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第三十一話『ネクストステージ』

 六人は朝食の片付けもそこそこに、北棟の廊下へと集まった。

 幸運が突き当たりの壁をじっと見つめる。なんの変哲もない、ニス塗りされた木製の壁である。

「ここなんだけどさ……どうにか破れないかな?」

「いきなりなにを言い出すかと思えば……隠し部屋があるとでも?」

 怪訝そうな表情の晃。幸運は大真面目に頷いた。

「この館の構造はシンメトリーになってるよね。南棟はこの位置に倉庫があるのに、北棟にはない。デッドスペースにしては大きいと思わない?」

「そういえば……」

 照が壁に耳をつけてノックする。数ヶ所調べて、表情が確信に変わった。

「この辺りだけ音が違う。何かがあるよ!」

「よし。オレに任せろ」

 言うや否や、拓馬が大きく助走をつけて壁に突進する。大きな音と共に壁が破れた……かと思いきや、薄いプラスチックのようにしなって彼を跳ね返す。見た目と一致しない挙動に、一同は騒然とした。

「うおっ、なんだこれ」

 しばらく繰り返すが、変わらず壁は破れない。

「拓馬さん、ちょっといいですか」

 いつの間にか、秀才が剣を持って現れる。南棟前のオブジェから取ってきたようだ。

「えいっ!」

 剣を突き刺すと、その切先が音もなく壁の中に入り込んだ。秀才はそのまま剣を動かして切り開いていく。すると表面のテクスチャが紙のようにペロリと剥がれて、その奥から扉が現れた。

「おぉ! でかした秀才!」

「ああ、これだ……」

 扉を見た幸運に、いつかの記憶が蘇る。彼女はドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開いた。


 中に拡がっているのは円筒形の空間、端的に言い表すなら図書館だった。壁は一面が本棚で、上から下までずらりと本が並んでいる。中央には大きな柱が聳え立ち、その柱も本棚になっていて、同じくびっしりと本が収まっていた。

 幸運は壁から一冊の本を手に取った。真っ白な無地の表紙に〝0〟と〝1〟の数字の羅列が書かれている。開いてパラパラとページをめくると中身は一面、QRコードで埋め尽くされていた。

「なんだよこれ、意味分かんない」

「暗号……ですかね?」

「表紙の数字は、デジタル表記でしょうか」

 同じように本を手にした照と晃、紗香が口々に議論する中、秀才が声を上げた。

「あぁ分かった! これモールス信号ですよ! 見て下さい。表紙の数列、最初の部分……〝0_10_100〟が共通してます。『トン、ツートン、ツートントン』英字のモールス信号で『END』となります」

 彼の言った通り、数字の〝0〟をトン、〝1〟をツーと読めば、スペースで区切られた数列の一群はそれぞれが対応したアルファベットに変換された。

「すごい。秀才さん、モールス信号わかるんだ?」

 幸運が褒めると秀才は照れ臭そうに笑う。

「一時期、暗号にハマりまして……」

 試しに一冊、表紙を訳すと『END TAKUMAOIWA EVALS』となった。

「エンド大岩拓馬……ノベルゲームのエンディングみたいだね。EVALSってなんだろ?」

「多分ですけど、EVALは評価を意味する“Evaluate”の略称だと思います。つまり『評価S』って意味かと」

「なるほど! じゃあ、この本ってもしかして……」

『このゲーム、『もつれ館多重殺人事件』のシナリオでございます』

 不意に響くラプラスの声に皆、面食らう。少し怯みつつ、幸運が問い掛けた。

「ラプラス……きっとこの部屋って資料室だよね? プレイヤーのアタシたちがここに立ち入るのって大丈夫なの?」

『本来は想定されていません。しかし、可能性の一つではありました。皆様には新たなステージに挑戦していただくことになります』

「新たなステージ?」

 ラプラスのセリフを聴いた瞬間、不意に瞼が重くなる。強烈な眠気に襲われたように全身の力が抜け、彼女は膝から崩れ落ちた。薄れゆく視界の端で、周りの五人も同じように次々と倒れていく……そしてそのまま、なす術なく意識を失った――


 夢の中で、彼女はある事件の犯人で被害者で探偵で(あらゆる立場に置かれ)容疑者(た人々)だった。この『もつれ館』に集められた六人が織り成す、さまざまな事件……凶悪な愉快犯、単なる事故の隠蔽、過去の因果が生んだ悲劇……それら全てを経験した。

 いや。それらはただの夢ではなかった。いつの間にか忘れていた遠い過去の記憶が呼び覚まされたような、そんな確かな実感を持って思い起こされたのだった。


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