遭遇
何だか眩しいな。
そんな風に思ったのは、夢の中だったか現実でのことか。それは分からなかったが、部屋の中が異様に明るいのは事実だった。
照明はついていない、はず。外から入る光のあまりの明るさに、もはや判別出来ない。
覚醒しきっていない頭でも、おかしな事が起きているのは理解出来た。カーテン越しでも、部屋が明るくなるほどの光量。
そして、そのカラフルさ。7色と言っても良い、と言うか7色じゃ足りないかも知れない。
その上ぐるぐる動いて明滅し、色が変わったりもしている。
確実に、朝の日差しではない。
大体、体感ではまだ夜中だ。枕元に置いたはずのスマホを探す。部屋の中が明るいお陰で、床に落ちているのをすぐに見つけられた。
2時過ぎ。
まだ1時間半しか寝てないのか。ここからまた眠れると考えたらまだマシか。変に5時とかだったら、寝るべきか起きておくべきか迷うところだし。まぁ、まず間違いなく眠ってしまうだろうが。
そして、寝過ごして遅刻確定コース。
と思ったところで、より頭がはっきりしてきたらしい。土曜なんだから問題ないじゃん。
それにしても、何が起きているのか。ドローンを何機も飛ばしたら、こんなこと出来るのだろうか?
仮にそれが可能だったとして、何故そんなことをするのかは想像もつかなかったが。
「何なんだよ」と独り言を口にしながら、カーテンを開ける。怖かったから。
窓の外に何か、光を放つ物がいる。部屋は3階で、光の加減からすると真横から。飛行しているにしろ何にしろ、この高さで光るなんて人為的に決まっている。
そもそも、こうもカラフルな時点で自然現象なわけがない。
もっと寝ぼけているうちに、冷静になる前に勢いで開けておくべきだった。
窓の向こうには、恐らく直径1メートルぐらいの円盤が浮かんでいた。厚みは多分、20センチメートルも無い。
眩しすぎてハッキリとは分からないものの、プロペラのようなものは見当たらない。ジェットエンジン的なものを搭載しているにしては、サイズが小さい。
どうやって、飛んでいるのか分からない。
簡単なこと。見えない位置にプロペラか何かが備えてあり、本体はかなり軽い素材で出来ている。そうだ、きっと。
どうにか現実的な範囲に連れ戻そうとするも、直感が納得していないらしい。しきりに否定する声が、頭の中で響く。
これは今の技術じゃ再現出来ない何か、だ。
かなり目を細めていたが、数秒観察しただけで目がチカチカして痛む。目にしたものが理解しがたかったこともあり、カーテンを閉めた。
窓に背を向けて布団に潜り込んだ。
これは夢。夢。寝よう、寝よう。眠るんだ、眠れ。
「夢ならば眠ろうとしなくても、良いのでは」
脳内に文字を打ち込まれた。そんな感覚。
耳が、何かを拾ったわけでは無さそうだ。
「そう、これはキミの頭に直接、響かせているんだ」
ダメだ、ダメだ。
そうすれば侵入されない、とでも考えているかのように目を閉じる。強く、強く。
それでも依然として部屋の中が、煌々と照らされていることを感じながら。
「あー、聞こえますかー。……ボクの日本語が拙い、等ということは無いはずなんだけどな」
聞こえん、聞こえんぞ。
そう思っていると、布団が剥ぎ取られた。
「ねぇ、聞こえているだろう?」
耳で、聞いた。何者かの声を。
不自然さのまるで無い、ネイティブスピーカーのような日本語。
声自体も、ただの人のものにしか聞こえない。女性的な、高い声。こんな状況じゃなければ、何も気にしない。普通の声だった。
「怯えることなんて無いよ。ボクは単に現地の、地球人と交流しにきただけなんだ。何でオレなんだ、とキミは思うかも知れない。残念ながら単にクジで選ばれただけなんだが、ドラマチックな理由が望みなら用意してあげよう。……いや、待てよ。これは充分にドラマチックじゃないかな。この広大な宇宙、あまり詳しくは言えないが、今のキミたちの予想を遥かに超えた広大な宇宙で、ボクとキミが出会った。これは奇跡と言ってもオーバーじゃない。そして、こうやって言葉を交わしている。ドラマチックだね。たとえ、さっき言ったことが間違いだとしても」
何なんだ。無茶苦茶喋りかけてくる。
何でも良いから、帰ってもらえないかな。交流なんてしたくない。
せめて眩しいのをどうにかしてくれよ。
って言うか、サラッと間違いとか言わなかったか?
