すくいを求める
この時が永遠でなくとも。
恋ってなんだろう。愛ってなんだろう。
「私には分からないわ」
そう言って彼女は岩の上から飛び降りる。暫くすると下からバシャンと音が聞こえた。
聞いた話だと今日、暇つぶしに道を歩いていたら知らない男性に口説かれて困ったらしい。最終的に逃げて、ここ町はずれの川まで来ちゃったそうだ。
「まぁ君には分からないだろうよ」
元は魚なんだし。と迎えに来た僕は言う。するとザバッと音を立てて彼女が川から出てきた。そのままヒタヒタと僕の元へやって来る。
「それって魚差別じゃない?」
ムスッと顔を顰めながら僕の隣に座る。彼女の濡れた小指が、座っている僕の小指に触れた。
ゆっくりと横を見る。赤と白のマーブルシャツが水に濡れて、彼女の体にしっとりと張り付いていた。幸い、胸は腕で隠れていてほぼ見えない。
「……ごめん」
君には一生分からないだろう。僕が恋しているのも、愛しているのも。
今も君に触れられているだけで、君を見ているだけで、こんなにも顔が熱い。
「フフッ、冗談よ。私知ってるもの。貴方は私を差別しないって」
何があっても私の味方だって。彼女は軽い調子でそう言いながら僕に微笑む。赤い目が僕を捕えて、離さない。
そのまま見つめていると、彼女が身を乗り出して僕の頬に触れた。
「あの日、窮屈な水色の箱の中から私を掬ってくれた」
「それから貴方は、私のヒーローよ」
彼女の長いポニーテールが風で揺れ、青空に踊る。休日の真昼にはあまりにも眩しい赤で、思わず目を逸らした。
「まさか金魚が人間になるとは思わなかったけどね」
「仕方ないじゃない! 私も人間になった理由、分からないのよ!」
プクーッと頬を膨らまして立ち上がる彼女は、そのままスタスタと僕の元を離れていく。
「ごめんって」
そっちは家の方向じゃないよ! 苦笑しながら僕は呼びかける。すると彼女は振り返って、真っ赤な顔であっかんべーをした。
「明日は高校?」
「うん。でも午前中だけだからすぐ帰ってくると思うよ」
彼女と一緒に家へ帰る途中、他愛もない会話をしながら僕は思う。
彼女はもうずっと人間のままなのだろうか。いつか元の姿に戻るのだろうか。その時、僕のこの気持ちはどうなるのだろうか。色々考えて確かな事は、こんな風に過ごせるのは永遠ではないだろう。
「なら明日も、一緒に遊べるわね」
「……そうだね」
それでも何気ないこの思い出が、僕にとって永遠の救いになる事を勝手ながら願う。




