第2話・二重の危機
───軌道上・母船『ユピテル』の船橋
「通信士、上陸班からの連絡は?」
「いいえ、船長。まだ連絡がとれません」
「いったい、地表で何があったんだ……」
────惑星の地表
ドクター・サリバン大尉が、レーザーを発射する。ビームが命中すると、ロボットは地面に崩れ落ちた。
だが、その残骸を乗り越えて新たなロボットが迫る。
サリバンは引き金を引くが、レーザー銃は反応しない。
「くっ……、バッテリー切れか!」
ロボットが前脚を上げると、サリバンは身を固くし、目をつむった。
──金属の落ちる音が聞こえた。目を開けると、ロボットの前脚が、両方とも地面に転がっている。
ロボットは動きを止めていた。やがて、中心から真っ二つに分かれて、それぞれ地面にガチャン! と落ちた。
「……サトウ少尉!」
サリバンが叫ぶと、サトウが手に刀を構えて、隙のない残心の姿を見せていた。
「まさか、これが役に立つとは」
そう言っている間にも、ロボットが近づいてくる。サトウは手に持った刀で、まず前脚を、次いで胴体を両断した。
「少尉、その武器は……!」
「ええ、ドクター。『重粒子刀』です。この時代遅れの武器を使うことになるとは」
そう言いながら、またロボットを切り倒した。刀身の超高周波の微細な振動が、ロボットの原子結合を引きはがす。光線銃が現れてからは、使われなくなった武器だった。
「ドクター。生き残りの乗員を連れて、シャトルに急いでください」
「わかった。少尉は?」
「俺が殿を務めます。急いで!」
ドクター・サリバンが先頭に立ち、クルーを率いて走る。だが、左右の路地からもロボットは襲ってくる。その間もロボットとの戦闘は続く。
サトウ少尉は、最後尾でロボットを斬る。彼の家系に伝わる剣術で、幼少期から叩きこまれている。手にした刀は赤熱し、空気を焼く。
ロボットを斬るたびに、金属と油の焦げる臭いがする。
レーザーと叫び声が入り乱れる。シャトルに近づく間にも、クルーはひとりずつ数を減らしていく。
ナカノ伍長が、両脚を切断され、地面に倒れた。周りのロボットが、彼女に群がる。
「ナカノ!」
駆け寄ろうとするサトウの腕を、サリバンがつかんだ。
「よせ! 彼女は助からん。行けば、全員が死ぬことになる……!」
サトウは肩を震わせたが、サリバンに従い、ふり向いた。
「くっ……。パイロット、ハッチを開けろ!」
サトウが通信機ごしに怒鳴った。ようやくシャトルに到着した上陸班が、シャトルの周りに集まり、ハッチが開くのをもどかしく待つ。
「は、早く!」
ハッチが開くのを待つ間にも、ロボットたちは集まってくる。
「入れ!」
ハッチが人間ひとり分ギリギリの広さに開くと、クルーがシャトル内に殺到した。
「少尉も、早く!」
「よし、ハッチを閉めろ!」
全員が乗り込んだあと、サトウが走りながら叫び、閉まり始めたハッチの隙間にダイビングした。
「離陸しろ!」
サトウが、床に身体を投げ出したまま、操縦席に指示する。通常の手順では、ハッチが完全に閉まってからでないと、離陸してはいけない。
だが、誰も異議は唱えない。ただ、ハッチが1秒でも早く閉まるのを願っている。
あと少しで閉まるという瞬間、ハッチと枠の隙間に、ロボットが前脚をねじ込んだ。
「少尉! ロボットがハッチをこじ開けようとしています」
「くそっ! 狭すぎる。これでは斬ることができん」
無理にロボットの前脚を斬ろうとすれば、かえってハッチの隙間を広げることになってしまう。そうなると完全に閉めることはできない。
「やむを得ん。内側のハッチだけ閉めて、外側はそのままにしておけ」
「しかし、気密室内の気圧が……」
「大気圏脱出までのほんの数分だ。それより、早く浮上しろ。何をしている」
『少尉。それが、ロボットに……』
モニター越しに、パイロットの声が聞こえた。
サトウは、モニター画面を外部カメラに切り替えた。
そこに映し出されたのは、シャトルに群がるロボットの群れだった。着陸脚にしがみつき、互いに脚を組んで鎖のようにつながっている。
「構わん。各部スラスター、点火しろ!」
それぞれのスラスターから、高温のプラズマが噴射された。ロボットたちは、みるみるうちに溶け、吹き飛ばされた。
ロボットたちが脚を放すと、シャトルが浮上した。
『メインエンジン点火!』
「みんな、何かにつかまっていろ」
すさまじい加速が、サトウ少尉たちを襲った。シャトルは、どんどん上昇していく。音速を超えると、内部ハッチが激しく音をたてる。
通常なら、内部ハッチとエアロックの向こうの外部ハッチとの2重扉になっており、音は伝わらない。しかし、今は外側のハッチに隙間がある。
超音速の空気が、その隙間からなだれ込み、内部ハッチをハンマーのように激しくたたく。
サトウたち一同は、内部ハッチをじっと見つめていた。外側のロボットはまだいるのか。
「少尉。もし、内部ハッチにわずかでも隙間ができたら……」
そうなれば、高温高圧の空気がなだれ込んでくることになる。
「……全員即死だ」
しかし、シャトルは大気圏脱出のための飛行中だ。強烈な加速度で、体重の数倍の力がかかり、みな身動きすらできない。
大気圏外までのほんの数分が、永遠に感じられた。ハッチの異常を示す、赤いランプが点滅している。
サトウの額から、一筋の汗が流れた。




