第7話・つながったもの
「来い!」
サトウ少尉は飛び出し、ロボットとの間合いを急速に詰める。
互いがすれ違い、背を向けたまま静止した。
サトウは、残心の姿のまま、微動だにしない。
重粒子刀の刀身が震え、音をたてて折れた。
ロボットがふり向いた。命なき機械が、まるで勝ち誇っているようだった。
次の瞬間、ロボットの体の真ん中に縦の線があらわれ、徐々に広がっていく。
ロボットは真っ二つになって床に倒れた。
「ふーっ」
サトウ少尉は、立ち上がると深いため息をついた。
「そうだ。ドクターは?」
サトウは、通路の突き当りまで走った。
「ドクター、どうです?」
「おお、少尉。生きていたか。待ってくれ、もうすぐドアが開くはずだ」
ドクター・サリバンは、スキャナーをドアのパネルに取りつけ、操作する。
「開いたぞ!」
ふたりとも、捕虜の収容室に飛び込む。
「ナカノ伍長! 無事か?」
収容室なので、ふたりは殺風景な部屋を想像していたが、部屋の壁はパネルやモニターで埋めつくされていた。ところどころにむき出しの配線や導管が走っている。
その壁に、ナカノ伍長はいた。
「伍長! ……これはいったい?」
「機械と同化しているのか?」
ふたりとも、ひと目で、それがナカノだと確認できた。しかし、彼女の両腕と両脚の先は、壁の機械に固定されている。
「ナカノ……、どうしてこんなことに?」
ドクター・サリバンは、ナカノの手足のつなぎ目をスキャナーで分析している。
「少尉、ドクター……」
「ナカノ!」
「意識がある。……DNAのスキャンによると、彼女は、カレン・ナカノ伍長に間違いない」
「あのとき……私はロボットに攻撃されましたが、致命傷を免れました。手足は……この通りですが」
少尉もドクターも、絶句してナカノの話を聞いていた。
「しかし、ロボットは攻撃をやめ、私をこの建物に運び、治療をしました」
「……おそらく、条約が理由だ」
ドクター・サリバンが口をはさんだ。
「はい、ドクター。私は捕虜として扱われました。この身体は、『治療』の結果なんです」
「ああ。条約では、捕虜の人道的な扱いが定められているようだからな」
「またそれか。ゆがんだ倫理観だ」
サトウ少尉が、ブリッジで口にしたのとおなじ言葉を発した。
「残された亡霊が作った地獄か……」
サリバンがつぶやいた。
「とにかく、ドクター。ナカノを壁から切り離せますか?」
「ああ、今スキャンしていたが、留め具とコネクターを外すだけだ」
「なら、急ごう」
「少尉。私、帰りたくありません……」
「なんだって? 何を言っている、伍長」
「サトウ……、あたしの身体を見て」
ナカノがうつむいた。彼女の身体は、胴体部分も金属のコルセットで覆われている。
「もう……私は、私じゃありません。すでに、脳にもチップが埋め込まれています。……やつらの中枢とつながっているんです」
サトウとサリバンは、互いの顔を見た。
「やつらは、私を死なせはしません。ふたりとも。行ってください」
「ナカノ、君を見捨てはしない」
「いいんです! 私……こんな姿になって。あなたに、この姿を見られたくないの……」
「関係ない!」
サトウ少尉が叫んだ。胸が締め付けられる。
「君がどんな姿になろうが、俺には関係ない」
ナカノが顔を上げた。
「俺には君が必要なんだ、何があろうと」
ナカノの両眼から、涙がこぼれ落ちた。サリバンは、無言でふたりを見つめていたが、やがて口を開いた。
「ナカノ、私にまかせておけ。かならず、君をもとに戻してみせる」
「ドクター……」
ナカノが静かに頷いた。
「さ、少尉」
「はい、ドクター」
サトウが、素早くコネクターを抜き、留め金を外すと、ナカノの身体が前に崩れ落ちる。サトウがとっさに抱きかかえて彼女を支えた。
「ドクター、ナカノは私が」
ナカノは、手はなんとか動くが、脚が思うように動かない。サトウ少尉は彼女を背負った。黒光りする義肢の見た目に反して、その身体は軽かった。
サトウが、制服についたハーネスのバックルのスイッチを押すと、バンドが飛び出してナカノの身体を固定した。
「行くぞ、サトウ」
ドクター・サリバンがスキャナーを腰に差し、レーザー銃に持ち替え、部屋を出た。サトウもナカノを背負ったまま後に続く。
通路を走って進む。さっきの多脚ロボットの残骸を一瞥して進むと、ホールにロボットが集まっているのが見えた。
「やつらだ……!」
「くっ。やはり、そうやすやすとは返してくれないか」
ドクター・サリバンがレーザー銃を構えた。サトウ少尉も、手近な保安員の遺体から銃を拾おうとした。
「……いけません! 銃を捨ててください、ドクター」
ナカノが声を絞り出した。
「なんだと!? 自殺行為だ」
「条約で……飛び道具は禁止されています。それを持っている者を攻撃するんです……。『非人道的』だからと」
サリバンは、サトウを見た。ナカノはさっき、やつらのシステムとつながっていると言った。操られているのではないだろうか?
「……いや、ドクター」
サトウが静かに言った。
「武器を捨てましょう」
サトウも、銃を拾おうとした手を止めた。
「う、うむ」
サリバンも銃を床に捨てた。ガチャン、という音が、ホールに響き渡ったが、ロボットは反応しない。
「こいつら、本当に動かないぞ」
静止したロボットの間を、サトウとサリバンは慎重に歩いた。ロボットたちは、3人を気にかける様子はない。
ふいに、警報音がホール内に響いた。
次いで、何かのアナウンスが流れるが、聞きとれない。
「ドクター……通信機を」
「ああ、そうだったな」
ナカノの言葉に反応し、サリバンが通信機のスイッチを入れると、施設内の通信が入ってくる。
『自爆シークエンス、作動。爆発まで、あと4分30秒』
ホールに、無機質な音声が響き渡った。




