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第二十一話『無実の証明』

『了解致しました。十分間の休憩を挟みます』

 ラプラスのアナウンスを聞き、皆ほっと息を吐き出す。直前までの緊迫した空気が少し、緩んだようだった。

「どうですか? 休憩がてら、もう一度捜査してみませんか」

 秀才が提案すると、晃も頷いた。

「ちょうどわたしもそれを言おうとしていたところです。ラプラス、構わないかな?」

『……了解しました。今から二十分、捜査パートとして記録を開始します』

「助かります。さて、改めて方針を……おや、拓馬さん。どうされました?」

「すまんがひとりにさせてくれ。オレにはお前ら両方が、二人組の犯人にしか思えないんだよ」

 拓馬は不意に立ち上がり、さっさと調理室に引きこもった。

 円卓に残った四人は少しの間、互いに口を開かなかった。四人は互いに顔色を窺う。

「こんなことになるなら、昨晩切り上げずにお話しを続けていれば良かったですね。きっと夜通し話せてました」

 おずおずと話し始めたのは紗香だった。彼女の目は少し潤んでいる。晃は彼女の言葉に深く頷くと、言葉を選びながら返事をした。

「本当に。そうすれば全員のアリバイを証明できたんですが、間の悪いことをした」

「私は、晃さんは犯人じゃないと信じてます。そもそも凶器の問題もありますし、あの血のニオイが耐えられないなら、現場を作るのもムリだろうって」

 彼女の言葉に、フッと笑うようなため息をついて、晃は何気なく尋ねた。

「わたしも紗香さんは無実だと思っていますよ。ところで、人の血っていうのはあんなに酷く臭うものなんですか?」

「そうですね。夏場ですから……それにしても、幸運さんの部屋は熱がこもっていたように思いましたけど」

 紗香のセリフに、照が反応した。

「へぇ、そんなに暑かったんだ」

「えぇ。まるで暖房がついていたみたいでした」

 照はニヤリと笑うと、立ち上がって秀才に話し掛けた。

「ねぇ秀才。ふたりで協力して、犯行現場が遊戯室じゃないってことを証明しない?」

「いいですけど、どうやって」

 照は秀才に耳打ちする。

「……って感じで、どうかな?」

「なるほど。いい案ですね、早速取り掛かりましょう!」

 照と秀才はそそくさと二階へ向かった。

 ふたりを見送ってからしばらくして、晃は紗香にある告白をした。

「実は、わたしは拓馬さんが犯人ではないかと疑っているんです」

「まさか。証拠はあるんですか?」

「いいえ。まだありません。ただ、彼は豚を丸々一匹調理したと言っていましたが、それにしては料理の量が少なかった……もしかすると、あの大量の血痕は豚を擦り潰して作ったニセモノではないかと疑っているのです」

 晃の推理を聞き、紗香は少し考えてから、強い眼差しを見せた。

「もしあれが作られた血糊なら、骨片か肉片のような残留物が、僅かにでも残ってるかも知れません。晃さん、もう一度血痕を調べに行きましょう!」

 ふたりは連れ立って、これまた二階へと移動する。

 誰もいなくなった大広間で、シャンデリアだけが、ただ静かに光っていた。


 晃と紗香が南棟宿舎に入ると、ちょうど201号室から出てきた照と鉢合わせた。照は笑顔で会釈する。

「やぁ。おふたりさん」

「照さん、中で何を?」

「ちょっとね。きっと目的は同じだと思う……あっ秀才、上手くいった?」

「多分、大丈夫だと思います」

「よかった。じゃ、お先」

 照は倉庫室から出てきた秀才と共に、早々と南棟を後にした。

「目的は同じって、どういうことでしょう?」

「さぁ……とりあえず、いまは我々のすべきことをしましょう」

 晃は紗香と共に201号室に入る。時間経過によって、部屋に充満していた血の匂いはいくらか和らいでいた。

 晃は床に撒き散らされた血痕を一つ一つ、入念に調べていく。紗香も晃の反対側から、同じように血痕の状態を確認した。

「どうです? 不純物は見つかりましたか?」

「うーん、影すら見当たりません……」

 ふたりはしばらく、血溜まりの中に豚の残留物を探し求めたが、なんの成果も得られないまま時間だけが過ぎていった。


『二十分経過。議論パートを再開します』

 ラプラスのアナウンスが響き、彼らはまたしても円卓に集う。自らの無実の証明と、今度こそ事件の真相を暴くために。

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