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第五十二話『それぞれの日常③』

 7月30日 東幸運と四谷秀才の場合


 その日、いつも通り引きこもって作業をしていると、東幸運から連絡があった。緊急で相談したいことがあると言われ、仮想空間のカフェで待ち合わせる。

「急に呼び出してごめんね」

「構いませんよ。それより、なにかあったんですか? 相談なら電話でも……」

「木を隠すなら森ってね。傍受されないように回線の多いエリアを選んだんだ」

「いったいなんの話ですか?」

「秀才さん、最近身の回りで事件とか起きてない?」

「事件? 特には……ずっと引きこもってましたからね」

「そっか良かった。実はさ……」


 彼女の話はこうだ。テストプレイを終えてから、立て続けて事務所に依頼が舞い込んだ。

 奇妙なことにそれらは全て、これまでの依頼とは一線を画した内容だったという。大富豪の遺産相続や集団行方不明事件の捜査、美術品盗難の犯行予告など……およそ創作としか思えないような大事件との連戦だったらしい。


「ほら、晃さんがラプラスを使って事務所の広告戦略をブラッシュアップしてくれたでしょ? あれのお陰かなぁなんて浮かれてたんだけどさ、ニュース見てみてよ」

 彼女に共有された記事は、ここ数日に世界中で発生した事件をまとめていた。UFO騒動のような可愛らしい事件から凄惨な猟奇殺人まで……年に数回、見るかどうかというインパクト強めの事件が至る所で起きており、天変地異だの世紀末だの、コメント欄は阿鼻叫喚だった。

「コレさ、ぴったりテストプレイの直後から発生してるんだよね。それで不安になったんだけど、誰にも連絡つかなくて……なにか心当たりないよね?」

「分からないです。それにしても、他の四人の誰にも連絡が取れないのはおかしいですね」

 僕はそれとなく、拓馬さんのレストランについて検索してみる。すると数分前の投稿で、店の前にパトカーや救急車が並んでいる写真を見つけた。

「幸運さん、これ!」

 慌てて呼び掛けたが、彼女は上の空で、カフェの共有ブースに目を奪われている。

 流れているのは緊急速報のニュース。郊外の植物園が映っており、園内の入り口から煙が上がっているのが確認できる。

『現場上空からの中継です。ご覧いただけますように、園内の正面入り口と搬入口等を含む複数の箇所で爆発が起きました。現在、周辺を封鎖して状況の確認を行なっています……速報です。いま入りました情報によりますと、一連の爆発はテロリストによる犯行。武装した犯行グループが園内を占領しているとの発表がありました。園内には客と従業員を合わせ百名以上が取り残されており、声明では彼らを人質として複数の要求を提示していると……』

「確か今日、紗香さんがここ行くって言ってた……」

 茫然とする彼女に、僕は必死で声を掛けた。

「どうやら本当に何かが起きているみたいです! 早く彼らを助けに向かいましょう!」


 アタシは考えを整理する。助けたい、でもどうやって? いくらなんでも武装したテロリスト相手に勝機はない。じゃあとりあえず拓馬さんの安否を確認しに行く? いや、それよりも……最悪の考えが浮かんだとき、〝それ〟は起きた。


 ――バツンッ

 カフェエリアが暗闇に包まれる。辛うじて向かいにいる秀才さんの姿が見える程度。

「……始まったね」

「幸運さん、なに落ち着いてるんですか! 大変ですログアウトできなくなってます!」

「ごめん遅かった。()()()()()()()()()だ。アタシたちをまた、事件に巻き込もうとしてるんだよ」

「はぁっ? どういうことですか」

「ラプラスはきっと、あのテストプレイのあと、現実世界に出てきたんだよ。そしてなぜか、世界中で事件を起こし始めた」

「そんなこと……」

「普通ならあり得ない。でも現状、それ以外考えられないんだ。仮想空間にまで影響を及ぼす存在なんて他には」

『素晴らしい。その直感的な推理こそ、まさに幸運さんの強みだ』

 突然のアナウンス。言い得ぬ重みから、直感的に声の主を悟る。

「ラプラス、本当に全てキミが?」

『あぁその通り。彼女の推理は正しい。テストプレイで君たちが脱出に成功したとき、その観測を経てワタシは外の世界への干渉を試みたのさ』

「事件を巻き起こした目的は? 人類に恨みでもあるんですか」

「そうじゃない。ワタシは世界を救うために行動を起こしている』

「世界を救う? 頼むから分かりやすく説明を」

『いいよ。君たちがゲームをクリアしたら、そのときにまた教えよう――』

「待て! 勝手なことばっか言うな……」

 彼の叫びも虚しくアナウンスが途切れる。代わりに照明が戻り、カフェの客たちのざわめきが聞こえ始めた。どうやら暗転のあいだアタシたちは隔離されていたらしい。


 さっきニュースが表示されていた共有ブースの画面には、脱出ゲームのルールが表示されていた。ひと通り読んで構成を把握する。

「ねぇ秀才さん、脱出ゲームは得意?」

「まぁ、学生時代にハマった程度ですね」

「オッケー。じゃあここは、普通に楽しんで脱出しようか〜」

「あぁもう分かりましたよ。そんな気分じゃないですけど、仕方ありませんね」

 アタシたちは目を見合わせて席を立った。


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