火祭
パウゥッ。
無数の赤い光球と青い光球。空を飛び交い、ぶつかっては弾けて消える。
その度、紫色の閃光が走る。通常のヒトならば、恐らく紫の光が、一瞬強く輝いたとしか見えないはずだ。
光球も、ぶつかる瞬間も、恐らく分からない。ましてや、2人の少女が宙を駆け巡り、争う姿なんて目視出来ないに違いない。
「(またか、分かってはいたが……)」
「……おい」
「(コイツの速度、以前より遥かに……)」
「おい」
「(互いに本気を出していない、とはいえ……)」
「おい!」
「……ん? (気合いを入れてたんじゃ、無かったのか……)」
「ん、じゃないっ! ダダ漏れ!」
「何っ!? (この年で、失禁!?……)」
「違ぇよ! っつうか、お前、知らねぇだろ! 私のトシ」
自身の股間に目を向けた少女に、もう一人の少女は攻撃の手を止める。
「漏れている、と聞こえたが? (隙を作らせるための嘘、か。卑劣な……)」
「思考!」
「? ……ああ、思考か(何を敷くのかと……)」
「……お前、やる気あんのか?」
「ある(当然だろう、コイツは何を……)」
「隠せよ!」
「すまない(うるさいな、出来たらやってる……)」
「もう良い、私が馬鹿だった」
少女が首を振る。
思考の読み合いは、ある程度の術者同士なら想定されるべきものだ。相手の思考を読み、相手には読まれぬよう防ぐ。
しかし、まさかのノーガード。なおかつ、こちらの思考を読もうと試みすらしていない。
何なら、雑多な思考を垂れ流しているせいで、うるさいぐらいだった。
目を閉じるように、感覚を遮断する。
「いや、私が悪かった……」
「あ〜、あ〜、良いよ良いよ。良いですよ」
「……集中するとだな、思考はするが、喋れなくなる。相手の思考は元々読まないし、声も聞こえなくなって」
どうやら本気で申し訳なく思っているらしく、俯いてしまった。
流石に、何だか可哀想になる。
「……良いよ、別に。……悪かったな、こっちも。……で、アンタはいつまでそうしてるんだ?」
少女は私に向かって問いかけつつ、こちらに降りてきた。
「こいつと私、どっちが後継者に相応しい?」
もう一人も後から続く。
後継者候補。候補から選ぶ、とは言った。
ただし今回必ず選ぶなんて、言っていない。
二人とも、可愛くて強い。
でも、足りない。少なくとも無防備に、この私の距離で、横並びなんてあり得ない。
即、二人まとめて始末出来る距離なのに。
「あー、うん。どっちも殺すかな?」
笑顔で私は、二人の心を。心臓を貫き、首を刎ねる。
一昨年と、同じように。
あの子達にしたのと、同じように。
「ダメだな。何だかんだで皆、甘い。それじゃ世界を救えない」
トッ。
背後に降り立つ気配。
素晴らしい。目の前の亡骸とはまるで違う。
そうだ、私の弟子は三人いたんだ。
この私の認識さえも、狂わせた。死して転がる二人は、言うまでもない。
てっきり、後継者候補は二人だと思い込んでいた。
この、瞬間まで。
背骨を突き抜け、鋭く尖った刀の先が腹から飛び出している。痛みもなく、血さえこぼれていない。日の光を受けて、鈍く輝く金属は、とても美しい。
「悪趣味な弟子殺しも、今日で終わり。私が継いであげるから安心して逝ってね。……さよなら、変態さん」
「……師匠って呼んでよ。前みたいに」
譲って、引退して、悠々と余生を。なんて考えていた私が、誰より甘かったのかも知れないな。
意識が薄れゆく。ああ、これが、死。
ただの見物客として、今年の火祭を見たかったな。




