VS
ぺぺぺぺぺーぺーぺーペーペーぺぺぺーぺーぺー(軽快なマーチ!)
それはいつもと何一つ変わらない平凡な、ある日のこと。
昼過ぎ、全てが一変する。
きっかけはW県南部の海を震源とした地震。
最大震度は3。幸い、それほど大きなものではなく、被害らしい被害も発生せず。
津波がくる可能性も低く、沿岸部にさえ注意報が出されることは無かった。
揺れが観測された際、南海トラフ地震かと緊張感が走っただけに、皆胸を撫で下ろしたという。
ところが、地震発生から数分後。高さ1メートル近い波が押し寄せた。
何やら野性的としか言えぬ勘で、高台にある公民館へ自主避難していた虎子浦さん(仮名)は語る。
「何もありませんよ、根拠なんか。虫のしらせ、言うんかな? そういうのんです。公民館、ガラス張りで。二階が。そっから海見てたら、いきなりバーッ!」
虎子浦さん(仮名)は、腕を大きく広げる。
「波が来てたん見てましたけど、あのぐらいやったら、ここなら大丈夫やなとは。そら家は心配でしたけど、それより……。問題は、あのフグで……」
あのフグ。虎子浦さん(仮名)が見た、フグ。
通称、トラフグ。
ネット上で画像が拡散されるとともに、いつの間にかトラフグと呼称されるように。
由来が不謹慎過ぎるネーミングながら、多くの人が同じことを考えていたようだ。
結果、瞬く間に広まり、定着。
その、巨大なフグのような生物を、政府は正式に怪獣と認定。
公式名、テッサ。
英語で表記した時の、単語の頭文字を並べると、偶々フグに関連した日本語っぽくなったとのことである。
とは言え、誰も信じていなかった。政府の中でさえ、疑うものがいた。
そういった理由もあってか、ネット上での主流は依然、トラフグだった。
テッサは姿を現したかと思うと、見る間に海面から浮上。飛行しながら、陸に向かって移動を始めた。
「あれ、何や!?」
「フグ屋の宣伝?」
徐々に近づいてくる巨大飛行フグ。沿岸部に暮らす人々がパニックに陥るのに、時間はかからなかった。
謎の巨大フグに関する報告は、迅速に中央へと伝えられた。
衛星からの情報や映像を元に、フグはほぼ球体で、直径約50メートルだと推定。
時速150キロメートル前後を維持しつつ、W県南部に上陸。北東へ進行中。高度100メートル以上を維持しており、現時点では建物への接触は無し。
ただし移動による風の影響で、被害多数。負傷者も数名出ているとのこと。
情報を伝えられた総理大臣や閣僚、自衛隊上層部。
緊急招集されたものの、誰一人どのように対処するべきか分からず、取り乱さずにいるのが精一杯だった。
「彼を呼んでは如何でしょうか?」
陸上幕僚長の提案に、誰もが賛同。最終的に満場一致で「彼」に声がかけられることとなった。
その「彼」とは何者なのか。
俳優、轟音寺外門、その人であった。
彼の役者としてのキャリアは、ある特撮番組の主人公を演じることからスタートした。
『正義星団 プレアディス』に登場する、ゴーンズ・ゲモンである。
テンプレート的な展開、予算不足から来るチープな造り。作品は半年で打ち切られたが、彼は主人公の名前をもじって芸名としたほど、入れ込んでいた。
そして、役であるゲモンに感化された彼は、俳優を一時引退する。打ち切りにショックを受けたわけではなかった。
平和を守るべく、正義の為に戦う。
そう誓い、彼は自衛隊へ入隊した。
災害救助、復興支援。隊員として、後に隊長として、戦い抜いた。
そんな中でぶち当たる、壁。緊急事態だと言うのに、手続きだ管轄だ面子だ何だ。助けを求める人たちを、助けに行けない。救えたはずの命が、溢れてゆく。
彼は、政治家に転向。ここでも、信念は揺るがない。
平和、正義。プレアディスの、ゲモンの精神。
けして諦めず、粘り強く戦った。理想論、青臭い、綺麗事。いつも、そういった言葉が付き纏う。
「所詮はジャリ番出の、見た目だけの空っぽな男だよ」
そんな声にも、彼は負けなかった。プレアディスなら、ゲモンなら。打ち切り番組だから、どうだと言うのか。誰も見ていないだけ、誰も知らないだけ。今も、彼らは、戦っているはずだ。
法を動かしたところで、轟音寺は政界を去った。そこでの戦いは、ひとまず区切りがついたからだ。じき還暦をむかえる、彼自身の年齢を考えてのことでもあった。
仲間に、後進に任せる。それもまた、プレアディスから学んだ。
どんなに強くとも、1人で出来ることには限界がある。逆に、1人1人は小さな力しか持たなくても、団結すれば大きな力になる。
彼は、人々の意識に働きかけるべく、俳優の道に戻ってきた。
それから約20年、80歳を過ぎた今でも、彼は精力的に活動している。
特撮作品にも、多く出演した。いわゆる怪獣ものでは、幕僚長や総理大臣も演じた。
数年前のことになるが、プレアディスのリメイク作にて、50年ぶりにゲモンを演じる機会にも恵まれた。
ヒーローであり自衛隊経験者であり、政治家だったこともある。
フィクションとは言え、怪獣に何度も対処してきた。
この危機に対応するにあたって「彼」以上の適任者がいるだろうか?
「……そんなバカな理由で、80過ぎの老人を駆り出すとは」
ネガティブな声も存在したが、轟音寺外門を求める声の前には無風にも等しかった。
一も二もなく快諾し、早々に取材に応じた外門の姿に、誰もが安堵した。
「彼ならば、何とかしてくれる」
外門自身、かつてない力が湧いてくることに、戸惑いすら覚えていた。
しかし、彼に不安や焦りは無い。
この時の為に彼はプレアディスと出会い、自衛隊として、政治家として戦ってきたのだから。そんな彼を信じ、国民が団結している今、何を恐れる必要があるのか。皆が力を合わせれば、何だって出来る。




