヒドいよそんなのー! 麻美ちゃんが音楽いっぱい頑張るって言ったから井上さんにもそれを伝えに来たのにー!」



あたしが文句を言うと、またインターホンの奥から男の人の声がボソボソ聞こえてきた。



『……開けてやってくれ……』


『……宜しいんですか……?』


『……社長令嬢相手に帰れなんて言えんだろ……?』


「……今、開けますからどうぞ……」



カシャって音がした、ロックが開いたみたい。いつもみたいにすぐに開けてくれればいいのに、井上さんのイジワル!



「……明らかに私達って迷惑かけてない?」


「……小夜の声を聞いた瞬間に態度がコロッと変わったで、カメラで見えへんかったんかなぁ……?」


「……きっと死角に入ってたのよ、見えてたら即オープンって感じよね、さすがご令嬢……」


「……やっぱり井上さん、小夜ちゃんには頭が上がらないみたいです……」



何かみんなが後ろでゴニョゴニョお話してるけど、まぁいいや! ガラスの扉を開けてエレベーターで二階に上ると大きなオフィスがあって社員の人が忙しそうにお仕事してる。みんなおとーさんの会社の人なんだよ!



「こんにちはー!」


「………………」



あれー? 誰も返事してくれなーい。もう、みんな元気ないなー、もう一回挨拶してみようかなー? って思ってたら那奈に耳を引っ張られちゃった。



「……みんな仕事中でしょ!? 大きな声を出すんじゃないの! 井上さん、頭抱えて困ってるじゃない!?」



オフィスの奥の別の部屋に行くと、いっぱい書類みたいのが散らかったデスクに井上さんが座っていた。なーんだ、やっぱりいるじゃん! 忙しいなんてウソつき!



「……すみません井上さん、凄く忙しそうな時に……」


「……これからは来る前に一本連絡をしてくれないか、遠藤君……?」



あれ? 何で麻美ちゃんはこんなに井上さんに頭をペコペコ下げてんのかなぁ? 何か悪い事でもしたのかなぁ?



「……で、今日の用件は何だい? ピアノの演奏なら出来ればまた今度に……」


「あのねー、麻美ちゃんがこれから一生懸命音楽頑張りたいって決めたんだってー! だから井上さんも……」


「五分黙ってろ!!」



バタン!!



……那奈に怒られて部屋から閉め出されちゃった。何でー? ヒドいよー!? あたし何も悪い事してないのにー!



「……なるほどな、そういう事か、良く決断してくれた、ありがとう遠藤君」



扉のガラス窓から中を見ると、みんなが井上さんの何か喋ってる。いいなー、あたしもお話に入りたいなー、入りたいなー、入りたいなー!



ガチャ!



「……小夜、大声出さないって約束出来る?」


「うん! 約束するー!! 絶対に大声出さなーい!! ちゃんと約束するから中に入れて、那奈!?」



バタン!!



「えー、何でー!? 何でまた閉めるのー!? ちゃんと大声出さないって約束したのにー!!」



……結局、お話が終わるまであたしは井上さんの部屋に入れて貰えなかった。扉にしゃがみ込んでふてくされてると、社員の人達にはジロジロ見られるし、あたしだけ除け者にしてズルいよみんな……。



「……前回の模擬レッスンの際、君の音楽センスを詳しくアメリカにあるデータと参照して調べさせて貰ったんだ、絶対音感があるとはいえ、それが才能に反映するとは限らないからね」



那奈にやっと部屋に入れて貰うと、井上さんはカラフルな円グラフや棒グラフみたいのが載った書類を見せてくれた。この紙に書かれてるのが麻美ちゃんの音楽の成績の全てなんだって。



「……何だかぜーんぜんわかんなーい?」


「アンタはわからなくていいの!」


「全文英語で書かれててわからへんなぁ、千夏、通訳してや?」


「……何か歌声の音質とか、音階聴力のレベルとか書いてあるわ、ただ何を基準にグラフ化されてるのかわからないからアタシもサッパリだけどね」



書類を渡された麻美ちゃんは何か難しそうな顔をしていた。そうだよねー、読めないよねー? あたしもサッパリわかんなーい。



「……予想以上に案外だったね、遠藤君の場合、音楽を理解する能力は長けているが、はっきり言わせて貰うとあまりに音楽の基礎知識が無さ過ぎる」


「……はぁ……」



えー、どういう事なんだろう? おとーさんだって麻美ちゃんの才能はスゴいって言ってたのにー! 麻美ちゃん、何か肩を落としてガッガリしてるよー?



「即ち、君の一つの希望でもあったピアニストを目指すにはあまりに時間がかかってしまうだろう、十年、いや二十年と言っても言い過ぎではない」


「……えっ、そんなにかかるんですか……?」


「……世界や国内で活躍するピアニストのほとんどは幼少時代から英才教育を受けていた人間だ、ごく稀に天才的な才能を持つ人間も現れるが、君の才能はそこまでのものでは無いという事だ」



そんな、あんまりだよ、麻美ちゃんの力なら絶対スゴいピアニストになれると思ったのに。絶対音感ってそれほどスゴい才能じゃ無いのかな?



