呪われたタブレットは禿げたおっさんばかりを見せてくる
引っ越してきてから、部屋で怪奇現象のようなことが起こっている。
夜の嗜みにタブレットでエッチな画像動画を見ようとしたら、男同士のそれになるのだ。
しかもセクシーポーズをとるのが禿げたおっさんなら、抱くほうも禿げたおっさん、抱かれるほうも禿げたおっさん。
そりゃあ萎える萎える。
まあ、ホラー耐性が強いから、べつに怖くはないし、なんでも前向きにとらえる性格だから「美人の幽霊が俺に惚れて嫉妬しているのか?」と照れたものだが、身体的には困ったことに。
デジタルの画面越しでないとだめだし、スマホは小さくてだめ、自室でないとだめ、店には頼りたくない、などなど条件があるに、発散のしようがない。
ちなみに友人のタブレットやノーパソを借りて見ようとしたところ、やっぱ剥げのおっさんのあはんうふんなコンテンツに切り替わってしまう。
発散できない日々がつづき「だからって性急に彼女をつくるのもなあー」と休憩所のソファにもたれて、ぐったりしていたら「お?どうした?宮原?」と課長が来訪。
課長は気さくで寛容で聞き上手とあり、つい呪われた?タブレットについて話してしまい。
「えー!?なにそれ!?おもしろいなあ!」と無邪気に笑ってくれ、すこし気が晴れたとはいえ「なあ、お前んち行って確かめさせてくれよ!」と迫られて、たじろぐ。
仕事上、課長との関係は良好なれど、プライベートでは忘年会や新年会で顔をあわせるくらい、二人だけで飲みにいったこともなく、ましてや、お互いの家の訪問なんて。
今時、タブー視されていることもあり、強引に飲みに誘うようなタイプでない課長にして、なかなかの踏みこんだ発言。
冗談かと思うも「なーんてな!」と口にはしてくれず、興味津々とばかり輝かせる目が眩しい。
パワハラとは別種の、抗いがたい圧力を覚えて「断っても怒らないだろうけど、ノリがわるいやつって烙印が押されるかも・・・」と屈してしまい「わ、わかりました」と困惑しながらも首肯。
部屋を片づけるのに一日もらい、仕事終わり、課長と肩を並べて帰宅。
「へーけっこう、きれいにしているじゃないか」とずかずか室内にはいり、ソファに腰を落としたなら早速、自前のタブレットを起動したのに、どこか手持ちぶさたの俺はコーヒーをいれることに。
なるべく時間をかけたく、ふだんしないドリップを丁寧にしていると「ひゃははは!ほんとうに、どの画像も動画も禿げたおっさんになる!」といつもよりハイテンションで子供のようにはしゃぐ課長の笑いが耳を打ち、俺も俺でいつもより萎えるような。
いっしょにタブレットを覗いて馬鹿笑いする気になれず「急用ができたって、帰ってもらおうかな・・・」と考えつつ、コーヒーをテーブルに置いたら、急に手首をつかまれた。
汗ばむ熱い掌の感触にぞっとする間もなく「じつは俺も剥げているんだよね」とカツラを外して告白。
息を飲んで固まっているうちに「いやーこういう形で俺の思いが伝わるなんてねー」と床に押し倒されて、助平親父丸だしな鼻の下を伸ばした赤ら顔が接近。
荒い鼻息、ねっとりとした吐息に震えあがって暴れるも、ジム通いをする巨漢には敵わず。
訳が分からないまま、唇を奪われそうになったが、せめてもの抵抗で顔をそらそうとし、そのとき視界にタブレットが。
宙にふらふら浮いて、振りかぶるようにのけ反ったら課長の頭に激突。
画面が割れて破片が飛び散り、まったく予想だにしなかった衝撃を受けた課長は声もなく倒れた。
巨漢に押し潰され「ぐえっ・・!」と呻きながらも、床に落ちたタブレットを見つめたもので。
失神した課長をそのままに、身を守るために俺はホテルに避難。
「つっても明日も出勤だし、どうすっかなー」と悩んでいたら、会社の人から電話が。
曰く、俺が課長に襲われる動画が会社に送られてきたと。
この行為が同意によるものか否かを聞かれて「いやいや!同意のわけないでしょ!」と怒鳴りつけたら、翌日、課長は懲戒免職になった。
その理由ははっきりと明かされず「どうか!大事にしないでくれ!」と懇願されて俺もお口をチャック。
俺だって「課長に襲われた」と知られるほうがダメージだし、これ以上、追いつめるようなことをしたら逆恨みされて、なにをされるか分からないし。
動画のデーターはクラウドに保存されていたから、いざとうときは「俺になにをしたら、動画を拡散して、警察に届けるよう頼んであるから」と脅すつもり。
ちなみにタブレットは壊れて電源がはいらなくなり、ほかの端末でエッチな画像動画を見ても剥げのおっさんに切り替わらなくなった。
「やった!これで存分に発散できる!」とガッツポーズすべきところ、とてもとても自分を慰める気になれず。
今さらながら、剥げのおっさんの正体が気になり、同じアパートに住む大家に詰問を。
「毎晩、剥げのおっさんが枕元に立つんですけど?
でも、内覧したときには、なんの問題もないとおっしゃってましたよね?」
にこやかながら、額に青筋をたてて迫れば、気の弱そうな爺さんは「ごごごご、ごめんよー!」と即行で禿げた頭をさげてみせた。
予想したとおり、前の入居者は禿げたおっさんだったらしい。
五十代くらいで未婚、恋人がいなければ、訪ねてくる友人知人もほとんどおらず、孤独に暮らしていたよう。
そのせいもあってか、風邪をこじらせて部屋で一人で寝こみ、人知れず亡くなってしまったという。
家賃が未納だったことから、訪ねていった大家が彼を発見。
布団のそばには、そっち系の雑誌が置かれていたとか。
おそらくもう、部屋に禿げたおっさんの霊はいないが、そんな話を聞かされて引っ越ししないわけがない。
現実的な禿げたおっさんに襲われた忌まわしい記憶があるし、住所を知る課長がまた襲撃するともしれないし。
とはいえ「助けられたしなあ・・」とタブレットを起動し、自分から男同士のコンテンツを探す。
剥げのおっさんがまぐわう動画をやって見つけて、もちろん萎えながらも「供養のようなものだから・・」と神妙な思いで最後まで視聴をしたのだった。




