スワンソング・パッセージ
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
『スワンソング・サックス』、そして『スワンソング・エコー』を経て、
ついに物語は最終章へと辿り着きました。
夫・赤井が遺した一冊のノート。
そこに記された「空白」を埋めるため、妻・陽子は一人、あの始まりの島へと向かいます。
これは、喪失を抱えた人々が、自分自身の「本当の音」を取り戻すための航路。
最後まで、共に見届けていただければ幸いです。
「……できたわ」
深夜の静寂に、タイピングの音が止まった。
陽子は深く椅子にもたれかかり、画面の中で静かに「完」の文字が点滅するのを見つめていた。
夫・赤井が遺した断片的なノートを継ぎ、かつて彼を陥れた男・西山の再生を描き切った物語、
『スワンソング・エコー』。書き終えた瞬間、憑き物が落ちたような安堵感と、
それ以上の深い喪失感が陽子を襲った。
(これで、成人さんの残響も止まってしまうのかしら……)
そんな感傷に浸っていた時、机の上のスマートフォンが短く震えた。
ふと目をやると、画面には一通のプッシュ通知。それは、以前何気なく登録していた
旅行サイトからの、パーソナライズされた案内だった。
【あなたへの特別な旅:神の宿る島・大島で、心のリセットを。】
「大島……」
陽子の指が止まった。
今まさに書き終えた物語の中で、西山が贖罪のために向かい、若き日の成人が挫折の果てに
逃げ込んだ場所。陽子にとっての大島は、今までずっと「物語の中の聖地」でしかなかった。
画面をスクロールすると、そこには冬の澄んだ空気の中に立つ真っ白な灯台の写真が添えられていた。
それを見た瞬間、陽子の耳の奥で、まだ自分が書いたことのない、けれどどこかで聴いたような
「サックスの音色」が響いた気がした。
成人がノートに書き残さなかった、本当の空白。
彼が若き日に、あの島で一体何を見て、どんな音を風に預けたのか。
「書き終えたんじゃない。……私はまだ、何も知らないんだわ」
陽子は吸い寄せられるように予約ボタンへと指を伸ばした。
執筆を終えたばかりの指先が、微かに震えている。
それは、物語の終わりを告げる震えではなく、新しい譜面をめくる時のあの期待に満ちた震えだった。
窓の外では、夜明け前の紺碧の空が広がり始めている。
陽子は、まだ見ぬ水平線の向こう側にいる「もう一人の成人」に会うために、一人旅立つ準備を始めた。
竹芝桟橋。
冬の海から吹き抜ける風が、コートの襟元を容赦なく揺らす。
陽子は東海汽船の受付カウンターの前で、ふと目に止まった掲示物に足を止めた。
「……ヴァンテアン号、運航終了」
かつて東京湾の象徴だったレストラン船が、その役目を終えるという知らせ。
陽子の脳裏に、若き日の成人と並んで眺めた、あの船の白い船体が蘇る。
(あの船も、スワンソングを歌い終えたのね……)
吸い寄せられるように、壁に貼られた「ヴァンテアン・メモリアル・フォト」の展示に近寄る。
そこには、1989年の就航当時、活気に満ちた船内の様子を切り取ったセピア色の写真が並んでいた。
その中の一枚、メインバーのカウンターの前に立つ、一人の青年の姿に陽子の目が釘付けになった。
白いジャケットを纏い、背筋を伸ばしてシェイカーを磨く、不器用なほど真剣な眼差し。
「あ! 赤井くん……?」
三十年以上前の、まだ何も失っていなかった頃の夫。そのあまりにも瑞々しい立ち姿に、
陽子の口から思わず、当時の呼び名が零れ落ちた。
「おや、その呼び方……。君も、彼を知っているのかね?」
背後からかけられた穏やかな声に、陽子は肩を震わせて振り返った。
そこに立っていたのは、仕立ての良いコートを羽織り、シルバーの髪を綺麗に整えた初老の紳士だった。その瞳には、懐かしさと、どこか寂しげな色が宿っている。
