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第5話 幕間:カフェの一時

 夕方まではまだ時間がある。

 清隆はボーダーポート駅まで一人で歩いてやってきた。


 蒸気機関車の走る駅は10年ほど前に開通し、周囲には劇場やホテルなどの文化施設が集まり賑わっている。

 駅から人を乗せた馬車が走り、人通りも多い。

(アリウスはホテルに戻ってきたのだろうか)

 ホテルの周辺をそれとなく歩いてみるが、入口からはアリウスの部屋の様子を見ることはできなさそうだ。


 しかしその時。

(あれは……アリウス……?)

 ホテルの出入り口から出てきたのがそのアリウス当人であった。

 清隆は慌てて見つからないように、建物の影に身を隠す。


 アリウスはホテルを出て駅の方へ向かっていく。

(どこへ行くのだろう)

 まさか、誰かの血を吸いに行くのだろうか。

 そんな考えがよぎった後、いや、確認してみるまではわからない、と清隆は考え直す。


 アリウスの跡を追っていくと、彼は駅前のオープンカフェに入っていく。

 清隆は来たことない店だったが、最近開店したばかりで賑わっているようだ。

 店先でどうしたものかと思案していると、

「やあ、清隆」

 と、テラスに出てきたアリウスが声をかけてきた。

「君も来てたのか。どうだい、夕方まで一緒にコーヒーでも飲まないか。それとも紅茶が好みかな」


 まるで最初から尾行されていたことを知っていたかのように、泰然としていた。

(そういえば、彼は心を読めると言っていたな……)

 清隆は今更そのことを思い出し、自分の軽率な行いを恥ずかしく思った。

「……紅茶をいただこう」

 仕方ないので清隆は店に入り、店員にアリウスの居るテーブルまで案内してもらう。


「こういう人目の多い所にいたほうが、奴らが迂闊に動けないだろうからな」

 アリウスはどうやらヴェールドの動きを警戒して、人目のつきやすい所を選んだらしい。

「すまない。てっきり……」

「『食事』に行くのではないかと思った、か」

 やはりアリウスは気づいていたようだ。

 その時、ウェイターが注文していた紅茶とコーヒーを運んできた。

「ありがとう」

 アリウスはコーヒーを受け取ると、飲みはせずただ手を温めるようにカップを両手で囲む。

 カップからの湯気がアリウスの眼鏡を少し曇らせた。


「俺がこのコーヒーを飲んでも俺の体には栄養にも毒にもならない。それでも温かさは感じられる」

 清隆は紅茶のカップを手にして、昨日のことを思い出す。

 アリウスがホテルの部屋で紅茶を出した時、既に湯が用意されていたこと。

 彼はもしかしたらこのように、紅茶を入れて暖をとっていたのかもしれない。


「それはそれとして、血を吸う時は吸うけどな」


 アリウスはニヤリと口角を上げる。清隆は僅かに牙を見ることができたが、一瞬だったので周囲は気づかないだろう。

「安心したまえ。人が死ぬほど吸うことなんて滅多にないから」

「そういうものなのか。だが、滅多にないというのは……?」


 清隆が尋ねると、アリウスは「この前みたいな時は例外だ」と言う。

「影を動かすような、普通ならありえない(わざ)を使うと、渇くのが早くなる」


 清隆はアリウスがヴェールドの構成員たちを串刺しにした時のことを思い出した。

 あの時、彼の影が槍のように変化し、地面から出てきた。

 確かに普通ならありえないことである。

 万有引力が知られ、蒸気機関車が走るこの時代に、物理法則を捻じ曲げる。

 アリウスはそのような神秘を起こせる存在なのだ。

 血を吸うことだけでなく、そうした力にこそ脅威を感じるべきだろう。


「なら、これからもあまり使わずに済むといいな」

 そうした神秘がこれ以上現実にならないことを、清隆は願うばかりだ。

「ああ。そのためにも、奴らのことを突き止めるのと、事件の真相を明らかにすること、どちらも早く解決するといいのだがな」


 アリウスが笑うのを見て、清隆は少し不安が解けたような気がした。

 彼の考えていることの一端を知り、感じていた近寄りがたさが薄れたのだろう。

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