第5話・過去の呼び声
「船長! 地表から通信が入っています」
「なんだと? チャンネルを開け」
「チャンネル、オープン。音声のみです」
『……聞こえますか、「ユピテル」。ナカノ伍長です』
「伍長! 無事なのか?」
「ナカノ? いったいどうして……」
サトウ少尉が、思わず声を上げた。彼は、確かに彼女が倒れ、ロボットに囲まれるところを見たのだ。
『はい……。条約で、捕虜の扱いは定められているそうです。この通信も、捕虜の権利として認められています……』
「また条約か、それはどんな……?」
『船長、あまり時間がありません……。通信時間は限られています。私の話を聞いてください……』
「うむ、伍長。続けろ」
『赤い月。ライオンの口。地下の落書き。エリザベスの出航。夜のロミオ……』
ナカノからは、意味不明の単語が並べられた通信がつづいた。
『……ナカノより、以上』
──音声がとだえた。
「今のナカノからの通信は、いったいどういう意味なんだ? サトウ少尉」
「待ってください、船長。通信士、今の通信は録音しているな?」
「はい、少尉」
「コンソールのモニターに文字起こししてくれ。ひょっとすると……」
サトウ少尉は、モニターに浮かぶ文字を眺めた。
「……わかったぞ。これは暗号だ」
「暗号だと? どういうことだ、少尉」
「ドクター、これは、比喩を使用した、特殊な暗号なんですよ。今、解析します」
「メタファー?」
「以前の任務で、メタファーを言語として使う異星人とコンタクトしたことがあるんです」
モニターに映し出されたのは、どこかの建物の一部だった。
「この画像に、スキャンで得た、ナカノが囚われている建物の見取り図を重ねられないか?」
「お待ちください……出ました」
──ふたつの画像が一致した。ナカノが送った暗号をもとにした画像は、建物の入り口からとある部屋までの道筋だった。
「ここだ。おそらくここが、ナカノが囚われている部屋だ」
「なんと。こんなことが」
「船長。この情報は、救出作戦に大いに役立ちます」
「うむ。少尉、やってみろ」
「イエッサー!」
サトウ少尉とドクター・サリバンは、互いの顔を見合わせ、うなずくと、ブリッジを後にした。
「3時間か……。惑星への降下と脱出の時間を含めると、あまり余裕はないな」
サトウがつぶやいた。
──『ユピテル』・通路
「少尉、船長の許可が無くても、行くつもりだったんだろう?」
無言で歩くサトウに、サリバンが尋ねた。
「はい、ドクター」
「サトウ、君とナカノ伍長の関係は知っているが……」
「ドクター……。ブリッジで言ったことは本当です。これは私情ではありません」
「そうか……。そうだな」
──シャトル格納庫
「バッテリー・パックは多めに持っていこう」
「はい、ドクター。ん? お前たち、どうしたんだ」
シャトルの前に、保安員7名が並んでいた。最初の上陸を生き延びた者たちだ。
「我々も同行します、少尉」
「よせ。危険すぎる」
「それは命令ですか? 少尉」
「そうだ」
「ブリッジでのやりとりは聞いています。我々も、少尉とおなじ気持ちです」
「お前たち、わかっているのか? 生きて帰れるとは限らんぞ」
「この制服に袖を通したときから、覚悟はしています」
ドクター・サリバンが、サトウを横目で見た。
「少尉、君だって、命令違反してでも行くつもりだったんだろう?」
「それはそうですが……」
「だったら、彼らに来るなと命令は出来んぞ?」
「少尉、お願いします」
保安員たち全員が歩み出た。
「……勝手にしろ」
サトウ少尉がそっけなく言って顔をそらした。
「ふ……。少尉は照れ屋なのさ」
ドクター・サリバンがニヤリとして言った。
──
全員、シャトルに乗り込むと、ハッチが閉まった。
「こちらシャトル『カリスト』、発艦の許可を願います」
『こちらブリッジ。発艦を許可する。幸運を祈る』
──
シャトル『カリスト』は軌道を離れ、惑星に接近する。
「これより大気圏に突入する。総員、衝撃に備えよ」
高温のプラズマが、シャトルの外壁をつつむ。船室内は激しく揺れた。
この再突入は、どれだけ経験しても平気というわけにはいかない。
「まもなく、中間圏を抜けます」
──突然、静寂がおとずれた。船体のまわりのプラズマは消え、眼下には惑星の地表の景色が広がった。
どの惑星も、上空から見える景色は美しい。だが、彼らには、景色に見とれている余裕はない。
「ナカノ伍長が捕らわれている建物の付近に着地します」
建物が見えてきた。巨大な円形の基部で、中央に高い塔がそびえている。全体から、磨き上げられたような金属の光沢を放っている。
窓もない、非人間的なデザインだ。住居というよりは、『巣』だろうか。
シャトルは、着地できるスペースを探すためにしばらく滞空してから、建物の近くに着地した。
「パイロット、ロボットは居るか?」
「建物の入り口に、2体います」
「ここから、デブリ除去用のレーザーで、あそこを狙えるか?」
「はい、少尉」
「狙え」
「レーザー、目標にロック」
「撃て」
シャトルのレーザーが、立て続けに命中し、2体のロボットは順に爆発した。
「入り口の扉を撃て」
ビームが命中すると、扉がみるみる溶けていく。レーザーの出力が、扉の融点を上回ったようだ。
「よし、行くぞ!」
シャトルのハッチが開き、サトウ少尉を先頭に、救助チームのメンバーが続々と惑星の乾いた土を踏んだ。
入り口までは障害物はなく、ロボットの気配もない。
「妙だ。簡単すぎる気がするな。注意しろ、サトウ少尉」
「分かっていますよ、ドクター」
サトウたちは、入り口のわきに倒れているロボットをチラリと見ると、入り口の枠に張り付いた。
「他のロボットの気配がないな……」
建物の中には、生き物の動く気配はない。静まり返っている。
「行くぞ!」
サトウたちは、吸い込まれるように、建物内に躍り込んだ。




