勇気を出して緊張する先輩は気づいていない
「……ねぇ、今週末、空いてるかしら??」
仕事場でのお昼休み、後輩が席でおにぎりを食べていて。可愛い顔にご飯を頬張る姿が愛しくて。大好きだと感じてしまうけど。今はそれよりも、とても緊張の糸を張っていて。。。
「むぐ。モグモグ。。。」しまった、咀嚼中の彼女に話しかけたから、飲み込むのを急かしてしまった。だけど、後戻りできないから。「……ごめんなさい。ゆっくり噛んで飲み込んだら、お話の続きをさせて。」
ムグムグムグムグ、、、、ゴクン。そう、飲み込んだ彼女から。「えっと、今週末っていうのは、金曜日のことですかね??それとも、土日??」ちょっと首を傾げて尋ねてくる彼女。ああそうだ。以前彼女に誘われた時に、私は勘違いしていたから。ちゃんと事前に聞いてくれているんだ。本当に、しっかりしている。いや、ちゃんとしているんだろう。この子はホント、仕事もしっかりできて、周りに気配りもできる優しい子だ。「ええと、ごめんなさい。そうよね。できれば、土日がいいのだけれど、どうかしら??」
少し目を見開いて驚く彼女が。「えっ?!土日ですか??!ど、どんな用事ですかね??」ハッとした彼女、驚いたと思ったら冷静に返してきて。感情表現がとても豊かな子なんだと思う。「えっと、以前一緒に、隣町のアウトレット、行く約束していたでしょう??その約束、今週、果たせないかしらと思って、、、」少し言い淀みながらも、伝えたいことを伝えられて。私はちょっとホッとして。けれど、彼女がどう思っているかは別問題。とても緊張をする一瞬だけど。
「いいんですか??私、こないだ中止にしちゃったお買い物、またご迷惑をかけちゃうのかなって思って、お誘いしていいのか、ちょっと躊躇していたから…」
少ししょんぼりしながらも、あの時のこと、考えてくれて誘うこと躊躇していたのかと、少し安堵して。
本当は、私を誘ったこと後悔しているのかしら、社交辞令で誘ってあんなことになったから、もう一緒に買い物にも行けないのかしらって、少し不安だった。だけど、彼女と一緒に出かけたくて、プライベートで笑い合う時間を欲して。遊びに行けないかと、自分から誘っていた。もし、断られたら、とてもショックだけど、それでも、何も動かないのも嫌で。あの子を不快にするかもしれない、そんな思いもあったけど。
「嬉しいです。今度こそ、絶対一緒に、お買い物とお昼ご飯、楽しみましょうね??」ニコニコと、嬉しそうに笑う彼女が眩しくて、私はまた、浮かれた気分で当日まで待てることが幸せに感じていた。
「おはようございます!先輩!!今日は、お誘いありがとうございました!今からとっても、楽しみですね!」鼻歌をしながら現れた彼女。楽しそうに今日まで待っていてくれていたことが幸せで。
「おはよう。私も、今日はとても楽しみにしていたから、色んなもの、見て楽しみましょう?」そう、微笑み返していた。今回の買い物では、前回の果たせなかった約束の時とは違った計画にして、オープン時間に朝から来て、色々お店を見てからお昼ご飯をしようと提案して。その後、午後からはゆっくり欲しいものを買ってから帰ろうと、1日を掛けて2人で満喫できるように、自分にとっては都合の良い計画を提案して、あの子に了承を貰えたから、とても浮ついた気持ちで、幸せで。一緒に色んなお店を見て回ることにした。
「あ、先輩、この服先輩のイメージみたいです。とっても似合いそう!着てみてほしいくらい!!」「ええ、そう?こういうのは、貴女の方がよく似合うわよ。」「ホントですか!?大人っぽくて、私には全然似合わないかなって思っていたんですけど、先輩なら着こなしそうだなって。でも、先輩がそういって下さるなら、私も着こなせますかね??」「むしろ私には甘すぎて、ちょっと薹が立つかもしれないわよ。」そう、少し自分を自虐してあの子に返したら。
「そんなことないです!先輩は、まだまだ全然、若くて綺麗で、どんな服でも着こなせます!!」「あ、ありがとう。だけど、それはちょっと言い過ぎよ。」私もちょっとタジタジになりながら、あの子の言葉が嬉しくてお礼を返した。
「そろそろお昼前よね。混む前に、お店決めて入らない??貴女は何を食べたい??」
「そうですね、何にしましょうか?私、何でも食べられるので、先輩が食べたいものでいいですよ。」ニコニコと、私にお店を選択する権利をくれるあの子。だけど私は、あの子が食べたい物を一緒に食べたいから。自分で選びたいものなんて、そんなになくて。だから、私はちょっと意地悪だけどあの子に。「私はどちらかといえば貴女と選んで一緒に食べたいから、貴女が食べたい物教えて欲しいわ。」なんて、返してみた。するとあの子は。「へっ?私と??……えっと、そうですね。今食べたい物、、、んー。と、あんまり浮かんでこないですけど、折角なら普段行かない様な、ちょっとお洒落なお店に入りたいですかね。いつでも食べられる様なものより。特別な感じ。」「何だかちょっと曖昧だけど、そうね。折角なら仕事の時でも入らない様なお店、選びましょうか。この辺りのエリア、多分ちょっと良いところよね。ここのエリアから行きたいところ選びましょう?」そういって、ちょっと良いお店が並ぶエリア、そちらに目星をつけて行ってみることにした。「先輩、ちょっとこのメニューすごくないですか??これだけ色んなもの少しずつ入ってるのに、このお値段で食べられるとか。楽しすぎません??それに、盛り付けも綺麗だから彩りも楽しめそうですよ。」ニコニコと、あの子が言うから私にとってはそれが正解。だから、「ええ、それならこのお店にしましょうか?」「いいんですか??先輩、全然どのお店が良いって言ってないですよ??私が入りたいところ、選んでますよ?」ちょっと不満そうな顔をするあの子。ああ、失敗したか、そう思ったんだけど。ホントに私は食べることに興味が持てない。だから、こればかりはどこに行きたいよりも、誰と行くか、なんだけど。多分それをそのまま伝えると重いんだろうとわかるから。