「失礼。私は野内という。かつてヴァンテアンでGMを勤めていた者だ」
陽子は驚きに目を見開いた。
「GM……。では、この写真の……」
「ああ、赤井くんだね。彼は私の元で働いていた、最高のバーテンダー候補だった。
もっとも、最後には酒よりもサックスの方を選んで島へ消えてしまったがね……。
今日は、彼が愛した海をもう一度見たくて、大島行きの船に乗るところなんだよ」
野内と名乗った紳士は、陽子の手元にある乗船券に目をやり、優しく微笑んだ。
「奇遇だ。君も同じ旅に参加しているようだね。よければ、船内であの『サックス吹き』の
昔話でもいかがかな?」
陽子は、運命が用意したあまりにも鮮やかな「前奏曲」に、震える手で自分のスカーフを握りしめた。
成人がノートに書かなかった空白の年月。その証人が、今、目の前に現れたのだ。
「……喜んで。私も、彼の『続き』を探しに来たんです」
ボーディングを告げるアナウンスが、冷たい海風に乗って桟橋に鳴り響く。
陽子と野内は、示し合わせたかのように同時に歩き出した。
これから始まる航路の先に、まだ誰も知らない赤井成人の「青い音」が待っていることを、
二人は確信していた。
「……彼、赤井くんがヴァンテアン号に乗り込んできたのはまだバブルの余韻が
街に残っていた頃でした」
野内の声は、船のエンジンの重低音に心地よく混ざり合った。
「当時の彼は、お世辞にも器用な男じゃなかった。カクテルのレシピを覚えるのは早かったが、
客との世間話がからっきしでね。ただ、彼が磨き上げたカウンターの輝きだけは、他の
どのスタッフよりも深かった。まるで鏡の向こう側にもう一つの世界を作ろうとしているみたいに」
陽子は、野内の言葉を一つひとつ、心の中の譜面に書き留めていく。
「ある晩のことです。営業が終わった後の静まり返ったメインバーで、私は不思議な音を聴きました。
シェイカーを振る音じゃない。もっと深く、胃の腑に染み渡るような、鳴き声のような……
そう、サックスの音です」
野内は少しだけ目を細め、まるであの夜の残響を今も聴いているかのように言葉を繋いだ。
「驚いてバーを覗くと、彼はカウンターの中で、月明かりを浴びながらサックスを構えていた。
私が声をかけると、彼はひどく狼狽えて楽器を隠しましたが……。
その時、彼が言った言葉が今でも忘れられないんです」
野内は陽子の方を向き、穏やかに、けれど真剣な眼差しで告げた。
『野内さん、僕は人を酔わせるカクテルを作りたいんじゃない。この音のように、
人の心の濁りを洗い流す、そんな「青い響き」を作りたいんです』
「それから間もなくして、彼はヴァンテアンを降りました。理由も告げず、一通の置き手紙と、
磨き抜かれた銀のシェイカーだけを置いてね。向かった先が、あの大島だった」
陽子は、握りしめていた自分の手の熱さに気づいた。
物語の中で書いた「成人」は、すでに完成された奏者だった。けれど、野内が語る成人は、
まだ自分の居場所を探して、銀のシェイカーと真鍮の楽器の間で揺れ動いていた一人の青年だった。
「陽子さん、あの島で彼は、自分自身の『調律』を始めたんですよ。私が今日ここへ来たのは、
彼が最後に見つけた音がどんなものだったのか、それを見届けたくなったからかもしれません」
おがさわら丸の汽笛が、夜の海に長く、太く響き渡った。
陽子はデッキの手すりを強く握り、暗い波間に目を凝らす。
その先にある大島は、今やただの目的地ではなく、夫が「バーテンダーの赤井」を脱ぎ捨て、
「奏者の赤井」へと生まれ変わった聖域のように思えた。
車が坂道を登り切ると、視界が開け、白亜の建物が夕陽を浴びて現れました。
「ここですよ。彼が、バーテンダーのジャケットを脱ぎ捨て、一人のフロントマン&サービスマン
