第27話 剣聖への道 〜真剣〜 その8
それはあまりにも突然な出来事で、俺は思わず言葉を失った――
もう妹は修行に全く身が入っていなかったはずだ。あの日。俺が妹に与えた剣も、今では暖炉の横に立て掛けられたまま。まるでその存在すらも忘れてしまったかのようなのに――
「なのに。この妹の剣幕はなんだ?」
両の手を力いっぱいに握りしめて、今にも涙が零れ落ちそうな潤んだ目で俺を見据えて。なんで、そんな事を言うの?と問い詰めんばかりに、その視線を俺の目から離そうとはしない。
「私。絶対に止めないから……」
妹のその言葉は、もはや断言と言っても良かった。そして。もちろんそこには、俺に対する怒りが込められている。
でも……。俺。そんなに酷いことを言ったか?
毎日一生懸命に修行に打ち込んでいたなら、俺だって簡単にそんな事は言わない。でもレイラ。ここ最近のお前は剣の修行なんて全くしていなかったかじゃないか……。
「なぁレイラ。お前はどうしてそんなに剣術の修行がしたいんだ?」
今さらな質問だった。でも俺には、もう妹にそんなことしか尋ねることが出来ない。
しかしそれは、信じる者と騙し続ける者。そんな関係を四年も続けてしまった俺達兄妹の心の溝だったのだろう。この時の俺は、妹がどれほど真剣に『俺がデタラメに考えた剣の修行』に打ち込んでいたのかを、本当の意味で理解できていなかったのだ。
「そんなの。お兄ちゃんと一緒にドラゴン退治がしたいからに決まってる」
半分べそをかきながら、しかし迷うこと無く口にした妹の答えは、たったそれだけだった。
そう。それは、あの日から……
それはまさに物語の主人公のように、妹はただひたすら、俺と一緒にドラゴン退治の旅に出る夢を、その小さな胸に抱き続けていたのだ。
ならば、修行を突然止めてしまったのは何故?
いや。実際、妹は修行を止めてなどいなかったのだ。
それどころか、妹は、第三層の『絶対分析』を修得するためにありとあらゆる可能性を試していた。
ただ遊んでいたように見えた妹は、実はその時。
分析する能力。それを磨き上げる為に、日夜『水の流れ』を知り、『雲の動き』を読み、『太陽の暖かさ』を感じ『雪の冷たさ』をその身に刻んでいたのだった。
だから……。妹が今日の雨を言い当てたのも、それを知った今なら理解出来る。俺の知らないところで妹は――いつの間にかその意識を気温や湿度、そしてその変化に対する環境の変化にまでに巡らせていたというわけだ。
それでは――1日中、鳥を追いかけて遊んでいたのはどう言う意味があったのだろう。魚釣り、薪割り、他にも色々やっていたはずだ。
しかし俺はもうそれ以上考えることを止めた。そこに妹がたゆまぬ努力を続けていたと言う事実があれば良いではないか。
あらゆる方法で『自然を知ろうとすること』とは、言い換えれば『この世界の理を知ろうとすること』である。それはまさに日本の剣豪達が行き着く先。『禅』の精神に通じる修行だったと言うわけだ。
今。俺は――
ずっと忘れていたとても大切な事を思いだした。
「この『第三層』の修行には、剣を振るう必要など一切無かったのだ」




