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見ているだけ

 見えますか、見えますか

 いつだって側に立っています

 最期まで、ずっと


「不出来にも程がある。ああ、ああ。言うな言うな。そうだろうよ」

 自虐、ではないし謙遜でもない。

 強いて適当な言葉を当てはめるなら、無関心。詩作は趣味じゃない。きっと小学生か中学生の頃、退屈な授業の中で作ったかどうか。はっきりとしたことは、何一つ言えない。

 俺にとって詩を書くことはライフワークでも何でもなく、この出来の悪さをどうにかしたいとか、全く思わなかった。

 仮に詩を提出する機会が訪れたら、躊躇いなくAIを活用する。

 それなのに、そんな人間が、何故に詩を?

 目的があるからだ。俺がこれから伝えたいことを、やんわりと匂わせておきたかった。

 回りくどくて、らしくない。俺らしいとは何かと聞かれたら困るが、少なくともこれは俺らしくなかった。

 うだうだと前置きする奴は、苦手だ。気まずかろうと本題を切り出さねばならないのなら、さっさと言う方が良い。言わずに済むなら、別だが。

 そう考えるタイプの俺なのに、これ。

 詩を、わざわざ。

 分かる分かる、わざわざって言うには短い。問題は長さじゃないか。

 あからさまに手抜き。鑑賞者としても素人たる俺でも、酷い詩だと思う。

 心なんて込めてないわけで、さもありなんってやつか。

 とは言え、心遣いから出た行動ではあるのだが。

 何せ、これは告知への助走だ。

 医者がするような類の。俺は医者じゃないし、その告知に根拠が無いことは、大きな違いだろうけど。

 俺は、その為に連絡を取った。旧友、とでも呼ぶのだろうか?

 学生時代の友人に。

 卒業して就職してからも、時々は会って飲んでいた。懐かしい。俺が転勤して以降は、それもパッタリ途絶えた。

 お互い、それなりに忙しい。悪いことじゃない。

 友人は確か、当時は結婚していた。子供も、一人いたはず。

 悲しいかな、今は俺と同じ独り身のようだが。

 そんなことも、さっき聞くまで知らなかった。と言えば、現在の距離が何となく分かるだろうか?

 友人と呼ぶには、少し離れてしまった。やはり、旧友か。

 そんな、旧友への、告知。

 その告知の為の、告知する覚悟の為の、詩。

 ……何が何だか。


 俺は半年ばかり前か、こっちに戻ってきた。

 そうだ、半年も経っている。旧友に連絡を取るとして、この間隔は何なのか。簡単なこと、別に会うつもりは無かった。

 何も、揉めたとかそんな話じゃない。てっきり仕事に家族サービスに忙殺されているだろう、なんて考えていたから。

 このようなタイミングで、連絡したのは告知のせいだ。

 しなければならない、わけではない。きっと。

 しかし、どうあれ運命は、大きな流れは変わらない。そんな気がしていた。

 ならば、きちんとやらなければ。恐らくそれが俺に割り振られた、役目なのだろうから。

「最近? 変わんないよ。良くも悪くも」

 変わったことなんて、今朝、お前の顔が思い浮かんでしまったことぐらい。

「何で連絡したか? ……お前に会いたくなって」

 嘘、でも無い。いや、嘘か。本当は、来てほしく無かった。

 再会することが、決まっていたとしても。

 もしかしたら、万が一。考えてみたが、即、内なる自分が否定する。

 ……信じていないらしい、残念ながら。

 俺はあまりにも、見すぎたんだ。

 死を。

「ぷはははは。嘘くさいな、流石に。……んー、何と言えば良いのか」

 言葉に詰まる。

 お前が死ぬんじゃないか、と思ったから。なんて、言いにくい。

「え?」

 まさか、当てられる、とは。正確には、全然ハズレなんだけども。

 俺が、死をどうこうしてるんじゃないし、これから死ぬ人が分かるわけでもない。

 人が死ぬ場に、やたら立ち会うだけ。目撃者になるだけ。

 予感なんて大したものもなく、せいぜい、何となく察知する程度。

 事前に危機を知って命を救うとか、そんな格好良いことは出来ない。

「いや、そりゃ驚くって。そんな何度も話した覚えないしさ」

 大学生だった頃までは不謹慎だけど、ちょっとした話のネタぐらいに考えていた。変わったのは、社会人になってからか。週五日、立て続けに飛び込みを目にして以降は、口にする気も失せた。

