第8話・脱出
『自爆シークエンス、作動。爆発まで、あと4分30秒』
ホール内に、無機質な音声が響き渡った。
「な、なんだと!?」
サトウ少尉が叫ぶと、足もとが揺れた。どこかで、爆発が起きたようだ。
「どうして?」
「とにかく、急ごう、少尉!」
今度は建物全体が揺れ、ふたりは足を取られた。天井の一部が落下してきた。
「危ない!」
サトウは、ぎりぎりで天井の破片をかわす。別の破片が、ロボットを下敷きにした。
「走れ、シャトルまで急ぐんだ」
『自爆まで、あと4分』
サトウ少尉はナカノ伍長を背負って走った。ドクター・サリバンが続く。
「しかし、なぜ自爆するんだ?」
「ドクター、おそらく……」
サトウの背中でナカノが言った。
「私をシステムから切り離したからです。機密保持のためだと思います」
「だからって自爆することはないだろう。どこまでも理屈の通じないやつらだ!」
サリバンがいまいましそうに言った。
『自爆まで、あと3分30秒』
サトウたちは、出口の近くまで来た。ロボットたちは、あるものは破片につぶされ、あるものは導管の爆発に巻きこまれた。だが、どのロボットも無反応だった。
「あと少しだ」
外の景色が見えている。サトウたちが出口を通過しようとすると、不意に足もとが崩れ落ちた。
「サトウ!」
崩れたのは、出口の手前の通路だった。最初にシャトルのレーザーで扉を壊した時に、床が脆くなっていたのだっだ。
サトウは、とっさに崩れた通路の縁にしがみついた。
「掴まれ、サトウ!」
サリバンはなんとか落ちずにすみ、腹ばいになってサトウの両腕をつかんだ。サトウは、渾身の力で這いあがろうとするが、ふたり分の体重ではしがみつくのがやっとだ。
「ドクター……離れて。あんたまで落ちてしまう」
「馬鹿を言うな! もっと力を入れるんだ」
崩れた通路の下は、底の見えない奈落だ。
『自爆まであと3分』
冷たい音声が聞こえた。
「サトウ少尉……バックルのリリース・スイッチを……。あなただけでも、助かって……」
ナカノが、サトウの耳元でつぶやいた。
「そんなことが出来るか!」
サトウが叫んだ。
「絶対に離さない!」
その声を聞いて、ナカノが身体を震わせた。
ゆっくりと、ナカノの機械の義手が動く。近くの裂け目に指を滑り込ませた。
「ドクター、離れててください……!」
サトウは、身体が浮き上がるのを感じた。ナカノの腕が、バンドでつながれたふたりの身体を、勢いよく押し上げたのだった。
ふたりは、その勢いで建物の外側に落ちた。
サリバンはあっけに取られてその様子を見ていたが、やがて言った。
「……危なかったな、サトウ。もう少しダイエットしたほうがいいんじゃないのか」
「ドクター、早く!」
『自爆まで、あと2分30秒』
サトウたちは外に出た。だが、50メートル先で待機しているはずのシャトルがいない。
「シャトルが……どうして?」
「ひょっとして、タイムリミットか?」
「バカな! まだぎりぎり間に合うはずだ」
「そのぎりぎりまで待てなかったのか」
『自爆まで、あと2分』
「これまでか……」
サトウは天を仰いだ。空に、何かが光るのが、サトウの目に映った。
「あれは……! シャトルだ」
サリバンが叫んだ。シャトルは、どんどん近づいてくる。
轟音を立てて、シャトル『カリスト』が、50メートル先に着陸する。風圧がサトウたちに吹き付ける。ふたりは、腕で目を覆った。
『自爆まで、あと1分30秒』
「急げ!」
サトウとサリバンが、シャトルに向かって走る。シャトルのハッチが開いた。
「ハッチを閉じろ!」
ハッチ内に飛び込んで、サトウが喚く。サリバンも、転がるように飛び込む。ふたりとも肩で息をしていた。
「すみません、少尉。さっきロボットに囲まれて、一時的に離陸していたのです」
ハッチが閉じると、パイロットが言った。
『自爆まで、あと1分』
通信機越しに、施設内のカウントダウンが聞こえる。
「離陸準備!」
「アイアイサー!」
サトウは、ベルトのバックルを外してナカノを下ろし、シートに座らせてスイッチを押すと、ハーネスが伸びてナカノの身体を固定した。
次いで、サトウとサリバンもシートに座り、ハーネスをかけた。
『自爆まで、あと30秒』
「離陸しろ!」
シャトルのスラスターを点火する。機体が浮上し、上昇していく。
『自爆まで、あと15秒』
「発進します」
シャトルのメインエンジンを噴射すると、すさまじい加速度がサトウたちの身体を襲い、身体がシートに強烈に押し付けられる。
キャビンのモニターに、眼下の建物が映し出された。どんどん遠ざかっていく。
『自爆まで、5……4……3……2……1……』
──すさまじい衝撃が、シャトルを襲う。キャビン内は、加速の振動と、爆発の衝撃波の両方に揺さぶられる。
なんとかモニターに目をやると、地上の施設から光が広がっているのが見えた。
サトウは、渾身の力で手すりをつかんだ。ナカノやサリバンのほうを振り向くこともできない。




