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しんせん

 ギィッ、ギィッ。

 眠たくなったとしてもおかしくないような、一定のリズム。

 頼りない小舟に見えたが、いやいやどうして。

 荒れ狂う波が単なる視覚的エフェクトでしか無いかのように、心地良く揺れるばかり。まるで揺りかごの中にでもいるような、記憶には存在しない懐かしさすらおぼえる。

「ふあぁ」

 思わず、欠伸が。

「ふふっ」

「いや、失礼」

「いえいえ、お気になさらず。(わたくし)こそ失礼を致しました。眠りと縁無き身となりましたのに、欠伸などなさるものですから、つい」

 微笑みを浮かべる彼女は、現世の基準で言えば美女なのだろう。

 もはや推測することしか出来ないくらい、既に現世とは随分隔たってしまっている。それなのに、欠伸だなんて。笑われても仕方がない。

 ここは仙郷。

 つまり、彼女も自分も神仙に類する。

 格については詳らかに語るまでもあるまい。自分はまさに神仙の門をくぐったところに過ぎなかった。

 いや、正確には未だ神仙候補でしかない。

 今なら現世に戻ることさえ、不可能ではないのだから。

 不思議そうな表情で、彼女が顔を覗き込んでいることに気が付いた。

「あ、いや、申し訳ない。自分のような若輩者が、こうして仙郷にいることを思うと」

「ええ、ええ。存じております」

 また、笑み。

 恐らく、現世の人間でも一目で分かるはずだ。

 彼女が異界の者だと。

 そんな笑顔をしていた。

 見つめていられなくて、視線を外すと綺羅びやかな街の灯り。

「あれは、何です?」

「ああ、あれは。かつての街、です」

「かつての街?」

「かつて存在した、今は滅びた街ですよ。景色だけが今もこうして(わたくし)達の元へと届いているのです」

「星の、光のようですね」

「現世での話、ですか?」

「そうです」

 特に現世への未練は無かったが、愛着のようなものは残っているようで。無自覚に、情景を心に描いてしまう。

 そんな自分を見る彼女の、眼差し。慈愛とは、超然的な愛とは何か、悟った。

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