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レゾラ

「あらら、こぼれっちまったい」

 小さな筒状の望遠鏡を右目から離すと、レゾラは言った。

 確かに彼女の言った通り星がこぼれたのが、肉眼でも見えた。

 だから私は、言う。

「ありゃもう減給もんだわね」

 レゾラはチラと私を見て、また視線を前に戻した。

 何も言わなくたって、分かる。彼女は上機嫌だ。満足気に口の端が上がっていたことを、私は見逃さない。

 レゾラは、他人の失敗が大好物。

 星受けなんて高給取りの人気職がやらかしたとなれば、最高だ。

 実際、さっきのは洒落になっていない。ここから目視していてあの輝度、下手すれば落ちたところは焼け野原だ。

 山向こうな上に、今夜は雲もない。こちらからではどんな惨状が広がっていたって、確かめられないのがつくづく悔やまれる。

 雲がどう関係するのか、と思われるかも知れない。仮に街が燃えていると、雲が赤く染まるのである。

 見たことがあるから、知っている。経験に裏打ちされた知識、と言うやつ。

 忘れたくたって、忘れられるはずない。

 いや、忘れたいわけじゃなかった。

 あれはレゾラとの大切な記憶でもあるから。

 人の心と言うものは、世界がどうなろうと複雑なまま。

「それにしても、今夜はまた一段と月が巨大だこと」

「降ってきそうなぐらい?」

「やめてくりゃんせ、縁起でもない」

 言葉と裏腹にレゾラの声は笑い混じりで。きっと私じゃ無くては、きちんと聞き取れなかったろう。

 そんなところに自尊心のような、何かが満たされる。レゾラへの執着、独占欲に起因する何かが。

「実際、無くは無いんだろうね。空落としなんてもんがあったわけでさ」

「あのように星も降るのだし、驚くことなどありゃせんよ。……今更」

 私たちは滅びる。

 魂の総量は一定、なんて説が旧文明の頃にはあったそうだ。ごく一部、いわゆるカルト的な教団による与太話の域を出ない、と言うのが今を生きる私たちの見解だけれど。

 私たち、私とレゾラ。

 ともあれ、魂が一定量だからどうと言う話に戻そう。

 少子化云々は必然で、何故なら魂は現在生きる者とストック分とで百億程度だから。そこに近づく程に、新たな生命が誕生しないのは当たり前。

 そんな説があったらしいが、もしもそれが正しいとして。今ここに生きる人類の総数は、多く見積もっても一億にも満たない。

 ストックを抱えているにしろ、説が間違っているにしろ、滅びることには変わりは無い。

 それでも、私たちは与太話だと断ずる。

 根拠があるとか無いとかではなく、単なる願望。

 私たちは最後の人類として、滅びる瞬間を目撃したいのだ。体験したいのだ。後世の誰かに伝えるつもりなんて、更々ない。

 大体、言葉に出来るとは思えない。

 想像を絶する程に美しいのだろう。

 あの日の、あの雲よりも、きっと。ずっと。

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