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第二十七話『探偵、動く』

『大岩拓馬さんがお亡くなりになりました』


 テストプレイの一環として始まったはずの事件は、本物の殺人事件へと急展開を見せた。戸惑う五人に対し、ラプラスはテストプレイの中止と事件の捜査を提案する――


「ラプラス、館内に喫煙室はあるかな」

『全館喫煙可能です。晃様』

「そりゃいい。では失礼して……」

 晃はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。白い煙がゆっくりとシャンデリアに向かって伸びていく。時刻は午前零時を回ったところだった。

 晃は煙を吐き出すと、まるで授業のように四人に向けて喋り始める。

「改めて、この事件を振り返りましょう。まずこの事件のトリックは、ゲームデータと実際の犯行を重ねたことによる目眩しです。それによって生み出される謎は二つ。まず一つ目、拓馬さんがいつ死んだのか。二つ目、犯人は凶器をいつ、どうやって冷蔵庫に仕掛けたか」

「ミュートされてたとはいえ、遺体を移動させるだけでもひと苦労だったハズだよね。それに凶器のクロスボウも同じくらい手間が掛かる……」

 照に続いて、紗香も疑問を呈した。

「それに死因も謎だわ。拓馬さんはゲームと同じようにダーツで毒殺されていた。喉の一撃は気絶する程のショックは与えなかったはず、十分間の猶予があったのに彼はどうして私達に何も知らせなかったのかしら」

二人の言葉に、晃は頷きながら話を続ける。

「それにもう一つ。停電が起きたとき我々のうち誰にも、ブレーカーを落とす手段はありませんでした。果たしてあれは偶然なのか、犯行の一部なのか……」

「じゃあ、どの謎から考えていく?」

 照がワクワクした様子で促すも、誰も発言しない。

 テストプレイの時点で十分に奇妙だった一連の出来事が、実際に行われていたという衝撃。加えてアリバイも犯行方法も取っ掛かりがない状態で、皆ただただ眉間に皺を寄せることしかできなかった。

「誰もいないなら、ボクから。ズバリ犯人は秀才さん。キミでしょ」

「え? どうしてですか」

 唐突に名指しされ、秀才は否定する間もなく素っ頓狂な声を出す。

「だって、さっきの話し合いでキミが容疑者から外れたのはダーツが下手だからって理由だったでしょ。でもクロスボウを使えばダーツの腕前は関係なくなる。夕食の前にダーツと毒の両方を手に入れられた秀才さんが現状、一番怪しいんだよね」

 照は言葉を続けた。

「さっきの捜査で遊戯室から南棟の倉庫に行って、北棟に引き返すルートを確認したんだ。五分も掛からなかった……クロスボウは北棟前に飾ってあるオブジェだから、秀才さんなら部屋に戻るついでに回収できる。タイミングさえ気をつければ誰にも見られない。あとは自室でゆっくり仕掛けを作って、冷蔵庫に入れればいい」

「照さんの言い分は分かりました。だけどそれを、誰にもバレずに調理室まで運ぶ方法は? 調理室まで運べたとして、拓馬さんに気づかれずに冷蔵庫に入れることも不可能でしょう」

 反論された照は一瞬、なにか言おうと考えたが、顔をしかめて黙り込んだ。ふたりのやり取りを見ていた幸運が入れ替わりに口を開く。

「冷蔵庫に設置されたクロスボウ……一番厄介なこの謎が解けない限りは、議論は膠着したままだと思う。どうかな、もう一回、みんなで現場を見に行かない?」

 幸運の提案で、彼らは調理室へと移動した。


 調理室の拓馬の遺体は、パインズゴーグルで投影された映像と寸分違わぬ形でそこにあった。床に散らばった食器、喉元のダーツ……

 現場の緊迫した雰囲気に圧倒される中、幸運が先陣を切って現場に踏み込む。

「あっ。幸運さん! 現場保存は……」

「大丈夫、必要な記録はパインズゴーグルがやってくれてる。それに警察が出る幕はないよ。この事件はアタシが解決するから」

 彼女は堂々と言い切って、冷蔵庫を開けると中からクロスボウを取り出した。それを調理室の中央テーブルに置くと、晃に流れるように指示を出す。

「晃さん。アタシ、武器の威力とか難しいこと分からないんだ。お願いしてもいい?」

 名指しされた晃は少し驚いたものの、すぐに笑顔で引き受けた。

「分かりました。任せて下さい」

「ありがと。紗香さん、ちょっといい?」

 彼女は続いて紗香を指名すると、ふたりで遺体の状態を確認し始める。

「手のコレなんだけど……」

「火傷? ちょっと調べるわね」

 遺体の検分を紗香に任せ、次に幸運は入り口で立ち尽くしている秀才に近づく。

「秀才さん、いい?」

「なっ、なんでしょうか……」

「ちょっとごめんね」

 彼女は照の腕を取り、袖口に顔を近づけた。続いてしゃがみ込むと、今度は膝にも同じ仕草をする。

「えっと、なんか臭いますか」

「ううん。大丈夫、ありがとう」

 彼女は納得したように頷くと、調理室へ踵を返した。呆気に取られる秀才に、照が尋ねる。

「なに? 今の」

「さぁ……」

 秀才が真似をして服の匂いを嗅いでみると、仄かに洗剤の香りがした。


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