として、そして一人の奏者として再起を図った場所だ」
野内の声に従い、陽子が見上げたそのホテルは、どこか成人の背筋のような、凛とした佇まいを
残していました。ロビーに足を踏み入れると、高い天井に潮騒の音が微かに反響しています。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
出迎えたフロントスタッフの丁寧な一礼に、陽子は胸が締め付けられるような思いがしました。
数十年、ここで成人も同じようにゲストを迎え、その合間に海を見つめていた……。
二人はチェックインを済ませ、海を一望できるテラスへと足を運びました。
野内は懐かしそうに手すりに手をかけ、眼下に広がる紺碧の海を指差しました。
「陽子さん、覚えていますか。さっき私が話した『銀のシェイカー』のこと。
彼はこのホテルに来てから、しばらくの間、一切の酒を断ち、楽器も手に取らなかったそうです。
支配人から『なぜ吹かないのか』と問われたとき、彼はこう答えたという……」
野内は陽子の目を見つめ、静かに言葉を継ぎました。
「『島を渡る風の音が、今の僕の音よりずっと綺麗だからです。この風と同じ透明な音が出せるように
なるまで、僕は自分の音を封印します』……とね」
陽子は、テラスを吹き抜ける風に髪を揺らされながら、夫がこの場所で過ごした
「沈黙の時間」を思いました。
物語の中で書いた西山が「部下を楽器として調律した」ように、若き日の成人はこのホテルで、
自分という不完全な楽器を、大島の自然という巨大な調律師に預けていたのです。
「……野内さん。成人さんがここで最後に吹いた日のことを、誰か知っている人は
いないのでしょうか?」
陽子の問いに、野内は微笑んでホテルの奥にある、古い離れの談話室を指差しました。
「あそこに、このホテルの元オーナーがいます。彼こそが、赤井くんが島を去る前夜、
たった一人で演奏した『伝説のステージ』を聴いた、唯一の人物ですよ」
陽子は深く息を吸い込み、談話室へと続く廊下を見つめました。
パッセージ(航路)は、いよいよ夫の音色の核心へと近づこうとしていた。
「赤井くんか……。彼がここを去る前夜のことは、今でも昨日のことのように思い出せます」
元オーナーの佐藤の声は、枯れ葉が触れ合うような静かな響きを持っていました。
「あの日、島を猛烈な台風が襲いましてね。ホテルは全館停電。
宿泊客の皆さんも不安で眠れぬ夜を過ごしていました。
ロビーは真っ暗で、ただロウソクの火が揺れているだけ。
そんな時でした。どこからともなく、祈るような、それでいて力強い音が響いてきたのは」
陽子は息を呑み、佐藤の言葉を追いかけます。
「彼でした。暗闇の中、ホテルのロビーの真ん中で、彼はサックスを構えていた。
島に来てから一度も楽器に触れなかった彼が、初めて封印を解いた瞬間です。
しかし、その音は……私が知っているどんな音楽とも違っていました」
佐藤は目を閉じ、当時の「音」を脳裏で再生するように続けました。
「外は嵐。窓がガタガタと鳴り、海は怒り狂っている。なのに、彼の吹くサックスの周りだけは、
まるで『台風の目』の中にいるような、不思議な静寂に包まれていったんです。
激しい旋律ではない。ただ、一音、一音が、島の泥を、人々の不安を、そして彼自身の過去を、
一つずつ丁寧に洗い流していくような……深く、果てしなく透明な『青い凪』の音でした」
陽子の目から、一筋の涙がこぼれました。
「停電で真っ暗な中、客室から一人、また一人とお客様がロビーに降りてこられました。
誰も一言も発しない。ただ、彼の吹くその『青』に包まれて、みんな静かに涙を流していた。
嵐が去るのを待つのではなく、彼が音で、嵐そのものを鎮めてしまったようでした」
