灰色
僕が生まれてから、何年何ヶ月何日が経っただろう。
僕が言葉を覚えてから、何年何ヶ月何日が経っただろう。
僕が彼らを失くしてから、何年何ヶ月何日が経っただろう。
僕が、彼らに託されてから、何年何ヶ月何日が経っただろう。
永遠を生きるひと
「なあなあ、まひろ。今日はなんのおはなしをしてくれるんだ?」
まひろ。それが僕の名前。
腐るほど聞いた自分の名。
「そうだなあ。今日はずっと前になくなった、太陽の話をしようか。」
地球から太陽がなくなった時は、2×××年。
それから人類は急速に減っていき、地球滅亡が謳われた時は、2×××年。
最後の力を振り絞った人類がつくった、「カプセル」が出来た時は、2×××年。
あ、いや3×××年だったかもしれない。
とにかく、その「カプセル」に残り数万人となった人類が収容された。
しかし、人類はそれでも激減している。
後数千人だっただろうか。
きっと僕は最後のひとりになってもここにいるのだろうけど。
「タイヨウって、なんだ?」
「太陽はね、この人工でできた光よりも明るくて、暖かい光なんだ。」
「暖かいって、どういう感じだ?」
この少年の名はカナミ。
カナミには左の腕がない。
ここにいる人間の中に、「完全な人間」はいない。
歩くための足がないとか、光をみるための目がないとか。そんなのはまだいいほうだった。
ひどい者は心がない。感情がないのだ。僕はそんな人を知っている。
太陽の光がなくなり、地上で生きていくことができなくなった人間は、変異したのだ。
僕はこの「なにか」が欠落した世界で、平和だったあのときの世界を伝えている。
「暖かいっていうのはね、ぽかぽかっていうか。んー、なんて言ったらいいんだろ。」
「・・・わかんねえ。」
困ったな。「暖かい」か。僕も忘れかけてたことだ。自分で言ったんだけど。
「カナミはさ、お母さんに抱きしめられたとき、どんな感じがする?」
「お、おれは11歳だぞっ! 母さんにだ、抱きしめられるとか、あるわけねえだろ!!」
うーん、思春期だねえ。僕にもそんな時代があったようななかったような。
「でも、ぽかぽかするでしょ?」
「う・・・ま、まあ、な・・・。」
「それを、暖かいって言うんだよ。」
「なんか納得いかねえ・・・。」
「はははっ。お母さんに言って、抱きしめてもらえばいいじゃん。」
「ばっ、そんなん言えるか!!」
この日々は、なかなか楽しい。
だけど充たされない。
僕は、ずっと前に死ななければならない人間なのだから。
まるで幽霊のような気持ちで、カプセル内を放浪している。
カプセル内で出会う子どもは皆純粋だ。大人は荒んでしまっている。
先の見えない生活こそ恐ろしいものはないのだろう。
あと何年ここを生きればいいのかな。
彼らは答えてくれないけど。
そうだな。とりあえず、人類がいなくなるまで、生きててみようか。