茄子の部屋
「あの、浅井長政様、鎧・兜、それに、刀はどういたします。そちらのお爺様の物も」
「そうだな。持ち歩くのも不便だ。身につけて行くか。ところで、それはどこにあるのだ」
「ああ、確か、ナース室で預かって頂いているということですが」
「なーす・・しつ・・」
「あ、ああ、こちらです」
病室を出ると、長い廊下が続いています。
「爺、南蛮寺というのは変わった作りの建物だな」
「そうですな」
な・・ところで・・コスプレ状態で外を歩く気なの。ああ、仕方ない。少し投資をするか。
「ちょっと、お待ちになって下さいね」
「ああ・・」
葉子は、携帯を取り出すと、長政と直経の目の届かぬ場所まで行ったようです。
「お館様、最初と、あの娘、態度が変わって参りましたな」
「ああ、私が浅井長政と名乗ったからであろう」
「そうですな。お館様の身分を知れば態度も変わりましょう」
「そんなことより、早く小谷に帰らねば、今頃、清綱あたりが右往左往しているだろう」
「確か、鎧、兜はなすなんとかという部屋にあるらしい。あの娘には断りも入れず悪いが、ここが日の本と分かった以上、馬でも買い求めれば小谷に帰れよう」
「そうですな。では鎧・兜を頂いて帰りましょうか」
「だが、なすの部屋はどこかな」
「茄子でも栽培してる部屋でしょう」
「茄子など部屋で作れるのか」
「さあ、南蛮人のすることですから」
「では、茄子を植えている部屋を探せばいいのか」
「しかし、南蛮人の女は皆慎みのない衣装を着ておるのう。白い衣装はよいが、素足が膝より下が丸見えではないか」
「仕方ない。あの娘もなかなか戻ってこんし、そこらの者に聞くか」
長政は、一人の看護婦を呼びとめました。
「そこの者、ちと、物を訪ねるが茄子の部屋とはどこじゃ」
「茄子の部屋?ああ、ナース室としゃれてるのね。私も行くところだから、一緒に参りましょう」
「かたじけない」
ナース室に案内された二人は、自分たちの鎧・兜を、それに太刀を見つけました。
「おお、よかった」
「あら、それはあなたがたの物だったのですか」
「ああ、世話になった。では我らは急ぐのでこれにて」
「ええ、でも、よく、そんな重い物、身につけて平気ね」
「そうでもないぞ。動きやすいように、軽く特別に誂えた物なのだがな」
「そうだ。少ないが礼だ。とっておけ。それと、ようことかいう娘にも一枚渡しておいてくれ」
長政は、鎧に隠し持っていた財布を取り出すと小判を二枚渡しました。
「え・・ええ、ありがとう。じゃあ、またね」
「ああ、息災でな」
二人は、鎧・兜を身につけるとナース室を後にしました。そして、病院を出た二人は・・・
「ねえ、その小判、本物?」
「まさか、そんなわけないでしょ。なんだか変な人たちだったから話を合わせただけよ」
「そうだよね。まあ、変でも人に危害を与えなきゃいいでしょ」
「でも、刀持ってたわよ」
「レプリカに決まってるでしょ」
「そうよねぇ」
あははとナース室では笑いがおこっていました。