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チョコレート

「チョコレートください!」

 なんて言ってしまったのは何故だったのか。今、いくら考えてみても分からない。ギブミーチョコレート、って曾祖父ちゃんあたりが言っていたとか?

 いや、その血が俺にそんなこと言わせたのかなとか。

 何にしても、俺はチョコレートをくれと言って、こうして結婚生活を送ったりなんかしている。


 あれは何の変哲も無い日だった。

 成人したって言ったって法的に酒だとか禁止されていて、やっぱり二十歳の方が実感あるよなって。いよいよ明日は二十歳だ、って日。

 普通に講義受けて家帰って、ご飯食べて風呂に入って寝た。

 次の日は特別でも、誕生日の前日なんて。まあ十代最後の日、と言ったら少し特別感は出るかも知れないけど。

 とにかくいつも通りに過ごして眠りに就いた。

 で、目覚めたら異世界でした。

 いや、何でだって聞かれても俺にも分からん。

 寝て起きたら異世界に居た。しかも全裸で。

 驚いて声出しちゃったのがまずかった。

 別に叫んだりしたわけでもないのに、構造的に響くんですよ。ホールみたいな空間だったから。更に酷いのはそのホールは、建物の中央に位置していて。

 様々なところに繋がっておる、と。

 普通はね、防音がちゃんとされてる。後から聞いた話だと魔法をかけるんだと。使用する時だけ。

 そんな予定無い時に、ホールで声出したもんだから。ワラワラとやってきて、悲鳴です。

 全裸の不審者、そりゃ当然の結果。

 一応言っておくと俺の体は異世界に来たせいか、いわゆる男性的なものではなくなっていた。と言うか、こちらでは性別みたいなものが無いらしい。子供は木に成る。実際、後から見た。

 つまり男だからとかじゃなく、あくまでも見知らぬ人が裸だったから驚かれただけ。

 今になって思えば、裸かどうかよりも見知らぬ人の方がまずかったような気がする。

 誰かが通報したのか、やってきた中にそういう人がいたのか。如何にも軍隊ですって集団に、またたく間に俺は囲まれ連行された。


 布服を着せられた。正確には布を巻かれた感じ。ローマだかギリシャだかのイメージ。

 椅子に座らされる

 手足には木で出来た拘束具を取り付けられた。手錠とか足枷って言うのか。

 部屋を見回すと、取調室的なところらしい。

 眼の前には迷彩柄の軍服を纏った、エルフっぽい人。性別は無いと知った今でも、元いた世界の感覚では女性に見える。軍服を着ていても分かる鍛えられた肉体がどうにもミスマッチだが、美人だ。

 ちなみに軍服は、元の世界でそう呼ばれているものに似ている。詳しくない俺からすれば、どの時代のどの国のとかは分からないが。サバゲーに来て行って違和感ない服、ぐらいの雰囲気。

「お前、南の者か?」

 都合が良いことに相手の言葉が理解出来た。

「いえ、恐らくこの世界ではないところから来ました」

「この世界ではないところ、だと?」

 こちらの言葉も問題なく伝わってるなんて、さらに都合が良い。

 内心、日本語が使われている異世界なだけなんじゃないかと、今でも少し疑っていたりする。軍服だって、異世界っぽさ無いし。

 ただ、チョコレートの意味だけがまるで異なるあたり、断言はしかねるが。

 ともあれ、どうやってやって来たのかは分からないということも含め、全て正直に話した。

 敵対国のスパイとかではない、と信じてはもらえたらしい。

 頭がおかしいとは思われたようだが。

 そこに、追い打ちをかけるように俺は言ってしまったわけである。

 軍服を見て、血が騒いだ以外に理由が思いつかない。単に疲れていた可能性が大きいか、実際は。

「チョコレートください!」

 美しい軍人の顔が見る見るうちに赤くなる。

「お前、お前……。やはり気が狂ってるらしいな!」

 そう言って部屋を出て行ってしまった。

 何が起きたのかさっぱり分からず、当時の俺は混乱するしかなかった。


「チョコレートってのはね、古エルフ語で特別な意味を持つの」

「特別な、意味?」

「どうやら本当にここじゃない世界から来たみたいね。或いは記憶喪失とか、とんでもない演技派」

「余所者です」

「そう。まぁ、何でも良いんだけどね。告白されたのは私じゃなく、あの子なんだし」

「告白?」

 チョコレートを欲しがることが告白になるだなんて、ここはバレンタインデーがとてつもなく価値のある世界なんだろうか。

「あなたの全て」

「あなたの全て?」

「だから、チョコレートの意味」

「チョコレートの意味……。あ」

「凄い告白よね。初対面なのに。尋問している軍人、それも隊長に。裸でホールに侵入した不審者が」

 告白云々と言うところ以外、何一つ間違っていない。

 あなたの全てをください、なんて元いた世界じゃきっと一生口にしなかっただろう。こちらでだって、それは多分変わらない。

 けれど、言ってしまった。知らなかったとしても、言ったことはかわりない。


 俺は今、農業をやりつつパティシエめいたことをしている。

 しようとしている、と言うべきか。

 妻がいわゆる国家公務員である軍人、それも隊長であるから稼ぎがとても良く。俺は利益とかを気にせずに暮らしている。

 こちらにはまだ存在しないチョコレート、お菓子のチョコを作るべく足掻いていた。

 うろ覚えのいい加減な知識で、どうなるのかは分からない。

 でも、エルフと化した俺には時間が沢山ある。

 いつかチョコを完成させ、妻にプレゼントするのがこちらの世界での野望。

 セリフだって決めてある。

「チョコレートください!」

 他にあるわけがない。

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