第二十五話『ゲームの続き』
『〝死体〟が発見されました。それでは皆様、捜査を始めて下さい』
ラプラスのアナウンスが響く。
しかして五人は調理室の奥、冷蔵庫の脇で仰向きに倒れている大岩拓馬の死体を発見したのだった。
「やれやれ。ゲームは明日からと聞いていたんですがね」
晃がため息混じりに愚痴ると、幸運は笑い掛ける。
「そんなこと言いながら、なんだか嬉しそう。やっぱり夜の方が雰囲気出ますよね」
「まぁ否定はしませんが、長引くと明日に響きます。さっさと済ませましょう」
先ほどデモプレイを終えたばかりの彼らは、慣れた様子でパインズゴーグルの表示を見ながら証拠を集めていく。
床には金属製のトレーと食器が散らばっており、停電直後に鳴った音はこれらが床に落ちたときのものと容易に想像がついた。
倒れた拓馬の喉元にはダーツの矢が刺さっており、解析の結果、その先端に毒が塗られていることも判明した。
『では、議論パート開始です』
まず晃が口火を切る。
「さて。まずは当時の状況からですね。停電が起きたとき、わたしと紗香さん、幸運さんと秀才さんがそれぞれ行動を共にしていました。照さんは二階の自室、拓馬さんは調理室で単独行動でした」
晃は五人を見回して念押しする。
「調理室への侵入経路ですが、中庭に積もった"雪"に足跡がなかったことから、人の出入りは正面入り口しか考えられません。ここまではよろしいですね?」
「異議なーし」
照が代表して答える。
「ありがとうございます。では次にパインズゴーグルの解析を……」
紗香が発言を引き継ぐ。
「死因はダーツの刃先に塗布された毒によるもの。凶器となったダーツは遊戯室から、毒は南棟の倉庫からそれぞれ集められたものです。犯行時刻、停電の前にそれらを回収することができた人物が容疑者になるかと」
「じゃあ、定石でアリバイの確認だね」
幸運は共有データから時間割を表示した。
午後七時……拓馬、調理室で料理。晃、秀才、遊戯室にてダーツ。幸運、紗香、照、円卓で雑談。
午後七時半……幸運、紗香、照、自室に戻る。
午後八時……晃、秀才、自室に戻る。以降、九時の夕食まで各自移動なし。
「これによれば、事件発生前にダーツを手に入れることができたのは晃さんと秀才さんのふたりだけだね」
幸運がそう言うと、秀才が慌てて否定した。
「僕は犯人じゃないですよ! 確かにダーツを手に入れる機会はありましたけど、それを使って殺人しようと思いつけるほどじゃありません。どれだけ下手だったか、晃さん見てましたよね?」
秀才の必死なアピールに笑いながら、晃は彼を擁護した。
「ははは、確かにそうですね。今まで何人かにダーツを教えてきましたが、彼の下手さ加減はある意味、天才的でしたよ。彼が毒塗りのダーツなんか投げたら、自分に刺さってもおかしくないでしょう」
ふたりの掛け合いを、照が訝しむ。
「上手いのに、わざと下手くそを演じたかもよ?」
「可能性はゼロではありませんが、フォームも何もかもデタラメでしたからね。わたしは未経験者だと思います」
「幼稚園の頃に磁石のダーツをやったきりで、晃さんに教えてもらってたんです」
「ふたりがそこまで言うなら、それは事実だとして……」
照は晃を睨んで言葉を続ける。
「だとすると晃さんが第一容疑者ってことになるけど、それでいいの?」
「まぁ仕方ないでしょう。自分が疑われたくないからといって、ウソをつくわけにもいきませんし」
「晃さん……ありがとうございます」
秀才は泣きそうな声で彼に頭を下げる。晃はなんでもない様子で答えた。
「気にしないで下さい。それより議論の続きです。わたしが犯人の場合、部屋も倉庫のある南棟ですし、確かに凶器を揃えることは容易です。しかし事件発生当時、わたしは二階の踊り場で紗香さんと談笑していました。完全なアリバイだと思いますが?」
「えぇ。夕食のあと、ずっとふたりでした。私が証言します」
紗香の言葉に幸運が唸る。
「うーん、犯行時刻……そこがポイントだよね。あのカシャンって音が、拓馬さんの倒れた拍子に鳴ったとすると、事件発生時には誰も現場にいなかったことになる。アタシと秀才は遊戯室にいたし、三人も調理室には居なかったよね」
「うん。ボクは二階の自室にいたよ。それは晃さんたちが証言してくれるはず」
「ええ。そうでした」
「まさか……自殺?」
秀才の発言を、照はすかさず否定した。
「いや、それはないよ。拓馬さんは遊戯室にも倉庫にも行ってないでしょ」
「あぁそっか。じゃあ、いったいどんな方法で……」
「あと停電もね。ブレーカーが落ちたってことは、あのときどこかで大量の電気が使われたってことになる。電子レンジは使われた形跡はなかったし……」
「どうやら一筋縄じゃいかないみたいだ。館全体に範囲を広げて、もう一度捜査し直さない?」
照の提案に他四人も同意し、議論は一時中断となった。