佐藤は陽子を見つめ、確信に満ちた声で言いました。
「演奏が終わった時、空には月が出ていました。彼は楽器を下げ、私にこう言いました。
『オーナー、ようやく風と同じ音が出せました。僕は、この音を持って東京へ戻ります』と。
……陽子さん、彼が大島で見つけたのは、技術ではなく『沈黙を包み込む勇気』だった。
それが、後にあなたが聴いたブルートーンの正体だったのですよ」
陽子は、ポケットの中の色褪せたリードを握りしめました。
物語の中で書いた「成人」は、西山を救うために吹いた。けれど、その原点は、
嵐の夜に顔も知らない旅人たちの心を鎮めるために捧げられた、無名の「祈り」だったのです。
「……それが、彼のパッセージの始まりだったのですね」
陽子の声は、島の夜風に溶け込むように、静かに、けれど力強く響きました。
大型客船「さるびあ丸」の特等室。
窓の外には、遠ざかっていく大島の三原山が、夕闇の中に深い影を落としている。
陽子はデスクに置いたノートパソコンに向かい、吸い込まれるようにキーを叩き続けていた。
画面の上で、文字が生き物のように躍動し、行を埋めていく。
ヴァンテアン号の銀のシェイカー。
嵐の夜、真っ暗なロビーで鳴り響いた「凪」の音。
老人が語った、若き日の成人の不器用な情熱。
(私は、彼を書いていたつもりだった。でも……)
陽子の指がふと止まる。
キーを叩く音だけが響く部屋で、彼女は気づく。自分は大島へ「取材」に来たのではない。
成人が歩んだパッセージ(航路)をなぞることで、自分自身の心をも「調律」していたのだと
いうことに。
彼がかつて見たのと同じ、深く、太く、そして底なしに澄んだ水平線。
それを一度でも共有した今、陽子が紡ぐ言葉には、以前のような喪失の痛みではなく、
どこか温かい「受容」の響きが混ざり始めていた。
「成人さん……。これが、私が見つけたあなたの音よ」
陽子は再び、猛烈な勢いでタイピングを再開した。
物語の中で、赤井成人は死に、西山は旅立ち、陽子自身もまた孤独な旅路を終えようとしている。
しかし、そのすべての切なさを包み込むような、圧倒的な「肯定」の結末が、指先から溢れ出してくる。
窓を打つ潮風の音が、デヴィッド・サンボーンのあの「鳴き声」のようなサックスの旋律に聞こえてくる。それは悲鳴ではなく、生を慈しむ歓喜の歌。
ふと顔を上げると、海原の向こうに東京の街明かりが、かすかな光の帯となって現れ始めた。
物語の幕を下ろすための時間は、もう残り少ない。
陽子は、最後の一行に向けて、深く、深く息を吸い込んだ。
さるびあ丸が描く真っ白な航跡が、暗い海の上に一筋の、輝く道を作っていた。
客船が竹芝桟橋に横付けされ、陽子はゆっくりとタラップを降りた。
潮風の匂いと、サックスのケースの重み。大島で老人が語ってくれた成人の思い出は、
今も胸の奥で温かい火を灯している。
(さあ、帰りましょう)
物語は、これで書き終えた。
裏切られた部長の孤独も、迷える支配人の再起も、そして遺された妻の旅路も。
すべては言葉になり、譜面となって、私の手の中で完結した。
陽子は駅へと向かう足を止め、あらかじめ停めてあったコインパーキングへと向かう。
夜の駐車場。街灯の下で、一台の真っ白なセダンが、静かに主の帰りを待っていた。
車のそばに、人影があった。
冬のコートの襟を立て、手持ち無沙汰そうに夜空を見上げている、見紛うはずのない後ろ姿。
陽子の足が、自然と早まる。
その気配に気づき、男がゆっくりと振り返った。
「おかえり。……いい旅だったか?」
穏やかな、少し掠れたテナーの声。
そこに立っていたのは、死んだはずの、いいえ、物語の中で「死ぬべき役割」を
与えられていたはずの、赤井成人だった。
陽子は微笑み、彼の胸にそっと顔を寄せた。
