偶像的抗争
「どうだ? 悪い条件じゃないだろう?」
不敵な笑み。と、でも表現すべきなのだろうか?
自信満々。己の我儘が受け入れられないと、万に一つも思っていない顔だ。
気にいらない。
その一言で済む。
当人的には譲歩したらしい提案も。
噂以上に強烈で、禍々しい空気も、何もかも。
うちの連合に入りたいなんて言っているが、手首をいくつも持ち込んで何を考えているのか。
手首は、いちいち確認するまでもない。チラッと見えたネイル、指の形。どれもこれも仲間達のもの。
少なくとも、5人分。或いは、もっと。
生きたアイドルの手首だけ確保するなんてことは、現象としてあり得ない。それらは即座に粒子となって、本体に還元されるから。
死ねば、もはや粒子とはならない。
つまり遺体からご丁寧に切断し、回収してきたということだ。
仲間を手にかけたような危険人物が何故、加入出来ると思えるのか。
文字どおり、手土産のつもりか。
なんと笑えないジョークか。
アイドルどうこう以前に、人として間違っている。
ここは最大派閥であるユーアイの中でも一二を争う連合、災可愛の事務所。
デスクを挟んで向かい合う形の少女が二人。
一方はデスクに相応しい重厚な椅子に腰掛け、他方はそれを真正面から見下ろすように立っていた。
互いに、眼力だけで凡百の偶像ではないことが、誰にでも分かる。もっとも、両者共に界隈どころか一般にも名の知れたアイドルではあるのだが。
名前だけで誰もが「ああ、あの」と思い出せるレベル。
顔も当然、売れている。そこらのアイドルと格が違うことは、広く知られている。
椅子に腰掛けている方のアイドル、プリティディザスターの頭である超新星爆発は深い溜息をつくと、首を振った。
「お前は何か誤解をしている」
「誤解?」
「そうだ、誤解だ」
「んー……、どこをどう、誤解しているのか教えてくれ」
教えてくれ、か。
もしも本当に言わなければ理解出来ないなら、それこそが返答だろうに。
ヒカリは内心の呆れを隠そうともせず、物見を見つめた。
モノミの何処までも黒く、闇のような瞳はキラキラと輝いている。
戦闘至上主義だなんて言われているが、違う。コイツは単にあらゆるものを壊したいだけだ。
物質的なものだけじゃなく、既存の制度も。何なら、そこには彼女自身も含まれているかも知れない。自殺願望と言うか、破滅衝動。
周囲を巻き込んで一瞬で燃え尽きるような激しさ。自分より余程、超新星爆発と言う言葉が似合うかも知れない。
それでも、超新星爆発は私だ。私だけが名乗れる名前だ。
星はいつか死ぬ。その儚さ、眩さを体現しなくてはならない。
その為には、物見のような劇物には適切に対処する必要がある。
勿論、やられた仲間の仇討ちも忘れてはいない。
「うちはね、連合なんだよ。グループで我儘は許されない」
「スタンドプレー、ね。……アンタはどうなの? 頭で不動の主役やってるヒカリさんはよぉ?!」
デスクが消えさった。
気合だけで、高価な年代物はこの世から、忽然と。まるで氷が液体を通り越し、瞬時に蒸発するかのように。
血のように赤い、か。記者も信者も、彼女の本質をまるで見抜いていない。
伝説級の代物ではあるが、これは血祭ではない。良く似ているが、火祭だ。赤みの質が違う。
先輩の血祭とは、断じて。
「……、そういうことか」
「あぁ?」
凄むモノミの事など、今のヒカリには眼中にも無かった。
モノミの何がここまで不快なのか、分かったからだ。
そうか、血祭の後継者のように、先輩の後継者のように扱われているからか。
扱われている、と言っても一部の人間が噂している程度。それも単なるネタ、与太話的なものでしかない。
かつてのものよりも朱色が弱いとは言え、偶像崇拝者は血祭ではなく火祭だと気付いていた。何もヒカリ以外、見抜いていないわけでもない。
それでも。噂でも、囁きであろうと、許せない。
たった一人であろうと、物見を先輩と重ねて見るだなんて、許すわけにはいかない。
そんな想いに、今の今まで気付いていなかったとは。
最初から決めていたことではあったが、今や超新星爆発の心はかつてなく浮き立っていた。
今日、今、この瞬間。事務所で物見を処分してしまおう。
ヒカリは立ち上がると、微笑んだ。
これまで信者だけでなく相手を葬ってきた、天災的笑顔である。
物見は刹那ではあったが、戦慄した。自分よりも小柄なはずのヒカリが、立ち上がってなお見下ろす位置にある彼女が、とてつもなく大きく見えたからだ。まるで遥か頭上を見上げているような感覚。
これが現役はおろか、歴代の首級にさえ比肩するとされるアイドルのオーラ。
パチン。
ヒカリが指を鳴らす音に、モノミは我に返った。
飲まれかけていたことが、恥ずかしい。
しかし、それと同時に誇らしさもあった。臆するよりもむしろ、高揚していたからだ。
やれる。
「さて、始めようか?」
それはモノミへの問いかけでは無かった。
事務所の外、取り囲むように待機していた仲間への合図。戦闘許可だった。




