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葛藤

夜の静けさが、アステラの部屋を包んでいた。


窓の外には、彼女が何度も眺めた星空が広がっている。


しかし、その夜の星々はどこか遠く、冷たく感じられた。アステラは小さな机の上に置かれた楽譜をぼんやりと見つめていた。そこには、これまでに書きためた歌のメロディが静かに並んでいる。


計画が進むにつれ、彼女の心の中では喜びと不安が入り混じる日々が続いていた。


リヴィウスやセリーナ、エドガーたちが自分の歌声を星空に届けるために全力を尽くしてくれている。それは感謝しきれないほどの愛情と献身だった。それでも、アステラの中にある不安は、次第に彼女の心を侵食していた。


彼女の体調は、以前よりも悪化している。歌い続けることさえ、日に日に辛くなってきていた。自分が計画の完成を待つことができないのではないかという恐れ。


それは単なる体力の問題ではなく、命の限りが近づいているのを感じさせる、深い現実だった。


それでも、彼らの努力を無駄にするわけにはいかない。自分の弱さを見せてしまえば、リヴィウスたちの熱意に水を差してしまうのではないか。そんな思いが、彼女をさらに孤独に追いやっていた。


その夜、アステラは意を決してリヴィウスを呼び出した。彼が到着する頃には、彼女は星空の見えるテラスで椅子に座り、静かに待っていた。彼女の白いドレスが月明かりを受けて淡く輝いている。リヴィウスは足音を立てないように歩み寄り、彼女の隣に座った。

「こんな時間に、どうしたんだい?」

リヴィウスが問いかけると、アステラはしばらく言葉を発せず、遠くの星を見つめたままだった。その沈黙の中には、彼女が何か重要なことを伝えようとしているのを感じさせた。


「リヴィウス…」やがて彼女は口を開いた。


その声はかすかで、まるで消えてしまいそうなほど弱々しかった。


「もし、私がいなくなったら、この計画はどうなるの?」


リヴィウスは驚き、彼女の方を見つめた。


「そんなことを言わないでくれ。君はまだここにいる。僕たちは計画を完成させて、君の歌声を星空に届ける。それが僕たちの目標だ。」


アステラはゆっくりと首を横に振った。その目には、彼女が抱えている深い不安が浮かんでいた。


「分かってる。でも、私には時間があまり残されていない気がするの。」彼女は震える手で胸元を押さえた。「それが現実なのよ、リヴィウス。」


その言葉にリヴィウスは動揺した。彼は手をぎゅっと握りしめ、彼女の言葉をどう受け止めるべきかを考えた。


そして、彼女の手をそっと取り、自分の手の中に包み込んだ。


「アステラ、君がいなくなっても、この計画は君のものだ。君の歌声は永遠に消えることはない。それを僕たちが証明する。君の声は星々に届き、無限の時間を超えて、誰かの心に響く。そのために僕は最後まで諦めない。」


リヴィウスの言葉は真摯で力強かった。


その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。それを見ていたアステラの目に、ふっと涙が溢れ出した。彼女は手を口元に当て、嗚咽を漏らさないように必死に堪えた。それでも、その涙は止まらなかった。


「ありがとう、リヴィウス。本当にありがとう…」アステラは絞り出すように言った。


「私はもう一度、前を向いて歌ってみる。この命がある限り、歌い続ける。」


リヴィウスは微笑み、彼女の手を少しだけ強く握った。


「そのために僕たちがいるんだ。君が歌い続けられるように、そして君の声が永遠に残るように。」


二人の間に流れる静かな時間。その時、ふと空を見上げたアステラの目に、流れ星が映った。彼女はそっと目を閉じ、心の中で願った。


「どうか、この声が届きますように。」


彼女の胸の中に新たな希望が灯るのを感じたのは、その瞬間だった。


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