「私も選んでたわよ?貴女が選ぶお店が私も美味しそうだと思ったから、ここが良いかと思ってたわ。だけど折角なら、私が貴女を誘ったんだから、貴女に最後は決めて欲しかったのよ。」なんて言ってちょっと逃げた。だけど何だかあの子は気づいていそうで、ちょっと膨れ面。でも、言っても私が聞かないって理解しているだろうから、「そうですか?それなら、良いんです。一緒に、メニューを選んで分け合いっこしませんか??」そう、気分を変える様に私に言ってくる。その姿に少し申し訳なりつつも、その笑顔が可愛くて、現金な私は気づかないフリをした。
「美味しかったですね、先輩。」「ええ、思った以上に美味しかったわ。色んな味付け楽しめてあの値段ならまた来たいってなるわよね。」「ね、そうですよね。……また先輩、私と一緒に来てくれますか??」
少し上目遣いに私を見上げる彼女にキュンとして、だけどその可愛さに歯痒さもあって、気づかないフリをして。「ええ、貴女とならまた来たいわ。」なんて、ちょっと恥ずかしいセリフを返していた。
「ねえ、このネックレス、可愛いわよ。」「わ、ホントだ。まるで私たちみたいな組み合わせ。それに、とても綺麗なデザイン。」そう驚く彼女。そうよね。私たちの名前の象徴みたいなモチーフだもの。太陽と月。どうしても連想してしまう。こんなに絡み合った切り離せない存在なのだと言う様なデザイン。流石にそんなことまでは言えないけれど。「本当ね。名前と同じだから、余計によく見えたみたい。」ちょっと言い訳じみた言い方をしたけれど、この子は多分気づかない。だって、貴女を思っているのは、私だけなんだから。。。
「今日はありがとう。色んなもの、買えたし楽しかったわ。こないだは私を誘ってくれてありがとうね。お陰で今回、楽しめたもの。」「いえいえ、むしろ今回は私が誘えなくて、改めて誘って貰えて嬉しかったんですよ。前回は私のせいで中止になったので、、、」そうシュンとする彼女が、いたたまれなくて。「そんなことないわ。それがあったから、貴女をこうして誘えて遊びにこれたのよ。また今度は、貴女から誘ってほしいわ。だから、感謝こそすれ謝られることはないわよ。」そう、微笑んで感謝を伝えた。「…先輩、ありがとうございます。私も、先輩と遊びに行けて楽しかったです。また、今度は私からリベンジしますね。」そう、優しく目を細めてニコニコ笑う彼女が、夕陽に照らされ眩しいから、きっとこの頬の朱さは違うんだって、心の中で言い聞かせた。
好きよ、そう伝えられたらどんなにいいか。気持ち悪い先輩だと思われてしまうから、死ぬまで言うことなんて叶わない。これがどれだけ絶望的に辛いかなんて、あの子は知らない。きっと気づいてなんかいない。ああ、この子を誰かに渡したかなんてない。私がこの子を独り占めしたい。だけど、この子の人生を壊したくもない。だから、私は気づかないフリをする。
先輩が、誘ってくれた、一緒に、お出かけしてくれた!!こんな嬉しいことはない。だから、お出かけの日にはしゃいでいっぱい色んなお店を見て回った。先輩ひちょっと疲れた様な顔をしてたけど、そんなこと私に言わないで、ずっと私に付き添ってくれた。優しい。好きだ、大好きだ。私に気を遣ってくれる、その心遣いが愛おしい。全てが私を大切にしてくれることに気づいてる。だけど先輩は、ただ職場の皆んなにも優しいから、きっとこの優しさは私だけじゃなくて。
それが余計に寂しくて。苦しい。嫌だ、嫌だ、嫌だ!先輩が、優しくする人は私だけじゃないと嫌だ。そう、思っているけれど、きっと先輩ひ気づいていない。私が先輩に向ける感情が、こんなに薄暗いものだなんて。絶対、気づかれちゃいけない。
先輩、アクセを見てたら私たちみたいなモチーフのネックレスを見つけてきて。嬉しかった。例え偶然だとしても、まるで先輩が私に送ってくれたみたいで。いいな、欲しいと思っちゃった。だからバレないように、実は私買っちゃった。だけど着けたらバレちゃうから、仕事場には絶対着けていけないし、絶対、無くしたくもないから、着けることすら躊躇しちゃう。
私がこんなにグルグル考えるのは先輩だけのことなのに、なんで先輩は気づいてくれないんだろう。私の感情、誰にも気づいて貰えないなんて、どれだけ悔しいか。誰も知らないんだろうな。先輩なんて、絶対気づかない、私のこと、良い子だと勘違いしているから。私がこんなに嫌な子だって知ったら嫌われちゃうから。私は私のこの感情を、気づかないフリしてこれからも過ごさなきゃいけないんだ、なんて考えて。
これからも先輩を見ないフリ、していくことに気が重くなった。。。




