有名人
「ああ、有名になりたい、有名になりたい」
一人の青年が部屋の中で寝転がりながらそんなことを呟いていた。有名になってなにかをしたいというわけではない。だが、幸せになるには有名にならなければならないと思い込んでいるのだ。
「どうすれば有名になれるのだろうか」
有名になりたいと思っていても、その方法がまるで分からない。かといって地道な努力などしたくなかった。
簡単に、楽に、いますぐに有名になる方法がないだろうか。
「やっぱりSNSで大量のフォロワーを獲得するのが一番早いのか」
「その願いを叶えましょうか?」
そんなことを考えている青年に、不意にそんな風に声がかけられた。自分しかいないはずの部屋で声をかけられた青年は驚いて飛び起きる。
そして声のした方を見ると、そこには一人の男性とも女性ともつかない不思議な雰囲気をした人物が立っていた。性別どころか年齢すら見当のつかないその人物は、先ほどの言葉をもう一度繰り返す。
「その願い、叶えましょうか?」
「有名になれるのか? フォロワーを増やしてくれるのか?」
「ええ、ええ。その代わり、あなたが死んだら魂をいただきたいのです」
その言葉に青年は魂なんてくれてやる、と叫んだ。もともと魂の存在など信じていないのだ。ただで有名になれるのなら願ったり叶ったりだ。
「それでは、どうぞ」
その人物はそう言うと、ぱんと一度手を叩いた。その音に驚いた青年は目を開くが、しかしなにか変わったような様子はない。訝しむ青年に対してその人物は、青年のSNSを確認するように促した。
青年が言われるがままに確認すると、そこには青年が見たこともないほどの数がフォロワーがついていることを示す数字が出ていた。
「これで満足ですか?」
「ああ! ありがとう!」
「では、これで取引成立です。あなたの死後、分かっていますね」
その言葉と同時にその人物は姿を消した。しかし青年はそんなことにも気が付かず、増えたフォロワーを見て笑っていた。
同じ頃、先ほど青年と話していた年齢不詳の人物も自分の生まれ故郷である地獄で笑っていた。
「まったく、あれは全部私が作ったニセモノのアカウントなのにそれで喜ぶなんて、なんてバカなやつだ」
労せずに魂を手に入れることが出来たと、SNSの開発者に感謝していた。
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