 流石に、そんなことはそれっきりだったが、理由には充分だ。

 しかし学生時代にも数度、ネタ的に話した程度のはず。覚えているとは思っていなかったし、シチュエーション的に驚いた。

 医者が患者に、そういう告知する時ならともかく。

 俺は医者じゃなく、こいつは患者じゃない。病気にも見えない。こうして見ていると、死はまだまだ遠くにあるように思える。

 学生の頃よりは、年喰った分だけ近付いているとしても。


「よせよせ、死神なんてものを気取るつもりは無いんだってば」

 オカルティックなことは理解している。信じて貰えなくたって全然構わない。何なら俺の妄想だと、思い込みに過ぎないと証明して欲しい。

 死神だとか、人智を超えた、何か特別な能力が備わっているとか思われたくない。

 もしもこれが、ある種の才能ならば。神のような何者かを呪わずにはいられない。

 ただひたすら、誰かが亡くなる場面に遭遇する。

 週に一度以上、必ず。事件や自殺は、そう無いのが、まだ救いか。

 それでも、キツい。

 誰とも知らないし、なんて嘘。実際に目にしたら、誰の死だってセンセーショナルでショッキングだ。

 液晶画面越し、新聞記事での情報とはわけが違う。

 職業柄、死を側にあるものとして生きている人と俺には、決定的な違いがある。選んだわけでも何でもないし、覚悟なんてものもない。

 これまで何人の死に出くわしたか。

 それでも、未だ恐ろしい。

 慣れない、慣れる日が来そうにもない。

 これが偶然と思えるだけ、楽天的な性格なら、良かったのに。

 そうじゃないから、こうして今も怯えてるわけで。

「死ぬところに出くわすだけ、それだけなんだよ。俺は何もしてないし何も出来ない」

 見るだけ。(ラスト)場面(シーン)を。

 その人が、どこで生まれ、どう生きたのか。俺は知らない。

 身内なら、流石に全く知らないわけじゃないから、別だけど。

 友人、知人も、そう。

 目の前にいる、旧友。学生時代のようにほぼ毎日、顔を合わせてるわけじゃない。ここ何年も会っていない。

 だから?

 知らない奴なんて言えない。

 何で今朝、こいつを思い出してしまったのだろう?

 偶然だ、と信じたい。

 そう願っていることが、既に恐ろしい。

「見送る? ……そうなのかな?」

 見ている、だけ。

 いや、嘘だ。目を背けることさえ、ある。

 それでも現実は、起きた出来事は何も変わらないけど。

 俺自身も、その人の死を知ってしまったことは、変わらない。変えられない。

 全てを今も覚えているわけじゃないけど、何もかも綺麗に忘れたなんて信じられない。積もり積もってトラウマを形成しているのは、間違いなくそれぞれの人たちの死だ。俺が見た、見てしまった全ての人の。

「トイレ? 玄関入ってすぐ、右手の扉」

 説明し忘れていたらしい。いつも、初めて来た客には、トイレの場所を伝えるのにな。

 結構、俺もメンタルに来てるようだ。何となく分かっていたけど。


「で、話戻すけどさ、予知とかじゃないんだよ。見えるとか、そういうのでもなくて。……だから、どちらかと言うと安心したくて?」

 嘘じゃない。俺は、安心したかった。

 今朝、急にお前のことを考えてしまったことが、偶然だと。

 死ぬわけない、と。確かめたくて。

 告知だなんだ、言い訳だ。俺は俺のこの、嫌な運命みたいなものが、実際は何でもないと信じたくて。救われたかったんだ。

 普通なんだ、と思いたい。疑うことなく。

 自分がズルいことには気付いていた。

 だから、わざとマンションの名前も住所も、ちょっとだけ間違えた。

 いや、勿論、それにより死ぬ運命なんてものを変えたいとも思っていた。俺は俺自身も、お前も、救われるべきだと思ったわけで。

 言い訳になるけど。

 でも、お前はここに来てしまって。

「優しい? 俺が? ……どこが。優しくないよ、俺は」

 何を言い出すんだ、こいつ。

「いや、だからさ、その。俺が普通だって確かめたかったんだよ。そりゃ、お前に死んでほしくないってのもあるけど。でも、自分優先で」

 何なんだ、その悲しげな笑顔は。やめろ、複雑なものは嫌いだ。

「記憶? ……何が?」

 記憶が保たない?

 認知機能が低下してる?

「おいおい、俺が誰か、分かってるじゃんか。昔の話だって、さっき」

 昔のことは覚えている、思い出せる。直近のことだけ、記憶出来なくなってしまう。聞いたような、覚えはある。あるけど。

「そ、そんな歳じゃないだろ? 俺ら。まだ、まだ……」

 妻も、娘も忘れた。それは一時的だったそうだ。

 しかし、いずれ戻らなくなる。

「違う、それは、俺が。俺がわざと間違えて、教えたんだ。お前がここに来なければ、何か変わるかもって。そう、思って……」

 住所も、自分のミスだと思っていたらしい。

「優しかったら、むしろ……」

 連絡なんて。

 何だよ「俺のことを覚えていてくれ」って。

 何言ってんだよ、おい!?

「おい、おいっ、どうした!? え、何で……」

 眠ったように、動かなくなった。

 ……生きているようには見えない。


 消防と警察に電話して、バタバタしているうちに、一ヶ月程一気に過ぎ去った。取り調べを受けたり、あいつの元妻や娘に会ったり。

 本当に色々あった。

 当然のように、その間も六人、亡くなるのを見た。

 それにしても、服毒とは。

 所持していた財布から、折り畳まれた遺書が見つかった。住んでいた部屋にも、同じものがあったらしい。更に、実家と元妻のところへ郵送もしていたようだ。

 お陰で、俺は早々に容疑者から外れることが出来た。と思う。理由までは説明されなかったから。

 そもそも、話を伺っただけですよ、なんてスタンスだったし。

 いずれにせよ、あいつは逝ってしまった。

 大切なことを忘れる前に、と考えたようだ。遺書によると。

 俺の家でわざわざ服毒したのは、過去の話を覚えていたからだろう。天啓と言うか、運命的なものを感じたんじゃないか。そんな気がする。

 そこら辺については何も書かれていなかったし、俺の推測でしかないが。

 また、死を見届けてしまったな。

 結局、これは俺の役目なのだろう。どういう意味があるのか、誰かの気まぐれなのか。

 ふと、これは自分だけなのか気になった。

 俺のような誰かの前で、俺も逝くのだろうか?


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