コココココ
「なんと、凄絶極まる光景よ。この世に顕現せし、地獄絵図……」
彼は悲痛な面持ちで、振り絞るように呟いた。
自社ファームにて伸び伸び育った若鶏を、使用。
朝じめ、新鮮。
油も100%国内農場生産の菜種から絞った、フレッシュなものを使用しております。
絞り粕は勿論、肥料として再利用。環境への配慮も欠かしません。
持続可能な社会活動が云々。
なんてなことを掲げた、新進気鋭のフライドチキンチェーン。
成長目まぐるしく、店舗数は創業わずか3年で100を突破。先日、北海道への進出も果たしたことで、47都道府県の制覇も遂げた。
順風満帆、会長は経済誌にテレビに引っ張りだこ。時の人。
だが、だがだがだが。
この大霊能力者、豪伏魔越神の目は欺けぬ。
見よ、この怨嗟に満ちたコココココ。
何?
コココココ、だ。
何を、言っておるのか。ニワトリよ、チキンよ。
そうだ、切り刻まれ油で揚げられた鳥たちが鳴いておるのだ!
ああ、何と言うことか。
店舗内から溢れ出し、道路にまではみ出ておる。
ニワトリの大群が、コココココ。
ああ、辛い、辛いぞ。
見えぬ者どもは平気だろうが、私は辛い。苦しい。
あの、コココココ。
恨みつらみ嘆き哀しみ。さぞや無念だったのだろう。
牛丼?
何の話だ?
隣の牛丼チェーンがどうした?
牛?
何で牛の話を?
鳥だ、鳥。ニワトリ。
牛の霊?
……あぁ、いるにはいるが。そんなもの、知れておる。
考えてみろ、一頭の牛からどれだけの牛丼が作れるか。
それに、だ。ここの牛丼は、アメリカ産の牛肉。
アメリカから海を越え、この店舗に辿り着く牛霊なぞ、そうそうおらぬわ。
牛霊。ぎゅうれい。牛の霊なんだから、牛霊だろう。
ニワトリ?
……ゴーストオブチキン。
バンド?
何の話をしている。霊だ、霊。ニワトリの霊。別に呼び方なぞ、どうでも良かろう!
牛がどうした?
アメリカから来ている霊なら、それだけ恨みも強いはず?
そんなもの、分かるわけないだろう。奴ら、モーモー鳴くだけよ。
ニワトリは、コココココだろ!
全っ然、違う。
お前は、お前らは、牛とニワトリの区別も付かんのか!
今はニワトリの話をしとるんだ!
「まー、当然っすよね」
ナプキンを取り、手を拭う。
確かにフライドチキンは美味しいが、手が油でベタつくのが難点だ。それは国産の植物性油脂で調理しようと、変わらない。
「そりゃあ、そうでしょ。あんな無根拠に騒いだら捕まりますって」
自称霊能力者の豪伏魔越神が逮捕された。
誰も驚きはしなかった。
動画サイトにアップロードされているものを見れば、逮捕されても当然としか思えなかったからだ。
驚いた人たちもいるにはいたが、逮捕されたこととは無関係である。
豪伏魔越神の本名が、神鏡聖弥だったこととも無関係。
どう見ても軽く40歳は過ぎていそうな外見に反し、まだ24歳だったからであった。
しかし、その程度の衝撃はすぐに薄れるもの。半日どころか、あっさり数時間で忘れ去られてしまった。




