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第二十六話『発見』

 秀才は、いの一番に調理室へ舞い戻り捜査を再開していた。犯人はいったい、どのようにして拓馬の喉元にダーツを放ったのか。現場になんらかの仕掛けがあると考え必死に証拠を探す。

 しかし、先ほど五人がかりで証拠を集め終わったばかり。特にパインズゴーグルの反応は見当たらない。

 業を煮やした彼が床に這いつくばり、シンクやテーブルの僅かな隙間を必死に覗き込んでいると、大きな笑い声が響いた。

「あははっ! 秀才さん必死だね」

「僅かな証拠も見逃さないためです」

 ムッとして立ち上がった秀才の前を、幸運は悠々と横切った。

「その姿勢は立派だけど……体より先に頭を使わなきゃ」

 彼女は静かに呟いて冷蔵庫の前まで歩を進めると、慎重にドアを開く。

「ビンゴ!」

 幸運の弾けた声に秀才が中を覗き込むと、そこには明らかに異質な……錆びついた鉄材が見えた。

 縦横六〇センチはある巨大なクロスボウが周りの食材を押し潰すようにして、強引に設置されていたのだった。

 業務用冷蔵庫は高さ約二メートル、幅九〇センチほどのサイズ。両開きのドアが上下二段あるタイプで、クロスボウはそのドアを開けた者を真っ直ぐ射抜くトラップとして、棚の上段中央に鎮座していた。


「どうして冷蔵庫の中に、こんなものがあるって分かったんですか?」

「簡単な推理だよ。大柄な拓馬さんの喉にダーツを撃ち込むには、同じ程度の高さが必要。そして拓馬さんが普段、真正面で向き合う場所といえばあっちのラックか、こっちの冷蔵庫や冷凍庫……ラックに怪しいものは見当たらないから、仕掛けが隠されてるとすればさっき探しそびれたココかなって」

「……だから下ばかり見ていた僕を笑ったワケですね」

 得意げに説明する幸運を、秀才は恨めしそうに見つめる。

「ゴメンってば。いきなり突き出されたお尻が目に入って、思わず笑っちゃったんだ」

 幸運が手を合わせて謝ると、彼はおどけて手を広げた。

「冗談です。幸運さんの言うとおり、もう少し考えてから動くべきでした。お陰でぐしょ濡れだ」

 調理室の濡れたタイルで湿った衣服を見せ、苦笑いを浮かべる。


「クロスボウは調べますか?」

「もうパインズゴーグルでスキャンしたから、あとはデータで見よう」

「了解です」

 ふたりが調理室をあとにすると、入れ違いに照がやってきた。

「やっほー、おふたりさん。なんか見つかった?」

「うん。冷蔵庫にクロスボウが仕掛けられてた」

「あちゃ〜、先越されたか。きっとデストラップだろうって思ったんだよなぁ」

 照は悔しそうに頭を掻きながら、調理室へと入って行った。

 ふたりが円卓に戻ると、紗香はブツブツと唱えながらウィンドウを操作している。どうやらなにかの計算を行なっているようだ。

 邪魔をしないよう静かに席に着くと、晃が遊戯室から出てきた。 

「そちらはどうでしたか?」

「予想通りだったよ。晃さんは?」

「電気パネルには、特に細工は見当たりませんでした」

「うーん、となるとブレーカーはどうして落ちたんだろう。クロスボウの作動に必要とも思えないし」

 幸運は両手の親指でこめかみをぐりぐりと押した。どうやらそれが、彼女が深く考えるときのクセらしかった。

「例えば、照さんが部屋中の電化製品を一気に使ったとか……」

「よしてよ。部屋にそんな大量の電力を消費する機械はないって。それに、この館の電気周りがそんなカツカツの状態だとも思えない。六人が暮らす想定だろ?」

 タイミングよく戻ってきた照が秀才に反論する。秀才は慌てて誤魔化した。

「あっ、そういえば停電のときラプラスはどうなってたんでしょう。再起動になってるのかな」

『お答えします。ワタシを含め、ゲームを管理するシステムの電源は別に備えられております。なるべく皆様のゲームに干渉しないよう、調整されているのです』

「なるほどね、都合良いや」

 ラプラスの返答に照が頷いていると、紗香が伸びをしながら大きく息をついた。ようやく計算が終わったらしい。

「ふう、やっとできた。おおよそ十分から十五分ってところみたいね」

「ねぇ紗香さん、それってなんの時間?」

 幸運が尋ねると、紗香は眠そうな目を擦りながら言った。

「あの毒が拓馬さんの身体に回り切る時間よ。あの巨体でしょ? ダーツの先端に塗布できる量に対して即死はしないだろうから、一応計算してみたの」

「えっ。じゃあ拓馬さんは、あの停電の十分前にはダーツを食らってたってこと?」

 幸運は目を丸くする。

「どうかしら。現実と同じ設定なら、そのはずだけど……」

「就寝前だというのに、よほど複雑なシナリオを用意したようですねぇ」

 晃はため息をつき、目薬を差そうとパインズゴーグルを外す。ついでに様子を見ているはずの拓馬に一瞥くれてやろうと周りを見渡した。

「……拓馬さん? どこですか、拓馬さん!」

 晃は辺りを見回すが、彼の姿はどこにも見当たらない。

「まさか我々にゲームをさせておきながら、先にひとりで寝たんじゃないでしょうね」

 苛立った様子で晃は二階へと向かう。しかし、ゲームの被害者役としてミュートされているはずの拓馬は、部屋のどこにも見当たらなかった。

「ダメです、宿舎には居ないようだ」

 本格的に異変を察した他のメンバーもパインズゴーグルを外して探し始め……結果、彼はすぐに見つかった。


 彼を〝発見〟した幸運は、青ざめた顔で報告する。

「調理室の死体……パインズゴーグルの映像じゃなくて、本人だった」

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