「言葉を交わしている、の部分だよ。ボクが一方的に話しているだけだからね、ハハハハ。キミの思考が筒抜けだから良いとしても、話すぐらいはしてくれても良いように思うんだが。光については申し訳なかったが、キミがきちんと起きているか分からなくてだね。しかし、とっくに消灯させているのに気付かないのは、キミの落ち度と言わせてもらいたいよ」
確かに、部屋は普段と変わらない暗さになっている。
軽いパニックを起こしていたのだろうか、全く気付いていなかった。
悪い奴、では無いのかも知れない。
「疑い深いようだね、キミは。キミと言うより地球人が、なのかな。キミがサンプル1号なのだから、基準にして考えることになるのだけれど。悪い云々は難しいところだが、キミを拉致することも剥製のようにすることも、ボクらは簡単に出来る。それなのにそうしないことについて、キミには考えてもらいたい」
拉致、剥製。急に穏やかじゃない言葉。
そんなことも、出来るのか。
……でも、しない。
「で、交流って何するわけ?」
オレはそう言って、体を起こした。当然、目も開いている。
さっきとは反対に、暗くてハッキリとは見えない。何となく人影のようなものが見える、それだけ。
「ふう、ようやくその気になってくれたね。簡単なことだよ、キミたちについて色々と教えてもらいたい。それだけ。どちらかと言えばその為の手続きみたいなものについて、きちんと合意の上で進めたいってところかな」
「手続き?」
「そう、一応ルールみたいなものがあってね。ボクらからすればこの星は、申し訳ないけれど遅れているんだ。しかし、だからって何をしても許されるわけじゃない。いずれキミたちが進歩し、ボクたちと本当の意味で交流するようになった時、今回のコンタクトが問題になるといけないからね。ちゃんと手続きして、協力してもらった。そういう証拠が必要なのさ」
あの光はセーフなのか?
そう思ったが口にはしなかった。筒抜けなんだろうけれど。
「分かった。それが終われば帰る、と?」
「そうだね、すまないが協力頼むよ。相応のお礼はするつもりさ」
「いや、お礼とか全然良いよ」
さっさと終わらせてくれたら、それで。
「よっぽど嫌われちゃったようだね。無関係な人を巻き込まないようにああしたのだけれど……。まぁ、良いや。協力してもらえるなら、それで。では、姿を見せないのも失礼だから……」
そう言うと、部屋がぼんやりと明るくなった。
と言うか、明度が上がったような感覚。暗いままなのに、目はきちんと見えている。何だかモノクロの、白黒の映像のよう。
「どうだい?」
声の方に目を向けると、モロに宇宙人な、宇宙人。
グレイ、って言うのか。つり上がった、大きく黒い目。皮膚なのか、全身タイツのようなものを着ているのか、体は灰色一色に見える。ほのかに金属っぽい光沢もあるようだ。もしかしたら明るいところで見れば、銀色に近い色をしているのかも知れない。
ただ、オレにはそんなことより気になることがあった。
何か、凄くムチムチしている。
全体的に、こう、とても……。何と言うか、直視しづらい。
「……キミ、あれだね。ボクを見て、何やら良からぬことばかり考えているね」
「すみません、本当にすみません。悪気は無いんです」
「それは、まぁ、そうなんだろうね。申し訳なく思っているのも、どちらかと言えば困ってるのも、見えるからね。しかし……」
「も、もう帰ってください。オレの為にも、あ、あなたの為にも」
何だってこんな。グレイっぽいなら、とことんグレイっぽい人が来てくれよ。裸にしろ全身タイツにしろ、ラインが出過ぎてる。
「しかし、キミはさっき、交流してくれると言ったじゃないか」
「こっ、交流」
部屋が明るい。
枕元を探る。スマホがあった。
時刻は、7時半過ぎ。
まだ間に合う時間だな、と考えたところで思い出す。今日は土曜日だということを。もう一眠りしよう。
「ん?」
何か違和感があると思っていたが、鼻の穴にティッシュが。引き抜くと乾いてはいたが、血。どうやら、鼻血を出したらしい。
しかも、ティッシュを詰めた。
……まるで覚えていないが、そんなこともあるだろう。
家族は既に出かけているだろうし、一人。
昼過ぎまで眠るかな。