「……そういえば麻美子、アンタこの前の音楽の成績って酷かったよね……」


「……何かメチャメチャ凄い才能あるから『5』評価かと思たら『2』やったもんなぁ……」


「……アタシよりも下だったもん、何でこんな事になっちゃうのかしらねぇ……?」



那奈も翼も千夏もみんな揃って首を傾げてる。そんなに麻美ちゃんの成績って悪いかなー? あたしなんか音楽『1』だったのにー。



「……私、楽譜が全然読めないんです、色々と教本買って家でも勉強したんですけど、いざテストになると、記号の文字が小さくて眼鏡をかけてる私には読めなくて……」



そうか、麻美ちゃん、目が悪いから音符とかが書かれている五線紙が読めないんだ。目さえ良ければ素敵なピアニストになれていたかもしれないのに、そんなの可哀想だよ……。



「……井上さん、はっきりと言って下さってありがとうございます、私、何か勘違いして舞い上がっちゃって、色々ご迷惑かけてすみませんでした……」



何か、麻美ちゃん泣き出しそう。スゴいショックだったんだろうなぁ、一緒にいる那奈達も落ち込んじゃったし、何とかならないのかなぁ、おとーさんの力でもどうにもならないのかなぁ?



「……結論を語るのはまだ早いよ、このデータで君にはもう一つの才能がある事がわかったんだ」


「……えっ? もう一つの才能、ですか……?」


「そう、もう一つの才能、単純に説明すると君はとても歌が上手い、音質、音量、音階、共に良好だ」



麻美ちゃんの顔がキラーンと笑顔に戻ったー! そーだよ、そーだよ、麻美ちゃんはとても歌が上手いんだよ! カラオケに行った時も歌採点90点代連発だったもん!



「ねーねーねー! じゃあ井上さん、麻美ちゃんはピアニストじゃなくて歌手が向いてるって事だよね、そーだよね!?」


「つまりそういう事だね、君には歌手やシンガーソングライターの方が遥かに成功する可能性がある、その道を選ぶかは君時代だけどね」



やったー! やっぱり麻美ちゃんには素敵な音楽の才能があったんだ! おとーさんの言っていた通りだったんだ!



「麻美ちゃん、歌手だよ歌手! 歌も歌えてピアノの弾ける、カッコいい歌手になろうよ!」


「……えっ? でも歌手だなんて私には……」



弱気になっている麻美ちゃんの肩を那奈がポンッって叩いた。翼と千夏も嬉しそうな顔をして麻美ちゃんの顔を覗き込んでた。



「麻美子、悩む必要無いじゃない、アンタの才能を目一杯披露出来る場所が見つかったのよ?」


「まさか怖じ気づいた訳とちゃうやろな? デビューしたらCDいっぱい買ったるで! 領収書は『真中』で切るけどな」


「いや〜ん、デビューしたら音楽番組とか出れるかもしれないのよね? ミュージシャンのサインとママの衣装を忘れないでね〜!?」



みんな、ニコニコ笑顔で嬉しそう! 麻美ちゃんもすっかり立ち直ってみんなと同じニコニコ笑顔!



「麻美ちゃん、早くデビュー出来る様に頑張ろうよ! お歌の練習、ピアノの練習、あたしいっぱい手助けしてあげるからね!」


「……小夜ちゃん、みんな、本当にありがとう! 遠藤麻美子、精一杯頑張ってみます!」


「……頑張ってくれるのは僕達も嬉しい限りだが、スタジオに来る時は必ず連絡をしてくれよ……?」



こうして、麻美ちゃん歌手デビュー計画は華々しくスタートしました! いつデビュー出来るのかなぁ、どんなお歌を歌うのかなぁ? 麻美ちゃんよりもあたしの方がドキドキしてきちゃった! 楽しみだなぁ、エヘッ!


……あっ、そうだ。えーとねー、このお話は後から井上さんに聞いたんだけどー、麻美ちゃんの事をおとーさんに教えてあげたのは麻美ちゃんのピアノの演奏を聞いたあたしのお母さんだったんだって。

お母さんも麻美ちゃんと同じ様な特殊な才能を持っているらしくて、麻美ちゃんなら素敵なミュージシャンになれるって紹介してあげたんだって!おとーさんもお母さんもスゴいなー!


でも、何であたしには音楽の才能が無いのかなー? ピアノとか弾けたら瑠璃ちゃんにも聴かせてあげられるのになー? ちょっと残念、でもまぁいいや! 以上、真中小夜でした! バイバーイ! 



「……本当にこんな進行で良かったのかな? 次回は私、渡瀬那奈に戻ります、あー、寝不足で頭痛い……」



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