夢
夢売にゃ気ぃ付けんならん。うちの爺さんが良く言っとった。
夢売?
夢をな、見せてくれるんだと。
寝て見る夢。
夢売って名前なのに、お金は取らない。
ただ、夢を見せてくれる。
悪夢とかじゃないらしい。
じゃあ何で気を付けなきゃならないんだ、って聞いたんだ。
何故だと思う?
そう聞くわけだよ、爺さんが。
だからな、夢から出られなくなるのか、って。眠ったまんま、起きられなくなるとか。そういうことか、と聞いた。
首を振ってな、違うと言ったよ。爺さんは。
じゃあ、と言う俺を制して言った。
夢売がどうやって夢を手に入れるか。
それはな、畑からじゃ。夢の畑。
いや、思ったよ。
とうとう爺さん、頭がボンヤリしてきたのかな。ってな。当時、六十過ぎか?
今ならまぁ、六十なんてまだ定年でもないが。あの頃は六十で定年だったし、俺も爺さんだなって思ってたからな。
追い越してみて、可哀想だなとは思うよ。でも、やっぱり爺さんって感じだったしな。今の俺と比べても。
で、そうだったそうだった。
いきなり畑がどうのとか言い出してな。
おいおい、爺さんどうしたんだ。とは言わなかったが、顔に出てたらしい。ちょっとムッとした顔で言うわけよ。
延々と夢を見続けるだけの、夢の畑にされるんだ、と。
ちょっと考えたけど、意味は分かった。
昏睡状態と言うか、そういうことなんだろうな。
ひたすら夢を見て、そいつを夢売が収穫する。
だったら俺が最初に言った、夢から出られないでも正解っぽいだろ?
でも、爺さん的には全然違う。
まあ、確かに違う。
他人の夢、夢売の見せる夢から出られないんじゃないからな。
自分の夢から出られないってのも違うし。
いくつもいくつも見るらしいからな、夢は。
そうした夢の中でも人に見せられそうなものだけ、悪夢とかじゃないものだけを確保するんだと。
さあ?
爺さんは知っている理由までは教えてくれなかった。
信じなかったよ。そりゃ、そうだろ?
中学生だったしな。
で、そんな話なんか普段は忘れている。
けど、どこかに残ってて。
あれは高校生の時だったよ。受験生でな。
俺らの頃には大学に進むのも別に珍しくなかった。特に男はな。
頑張って勉強して良い大学入って、大きな会社に。みたいなさ。
入社して数年ってとこで、バブルが来たしな、実際。
間違っちゃいなかったわけだよ。
とにかく、バブルなんて想像もしてなかったけど、受験には必死になってた。
誰も彼も、な。
それが付け入りやすかったんだろうな。
誰に、って。夢売だよ。
俺の周りと言うか、高校だけで五人が寝たきりになった。全員が受験生、同学年。一人はクラスメイトだった。
謎の病気だ、呪いだ。色々言われてたけど、夢売のせいだと察してたのは俺ぐらいじゃないか?
そんなもん考えもしないと言うか、そもそも知らないだろうからな。思いつかないのが自然だ。
とにかくあの時代の受験生は、夢売からしたらカモだろう。
今なら、動画だ何だ、暇つぶしや気分転換が簡単に出来る。
スマホやパソコンで。
けど、当時はスマホどころか携帯電話も無い。パソコンだって、普通の家になんて無い。
ビデオ、分かるか?
あれでさえ、まぁ無いよ。就職するあたりには割と普及してたけどな。
本読むのも受験生にゃ辛い、映画は金がかかる。何より受験生がそんなことしてるの見られたら、親に知られたらどうなるか。
そんなところに夢売。
俺も、もしかしたら見たかもしれない。運が良かったな。
……どうした?
早く知りたかった?
何がだ?
夢売について?
知っていたら断った、って何だそれ。
タカト、何をそんなに……。
タカトじゃない?
いや、え?
何を言って……。