コート越しに伝わる体温。それはインクの匂いでも、紙の質感でもない、確かな「生」の温もりだった。
「ええ、最高だったわ。あなたが島でサックスをサボって、あんな格好悪いことをしていたなんて、
今まで教えてくれなかったでしょう?」
赤井は困ったように眉を下げ、苦笑いした。
「……全部書いちまったのか。お手上げだな」
彼は陽子の手からサックスケースを受け取り、白い車のトランクへ丁寧に収めた。
「さあ、帰ろうか。陽子」
白い車が、夜の都会を滑るように走り出す。
その車体は、まるであの「おがさわら丸」のように、あるいは成人がかつて見たという「白鳥」
のように、夜の闇の中で白く輝いていた。
これまでの壮絶な復讐も、咽び泣くようなブルートーンも、大島での再会も。
すべては、二人が紡ぎ出した「物語」の中の出来事。
あるいは、二人がこれから書き進める、長い人生のほんの一節に過ぎない。
バックミラーに映る夜の街が遠ざかっていく。
隣に座る成人の横顔を見つめながら、陽子は静かに目を閉じた。
現実の世界には、悲劇的なスワンソングなんて必要ない。
ただ、二人が笑って、明日もまた同じ車に乗って、どこかへ向かう。
その静かな日常こそが、彼らがたどり着いた、最高に美しい「ブルートーン」の終着駅だった。
白い車は、夜のパッセージ(航路)を滑るように進んでいく。
都会の灯りが流線型になって窓を過ぎ去る中、赤井が静かにカーステレオのボリュームを上げた。
車内に流れ出してきたのは、デヴィッド・サンボーンの、あの絞り出すようなサックスの音色だった。
人の叫びにも似た、鋭く、切なく、けれどどこまでも熱い「鳴き声」。
かつての二人なら、それを単なる洗練されたフュージョンとして聴き流していただろう。
けれど、物語を書き終え、人生の辛酸も歓喜もすべてを言葉に変えてきた今の二人には、
その音色は世界でたった一つの、至高の「ブルートーン」にしか聞こえなかった。
赤井はハンドルを握ったまま、短く、けれど深く頷く。
陽子は隣でその横顔を見つめ、静かに目を閉じて音の波に身を委ねた。
夜の闇を切り裂いて走る白い車は、もうどこへも逃げる必要はない。
二人の心には、決して消えることのない、あの青い残響が鳴り響いているのだから。
夜明け前のハイウェイを、白い白鳥が駆けていく。
デヴィッド・サンボーンの「鳴き声」を、夜の静寂へと置き去りにしながら。
Fin.
最後までお付き合いいただき、本当に、本当にありがとうございました。
『スワンソング・サックス』から始まったこの物語は、本日、無事に最終航路を終え、
港に辿り着くことができました。
夫・赤井が遺した不器用な旋律を、なんとか「物語」という形にして残したい。その一心で書き始めた私にとって、この執筆自体があの大島への一人旅と同じ、自分自身を見つめ直すための旅でもありました。
人は誰しも、自分の中に「消えない傷」や「埋まらない空白」を抱えています。
けれど、あの日、大島の嵐の中で成人さんが見つけた「凪」の音のように、どんなに激しい感情も、
いつかは静かな深い青へと溶けていくのだと、書き終えた今、ようやく信じられる気がします。
物語の中の赤井は、西山を救い、そして静かに舞台を下りました。
ですが、現実の赤井成人は、今も私の隣で新しいリードを削り、明日吹くための「音」を探しています。
虚構と現実。
そのどちらもが、私にとってはかけがえのない「愛の形」でした。
この物語を最後まで読んでくださった皆様の中に、少しでもあの「ブルートーン」の残響が届けば、
作者としてこれ以上の喜びはありません。
執筆の間、温かい感想や応援をくださった全ての読者様に、心からの感謝を込めて。
またいつか、別の空の下、別の音色でお会いできる日を願って。
陽子




