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第二十話『表裏一体』

 各々のアリバイより先に、照明センサーを回避して館内を移動する方法がないか考えることとなった。照が一つの案を提示する。

「例えば、ダクトとかどう?」

 彼らが館全体の透視図を確認すると、通気口は階を問わずアリの巣のように全室を繋げていた。もしこれを道として使うことができれば、確かに犯人は照明センサーに引っ掛からず館内を自由に移動できることになる。晃が唸った。

「どうでしょう。理論上は可能かも知れませんが、いかんせんサイズが小さ過ぎます。一番小柄な照さんでも潜り抜けるのは難しそうですが……」

 言い出しっぺの照も頷く。

「うーん、やっぱそうだよね。この線はナシかな」

「窓はどうですか?」

 続いて秀才が提案し、検証を試みる。部屋の窓は上下に展開する形状で、全開ならどうにか人ひとりが通れそうなサイズではあった。しかし、これにも難癖がついた。

「幸運ちゃんの部屋の窓だが、内側から鍵が掛かってた。開閉された跡も無かったぜ。中庭を経由するとして、登り降りに使えるような梯子も縄も見つかってない」

「うーん、じゃあこれもムリか」

「秀才。疑うわけじゃねぇが、そのセンサーってのは絶対なのか?」

「はい。人感センサーといって、温度差や物の動きを感知するんです。昼間や暑い日なんかは誤作動を起こすこともありますが、夜間は特に敏感に反応しますから」

「ふむ……」

「なにか、思うところがおありですか?」

 晃に促され、拓馬はおずおずと話し出す。

「例えば……例えばだ。服を水で濡らして、体温を誤魔化せばセンサーをすり抜けられるんじゃないか? もしそうなら犯人は唯一、二階に果物ナイフを持ち込んだ秀才に決まるだろう」

「そ、そんな! 僕はそんなことしてません!」

「分かってる。落ち着いてくれ。オレはあくまで、可能性について話したいだけだ」

 拓馬は宥めるような口調で言いながらも、鋭い目つきで秀才を見つめた。

「可能性……確かにそうですね。ところで、果物ナイフの刃渡りで幸運さんの殺害は可能なんでしょうか? それに本当に彼の犯行だとして、もう一つの刃物はどこへ消えたんです?」

「疑問はもっともだな。なら複数犯ならどうだ? 照と共犯なら、どうにでもなるんじゃないか」

 唐突に話題に出された照は、明らかに狼狽した。

「ご、ごめん拓馬さん。どうしてそこでボクの名前が出てくるワケ?」

「小柄なお前がこっそり調理室から大きい包丁を盗み出して、遊戯室で幸運ちゃんを殺害する。そして彼女を部屋まで運んだ後、秀才が果物ナイフを借りに来て、ついでに盗んだ包丁を戻す。どうだ、辻褄が合うだろう」

 唐突に殺人犯として名指しされ、ふたりはしばらく茫然とした。一連の拓馬の発言を、何も理解できないという様子だった。拓馬は更に追撃する。

「知ってるか? 出血性ショック死ってのは、人なら大体死ぬまでに二時間ほど掛かるんだ。麻雀を打ち終わってからの猶予を考えると、ちょうど死亡推定時刻に合う」

「拓馬さん、本気で言ってるんですか?」

 秀才が戸惑いながらなんとか発言するも、拓馬は静かな苛立ちを露わにするように、威圧的に言葉を続けた。

「当たり前だ! 深夜に人の移動がない以上、直前まで彼女と一緒にいたお前たちを疑うのは当然だろう」

 拓馬の推理を聞き終えた晃は、興味深そうに問い掛けた。

「確かに大筋は外していないようです。ところで、ふたりの動機は?」

「おおかた麻雀で負けた腹いせとか、そんなとこだろう」

「無茶苦茶だ! それに昨日の麻雀は彼女のひとり負けでした、今日また打とうって約束してたくらいですよ」

「知らんな。とにかく、オレは物証で疑わしいふたりが犯人だと思う」

 喚き声にも近い秀才の弁明に、拓馬は冷たく言い切ると腕を組んで黙り込んだ。

「それならさ、晃さんと紗香さんのふたりにだって犯行は可能だろ! この館の部屋は、出るときに鍵を掛けておけないんだ。彼女が部屋に戻る前から隠れておいて、殺害後、朝まで部屋を移動しなければいいだけさ」

 必死に訴える照に、秀才も加勢した。

「その通りですよ! 晃さんが言ってた現場を誤認させるってトリックも、部屋を移動したと印象づける為の工作で、本当は一歩も部屋から出てないかも知れない。もし死体を移動させたのなら、館内の何処にも血痕が残っていないのはおかしい!」


 議論は混迷を極めた。何が真実で、何が嘘なのか。集められた証拠は捉え方によって同時に真逆の事実を示し、あらゆる要素が裏にも表にも意味を持っている。それらは互いに互いを否定し合いながら、真偽の狭間で秤を揺らしていた。

「堂々巡りになって来ましたね……一旦、仕切り直しましょう。ラプラス!」

『了解致しました。十分間の休憩を挟みます』

 晃の提案で、議論は一時休止となった。


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