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計画の始まり

 リヴィウスは天文台の観測室で、彼の計画をセリーナとエドガーに説明した。


 夜空を背景に広げた設計図には、光と音波を利用してアステラの歌声を星空に届けるという大胆な構想が描かれていた。


「音を空に届ける?」


 セリーナが目を細め、懐疑的な表情を浮かべる。彼女は天文台で観測機器の設計を担当している慎重派の科学者だった。


 精密さを何よりも重視する彼女にとって、リヴィウスの提案は突拍子もないものに思えた。


「音は空気を伝わって進むもの。星空に放つなんて、どうやって可能にするの? そのエネルギーがどこまで届くかなんて、予測も難しいでしょう?」


「彼女の声には懸念がにじんでいた。しかし、リヴィウスは動じなかった。


「僕たちが見ている星の光だって、何千年も前に生まれたものがようやくここに届いているんだ。音も同じように、光の波に変換して広げることができれば、それはこの星空を通して無限の場所に届けられる。」


 セリーナは腕を組み、深く息をついた。


「理論上はそうかもしれないけど、実際にそんな精密なシステムを構築するには莫大な労力と時間が必要になるわ。それに失敗したら?」


「失敗は恐れていない。」リヴィウスの声には揺るぎない決意が込められていた。


「僕にとってこれは、ただの実験じゃない。アステラの歌声は、星空に届くべきものなんだ。彼女の声は人を動かし、心を癒やす力を持っている。それが科学の力でより多くの人々に届くなら、僕たちの研究が初めて真の意味を持つと思わないか?」



 セリーナは彼の言葉を黙って聞きながら、少しずつ表情を和らげていった。


 その情熱が、彼の提案をただの空想ではなく、実現可能な夢として映し始めたのだろう。彼女はため息をつきながら、小さく微笑んだ。


「リヴィウス、あなたがそんなに言うなら、少しだけ手伝ってあげてもいいわ。でも、設計に関しては徹底的に詰めるから、覚悟しておいて。」


 リヴィウスは笑顔を浮かべた。「ありがとう、セリーナ。君の協力があれば、これはきっと成功する。」


 一方、部屋の隅で彼らのやり取りを静かに見守っていたのは、エドガーだった。


 彼はリヴィウスの恩師であり、数多くの画期的な天文観測技術を開発してきた人物だった。


 その白髪まじりの髪を指でなでながら、彼は口元に穏やかな笑みを浮かべていた。


「科学と芸術の架け橋…か。」エドガーは低い声で呟いた。「面白い発想だな、リヴィウス。君らしい。」


 リヴィウスが振り返り、少し緊張した面持ちで言った。


「先生、この計画に協力していただけますか? 僕一人ではきっと完成させられません。先生の知識と経験が必要なんです。」


 エドガーはしばらく無言で考えていたが、やがて深く頷いた。


「もちろんだとも。私が若い頃、星空を見上げながら夢見たものが、こうして現実になろうとしている。それを手伝わない理由はないよ。」


 彼はさらに続けた。


「ただし、リヴィウス。この計画は単なる技術的な挑戦ではない。それ以上のものだ。君の言葉にあったように、アステラの歌声は特別だ。その声を科学で支えるのなら、その科学もまた特別でなければならない。私は全力を尽くそう。」


 こうして、三人は計画の詳細を詰め始めた。リヴィウスの情熱が、慎重派のセリーナの理論的な頭脳を動かし、経験豊富なエドガーの技術と知恵を引き出していった。

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