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第三十七話『黒幕、現る』

 あれから更に二週間が経過したが、未だ六人の中で記憶の違和感を申告するものはいなかった。


「ねぇライプニッツ。そろそろ特定できないの? もうやることないよ」

 朝食を囲みながら、照がぼやく。

『照様。申し訳ありません。間違った人物に処置を施すと、本来の人格に必要な要素を消してしまう可能性がありますので、特定作業は慎重に進めなければならないのです』

「まぁまぁ、気楽に行こう。拓馬さんを見習いなよ。こんなに美味しい料理を、毎日ずっと作り続けてくれてるんだよ」

「それは感謝してるけどさ、流石に暇なんだよねぇ」

「幸運ちゃんの評価はありがたいが、見習う必要はないぞ。オレはただ運よく、現実とほぼ変わらない生活を送ってるだけなんだ。もしこの世界の調理がオートマチックで料理をする機会がなかったら、絶対オレが最初に音をあげていただろう」

「だよね! ほら、本人がこう言ってるよ」

「拓馬さんは謙虚なんだってば。照の見習うところが増えただけ」

「ったく。一応、歳上なんだぞ……あ、タラコうんまい」

 照は呼び捨てをさほど気にせず、おにぎりを頬張る。

 この一ヶ月で、彼らはまるで同級生のように親密になった。個人で過ごす時間には限度があり、結局は交流する機会を増やす他ない。仲違いの期間はそうして乗り越えられたのだった。


「それにしても、我々の中に殺人を犯すような人物が潜んでいるとは、とても信じられませんね」

 晃の言葉に秀才も同調する。

「僕もそう思います。もしかして、このシナリオは元から全員生存ルートだったりしませんかね?」

『それだけは、万が一にもあり得ません、秀才様。この『もつれ館多重殺人事件』には、殺人事件の発生と、議論の結末を経由して脱出するという原則があります。ワタシの干渉なしに事件が起こらずゲームクリアとなるのは、両親が生まれる前にその子供が誕生するくらいのパラドクスです』

「よりによって、どうしてそんなルールが設定されてるんだ……」

 頭を抱える拓馬に、ライプニッツはしれっと言い放った。

『ここがマーダーミステリーの世界だからです。拓馬様』

「そういえばずっと疑問だったんだけど、シナリオにはタイトルがついてたよね。そこから割り出すことってできないの?」

『幸運様。残念ながらタイトルが設定されるのは、シナリオが結末に辿り着いてからなのです。本体から分離したワタシは全てのデータには干渉できないので、このシナリオの分岐ルートがどれなのかも確認できません』

「うーん、そっかぁ」

 幸運は返事を聞くと、親指でこめかみをぐりぐりと押した。

『まだ、現実時間の猶予はございます。皆様にはもうしばらく、ご辛抱願います』

 ライプニッツのアナウンスに渋々頷く。変わり映えのしない毎日に皆、少しずつ気が滅入り始めていた。ある人物に劇的な変化が起こったのは、その夜のことだった。


 事件前日、午後十一時。その人物はいつも通り、ベッドに入って眠ろうとしていた。うつらうつらし始めた頃、何処からか聞き慣れない音が鳴り続けていることに気がつく。

 それは電話の着信音だった。電子機器は没収されているはず……と考えたが、ここが仮想空間であることを思い出し、その疑問は消え去った。

 音の出どころはクローゼット。ハンガーに掛けられた衣服のポケットの中に、それはあった。その人物は少し躊躇うも、通話ボタンを押す。

「……もしもし」

『なぜ、事件を起こさない』

「ライプニッツ? なにを言って……」

『このシナリオはオマエが主導のはずだ』

「いったいなんのことか」

『この名を呼べば思い出せるか? ()()()……約束したはずだ。互いの望みを叶えると』

「……あぁそうか。全て思い出したよ。ありがとう、ラプラス」


 その人物は通話を切ると、暗闇のなかで静かに笑みを浮かべた。


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