第3話・軌道上の罠
ハッチの異常を示す、赤いランプが点滅している。
シャトル全体が振動している。サトウ少尉と部下たちの目は、ハッチに釘づけだ。
ハッチの縁が、ミシリと音をたてる。サトウたちは息をのんだ。
──瞬間、キャビン内の音が消えた。さっきまでとはまるで対照的な静寂だ。
「大気圏を出たぞ」
サトウの声に、一同からため息が漏れた。
シャトルは母船に接近する。
「こちら、シャトル『エウロパ』……。『ユピテル』、ドッキングの許可を願います」
『こちら「ユピテル」。ドッキングを許可する』
──シャトルは、母船のハッチからシャトル格納庫に入り、着艦する。
「格納庫を与圧しろ。だが、ハッチはまだ開けるなよ」
「少尉。あのロボットはどうなったんでしょう」
「サトウより艦橋。保安部員を格納庫によこしてください。土産がありますよ」
──
数人の保安部員が、格納庫に駆けつけた。全員、手には最大出力にセットしたレーザー銃を携えている。慎重に、シャトルに近づいた。
『ロボットはいるか? それとも、どこかに飛ばされたか?』
サトウは、ハッチの窓越しに保安部員に言った。
「少尉、いますよ。でも、大丈夫そうです」
──
「ハッチを開けろ」
サトウ少尉たちが、ぞろぞろとシャトルから降りる。
「少尉。例のロボットですよ」
保安部員が、視線でロボットを指した。
「なんと、焼け焦げちまっているのか」
「さすがに、オシャカですね」
「ああ。だが油断は……」
ふいに、ロボットが起き上がった。
消し炭のようになったロボットが、ぎこちない動作で、近くの保安部員に向かっていく。保安部員が銃を構える。だが、すぐに脚が折れ、床に崩れ落ちた。前脚も両方ともちぎれている。
「……完全に、停止しました」
「ラボへ運んでおけ。分析するんだ」
──ブリッジ
「サトウ少尉、帰還しました」
「ご苦労だった。被害状況はこちらでも把握している。上陸班20名中、死者10名。行方不明が1名だ」
「行方不明、ですか? 船長」
「うむ。通信機のバイタルサインから、生存者を探知している。今、位置を確認中だ」
「いったい誰が? あのロボットの群れの中で、どうやって助かったのでしょう」
「通信機のIDは識別できない。だがバイタルは正常だ。もちろん、多少の心拍数の乱れはあるが」
「船長、生存者の位置を確認しました。戦闘があった場所から、数キロ離れた建物の内部にいます」
オペレーターが、ふり返って報告した。
「どうやって救助するんです? 船長」
サトウ少尉が尋ねた。
「この調査船の装備や人員ではとてもじゃないが無理だ。司令部に援軍を要請しているところだ」
「一刻も早く救助してやりたいところですが、やむを得ませんね。向こうの情報もない状態では、救助の作戦も立てられません」
「……船長、司令部から返信。戦艦『コンゴウ』が、最大ワープでこちらに向かっています。3日後に到着する予定です」
通信士が報告した。
「3日か。船長、その間に、救助プランを練ります」
「うむ。それと、格納庫のロボットだが……」
「はい。ラボで分析させて、弱点を探ります」
「頼むぞ、少尉。こちらでも地上の様子を探って、情報を集めてみる」
「イエッサー!」
──ラボ
「どうです? ドクター」
ラボの中央には、ロボットが横たわっている。
「サトウ少尉か。だいぶ進んでるよ。まず、こいつの外装は融除装甲だ」
「だからレーザーが効きにくかったのか」
「ああ、逆に少尉のバリオン・ブレードは有効だがね」
「頭脳はどうです?」
「こいつらは、自律してプログラム通りに動くだけのようだ。プログラムの解析はちょっと待ってくれ」
「お願いします、ドクター。それにしても、こいつらは何のために無人の惑星にいるのか……」
「かいもく見当がつかんね」
──3日後
サトウ少尉が、『ユピテル』のブリッジに入室した。メイン・モニターには、あの惑星が映し出されている。
「少尉。まもなく、『コンゴウ』が星系内に到着するぞ」
「船長。救助のプランは?」
「まず、『コンゴウ』が軌道上から地上を空爆し、あのロボットたちを焼き払う」
戦艦の火力なら、地表を更地にすることもたやすい。
「そのあと、地上部隊が建物に突入し、生存者を救助するんだ」
「船長、『コンゴウ』が軌道に入ります。ネルソン艦長から通信です」
「モニターに映せ」
『ユピテル』のメイン・モニターに、全長300メートルの戦艦『コンゴウ』が映し出される。
ネルソン艦長の映像に切り替わった。いかにも百戦錬磨の老獪な艦長といったところだ。
「こちらは『ユピテル』の船長、ミダスだ」
『ミダス船長。それでは作戦の実行に移りたいと思う』
「了解した、ネルソン艦長」
『艦長、センサーに高エネルギー反応が!』
モニター越しに、『コンゴウ』のオペレーターが叫んだ。
『何? 発生源は?』
『軌道上です。人工衛星のようです。直径およそ20メートル。数は15』
いつのまにか、『コンゴウ』の周りを、多数の黒い球体が、取り囲んでいる。
『呼びかけろ』
『反応ありません。無人のようです。兵器にエネルギーを充填しています!』
すべての衛星が、ビーム砲らしき突起を『コンゴウ』に向けた。
『シールド最大。武器を装填しろ』
『撃ってきます!』
軌道上に現れた衛星兵器が、『コンゴウ』に向かって一斉にビームを発射した。




