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第三話『探偵、現る』

『投票により犯人役のシュウさんが追放となりました。被害者陣営の勝利。第一試合終了となります。皆さまお疲れ様でした』


 視界の端で、観客のコメントが流れていく。『一気に決まった!』『シュウお疲れ』『このメンバー相手に犯人役はムリ』

 さすが決勝戦、観客も盛り上がっている。大量のお疲れコメントを見ながら、僕はため息をついた。


「おしまいだ……」

 ガックリとうなだれる僕の肩を叩いて、タクマさんが声を掛けてくれた。

「意外とあっさりだったなぁ。まぁ気を落とすな」

 ケイさんも合わせて慰めてくれる。

「そのとおり。5点先取でしょう? まだまだ先は長いですよ」

 ふたりの優しさはありがたいが、別の理由で落ち込んでいた僕は返事に悩む。口をつぐんでいると、ミュートを解除されたSayaさんが恨めしそうにこちらを睨んでいる。

「そ、そうですよ! 私だって殺されたから0点だし。うぅ〜」

 彼女はしばらく唸っていたが、やがてその不満を爆発させた。

「シ、シュウさんはどうして最初に私を狙ったんですか! わ、私が一番、地味だからですか!」

 かぶりを振って文句を言う彼女に、僕は思い切って事情を説明する。

「落ち着いて下さい! 違うんです。僕は、ラッキーさんを殺害するつもりだったんです」

「えっ? それって、ど、どういう意味ですか」

 困惑するSayaさんを残して、アナウンスが流れる。


『それでは結果を発表します。

Saya、0点。

シュウ、0点

ケイ、1点。

タクマ、1点。

ライト、1点。

ラッキー、4点。

……以上です。それでは休憩後、第二試合を開始します』


  ひとりだけ上機嫌のラッキーさんが、ニヤリと笑うのが見えた。『???』『どゆこと?』『誰か説明して』コメント欄が荒れる。無理もない。

 大会では持ち点を意識した立ち回りを演出させるために、通常のルールに加えて新しく【大会ルール】が追加されている。例えば〝医師〟が『蘇生』に成功すれば1点追加という風に、職業ごとの加点項目があるのだ。

 【大会ルール】は職業一欄の記載から確認できるが、それらの情報をわざわざ確認しない観客が多いのも仕方ないことだ。

「……ラッキーさん。貴女、やってくれましたね?」ケイさんは静かに、笑顔で話し掛ける。彼の目尻はピクついていた。彼女は呆気からんと宣言する。

「にゃはは! その通り! アタシ実は〝探偵〟でした〜!」

 僕は職業一覧から【大会ルール】を改めて確認する。


〝探偵〟……この職業は一度だけ『徹夜の推理』を行うことができる。『徹夜の推理』を行った行動パート中に殺害対象に選ばれたとき、対象はランダムな別のプレイヤーに変更される。【大会ルール】『徹夜の推理』を行った次の議論パートで犯人が追放された場合、生存している人数分を点数として獲得する。


 やらかした。Sayaさんが死亡したとき、僕はラッキーさんが〝探偵〟の能力を使ったことに気づいていた。その時点で自分が追放されないことを最優先に立ち回るべきだったのだ。

 だがそこで僕の悪いクセが出た。正々堂々、自分の力だけで戦う……その信念が僕の立ち回りを鈍らせた。

 彼女の職業を把握できたのは、犯行による偶然の結果だ。彼女を〝探偵〟と指摘するのは、棚ぼたで得た情報を利用することになる。だから気が引けて、咄嗟の判断ができなかった。そんなことにこだわらなければ、もっと手の打ちようがあったのに……

 反省している間も、円卓の会話は続く。

「まさか上手くいくとはね〜、最初に死ぬのはイヤだから能力使っといたんだけど、大正解だった!」

「ラッキーちゃん、〝塗装屋〟っていうのは……」タクマさんがどぎまぎしながら尋ねると、彼女は愉快そうに笑う。

「にゃはは、ウソウソ! シュウさんが一番怪しかったから、ダメ押しで証拠をでっち上げただけだよ」

「やられちゃったな〜。シュウさんのこと少しでも信じてあげればよかった」

「私、な、流れ弾で死んだってことですか? 運が悪すぎる……」

 ライトさんもSayaさんも頭を抱えている。卓上は阿鼻叫喚の嵐だった。わずか一試合でラッキーさんの単独リーチ。職業〝探偵〟がここまでクリティカルヒットするとは前代未聞だ。

「シュウ! どうして言わなかったんだ? お前だけはラッキーちゃんが〝探偵〟だと分かったはずだ。あそこで自分が追放されたら大量リードされるのを知っていながら、なぜ言わなかった!」

 タクマさんが凄い剣幕で捲し立てる。その怒りは当然だ。僕はできるだけ納得してもらえるよう、辻褄の合う説明を試みた。

「仕方なかったんです。そもそも『ドミトリー館』の規定には『犯人役は自らの犯行を告白してはならない』ってあります。あそこで自分の犯行を根拠にラッキーさんが〝探偵〟だと言ったら、規定違反になるかも知れなかったんですよ!」

「それなら〝警察官〟の能力でラッキーさんを調べたことにすればよかったのに」ライトさんから鋭い指摘が飛ぶ。

「それは……」

 反論する気にはなれなかった。僕がその選択をしなかったのは、個人的な縛り……つまりは単なるエゴだったから。黙っていると、渦中のラッキーさんが助け舟を出してくれた。

「けどさ、もしそう言われても私は〝塗装屋〟だって対抗宣言したから、きっと結果は変わらなかったよ。私の職業を消去法で匂わせるのが、シュウさんの立場での最適解だったと思う」

「むぅ。言われてみれば確かに」

頷くタクマさんに向けて、彼女はパチンと指を鳴らした。

「ね? 他人のプレイにケチつけるのはもうナシ! こんなミラクルなかなか起こらないし、気にしない気にしない!」

「……ラッキーさんの言う通りですね。過ぎたことを気にしても仕方ありません。切り替えて次の試合に臨みましょう」

「そうだな。シュウ、突っ掛かって悪かった」

「あっ、いえ。僕の立ち回りが失敗したのは事実なので……」

 彼女の発言のおかげでひとまず、僕を責める場の空気は落ち着いた。アナウンスが響く。


『第二試合を開始します』

『ドミトリー館の殺人』規定抜粋

・プレイヤーは積極的に議論に参加すること。

・議論では基本的にロールプレイ(役になりきること)が推奨される。

・犯人役は、自分の犯行を告白してはならない。

・議論において、プレイヤーは自らに投票を促してもよい。

・議論において、人格否定や差別発言等はミュートされる。深刻な場合、アカウントを永久追放処分とする。

・個人による複数のアカウント所持は認められない。

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