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くまなく

 銃声。血が噴き出す。「どこかで、ボタンをかけ違えてしまったのかな?」自らの皮膚を破り肉を裂く鉛玉が与える激痛の中、彼は思った。

 再び銃声。彼の世界は、暗転した。星の無い夜のように。永遠に。

 痛みに醜く歪んだ顔も、変わることはない。永遠に。


 何がキッカケだったのか、ハッキリとは思い出せない。

 気付いた時には既に、養父の体が目の前に倒れていた。

 もうどうにもならないと知りながら、揺する。やはり、動かない。

 血に塗れた、後頭部。出血量も凄かったが、陥没しているようだった。

 余程の力で殴打されたに違いない。

 と、他人事のように考えた。

 分かっている。誰の仕業か、なんて。

 他ならぬ自分の犯行。自分が、養父を殺したのだ。

 何故?

 分からない。それは、本当に分からなかった。

 だから、いつまでも呆然と立ち尽くしていたのだし。少し落ち着いた今も、現状について理解するのがやっと。

 何がどうなって、自分が養父を殺めるに至ったのか。

 全く思い出せなかったし、思い出せそうにも無かった。

 事切れた養父と、自分がいる。

 それだけ。

 「お父さーん? どこー?」

 養母の声が近付いてくる。

 間違いなく、見られてしまうだろう。

 倒れた養父。返り血を浴びた自分。

 何が起きたか、一目見れば分かるに決まっている。

 しかし、逃げる気にはなれなかった。

 開き直るとか、そういうことじゃない。

 どうすれば良いのか、教えて欲しかったのかも知れない。

 それも、分からなかった。何も分からず、立ち尽くすだけ。

 この家に初めて来た時の、幼かった頃のように。

 本当の父の顔は知らない。かつては恋しかった母のことも、今ではぼんやりとしか思い出せない。

 養父母が、自分の親だ。本心から、そう思う。

 それなのに。養父を手にかけて。

 「お父、……お父さんっ!? あ、あんた、何をやったの!?」

 見開かれた養母の目。いつもの優しさ、暖かさはどこにも見当たらなかった。

 当然だ。養父が殺されていたのだから。

 子供だと思って可愛がってきたのに、こんな。恩を仇で返すどころの話じゃない。命を奪ったのだ。

 養母が後ずさる。

 誤解だとか、言い訳しようとは思っていない。弁解さえ、するつもりも無かった。

 背を向け、養母が走り出す。

 ただ、逃げないで欲しい。それだけなのに。

 頭が真っ白になる。

 何も見なくても、分かっていた。

 血の臭いが充満していたからではない。

 本能と言うか、直感と言うか。

 いや、思い出してしまった。養父の時も、同じだったと。

 去ろうとする背中を目にして、我を忘れた。

 捨てられる、だなんて馬鹿げたことを思い浮かべたのか。そこまでは分からないけれど、つい、咄嗟に。

 手が出てしまった。

 うつ伏せになったまま、動かない養母。

 揺すって確かめる気にもなれない。何が起きたか、分かり切っている。


 様子を見に来た近所の人だの、お巡りさんだの。

 何人、手にかけたろう。

 そんなつもりじゃなかった。本当に。

 何かがどこかでおかしくなってしまったとしか、思えない。

 泣きたかった。

 泣けなかった。


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