始まりなんていつだってそんなもの
異世界に行きたいなぁ。
唐突に、そんなことを思ってしまった。
そうだ、転生しよう。
なんて、軽いノリ。今の自分が嫌いなわけでもないが、特別にこだわりがあるわけでもない。
高校生活は暗黒って程じゃないが、夢みたいなハッピーライフではなくて。
漠然とした不安、ってやつ。
嘘。
不安とかも特に無い。強いて言えば多分このまま普通に、フツーに暮らしてくんだろうなってことか。
何となく大学進学して、就職して、マッチングアプリか何かで出会った人と結婚して。最後のところはフツーに進むかはともかく、それなりにフツーに生きてく予感。
良くも悪くも違いがあるとしたら、そこだけ。ちょっとした誤差みたいなもん。
きっとそれが俺の身の丈にあった幸せなんでしょう。何なら今じゃ贅沢なのかも。いずれにしても、一発逆転なんてないだろうな。
しかし、それは自分だから。
自分の人生だから。この世界線だから。
つまり異世界に行けば、行きさえすれば話は別。
そう上手く行くわけないと思うかもしれないが、そもそも異世界に行けた時点で凄くない?
特別な存在じゃん、って話。
ならば当然、全て何もかもが上手く行くはず。
そこで異世界転生に全てをかけることにしたわけである。
誰かを助けて犠牲になるのが、良くあるパターン。
……そう都合良く起きない。っつうかあれか、そんな状況になるような奴だから転生出来るのか?
これは無理っぽいから、次のプランを考える。
真面目に頑張り過ぎて、衰弱エンド。
いやいやいや、こっちも無理。
と言うかだよ、そこまで頑張って現世で成功出来ないって可哀想にも程がある。努力は報われるんじゃなかったのか。
間違った努力だった?
に、しても酷い。転生出来たんだから良し、としなきゃダメなんだろうか。
残すはもう、一つ。
とにかくこの世界に別れを告げて、別な世界で目覚めるよう祈る。
あー。うん。
分かってはいた。ろくな結論に至らんなってのはさ。
分かってはいたんだよ。
ただし、別れを告げるったってね。
転生っつったってさー、そんな、ねぇ。
思い切り良く突っ走れやしませんて、旦那。
かくなる上のエクストラプラン。
クスリのチカラに頼ることにした。
おいおいおい。バカなのか。
バカなのよ。
ディープでダークなネットの海で見つけました「野菜3k」なる文言を。高校生にも優しいお値段、即ポチ。
数日後、届きましたよお野菜。ブロッコリーやらジャガイモやら。わあい、今夜はビーフシチューだねママ。
なー。
違うだろぉ。何でマジに野菜届いてんだ。私が育てましたじゃないんですよ。何か普通にめちゃくちゃ美味かったから、余計に腹立たしい。
あ、あの美味さはそういう系?
だったとして、だったとしてだよ。まるでトリップなんてしない。異世界どころか、ほんの一瞬でさえ現実忘れさせてくんなかったよ。
やけに美味しいお野菜だよ。なーにが、ディープでダークだ。くそっ。
まぁ一度の失敗で諦めるような奴ぁ俺の経験上、異世界転生するに値しないのよね。誰だお前は。脳内の自分にツッコミ入れつつ、トライ。
お次は「マジにキマるキノコ5k」ですって。
ちょっと高いなと思うけども、異世界への切符だと思えば安し。
丸い丸いキノコが届きましたとさ。めでたくねぇ。
良く見たら「マジにマルきキノコ5k」だったよ、詐欺だよ最早。
丸いよ、確かに。驚く程丸くて流石にビビった。マジにマルきキノコだよ、本当にさ。
だから何だ。美味いけど、美味かったけど。レシピまでご丁寧にセットんなっててさ、オーブンでじっくり焼いて塩とオリーブオイルかけろとか書いてあるの。
聞いたよ、言う事聞いた。こんなキノコが美味いなんて。
……気を取り直して、再挑戦。
届くのは食材に漢方やら何やら。健康を得るのと引き換えに、お年玉たちが消えていく。違うんだってば。俺は健康が欲しいわけじゃない。異世界に転生したいんだよ。
最後に届いたのは、白い小さな錠剤だった。
ジッパー付きの透明な袋に、一粒。
封筒で届いたの。
差出人のところには何も無し。
良く分からない外国語の会社名か何か、ロゴマークみたいなものと一体化したそれが隅に小さく印刷された、封筒。
頼んだような、頼んでないような。
正直なところ開封する前から、その怪しげな封筒を見た瞬間、ホンモノだと思った。
リアルだ、と。
こいつはマジに危ない。異世界に行けるかどうかはともかく、最低でもトリップ出来そう。
下手すりゃ、この世界と永久に別れるパターンもある。
ラムネ菓子にしか見えないビジュアルが、余計に恐ろしい。
可愛い小動物のフリをして誘き寄せ、獰猛な本性を顕に襲いかかる捕食者のよう。
どうするべきなのか、ここに来て迷いが生じ始めた。
自分でも、ちょっと情けないなって思うが、仕方ない。
悩むうちに一晩たち、二晩たち。
月日は巡りに巡って、大学受験の朝。
こんな日に限って風邪気味って、運が悪い。
幸い平熱だが、発熱しそうな気配みたいなものがある。
風邪薬を飲んでおくか、って考えてたら引き出しから何かがポロリと落ちた。
袋に入った白い錠剤。
何だっけなと考えて、前に旅行用に持っていった薬だなって。
ええ、ええ。違います。
怪しい封筒で届いた変な錠剤です。
が、完全に忘れてた。
だからこそ、飲んだわけで。
だからこそ、こうしているわけで。




