始まっても終わるかは分からないもの
異世界に行きたいなぁ。
そうだ、転生しよう。
なんて、軽いノリ。
そんなことばっかり考えてた。
それなのに数ヶ月経ったらすっかり、キレイサッパリ何もかも忘れちゃって。大学受験当日の朝を迎え。
日常に忙殺されるってんじゃないけど、目の前に何だかデカいモノがあると見えなくなるわけで。あれやこれや。確かに真剣だったはずなのに。
怪しげな封筒に入って届いた、ジッパー付きの袋入りの錠剤も、そう。当然の如く、すっかり忘れてました。頭から抜け落ちてた。
……んなもん、忘れるか?
実際に忘れたんだから仕方ない。
と言うか、飲んじゃったんだから仕方ない。
いや、今になれば思う。忘れてるのは良いとして、飲むなよと。
仮に怪しげなアレで無くたって、どんな薬品か分からないわけで。
もし下剤なら?
悲惨ですよ、受験当日にそんなもの飲んだりしたら。
勉強してなかった言い訳するため、飲んだとか思われかねないし。
で、大事なのは。飲んじゃってどうなったか。
異世界に来ました。拍手。
とは行かない。誤解しないでもらいたいが、異世界には来た。
それは真実、現実。
問題は、全くめでたくないこと。
不死性を得たっつってもね、魔法使えるっつってもね、自分よりデカいモノと戦うのは大変なんだって。
日常に立ちはだかる困難と、あえて同じ表現を使わせてもらった。
分かっちゃったわけよ。結局、どこに居たって、デカいモノに対峙しなきゃならん状況がある。
それが比喩として使われる実体の無いものか、実体を伴ってるかの違いで。両方の条件を満たすモノもあるだろうけど。
モテますよ、そりゃね。
逆に、これでモテないとなりゃ魔王みたいな道に進む。
体張ってますから、世界の為に戦ってますから。
けど割に合わないし、何より戦いだけで限界で。余裕みたいなものまるでない。
その上更に、モテるならモテるで大変なんだと分かった。
どういう理由があって魔物に攫われるようなとこにノコノコと出て来てんだよ、って何度思ったか。可愛かろうが、こっちを好いてようが、限度ってあるの。
助けてじゃないよ。動くな、って言ったろ。
何で隠れてるとこから出て来るの?
パーティーメンバーにもヒロイン枠らしき奴がいるが、奴呼ばわりしているあたりで察して欲しい。
お前は自分の防御力と攻撃魔法の射程距離をいい加減、把握しろ。
発動時間とか諸々はもう良いから、せめてそれくらい覚えてよ。庇わなきゃならないせいで、毎度無駄に疲れるのよ。
庇わないでおこうと思ったことはあるものの、恐ろしい。何かに操られるように体が動く。この体には善性と言うかヒーロー的なものが染み付いちゃってるらしい。
俺がどう思うとか関係なく、勝手にオートマティックに勇者らしい行動を取ってしまう。もちろん、自ら望んで動いてることが多いとは言い訳しておく。
ただ、それだけじゃない。
それだけじゃなかった。
今、何を考えているか。もしかしたら簡単に分かるかも知れない。
答えは、こことは違う世界に行けないかどうか。
元いた世界に帰りたいとか、そういうことじゃない。
悲しいかな、日に日に記憶は薄れていく。
つい先日、とうとう家族のことさえ思い出せなくなってしまった。
くだらない理由でこうなったことは未だハッキリ思い出せるのに。
だから、もう帰りたいとは思わない。思えない。
老いないんだと言うことはすぐに気付いたが、まさかこんなにも辛いだなんて思わなかった。
最初に世界を救ってから、数千年。
もう、良い。
若い子との会話はとっくに限界だ。
それなのに、また魔王を名乗る馬鹿が現れたらしい。
勘弁してくれ。
そう願おうが、俺は旅に出る。魔王を倒すべく。
勇者だから。
半ばハーレムめいたパーティーを今回も組むのだろう。
勇者だから。
行く先々でもモテる、チヤホヤされる。
勇者だから。
考えてみれば異世界で上手いこと暮らしたいとは思ったが、勇者とか救世主になりたいとは思っていない。
なのに、こんな。




