第4話・決まりと約束
『ユピテル』のブリッジのメイン・モニターには、『コンゴウ』と衛星の戦闘が映し出され、ブリッジ内の会話が聞こえる。
『衛星は、位相粒子ビームを使っています。シールドを貫通されました!』
衛星の発射したビームが、次々と『コンゴウ』の装甲に直撃する。
『シールドの位相を調整しろ。反撃するんだ』
『プラズマ砲、発射。……衛星を1機、撃墜しました』
『コンゴウ』の砲撃で、衛星が1機、また1機と爆発する。
──
戦闘のさなか、『ユピテル』のブリッジにドクター・サリバンが駆け込んだ。
「いかん、あの衛星を攻撃してはいかん!」
「どういうことだ、ドクター?」
メイン・モニターでは、『コンゴウ』と衛星の戦いが続いている。
──
『攻撃続行!』
『衛星を1機撃墜。……艦長、あらたな衛星が現れました!』
『数は!?』
『25機です!』
衛星兵器が続々と現れ、一斉に『コンゴウ』を攻撃した。
『シールド消失。エンジンに被弾しました。プラズマが漏れています』
もはや、『コンゴウ』の艦内は、混乱の極みだった。あちこちから火の手があがり、破れた外殻からは、空気と乗員が、宇宙空間に吸いだされている。
『エンジンを射出するんだ!』
煙の充満するブリッジで、ネルソン艦長が叫んだ。
『射出システム停止。エンジン隔壁に亀裂』
『総員、艦から脱出せよ、繰り返す……』
──『コンゴウ』が、光を放出した。太陽がもうひとつ現れたような、まばゆい光だ。
「シールドアップ!」
ミダス船長が指示する。
『コンゴウ』のエンジン炉心が大爆発した。衝撃波が『ユピテル』を襲う。
船体とともに、乗員は前後左右に揺れた。
──
「状況は?」
揺れが収まると、ミダス船長が言った。
「戦艦『コンゴウ』……大破しました」
「生存者は?」
「……ゼロです」
──『ユピテル』のブリッジは静まり返った。
「人工衛星は?」
「戦闘から離脱していきます。また、軌道に戻ったようです」
「……遅かったか」
「何がだ? ドクター・サリバン」
「あの衛星は、武装した船に対しての防衛衛星なんです。船長」
「いったいどういうことだ? ドクター」
「ロボットの解析でわかったんです、船長。この船は武装していないから、攻撃されなかったんですよ」
「なんと……そうだったのか」
「他にもわかりました。あのロボットが原始的な武器を使っていたのは、飛び道具が条約で禁止されているからです」
「条約で、だと?」
「他にも、人間にはできるだけ苦痛を与えず、行動不能にしなくてはならない、ともプログラムされています」
「……なんだそれは。なんてゆがんだ倫理観なんだ!」
サトウ少尉が声を張り上げた。
「……解析作業は続けています。とりあえず、救助作戦に必要な情報を優先的に解析しています」
「そうか、ドクター。しかし、これでは……打つ手がない」
ミダス船長は、目を閉じた。重大な決断を下すように。
「船長、打つ手がないって、どういうことです?」
「サトウ少尉。『コンゴウ』がいない今、救助は中止するしかない」
「しかし、船長。地上には、生存者がいます」
「そのひとりのために、クルー全員を危険にさらすわけにはいかない」
「しかし、船長……!」
「サトウ少尉、異議は記録しておく。これは私の決断だ。『ユピテル』は軌道を離れる」
「……なら、私ひとりで行きます!」
「何だと?」
「私ひとりで地表に降り、部下を救助します」
「危険すぎる。それに、救助は中止すると言ったんだ。命令に逆らう気かね? サトウ少尉」
「いいえ、船長。これはお願いであります。しばしの猶予を。上陸の許可を願います」
「地表の生存者も、状況は理解しているはずだ。私とてそうだ。同じ状況なら見捨てられることを望む」
「……それは承知しています」
サトウ少尉は、しばし下を向き、拳を固めていた。やがて顔を上げ、言った。
「船長、……私は3年前、仲間を助けられなかったことがあります」
「君の経歴は知っている。あれは事故だったんだ。君が気に病むことはない」
「私は、あの時のことをずっと後悔しています。助けられたのに、です」
「それは結果論だ、少尉。時には、つらい決断も必要なのだ」
「はい、船長。しかし、今回、救助を試みもしなければ、私は一生、後悔しつづけるでしょう。私は、自分の気持ちにけじめをつけたいのです」
──ブリッジに沈黙が流れた。クルーはみな、固唾をのんでふたりを見つめている。機器のハム音が、やけに大きく聞こえた。
「サトウ少尉……」
沈黙の後、ミダス船長が口を開いた。
「上陸を許可する」
「感謝します……船長」
「船長、『ユピテル』が軌道にいられるのは、あと3時間だけです」
「何? なぜだ、ドクター」
「解析によると、非武装のこの船でも、軌道に滞在していられるのは3日間です。我々がここへ来てから、あと3時間で3日たつのです。
「それでは、あと3時間で、我われは『コンゴウ』とおなじ運命ということかね?」
「おそらくは」
──ブリッジ内の空気が変わった。3時間後には、上陸班だけでなく、船とクルーも全滅する。
「そういうことなら、サトウ少尉。3時間だ。3時間で救助をすませるのだ。それ以上は待てんぞ」
「了解しました」
「サトウ少尉、まさかひとりで行く気じゃないだろうな?」
「ドクター・サリバン。しかし、あなたまで危険にさらすわけには……」
「さびしがり屋の君が、ひとりで行くのかね。もっとも、私もさびしがり屋なんだ。同行しよう。君ひとりじゃあ、包帯も巻けんだろう」
「ドクター……」
「船長! 地表から通信が入っています」
オペレーターが報告した。
「何だと? どこからだ?」
「発信源は……生存者がいる建物からです」
一同、顔を見合わせた。
「いったい誰が……?」




